もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら 作:しゃけ式
ピンポーン。
日もまだ昇きっていない時間。空耳かと思われたインターホンを無視し、一応スマホを確認する。時刻は午前5時半であり、やはり空耳だと決めつけて再び眠りにつく。
ピンポーン。
「……空耳であってくれよ」
起きたくないと主張する体に鞭を打ち、ゆっくりと体を起こす。両腕を天井へ上げ、大きく伸びをしてベッドから出る。やっと暖かくなってきたとはいえ、未だほの暗い早朝は空気が冷たく身体を震わせながら玄関へ向かった。
ドアの前に立ったところで、俺は覗き穴から外を見る。前回は由比ヶ浜だと気付かずに心底嫌な顔をしてしまったため、同じ轍は踏みまいとの考えだ。
「……葉山?と、あれは…」
男が女を背負っているように見え、しかもその男が葉山っぽい。だが葉山に家は教えたことがなく、それにこの時間に訪ねてくるのも不可解だ。一抹の恐怖心を覚えながら、ゆっくりとドアを開けた。
「やあ比企谷。久しぶりだね」
件の男はやはり葉山であり、スポーツウェアを着ていた。右手にはリストバンドもあり、恐らく朝走っていたのだろう。しかし汗が見えないことより葉山は走り始め、もしくは背負っている女をおぶってから長い時間が経ったかのどちらかなのは明白である。
「後ろのは…、三浦か」
いつものコートと特徴的な髪型。さらに葉山との関連から三浦だと判断するのは容易だった。なぜかメイクは落ちておらず、また三浦はおぶられてなお今も寝ているようだ。
「朝走っていたら駅の柱のところで寝ていたんだよ。家に送ろうと思ったら急に優美子が道案内してくれてね。優美子の家かな、なんて思っていたんだけど」
「てことは寝たのはついさっきなのか」
「だね。そこのアパートって言ったっきり。表札見たら比企谷ってあって驚いたよ」
「…ま、とりあえず入れ」
「お邪魔するよ」
2人を中へ迎え入れ、葉山の背中にいた三浦をベッドへ寝かせる。部屋から戻った俺と葉山は炬燵に入った。
「………」
家に入れたはいいものの、三浦が起きるまで何を話せばいいか全くわからない。時間を見てもまだ5時40分前といったところで、三浦が起きるとは考えづらい。
「比企谷」
そんな気まずさを破るのはやはり葉山であり、流れるように会話を始めた。
「最近優美子と仲がいいのか?」
「まあ、そうだな。よく飲んだりしてるんだよ」
「なるほどね。ちなみに俺は優美子と飲んだことないよ。雪乃ちゃんなら何回かあるけどね」
「んな牽制されても困るだけだ。ちなみに俺は雪ノ下とサシでは飲んだことない」
俺の返しが意外だったのか、葉山は目を丸くした。しかしすぐに笑顔を取り戻す。
意外の中には、別の意味もあるんだろうけどな。一々言わないが。
「なんで優美子は比企谷の家を説明したんだろうね」
「意地の悪い質問だな」
「かもね」
その自嘲的な笑みには、高校時代によく見た仮面の笑顔は見られなかった。
「ただ優美子と仲良くやるんならさ、間違っても俺みたいにはするなよ」
今日一番語調の強い釘。つい返答することを忘れ、改めて葉山の顔を見た。
笑顔ではなく、真剣の忠告。やはり三浦と葉山の間には何かあったのだろうか。
「次に比企谷は『お前らの間に何があったんだ?』と言う」
「お前らの間に……、ってやらせんな」
こいつもそんなネタ振りするんだな。俺の中の葉山像に修正を入れ、話を続ける。
「だがなんかあったのは事実だろ」
「まあね。といってもそんなに重い話じゃないよ?…少なくとも俺にとっては」
「ここまで言っといて話さないなんてことはしないだろうな」
「俺の出す問題に答えられたら言ってもいいよ。一問しかないけどね」
「なら早く問題を言え」
「俺の好きな人は誰でしょう?」
「雪ノ下」
「…即答だね」
当たり前である。高校時代のこいつを見ていればそうなのは明白であり、その上先ほど交わした会話からも簡単に理解することが出来る。
