Re:外道が始めるヤクザ生活   作:タコス13

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第3話『腸狩りと鬼人』

お互いに肉薄すると、何度も切り結ぶが、その度にお互いが弾かれてはまた斬りかかる。

 

エルザは脚力に物を言わせ壁や床を蹴り直線的に動き、西谷はステップや地面を軸に回転を加えるなどのトリッキーな動きをしている。

 

エルザは自身の思わぬ見立て違いに内心舌なめずりをして喜んでいた。

 

西谷が服を脱ぎさってからと言うもの、確実に身体能力や戦闘能力が上がっているのを感じていた。

 

「それは何の加護かしら...貴方、世界に愛されてるのね。」

 

「鬼神の加護言うらしいわ......そぉぉらぁぁ。」

 

鬼神の加護により、服を脱ぎさり戦闘状態になる事で身体能力に補正がかかりオドが充満し溢れ出してくる。

 

視認できる紫色の禍々しさを感じさせるマナが西谷の身体を包めば、ゆらりと両腕を波打つ様にゆっくり動かす西谷。

 

エルザが斬りかかれば、西谷はそれを左手で瞬時にいなし、右手に持ったドスで斬りかかる。

 

エルザはそれをいなされた右手から左手へとククリ刀を持ち替え防ごうとする。

 

しかし、西谷のしなやかな腕の動きはククリ刀をするりと滑り抜けエルザの腹部に届く。

 

エルザは飛び退く事で躱そうとするも、躱しきれず少々腹部を切り裂かれてしまう。

 

「パック!私達も...」

 

「悪いけど、それは今のところ無理だと思う。このままじゃ、彼まで巻き込んでしまう。」

 

サテラは見ていられないのか、パックと共に加勢しようとするが、二人が肉薄してる中エルザのみに攻撃を当てるのは厳しいと判断してそれを制す。

 

「でもっ...このままじゃ...」

 

「くっ...いきなり来て暴れおって!いい加減にせんかぁ!!」

 

「邪魔すんなやぁぁぁぁぁ!!」

 

サテラが加勢出来ない事に歯痒さを感じていると、ロム爺が棍棒をエルザを攻撃しようと振りかぶるが、西谷がロム爺の顔面を蹴り飛ばし、吹っ飛ばされる。

 

「あら、貴方意外と優しいのね?あのお爺さんを庇うなんて。」

 

西谷に蹴り飛ばされて一瞬遅れてエルザのククリ刀が振り切られるが、紙一重でロム爺には当たらなかった。

 

「そんなんやない、邪魔されたくなかっただけや...それにしても...はははぁ...痛いで...エルザちゃん...」

 

エルザのククリ刀が振り切られる時、西谷の脇腹を捉えて致命傷には至らずとも深めに斬られてしまう。

 

「残念、貴方本当に頑丈なのね。筋肉に阻まれて腸が見れなかったわ...さぞ貴方の腸は美しいのでしょうね。」

 

「どやろな...案外ドス黒いかもしれんで?シェアァァ!!」

 

そんな軽口を叩き合いながら、西谷は脇腹から血が滴りながらも笑みを浮かべながらなエルザへと斬りかかっていく。

 

「大丈夫かロム爺!?」

 

「ぐあぁ...なんとか大丈夫じゃ...それにしても容赦なく蹴り飛ばしおって...お陰で命拾いしたがのう...」

 

ロム爺が吹き飛ばされた場所へすぐさま駆け寄ったフェルトに、顔をさすりながら、無事だと伝えるロム爺。

 

「大丈夫?動ける?」

 

「...なんじゃ...心配してくれるのか...?...ちと、きつい...うまく身体が動かん...」

 

サテラが心配そうな顔つきでロム爺の顔を覗き込んで問いかければ、少し驚きながらそう答えるのは、まだ脳震盪が収まってないのだ。

 

「なら、貴女だけでも逃げなさい。巻き込まれるわよ。」

 

「でも...アタシはあんたから記章を...」

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」

 

サテラの逃げる様にという言葉に、フェルトは後ろめたさとプライドが邪魔して食い下がるが、そんな場合では無いと一喝する。

 

