第15話 召喚されて来てみれば
リアス達に夕食を奢ったその数日後、何故か俺とトリーはオカルト研究部部室に呼び出された。
「なぜ、俺達はここに居るのだろうか」
「依頼が来たから」
俺は隣に居るトリーに現状を確認する。するとこいつは端的な言葉で答えてくれた。
「依頼内容は?」
「自分達をある程度の強さまで鍛えてほしい、という話よ」
「期間、報酬などの詳細は?」
「会った時に詰めるとの事よ」
俺がほいほいと問いかけるとトリーがほいほいと答えてくれる。俺の知らない事ばかりを。
「それでどうやってここに入れたんだ? 学園の警備はそこそこ厳しいはずだが」
「依頼人経由でこの学校の生徒会長だったかな? その人から臨時教員の資格をもらってきました、2人分ほどね」
マジデスカ!?
俺のあずかり知らない所で事態が強制進行している、その事に俺は驚きを隠せない。
「そういう事をして破綻したらどうする気だよ、そいつらは」
「記憶操作もすでに済んでるって話だったから、問題は起きないんじゃないの」
「記憶操作!? 俺達の世界じゃ余程の事が無ければしない事を良くもまあ……」
俺はトリーの言い訳を聞きながらも、精神操作による弊害を気にしてしまう。記憶の矛盾を都合良く書き換えてしまうのが人間とはいえ、余りにかけ離れた事象だと記憶混濁を起こして倒れるぞ。
俺は余りにもあんまりな事態に考えることを放棄し、依頼人の到着を待つことにした。ここが校長室や理事長室では無く、ましてや職員室でもない以上、依頼人が誰なのかは判明している。
そして部室のドアが開き、依頼人のご登場と相成った。
「ゴメンなさい、お待たせしちゃったかしら?」
「いいえぇ、問題はないわよぉ」
「また私の声?」
部室に入ってきたのが遅刻を詫びるリアスだと分かった俺はすかさず彼女の声で問題ないと切り返す。
「それで早速で悪いのだけど依頼の話をして頂戴」
「「私の声真似でそれを言うの?」」
俺はトリーの声でリアスの口調を真似て話を切り出すと、2人は見事な合唱で突っ込んでくれた。
「依頼の内容としては基本的には以上で、報酬は1週間で5万、仲間が増えればその分も上乗せで対応するわ。それでどうかしら?」
リアスは依頼に対する報酬を賃金という形で提示してきた。期限が作れない仕事となる以上、賃金制になるのは已む無しと言った所だろう。それにしても悪くは無い話だ。
ここで俺の昔の通り名、『騒乱の導火線』発動。そんでもってこっそりレコーダーのスイッチを入れる。
「オーケィ、話は分かった。確認として聞くが、何時始めるんだ?」
「貴方達の都合に合わせるわ。こちらより自由が利かないでしょ?」
「まぁね。次に時間帯は放課後って所か?」
「ええ、それで問題ないわ」
「それで場所はこの部室の周辺で構わないか?」
「ええ、構わないわ」
「訓練用に俺達が結界を張ることになるが?」
「ええ、構わないわ」
「そっちは水着だな?」
「ええ、構わないわ」
リアスは俺の矢継ぎ早の確認にリアスが鵜呑みする様に次々と承諾していく。そう、きわどいことまで。
「よし、言質は採った! お前等は水着着用で!」
「……って何時そんな話になったのよ!」
「ちゃんと言質は押さえた。証拠はこれだ!」
俺は当惑するリアスに、隠していたレコーダーを出して、先ほどの会話を再生して見せた。その中にはしっかりと俺の声で『水着だな?』と訊く声とリアスの声で『構わないわ』という承諾の声が録音されていた。
「いやああああぁぁぁーっ!」
見事な騒乱が打ちあがりました。
リアスの絶叫が部室を揺るがし、部室の扉が開かれると同時に他の面々がなだれ込んできた。
「部長! どうしたんですか!」
「部長……って、時渡さんにトリーさん?」
木場はリアスに駆け寄るがイッセーは俺達に気づいた。
「よう、イッセー。楽しい契約が締結したところなんだよ」
「どういう事だよ?」
俺の楽しげな声にイッセーは警戒し、その手で拳を握る。しかし俺は騒乱の導火線、紐はまだ燃え尽きていない
「俺達がお前らの鍛錬をする話になった。リアス達は水着着用のことと相成った」
「うおおぉぉーっ! すっげぇーっ!」
「たゆんたゆん、いくぞ!」
「サイコーです! 時渡さん!」
俺とイッセーが興奮冷めやらぬ中で固い握手を交わす。そして俺達はしっかりと意気投合したまま……。
バッゴーンッ!
部室の壁へと一緒に殴り飛ばされた。
「……変態、死すべし」
小猫の拳によって。