Re:外道が始めるヤクザ生活   作:タコス13

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第2章『鬼も笑えば福が来る』
第1話『悪夢と意味の無い廊下』


「...お前が、ワシを呼んだっちゅうことかい...」

 

西谷は黒い靄に覆われた場所にて、黒い姿をした少女の人影と対面していた。

 

 

少女は言葉を発さないが、物言わずとも西谷にはこの少女が自分を呼んだのだと、本能でわかった。

 

「...私の...名を...呼んで...。」

 

西谷は身体を動かすことも叶わず、不快感と悪寒が身体を支配して意識が遠のいて行く感覚を覚える。

 

「...!?...はぁ...はぁ...はぁ...」

 

全身を冷や汗で濡らし、勢い良く身体を起こした西谷にとって、寝起きの良い目覚めとは程遠いものだった。

 

「...気色悪い夢やったのう......サテラ......!!?」

 

先程味わった悪夢を振り返りながら、確認でもするかの様に嫉妬の魔女の名前を呟けば、その瞬間時間と空間から隔絶される。

 

身体は動かず、声も出ず、呼吸も出来ておらず、瞬きも許されず、止まった時間の中で意識と視覚だけが 引きとめられている様だ。

 

一瞬なのか永い時を経たのか時間が止まった隔絶された世界では時間の感覚が曖昧だが黒い靄が周りを覆った。

 

自分に近付いてくる影から視線を外す事は許されず、見ている他なくゆっくりと近付くにつれ輪郭や体型がはっきりしてくる。

 

つい先程の夢に出てきた少女...魔女が姿を表すと西谷の胸に手を伸ばせば通過して内部へと侵入してきた。

 

黒い、どこまでも黒い闇を固めて出来ている様なその手は通過している筈なのにその存在をしっかりと知覚させ、そして心臓を愛おしそうに撫でていた。

 

最も重要な器官の一つである心臓を撫でられれば、本能が不快感と警告を発して声も発せず耐え難い苦痛が伴う。

 

永遠へと引き伸ばされた一瞬を味合わされると魔女は去り靄は晴れて空間は戻り時を刻み始める。

 

「......夢っちゅうわけでもなさそうやな...」

 

再びかいた冷や汗を拭いながらボソリと呟けば、布団をどかしてベッドから立ち上がり扉へ向かう。

 

「気分転換に、屋敷を散歩でもしようかいのう...」

 

ドアノブに手を掛けるとひんやりとしているが、気にせず廊下へと出れば今度は足元に冷たさが襲いかかり、少し考こむ。

 

「...あかん、寒いわ...やっぱ二度寝しよ。」

 

西谷はそういうと、あっさり引き返し扉を開けるがそこは先程の寝室ではなく書庫と思しき場所であり、巻き髪のツインテールをした幼女が座って本を読んでいた。

 

「せっかく用意した廊下を一歩も進みもせず、いきなり此処にくるとは舐めてるのかしら?...なんて、心の底から腹の立つやつなのかしら。」

 

 

「せやかて、寒かってんも〜ん、しゃあないやろ〜?」

 

憎らしげに見つめながらそんな恨み節をぶつける幼女に、西谷はぶりっ子の様にそんな事を言う。

 

「大の男がなんて気持ち悪いのかしら...自分が中年であり、厳つい顔だと言う事を鏡を見て再確認してから出直してくるのかしら。」

 

「誰がおっさんやねん。これでもワシ、まだ27やで?顔が厳ついんは認めるけど。」

 

苦虫でも噛み潰したかの様なかおでいう幼女に対して、心外だと言わんばかりにそんな事を言う西谷。

 

「その顔となりで良くもまぁそんな嘘がつけるものよ......うそ!?本当なのかしら!?」

 

「せやで、そんな下らん嘘はつかんわ。...ところで、ドリルちゃんは名前なんて言うん?」

 

訝しげな表情で切って捨てるも、驚愕の顔に変わり信じられないといった様子の幼女に西谷は肯定すると変なあだ名で呼ぶ。

 

「誰がドリルちゃんなのよ!ベティーにはベアトリスと言うちゃんとした名前があるかしら。」

 

「ほう、ベア子ちゃんやな?ワシは西谷誉や。」

 

「ベア子ってなにかしら?」

 

「うーん、なんや知らんけど思いついたんや。親しみと愛着があるやろ?」

 

「...初対面なのに親しみや愛着とか馴れ馴れしいにも程があるのよ...」

 

ベアトリスにベア子と言うあだ名を付ければ、満足そうにそんな事を言う西谷。

 

「ところで、ここどこやねん?ワシは寝室に帰って早よ二度寝したいねん。」

 

「ここは、ベティーの寝室兼禁書庫なのよ。...それにしても勝手に入って来て魔女の匂いを撒き散らした挙句、さっさと帰りたいとか本当にベティーをなめてるのよ...」

 