「.........っ!」

 

フェルトは悔しさに歯を思いっきり食いしばり、振り向く事なく風を切って盗品蔵から外へと走り出す。

 

「行かせると思って?」

 

「つれないで、エルザちゃん。愉しい愉しい舞踏会はまだまだこれからやでぇぇぇぇ!?」

 

西谷に傷を負わせた事で少し余裕が出てきたのか、フェルトの方に少し気が向くが西谷がそれを許さず攻撃、しかも傷を負ってからの方が、重さも鋭さも増しているのだ。

 

「あら、割と深手だと思ったのだけれどまだ私を愉しませてくれるの?素敵だわ。」

 

「おう、女を悦ばせるのは男の甲斐性やからのう。むしろこっからが本番や!」

 

西谷のマナがさらに溢れ出ているが、これも鬼神の加護によるもので一定以上のダメージを受ける事で集中力が増し、マナによる肉体強化も比例して増すのだ。

 

西谷が隙の少ない蹴りとドスによるコンビネーションで猛攻を駆使すれば、エルザはギリギリで防御するだけで精一杯の様だ。

 

「さすが、素敵な殿方...でも、女は嘘をつく強かさもあるの。ごめんなさい。」

 

「おぉぉぉぉっとぉぉっとぉぉぉぉぉっ!!」

 

猛攻に対して距離を取る様に左手のククリ刀を薙ぐが、それを掻い潜りドスを突き立てようとする。しかし、エリザが隠し持っていたナイフを右手に持ち迎撃する様に西谷の喉目掛けて最小限の動きで振り切る。

 

西谷はなんとか身体を捻りさらに身体を沈める事でナイフのさらに下を掻い潜りよけるが、バランスを失いエルザに頭を向けて仰向けで寝転ぶ形となり、当然エリザはその絶好の機会に上からククリ刀を突き刺してくる。

 

ククリ刀を扱うのは他ならぬエリザであり、殺気を込められた一突きは避けようは無く、防ごうにも貫通してしまう。

 

しかし、仰向けに寝ているのは西谷であり、普通なら仰向けの体勢から繰り出せる反撃などありはしないのだが、西谷はその無理な体勢から鋭く重い一太刀でエルザのアキレス腱を抉った。

 

軸足のアキレス腱を斬り裂いかれ力が入らない足は崩れて、上半身はバランスを失いククリ刀は床に突き刺さる。

 

瞬時にもう片方の足で地を蹴り飛び退くも、西谷は腹筋と背筋とさらに脚力にものを言わせて、上半身を跳ね上げる事で追撃しエルザの飛び退き際に深く腹部を切り裂いた。

 

「あぁっ...!...今のはすっごく感じちゃった...ほぼイキかけたわ...まさか、あんな体勢から来るなんて...かはっ...はぁ...はぁ...ふふふ...」

 

「ひゃははは!せやろ?ワシ、テクニックには自信あんねん!...それにしても、綺麗なピンク色やなぁ...エルザちゃんが腸が好きなのもわかる気ぃするで?」

 

エルザは紅潮した顔で艶かしい声をあげれば、片足を使いお腹を手で抑えてなんとか立っているが、口やお腹から血が大量に滴落ちて指の隙間から腑が覗いていた。

 

 

「そこまでだ、投降をお勧めします。『腸狩り』エルザ・グランヒルテ。」

 

「え...ラインハルト...?」

 

「...ラインハルト...なるほど、ラインハルト・ヴァン・アストレア...騎士の中の騎士『剣聖』の家系ね...すごいわぁ...こんなに愉しい相手ばかりなんて...でも、だめ...瀕死の獣は蛮勇を奮わないものよ?...いずれ、この場の全員の腹を切り開いてあげる...それまで、腸を愛でておいて...特にホマレ、貴方はね...」

 

西谷とエルザの一瞬にも満たない静寂を切り裂いて現れたのは、赤髪の男で名をラインハルト・ヴァン・アストレアという。

 

後ろからは、ちゃっかりフェルトとロム爺がバツが悪そうな顔でついて来ていた。

 