「じゃあそれを念頭に置きながら聞いてくれ。優美子が卒業式の日に俺へ告白した事は知ってるか?」
「知らん」
「まあそうだったんだよ。それでさ、俺の答えは当然NO。比企谷も知っている通り、俺には別の好きな人がいたからね」
だろうな。ならそこで起き得る事件(事件と呼ぶには飛躍しすぎかもしれないが)は葉山の返事だろうが、こいつに限って三浦を、ひいては人を傷つけるような断り方をするとは思えない。
自分が傷つきたくないからな。
「どう断ったんだ」
しかしここにしか問題が介在する隙間は無く、そう聞くしかなかった。
「普通だよ。他の人と一緒で、『ごめん、優美子とは友達でいたい』さ」
「……なるほどな」
「今にして思えば、この返事が一番の悪手だよね。何が問題かって、この断り方を
つまり周りの人に比べて優越感を感じていた三浦は、断られ方がその周りの人と全く同じだったため自尊心を傷つけられたということだ。いかにも三浦らしい傷つき方で、ともすれば葉山のことを仮面を被った偽善者として嫌いになってもおかしくない。
「だから三浦はお前の話をすんのが嫌なのか」
「俺は知らないけど、もしそうならそれが正解だと思うよ。だから比企谷」
それまでの空気とは一転、重い静寂が支配する。
「どうか優美子を傷つけないでやってくれ。優美子はああ見えて依存癖があるからね」
見た目には見えない、三浦の特性。オカンスキル持ちなんて呼んではいるが、見ようによれば世話をする相手が必要なやつとも言える。穿った考えに過ぎないかもしれない。しかし穿てば考えられてしまうのは、やはりそういった側面を三浦が持っているからだろう。
「じゃあ俺はそろそろ帰ろうかな」
立ち上がろうとする葉山を、俺は静止した。
「どうしたんだ?別に仲良く話す仲でもないだろ?」
「三浦が起きた時のことを考えろ」
「…忘れてた。説明役は必要だよな」
炬燵に入り直した葉山を尻目に、俺はお茶を汲みにキッチンへ向かった。このまま何も出さないのは、葉山相手とはいえ流石の俺でも心が痛むからな。
……べ、別に葉山に帰って欲しくないわけじゃないんだからね!(誰得)
◆◆◆
「ん……」
肌寒さに目を覚ます。いつもとは違うベッドの感覚に新鮮さを覚えながら、開けた薄目をまた閉じる。もう一度眠りにつこうと意識を暗転させようとするが、あることに気付く。
「…あれ、ここどこ?」
昨日は女友達と飲み会で、それから12時くらいにお開きして、それから……。
「…ここヒキオんちじゃん」
よく見ると見慣れた部屋であり、帰るのが面倒臭い時はいつも泊まっているところだ。もうすでに何回もここで寝ており、だからこそ初めは違和感だけでまだ寝れそうに感じたのだろう。
私の服装を見てみるとやはり家には帰っておらず、次いで顔も確認するとメイクは落ちていない。鞄はベッドの脇においてあり、ヒキオが運んでくれたんだと考えると心做しか内側が暖かくなった。
さすがにこのまま寝ているのも申し訳ないな、と思い部屋から出る。どうせ炬燵に入って本でも読んでるんだろうな。いたらお風呂借りれるか聞こう。
そんな考えは、目の前の光景を見るなり一瞬で消え去った。驚愕に塗りつぶされた思考はまともに働かず、ただその状況を呆然と眺めることしかできなかった。
「だからこうだって!比企谷のそれは腰が高すぎるし角が小さすぎるだろ!」
「いやいやこれくらい大胆不敵にするのがトリケラトプスに決まってんだろうが!恐竜時代の覇者だぞ!」
「それはティラノサウルスだから!トリケラトプスはそうかもしれないけど恐竜拳は人間の技だろ?!そんな隙だらけで勝てるわけないじゃないか!!」
家主のヒキオはともかくなぜか隼人もおり、2人はしきりに恐竜拳?というのをやっていた。足を前後に開き、右手をアッパーの途中みたいなところで止め、左手を頭の上から構える。なるほど、意味がわからない。
てか2人ってこんな仲良かったの?
