今回はイッセーと副司令の話ですね。あの二人は似たもの同士なのだろうか、良く分からない。
それでは、どうぞ。
副司令は浮かない顔のイッセーに近づき、さりげなく声を掛けた。
「やぁ、どうしたんだい? 浮かない様子だが」
副司令の言葉にイッセーは顔を上げ、声の主を確かめる。その声の主は人の良さそうな雰囲気を纏っている。
「どうやら、先日の初陣かな?」
「ええ、まあその、何て言うか」
「話は聞いている。大変だった様だな」
副司令の言葉にイッセーは再び俯き、表情を曇らせる。確かにレイナーレの件はイッセーにとって塞ぎ込むだけの屈辱的な体験だったと思う。あれだけ振り回されたわけだし。
「まぁ、初めての女というヤツは神様でさえ1人しか居ないからな、酷い話だ」
副司令はそう言って苦笑すると、イッセーはその言葉に頷いてしまう。
「そうなんすよ、あんな事をされたってのに俺ってやつは……」
「忘れられないなら、忘れる必要も無いだろ。忘れたいなら、思い出す必要も無いぞ」
「はあ?」
レイナーレの事で苦悩しているイッセーに副司令は問題の先送りを指示する。その返答を聞いて彼は自分の耳を疑った。
「女の事を忘れる忘れないってのはそいつの勝手だ。しかし、苦い思い出程、忘れにくいのも事実だ。だが、時間が経てば大抵の嫌な事なんて忘れるモンだ」
「……いつかは、忘れられんのかな、俺ってヤツは」
「変に気負いしなければ、嫌な思い出の一つぐらいは忘れられるさ。その上で次の話だ。3柱の女神様がお前に声を掛けようと祈っているそうだ」
「はぁ?」
副司令の口から出た次の話に、イッセーは目を剥いて驚く。何しろ彼という元人間がどこでどうやって女神と接点を持ったのか、当人でさえ思い当たる節が無い様だ。
「女神アガスティア様から困ってるとの電話が有ってな」
「電話……スか?」
女神と副司令と電話の3つの単語が結びつかないのか、イッセーは呆気に取られてしまう。しかし、次の言葉で変な接点が出てきた。
「スケベ野郎には眩しすぎる風の悪戯だったからつい……な」
「なんて羨ましい……いやいや、何してんだよオッサン」
先程の悲痛な話は何処に行ったのやら、副司令の口からイッセーに関係しようとコンタクトを始めた女神の情報が伝えられた。何でも過去に彼が一生懸命に祈り続け、今もなお祈りを欠かしていない事に感銘を受け、交信しようと女神達が祈っているらしい。ただ、今の彼は能力が貧弱過ぎて祈りが届くどころか届きすぎて雑音でしか無いという。能力を鍛えれば交信も研ぎ澄まされてハッキリと届くという事だそうだ。
「組織としてもお世話になってるから断れないんだよ」
「なんつー交友関係を持ってんスか」
副司令の言葉に思わずイッセーも呆れる。交友関係の広さは組織の上層部だけにやたらと広いのは分かるけど。
「ハーレム王を目指すなら、自分の失態さえも話題に出来るさ。縁は異な物、粋な物ってな」
「そうなんスか」
「話題が天気と世間の流行だけじゃ続かないだろ。行動も一つの話題だよ」
「それでちなみに、その女神様って、どこの女神様なんスか?」
「それに関しては名前は聞いてるが、裏付け調査が難航していて説明できない。名前からしてあそこの神話系列のはずなんだが、該当神が1つも出てこないんだ」
イッセーの質問に、副司令が額に左手を添える様にしながら答えられないと返す。わざわざ神界まで行ったのに、成果が得られずに途方に暮れる姿が割と簡単に想像できるのはなぜだろう。
「それはそうと、お前が女神と交信するようには見えないんだが」
「俺だって分からねえよ。神様だの女神様だのって」
理解出来んと疑わしげな眼を向ける副司令に対してイッセーも訳分からんと困惑する。実はこの二人、件の女神との縁が遠い筈ながらも意外な所でその女神との強力な接点を持つ者達である。
イッセーの態度から真実なのだろうと判断したのか、追及の手を止めて副司令はため息を吐いた。
「仕方ないか」