もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら   作:しゃけ式

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閑話的な。今はまだ土台部分です。



5話

 由比ヶ浜と三浦が対面に座り、俺は正座。無論座布団はあいつらが使っており俺は地べたである。

 

 

「流れで正座してるけどな、お前ら勝手に誤解してるだけだぞ?」

 

 

「ならさっさと話す。あーしは別に良いけど結衣が可哀想っしょ?」

 

 

「だからそれが誤解だつってんだろ…。まずそもそも俺と由比ヶ浜は付き合ってない。家事やりに来たとか言ってたまに家来るんだよ」

 

 

 ろくに出来やしないくせにな。あえては言わないが三浦は俺の表情で察したようであり、あーねとウェーイ特有の言葉で納得の意を示した。

 

 

「勘違いね、ごめんごめん。じゃあ朝ごはん出来てるし食べよっか」

 

 

「すまんな、なんか気遣わせて」

 

 

「いいよ、そんな面倒なことでもないし」

 

 

「ねえヒッキー!あたしは!?何の誤解も解けてないよ!もしかしてあたし方面は誤解がないの?!」

 

 

「昨日、飲み会、三浦、酔う、濡れる、泊める。OK?」

 

 

「ぬ、濡れる……」

 

 

 頬を紅潮させ、両手でそれを隠すように手を頬に当てる。そのあざとい仕草に俺は少しドキッとしたが、由比ヶ浜はそれ以上追求してこなかった。

 

 

 

 

 そして俺と三浦は出来上がってから放置されていた朝飯をやっとこさ食べだした。食パン1枚にバター塗ったやつとシーザーサラダは先程も言ったように三浦が用意してくれたもので、少しだけ意識するものの口には出さない。てか朝からサラダ食うの久しぶりだな…。

 

「てゆーかさ、優美子はなんであたしの服着てるの?」

 

 

「んぐっ!」

 

 

 食パンが気管に入りそうになりげほけほとむせる。最初は何も言ってなかっただろうが…。安心していた俺の純真を返せよ。

 

 

「え?これヒキオの妹さんのじゃないの?」

 

 

「それあたしが置いていってるやつだよ」

 

 

 嘘が露見し、さらに誤解されそうな言い方をする由比ヶ浜に必死でアイコンタクトを取ろうとするが、努力も虚しくそもそもこちらを見ない。

 

 

「なんで置いてってるかはこの際置いとくけどさ、ならもしかしてこのブラとかも結衣のなん?」

 

 

 あっけらかんとした態度で、三浦は服を捲り自身の着けているブラジャーを見せた。

 

 

 ……“服を捲り”??

 

 

「おま、ちょ、ビッチかてめえ!」

 

 

 ピンクを基調にレースが入っているブラジャー。うん、エロいね(語彙力不足)。てかそれは昨日俺が風呂場に持っていったやつだけども。流石の由比ヶ浜も下着までは俺ん家に置いていない。まあ置かれても困るのだがな。

 

 

 ……いや、マジで。あわよくばとか期待なんて全然してねえから。

 

 

「へ?ヒキオ昨日(持ってく時にこのブラ)見たんじゃないの?てかいちいちそんなこと気にしてたら禿げるっつの」

 

 

「昨日(優美子の胸を)見た!?やっぱヒッキー達付き合ってるんじゃないの?!」

 

 

「んなわけないだろ、てかさっさとしまえ!」

 

 

「あ、一応言っとくとそれあたしのじゃないからね」

 

 

「由比ヶ浜は由比ヶ浜で話をこじらせるなよ!」

 

 

 まあ悪いのは話すのを面倒臭がった俺だけど。別に服も小町のを渡せればよかったんだが、如何せん胸囲がなあ……。三浦に貸したのだって小町が見栄を張ってでかいのを買ったやつだし。あいつサイズの服なんて着た暁にはボディーライン丸見えになること間違いなしだ。

 

 ……べ、別に想像なんてしてないんだからねっ!

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「じゃああーし帰んね」

 

 

 朝ごはんを食べ終わると私は一足先にそう告げた。一足先に、とは結衣はまだ残るっぽいのでという意味である。

 

 

「ん。んじゃまたな」

 

 

「うん。また」

 

 

 別れは存外淡白なものであり、しかし何気ない“また”に少しだけ心が弾んだ。こういうことを自然に言い合える仲になったのだと意識すると、私らしくもなく嬉しさが込み上げてくる。

 

 

「あ、待って優美子!あたしも帰るから」

 

 

 そう言っていそいそと荷物を詰める。荷物といってもスマホだけだけどね。

 

 

「いいけど、結衣来たばっかじゃん?いいの?」

 

 