西谷の無礼な態度の質問に対して、一応は答えるものの忌々しげな言葉を添えるベアトリス。

 

「ほう、そうなんや。...そら、ベア子ちゃんが悪いで?ベア子ちゃんが悪戯せなんだらよかっただけの話やもん。」

 

「ああ言えばこう言う...そろそろベティーも限界なのよ...二度寝したいのかしら。それなら持ってこいのがあるのよ。」

 

西谷の反論に一層顔をしかめれば、立ち上がって西谷の胸のあたりに手を伸ばし優しく撫でる。

 

「ん?なんや、おまじないでもしてくれるんか?...ぐっ...!?おごぉぉぉ...!?」

 

西谷が軽口で返した次の瞬間、胸を中心に全身に焼きゴテを突っ込まれた様な痛みと不快感が襲う。

 

そして、長距離を走り切った様に息が上がり筋トレでもしたかの様な倦怠感が残った。

 

「...普通なら気絶してるか、少なくとも立ってはいられないのよ...どこまで頑丈なのかしらこの男...」

 

「...確かに、二度寝にはもってこいやのう...はぁ...はぁ...ものごっつ、怠いわ...」

 

肩で息をしながら膝を少し震わせているも、しっかりと二本の足で建ち続けている西谷。

 

「まぁ、お前に敵意が無いのはわかったし、ベティーへの無礼な態度もこのマナ徴収で許してやるかしら......寝室に繋いだのよ。さっさと出て行くかしら。」

 

「おう...ほな、また来んで...ベア子ちゃん...」

 

そう言い残し扉を開ければ元の寝室に繋がっており、重い足取りでベッドに横になれば直ぐに眠りについた。

 

「あら、目が覚めましたね、姉様。」

「そうね、目が覚めたわね、レム。」

 

今度は嫌な悪夢も見ず、日差しを浴びながらというのは寝起きの良い目覚めと言えるだろう。

 

「ふぁーあ...んんー!...朝か、今は何時や...」

 

両手を上に伸ばして、盛大にあくびしてから伸びをすれば、睡気目で日差しを感じてそう呟く西谷。

 

「今は陽日七時ですのよ、お客様。」

「今は陽日七時になるわ、お客様。」

 

日差しを見つめてそんな疑問を呟く西谷に、二つの声が親切にその疑問に答えてくれた。

 

陽日と言うのがよく分からなかったが、枕元の台に置いた自身の腕時計を確認し七時を示していたので、大体の時間は合致していると判断する。

 

「誰や知らんけど、おはようさん。嬢ちゃんらはメイドかなんかか?」

 

改めて二人を見やると、映画とかで見る様なメイド服を着込んだ、色違いの同質の顔の恐らくは双子であろう美少女。

 

身長は150cm程度で幼さを残した愛らしい顔立ちに、髪の色は片方が水色でもう片方が桃色をしており、桃色の方が左目を水色が右目をその髪で隠している。

 

この世界に来てからというもの、自身と関わる女性は皆揃って顔が整っている者ばかりだと考える西谷。

 

「大変ですわ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています、姉様が。」

「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。レムが。」

 

「なんでやねん。ワシなら、頭の中やのうて実際にやるっちゅうねん。」

 

二人のそんなボケに乗っかる様に指をワキワキと動かしながら立ち上がる西谷に、顔に戦慄を走らせる二人。

 

「お許しになって、お客様。レムだけは見逃して、姉様を汚してください。」

「やめてちょうだい、お客様。ラムは見逃して、レムを凌辱するといいわ。」

 

互いに指を差し合ってお互いを売る様な発言をすれば、それを見ていた西谷はニヤリと笑う。

 

「安心せぇ、ちゃんと二人とも捕まえて可愛がったるからな。」

 

二人に西谷がにじり寄れば、きゃーこわいーなどと逃げ回り、それを追いかけて戯れていれば部屋へ入って来る人物がいた。

 

「...もう、朝から元気いいんだから。」

 

エミリアが呆れ顔でそんな事を言いながらも、どこか楽しげに微笑んだ。




ここで書いた西谷の年齢ですが、無理に若くしているわけではありません。

ビリケンの大体の年齢を割り出してそれを元に計算してみました。

まず、ビリケンは警察官という事なので定年してないと考え59歳以下と考えます。

そして、高校生の娘がいましたので、娘の年齢は16〜18歳です。

で、ビリケンが結婚した年齢を当時の平均結婚年齢である27だとします。

すると娘が殺された時のビリケンの年齢は43〜45歳となります。

そこから一年掛の捜査、犯人が未成年のため出て来るまで3年くらいで47〜49歳となります。

その後、西谷が犯人を殺すのが高校生の時なので16〜18歳となりますが、

そして、西谷の現在の年齢までの年月をビリケンの定年までの間と考えます。

さらに、真島の年齢が24であり年上だと考えると9〜12年ということがわかります。

これで西谷の年齢は25〜30歳となりますので間をとって27歳としました。

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