やってきました、グレモリー陣営初訓練。
翔とトリーがやっていきます。
翌日、土曜日という事で俺とトリーはリアス達グレモリー陣営の訓練を始めることにした。契約上のことだし。
「というわけで、第1回、グレモリー陣営を訓練でしごきましょう! コスコス!」
バァカンッ!
トリーからアッパーによる俺という打ち上げ花火が上げられた。
「……綺麗にえぐられたわね、時渡さん」
リアスが冷や汗を掻きながら戦慄している。
「トリーっ! 俺の顎が割れたらどうするんだよ!」
「腹筋が割れてるんだから、そのついでに割れてよ」
俺の猛抗議に対してトリーは真っ向から打ち返してくる。
「さて、今回は皆の事を知るために、特別ルールの鬼ごっこをします。鬼は私とカケカケで固定しますけど、その鬼に背中を見られない、捕まらないの2つを、制限時間1時間守って逃げ切ってください。もし逃げ切れたらご褒美があるわよ。でも捕まったりしたら……タイキック♪ 後、捕まったら大変な事になるから頑張って逃げてね♪」
トリーはリアス達に向き直り、今回の内容とルールを説明する。特にタイキックという言葉が出た時、イッセー達の顔に恐怖が映し出された。
「場所はこの学園の校庭のみ、張り切ってGO!」
トリーから問答無用の処刑宣告が下された。グレモリー陣営のお尻は生き残る事が出来るだろうか。周囲への迷惑を考慮して俺の方で校庭を結界で包み込んでおいた。
「カケカケ~ッ♪ どう攻めるぅ~っ?」
「踊りながら行ってみるか?」
トリーと俺はクスクス笑いながら追いかける手段を検討する。
「注し当たって俺はリアスを追いかけたい。お嬢様を追いかける事はこの仕事への本気度を見せるいい機会だからな」
「鬼を気絶させて逃げ切る算段なら、最初に潰しておかないとね。思い出すわ~っ、訓練所時代を」
「あの時に俺達のやったことを、連中も全部やるかな?」
「よっぽどの策士が居なかったら、絶対にやるわよ」
俺達は訓練所時代にやった鬼ごっこ攻略法を思い出しながらニヤニヤと笑ってしまう。
建物を背にして逃げることや、木の上に隠れてやり過ごすぐらいは俺達も当たり前のようにやって、鬼に捕まったものだ。
それ以上に恐ろしい事、それは逃げるヤツの位置が鬼に丸分かりで逃げ切れない事だ。鬼をやる連中は全員気配探知が出来る教官であり、当然足の早さも上だ。そこに気づかない限り、1時間も逃げるなど不可能だ。俺達の時もそうだった様に。
場所は変わって校庭の西側の林の中では、リアス以下グレモリー眷族が集まって作戦会議をしていた。
「良いわね、何が何でもこの1時間を逃げ切るわよ」
「ルールが捕まらない事と背中を見せない事だけなら手立てはあるでしょうし」
リアスと朱乃は鬼ごっこに対して勝負事と決め付けているようだ。
「ですが、あの2人が私達より強い以上、出来ることは少ないです」
小猫は冷静に状況を考えている。
「そうだね、兵藤君はあのお仕置きに耐えられる自信はある?」
「俺はまったくねえよ。時渡さんがふっとんじまったタイキックだぞ?」
木場がイッセーを心配するが、彼はあのタイキックに耐えられるわけが無い。
……リアス達の作戦会議の様子は、その声も含めて俺達2人に筒抜けだった。どうしてかというと、すでに彼女達の上にいるから。
どんなに広大な敷地を誇っても、俺達は直線距離なら1キロを20秒も掛けずに走りきる。これは俺達が教官たちを相手にした鬼ごっこの初期の状態そのままだ。
俺はトリーに視線を向け、二本指を立てて下を指差す。するとあいつはそれに頷き、親指を立てた。
今の内容は、『トリーにイッセーと木場を任せる』『了解』だ。これだけで全てが通じるのはコンビを組み続けた成果なのだろう。
それでは、狩りの時間だ。
「さあ、皆! 行くわよ!」
リアスはそう意気込んで後ろを向くと、可愛らしく自分の両ほほに両手の人差し指をくっ付けてニッコリと笑う俺の顔を直視してしまった。
「きぃやああああぁぁ~っ!」
リアスの悲鳴を合図に、グレモリー眷族がその場で散っていく。だがその時にトリーが木場を掴んだ。
「しまったっ!」
「ゲット♪」
ズバンッ!
捕獲から電光石火の早業でトリーが木場の尻にタイキックを打ち込む。捕まえてからタイキックまで1秒も掛からなかったぞ、アイツ。
木場がその場で捕まったという衝撃はグレモリー陣営を恐怖に貶めた。
「木場がやられちまった!」
「そんなっ!」
イッセーの言葉に他のグレモリー陣営に衝撃が走る。そして木場はというと、地面に倒れ、トリーに介抱……。
「トリー、服を脱がすのは良いけど、パンツはダメだぞ~っ」
「王子様ルックに仕立てて良いぃ~?」
トリーが木場を着せ替え人形にしていた。たぶん、その格好にしたら校庭のど真ん中に放置する気なのだろう。
そのお仕置きを目の当たりにしたグレモリー眷属はもはや言葉も無い。
だがこれは、開始から僅か3分で起きた出来事。グレモリー陣営はこれから残りの1時間近くを逃げ延びなければならない。