「ちょっと優美子と話したいこともあるし…、てかこのあと用事あった?ないならどこかで話したいかなー、なんて」

 

 

「いいよ。あーしも結衣と久しぶりに話したいし」

 

 

 ヒキオはすでに我関せずとばかりに本を読み始めていた。恐らく起きた時にロフトから持ってきていたのだろう。

 

 

 今度こそヒキオにさよならをして、私達2人は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 二日酔いに朝の日差しはきつく、軽くだがズキズキと痛む頭を意識しないように歩く。ていうかさっきまでは痛くなかったんだけどね。それこそ意識してなかったってことかな。

 

 結衣は至って自然に歩いており、昨日は飲んではいないようだ。そういうのを見ると前日飲まなければよかったと勝手に後悔してしまう。

 

 

「で、結衣。どこで話す?つってもまだ9時半くらいだし重いのは勘弁して欲しいんだけど」

 

 

「う〜ん…、じゃあスタバとかは?」

 

 

「おっけ。この辺あったしね」

 

 

 私と結衣は地図を見ることもなく進行方向を変える。スタバの位置くらい、女子大生にとったら自分ちのレベルで把握している。少なくとも私や結衣みたいなタイプならね。

 

 

 

 

 

 予定通りスタバに着くと、私がエスプレッソフラペチーノ、結衣がキャラメルフラペチーノを頼み受け取ってから2人席に腰掛けた。

 

 

「にしても、本当久しぶりだよね。優美子と2人」

 

 

「だね。半年くらい?」

 

 

 姫菜を含めた私達3人は卒業後も何度か遊ぶ仲であり、その延長で結衣ともどこか行ったりしている。ただ最近はバイトのために遊びに行くの自体が億劫になることもしばしばあったので、会う機会がなかったというわけだ。

 

 

 スタバはここ独特のカジュアルな雰囲気を醸し出しており、客を見渡しても、間違ってもヒキオみたいな暗い感じの人はいない。皆それぞれが輝きを放っており、友達と話している人やレポートに着手している人、1人優雅にコーヒーに舌鼓を打つ人と様々だ。

 

 心做しか外に見える景色も明るく映る。朝だから、などといった光度の話ではなく、世界自体がキラキラ光っているような、個人の受け取り方によって異なる明るさ。どこか綺麗さを感じたのも勘違いじゃないのだろう。

 

 

「で、結衣。あーしに訊きたいことがあるんじゃないの?」

 

 

 飽くまで優しく、間違えても高圧的にならないように。語調はもう直らないと思うけど、せめて言葉の雰囲気だけは柔らかくしなきゃ。

 

 

「うん、えっとね…」

 

 

 もじもじとして煮え切らない態度。高校生の頃の私ならば即座に早く言え、と急かしていただろう。いつからかそれだけでは生きていけないのだと気付けたのはよかった。いつまでも女王様気分はダメだ、つってね。

 

 

「……優美子さ、本当にヒッキーと付き合ってないんだよね?」

 

 

「それはさっきも言ったし。あーしがヒキオと付き合うなんかないない」

 

 

 言葉を飾らず、事実を報告する。事務的にも見えるその返答に嘘は一切なかった。

 

 

「じゃあさっき言ってた…、その、濡れるって言うのは?もしかしてだけど………」

 

 

「?」

 

 

「………セフレ、とか?」

 

 

「はあああ?!!!」

 

 

 え?今結衣セフレって言った??セフレってあのセックスフレンド!?

 

 

 思いのほか大きな声が出てしまい、周りの客もびっくりしてこちらを見ていた。私は軽く一礼し、結衣も結衣で困り笑いをしながら頭を下げていた。

 

 

「…とりあえず、あーしとヒキオの間にそういうのはないから。セフレなんてもってのほかだし」

 

 

「で、でもヒッキー濡れたって…」

 

 

「あれは汗!あの時は走りどおしで汗だくだったのをヒキオが“濡れた”って言っただけ!」

 

 

「あ、え、マジ!?ごめん優美子!あたしなんか変な勘違いしてて……ああもう恥ずかしいっ!」

 

 

 堪らず結衣は手で顔を覆い、いやいやと首を振っていた。その動きに合わせて大きい胸も揺れる。私はあまり恨めしいとも思わないけど、例えば私が雪ノ下さんとかだったらどう思うのだろうか。

 

 きっと氷の視線で結衣の胸を凍らせるに違いないね。少なくとも高校卒業の時までは貧乳のまんまだったし。

 

 

 それから少しして落ち着いた結衣は、顔を近付けて声を潜めた。

 

 

「あたしもヒッキーとは何もないからね。自分から出向いてるだけ」

 

 