騎士の中の騎士『剣聖』であるこの男は品行方正で謙虚でまさに聖人君子の様な性格もさる事ながら、強さという点で有名だった。

 

そんな極上の獲物を相手となればエルザが逃す筈は無いが、西谷との戦闘で負った傷により瀕死であり、この場は退却を選んだ。

 

ククリ刀とナイフをそれぞれ西谷とラインハルトに投げつければ、その隙に逃げ果せてしまう。

 

「...ほんま、ええ女やでエルザちゃん...おまけに熱烈なラブレターまでくれて...嬉しい...で...」

 

「ホマレ!?大丈夫!?」

 

西谷は飛んで来たククリ刀を両手で挟んで受け止めると、身体から溢れ出ていた紫色のマナは霧散し、そんな事を呟き倒れてしまえば、サテラが悲痛な顔で叫ぶ。

 

無理もない、西谷はエルザとの戦闘で少なくない傷を負って、さらに脇腹の傷から血が流れ、あちこちに血溜まりを作っていた。

 

「...心配あらへん...死にゃせんわ...それより、誰ぞ栄養剤かなんか持ってへんか...?」

 

大丈夫だとは言うものの、出血により血の気は失せ、言葉にもあまり力がこもっていなかった。

 

「あ、あるにはあるが...ちょっと待っておれ.。...ほれ。...じゃが、そんなもん、殆ど役立たんぞ?」

 

「ええからよこせや...んぐんぐんぐ...っぷはぁ!効くでー!」

 

ロム爺が奥からボッコの実や薬草やらを漬け込んだ薬酒をコップに入れて持ってくれば、西谷はそれをひったくり飲み干せば、傷口が薄皮を張り血が止まる。

 

「な、なんじゃ...!?お主、バケモノか...!?」

 

「誰がバケモンや。飲食の加護ゆうてな、栄養のある食べ物や飲み物を飲むと回復しよんねん。ま、この栄養剤じゃ全快とは行かへんがの。」

 

西谷が回復した事により絶句するロム爺に対して、軽い調子で飲食の加護のおかげだと教える西谷。

 

「よかった...本当に良かった...」

 

「心配してくれておおきになぁ、サテラちゃん。」

 

「...っ...ホマレ...ごめんなさい...私、貴方に嘘ついてた...私の本当の名前は、エミリアって言うの...」

 

心底安堵したように呟く彼女への、西谷の笑顔での御礼に対して、本当に申し訳なさそうに眉をたれて、謝罪しながら本名を伝えるサテラことエミリア。

 

「エミリアちゃんか...ええ名前やな。ま、そない謝らんでええよ?偽名やゆうこと気付いとったし。あと、あれやろ?なんや、ハーフエルフっちゅうやつなんやろ?あの三人組が嫉妬の魔女がなんやらかんやら...そんな事を言うとったわ。」

 

「...え...?嘘...気付いてたの...?ていうか、何で黙ってたの...?...私、ハーフエルフだし...銀髪で...嫉妬の魔女とにてて...その...気味悪がったり...しなかったの...?」

 

「当たり前やん!エミリアちゃんすぐ顔にでんねんもん。それに、名前なんぞどうでもええ事や。大事なんはエミリアちゃんっちゅう人間や。ハーフエルフやろうが、嫉妬の魔女っちゅうんに似てようが、名前がどうとかも全部関係あらへん。エミリアちゃんはワシの傷治してくれたし、ほんまにええ娘や。それで十分ちゃうか?」

 

誰よりも自由に生きてきた西谷だからこそか、他人の自由も許すという考え方を持っており、偽名だった事にも気付いていたがあえて黙っていたのだ。

 

「そっか...ありがとう...ホマレって優しいね...ここまでしてくれて、命まで助けてくれてありがとう。」

 

「今頃気付いたん?ワシは優しさの塊やで?...そんなもん気にせんでええ。ワシがやりたくてやったこっちゃ。」

 

「んむむむー...てぇい!」

 

西谷とエミリアの二人による会話に、なにやら聞いていられなかったのかパックがいきなり小さな肉球で西谷にパンチする。

 