「おお、三浦。起きたのか。ほら行け葉山!今こそトリケラトプス拳の時間だ!」
「だからあれは恐竜拳だって!勇次郎が言うんだから間違いないだろ!」
ツッコミを入れつつ、私に向かってしっかり恐竜拳を構える隼人。めちゃくちゃ楽しそうな2人を見て、私はつい。
「……どうでもいいし。あとあーしお風呂入るから。置いてある服出しといてくれない?」
それだけ言い残し、風呂場へ向かう。脱衣所で脱いでる時に時折聞こえてくる笑い声がなぜだか腹立たしく感じ、遅ればせながら襲う頭痛に顔を
「はい、どういうことか説明するし」
風呂上がり、私は炬燵を挟んで向かい合っていた2人の間に入って本題に入った。先ほどの馬鹿みたいな雰囲気とは一転、怖いくらいに静まり返っていた。
「それはこっちのセリフでもあるのはわかる?…って言うと、語弊を生むかな。昨日のことは覚えてるかい?」
まず隼人が答える。ヒキオはただ座って聞いているだけだ。
「12時くらいまで女友達と飲んで、飲んだ後……」
先程もここで思い出せなかった。記憶がなくなるほど飲むのは久しぶりで、そしてその“記憶がなくなるほど”というフレーズによってそこから思い出せないことに気付いた。
「優美子は駅で寝てたんだよ。俺が見つけたのが5時過ぎくらいだったから、多分5時間くらい外で寝てたんだろうね」
「…マジ?」
「笑い事じゃないぞ」
次に口を開いたのはヒキオで、いつもの雰囲気とは違いどこか怒った印象を覚える。
「まだ外は、まして夜中なんて寒いに決まってる。それに駅なんざどんなやつがいるかわからねえだろ。たまたま今回は何もされずに葉山が見つけてくれたから良かったものの、本来はどうなっていたかわからねえんだからな?」
ヒキオのそれは本気で私の身を案じてくれているような忠告で、私は小さな声でごめんとしか言えなかった。
「……いや、まあそれはあーしが悪かったとして。さっきのあれは何?ヒキオと隼人ってそんな仲良かったっけ?」
この空気感のせいで危うく忘れるところだったが、寝起きの時のあれはなんだったのかと訊かなければならない。別に関係の無いことだが、単に好奇心として気になるのだ。
「いや、まあ例えばお前が起きるだろ?で、俺しか家にいないと」
「うん」
「そしたら変な誤解を生みそうだろ?別に俺が朝お前を拾ったことにしてもいいけど、そんなの絶対信じなさそうだからな。てか俺も信じねえ」
確かにヒキオが朝早くに外へ出るなんて天地がひっくり返っても有り得ない。よんどころ無い事情ならまだしも、気分で出るなど信じられるものも信じられないだろう。
「だから状況確認のために残ってもらってたんだよ。トリケラトプス拳はただの暇潰しだ」
「だから恐竜拳だって。まあそういうことだからさ、俺は帰るよ。またね」
そう言って隼人は立ち上がり玄関の方へ歩いていく。私もヒキオも一々呼び止めるなんてことはせず、ガチャと鳴ったドアの音を聞き出ていくのを待った。もう一度ドアの閉まる音がし、帰ったことを確認するなりヒキオは再び口を開いた。
「葉山は寝かかっているお前の説明を受けて歩いたらここに来たって言ってたんだよ」
「へえ。信頼されてんじゃん、ヒキオ」
「……まあ、だから。なんつーか、その」
「何?」
「酒で眠くても自分の家か、ダメなら俺ん家でもいい。外で寝るようなことはすんな」
「…あんがと」
「それは葉山に言ってやれ」
お互い無言になり、ヒキオは煙草を取り出した。地面に置かれてあったペンダントをいつものように咥えた煙草へやり、火をつけて一気に煙を吐く。ヒキオの匂いとも言えるピースの独特な香りは、すぐに部屋を満たしていった。
アニメ版のAqoursはそんなに応援したくならないのに漫画版のAqoursはめちゃくちゃ応援したくなる違いって何なんでしょうかね。ていうかアニメ版が悪いとかじゃなくて、漫画版のAqoursがなんというかですね。応援したくなるというか(語彙力不足)
ひとえにはわわ梨子ちゃんが好きだからですかね!(笑)