 果たして結衣のその言葉に意味はあったのか。いや、意味はそこに“ある”のだが、私に言うことでそれが意味を成すのだろうか。

 

 普段ならあまりこういったことは考えずに、表面を切り取ってそうとしか返さないだろう。心の中だって同じことを考えているはずだ。

 

 けどヒキオに出会ってから、今までは考えなかった裏を少しだけ考えるようになった。ならされたと言った方が正しいかな。

 

「そう」

 

 

 結局返した言葉はそれだけで、奇しくもそれは表だけを見た時の返答と同じものだった。そこに差異があるとすれば、やっぱり私の受け取り方だね。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 それからはウインドウショッピングやお互いの愚痴を言い合ったりして、あたりも暗くなったところで解散した。

 

 

 西の空がまだ赤い。左から右へと綺麗なコントラストが描かれたキャンパスに白は一切見えず、夜なのに秋晴れという言葉をふと連想した。

 

 ネオンが光りだす黄昏時には疲れを見せながら歩く人もいれば、これから飲み会だと言わんばかりの揚々とした雰囲気のグループもいる。様々なモノが入り混じっているのを見ると、その中のどれにも属さない自分にどこか異物感を覚える。

 

 

 今日は早く帰ろう。飲む気にもなれず(そもそもお金をそんなに持っているわけではないが)、帰って早く寝ることだけを考えて帰途をたどる。

 

 

 と、そこに。

 

 

 Prrrrr , prrrrr。

 

 

「…何?」

 

 

『何とはなによ。嫌そうな声して』

 

 

 電話の相手はお母さん。肉親だからこそ、臆面もなく嫌な顔を見せれてしまう。

 

 

『それでいきなりなんだけどね、できれば明後日の1日だけ(ゆう)ちゃんを預かってほしいのよ』

 

 

「優ちゃんって、あの幼稚園くらいの女の子?」

 

 

『そうそう。なんか優ちゃんの幼稚園お休みみたいで、タイミング悪く両親も家を空けなきゃダメらしいのよ。ひとりだと心配だから、ってことであんたに白羽の矢が立ったわけ』

 

 

 優ちゃんとは幼稚園児の女の子で、下の名前が(ゆう)だから優ちゃん。母方の叔母の娘、つまり私のいとこに当たる可愛い女の子だ。

 

 

「でもあーし、明日大学あんだけど」

 

 

『何時まで?』

 

 

「昼まで。文系は1年終わったらコマ数激減するしね」

 

 

 文系の楽さを考えると、たまに見る理系の人達はそのうち過労で死ぬんじゃないかとまで思えてくる。別に文系を馬鹿にしてるんじゃないけど(てか私も文系だし)、さっきも言った通りコマ数が段違いなのだ。あとは法学部もヤバいね、うん。

 

 

 そろそろ日も落ち、本格的に夜が顔を覗かせる。急激に落ちる気温に物理的に身震いし、帰る足を早めた。

 

 

『じゃ、それ休んでいいからお願いね。よろしく!』

 

 

「ちょっと待っ……」

 

 

 呼び止めたものの先に切られ、電話を掛け直してもでない。

 

 

 ……ほんと良い性格してるわ。さすが私のお母さんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を済ませ風呂も上がり後は寝るだけとなったその頃、ようやくお母さんからメールが届いた。

 

 内容はやはり明日の優ちゃんのことであり、朝の8時頃に優ちゃんを連れてこちらへ来るそうだ。休めると言っても起きる時間は同じかと考えると、少しだけ気分が沈んだ。

 

 またメールには他の注意事項のようなものも書かれており、朝は運動、昼は勉強をさせろとのお達しが。どうやら優ちゃんはお受験をするようで、今の時期はとても大切らしいから出来るだけ規則正しい生活をさせたいとも書かれていた。

 

 

 ……その裏には、恐らく私が総武高に受かったというのも関係しているはずだ。親戚が一堂に会した時に私が報告した時、ただ一人おばさんだけが少し複雑そうな顔をしていた。今の大学も決して低い偏差値のところではないし、間違えても良い気分でないのは確かだろう。

 

 それにお母さんはさっきのやり取りにも表れているとおり、やることこそ馬鹿っぽいがおばさんよりも頭が良かったと言う。完全に仮定の上に仮定を重ねた根拠の無い推論ではあるが、もしもあの時の何とも言えない表情が私の考え通りならば、おばさんはお母さんにコンプレックスを抱いている。

 

 

 そんな内ゲバに巻き込まれる優ちゃんは気の毒だな。私はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ん?オリキャラを出すのが苦手と言ったくせにポンポン出してんじゃねーよ?

ロリキャラなので許してください(謎理論)


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