「なんやねん?相手して欲しいんか?」

 

「いや、まぁ、このなんとも言えないムズムズ感と僕が空気になりかけてるこの状況を打破したくてなんとなく。あ、別に怒ってる訳じゃなくて、むしろその逆なんだけど...」

 

「なんや、ようわからんけど、気はすんだんか?」

 

「ちょっといいか?その...これ...返す。命救ってもらったんだ。恩知らずな真似は出来ねー。」

 

パックの説明に対して軽い調子で流していると、フェルトが徽章をエミリアに差し出してそんな事を言う。

 

「そう。ちゃんと返して貰えるなら今回は許すけど、次は私だけじゃなくこんな事はやめて欲しいんだけど。ラインハルトもあのお爺さんやこの子は見逃してくれる?」

 

「そりゃ無理な話だ。食ってくためだ、悪いことしたとは思ってねー。」

 

「自分は今日は非番ですし、証拠も不十分ですので何にも知りません。」

 

エミリアの言葉に対して、キッパリと悪びれず言うフェルトと、ニッコリと見て見ぬ振りをすると言うラインハルト。

 

しかし、フェルト持った徽章が一瞬眩く光るのを見たラインハルトはフェルトの手を掴む。

 

「君、名前と年齢は?家名はあるのかい?」

 

「ふ、フェルトだ。孤児だぞ?家名なんて立派なものはねー。年はよくわかんないけど、15歳くらいらしい。ってか放せよっ!」

 

「ついてきてもらいたい。悪いが拒否権はないんだ。」

 

ラインハルトの圧に一応質問には答えるも、放せと暴れるがラインハルトの巧みな力加減により無意味に終わる。

 

「エミリア様、先ほどのお約束は守れなくなりました。...彼女の身柄は自分が預からせていただきます。」

 

「……理由を聞いても? 徽章盗難での罰というなら......」

 

「それも決して小さくない罪ですが……今、こうして目の前の光景を見過ごすことの罪深さと比べれば些細なことに過ぎません。」

 

「まて!フェルトを...うぐ......」

 

そういうと、フェルトを気絶させて担ぐと、止めに入るロム爺も気絶させ、意識の無いフェルトから徽章を奪いエミリアに渡す。

 

「では、僕はこれで失礼致します。」

 

ちらりと、西谷の方を向けばエミリアに視線を戻しそれだけ言って去ってしまう。

 

パックと戯れながら、エミリアも別段止める様子も無いので、フェルトが連れていかれるが我関せずという態度の西谷。

 

「ホマレ、貴方これからどうするの?」

 

「せやな...金もない事やし、野宿でもしようかの。」

 

エミリアが心配そうにそんな事を聞けば、西谷はそんなの何処吹く風といった具合に軽い様子でそんな事を言う。

 

「なら、私と一緒に来て。助けて貰ったんだもの。泊まっていって?...あ、これは私がしたくてする事だから。...それなら構わないんでしょ?」

 

「ほんまにー?そら、嬉しいわ!正直、あの三人組捕まえてお宅訪問しよう思うとったところやわ。」

 

「ちゃんと彼女が泊めてくれるから、それはやめてあげなよ。」

 

エミリアの提案に西谷が嬉しそうに答えれば、パックには察しがついてるのか苦笑いしながらそう窘める。

 

なにはともあれ、西谷はエミリアの家にて止まる事となり、とりあえず寝食は確保できたのだった。




......やってしまった...ラインハルトさんいらん人になってしまった...

そんな事は置いといて、今回のオリジナル加護の説明です。

まだ出てないですが直ぐに出すつもりの最後の加護も説明します。

鬼神の加護→ボス戦の常時ヒート状態と一定のダメージを受けると強化されるあの感じです。

飲食の加護→戦いでどんな傷を負ってもライフさへあればスタミナンXやタフネスZを飲むと回復するあれです。

経験値強化の加護→能力強化画面からの強化を加護にしたものです。この小説内の設定としては、強敵との戦いや日常の様々な経験から身体能力の強化や新技が足されていきます。ちなみに今の西谷のレベルは200位です。

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