第1話『ヤクザと女神の邂逅』
思いっきり暴れたらええ
思いっきり楽しんだらええ!!
ヤクザなんぞ どうせ早よ死ぬんや
なら 後先考えんと
自分の道 前に進めや……
なあ?
早よ行けや 真島ぁ
マコトっちゅう女 生かした責任
キッチリとったらんかい!!
行けやぁ
真島ぁ!!
「はぁ...はぁ...きっちり片ァつけたったで...一足先に...あっちで待っとるで...ゆっくり来ぃや...真島...君...」
血だらけで倒れ伏す男、そしてその傍らには顔の形が変わるほど殴られ、目玉は抉られ、絶命した警官がいた。
血だらけで倒れ伏す男の名は西谷誉、大阪は蒼天堀に本拠地をおく指定暴力団、5代目近江連合直参にして、直系組織鬼仁会会長である。
この男、小間使いの警官に裏切られ、真島吾朗という男を庇い、自らが盾となって撃たれていた。
しかし、驚異的なタフネスと不屈の精神力で裏切り者の警官を引き倒し殴り殺したのだ。
男は真島吾朗という男に、別れの言葉を告げ、笑みを浮かべて感覚の無くなっていく身体に従い意識を手放した。
男はこの世界から消えてしまった。比喩では無く身体そのものがこの世界から無くなったのだ。つまりー---異世界に飛ばされたのだ。
「......どうなっとんねん...ワシぁ死んだんとちゃうんか?と、いうか...ここは何処やねん!」
意識が、戻った男...西谷は周りの視線など気にせずにそう叫ぶ...いや、そう叫ばざるおえなかった。
なぜならば、自身の死を感じ意識を手放した筈が戻って見れば見たこともない景色に放り出されていたのだ。
しかも、竜や獣人など日本に...いや、世界中どこを見渡しても存在しないものを見てしまった。
性格的に奔放であり、細かい事はあまり気にしないさしもの彼も驚愕せずにはいられなかった。
だが、今まで生きてきた知恵か、その生き様を支えてきた心情故か、彼はこの状況を飲み込んだ。
「あー!考えてもしゃーないわ!ここはどうやら日本やあらへん。この世でもなさそうや。あの世かもしれんし違うかも知れんけど、要は身体があって動けるっちゅう事は生きてるっちゅうこっちゃ。なら、なんも変わらん。思いっきり楽しんで、思いっきり暴れたる。ワシの第二の人生スタートや!」
たった今楽しむ決心をした西谷は手始めに目の前にあるリンゴ?をうっている屋台の八百屋?の店主に話しかける。
「おう、おっちゃん!騒がしてえろうすまんかったのう!ところで、これ使えるか?」
「いや、なんだよあんた...よく分かれねぇが大丈夫なんだな?...で、なんだそりゃ?それがなんなのかわからねぇがそいつは使えねぇな。」
「さよか...まぁ、ええわ。おおきにな、おっちゃん!」
西谷に目をパチクリさせながらも、律儀に答えた店主に少し落胆しながらも笑顔で礼を言えば、後にする。
「この札束、使えんのかいなぁ...どないしよ〜、どっか強盗するか...」
街を色々歩きながらも、これといったものも見つからず、文字も読めず、少し疲れてきたため路地裏で一服しながら物騒な事を考えていた。
そんな西谷に歩み寄る人影が三つ、何やら緊張した面持ちで、しかし、薄汚い身なりといかにもチンピラ臭のする出で立ちだ。
「おい...本当にあのおっさん襲うのかよ...デケェし強そうだぞ...?」
「なに、こっちは三人も居るんだし、得物だって持ってんだ負けやしねぇよ。」
「そ、それもそうだな...じゃあ、行くぞ...?」
そう、三人が決心を固めていると西谷も三人の存在に気付き、尚且つ敵意までも見抜いた上で近づく。
「おう!兄ちゃんら!悪いんやけど、有り金全部置いてってくれるか?」
西谷の問いかけにより、世にも珍しい事件が勃発。ナイフを持った三人に素手の男がカツアゲする事案の発生だ。
「て、てめぇ!調子に乗ってんじゃねぇぞ!このナイフが見えねぇってか!?あぁ!?」
西谷の問いかけに対してチンピラらしい反応で返すナイフを持った男たち。
「なんや、やるっちゅうんやな?ええで!ウォーミングアップくらいにはなるやろ!いくでぇぇぇ!!」
そう叫ぶと西谷は持ち前の変態的な素早さでもって一気に三人との距離を詰めフックを一発かます。
次に、ハイキックでもう一人の側頭部を蹴ると、最後の一人を掴んで引き倒す。
たった数秒で三人を戦闘不能に持ち込めば、ギリギリ意識のある男を締め上げる。
「なんや、弱すぎるやろ。まぁ、ええわ。はよ、金出さんかい?」
「か、勘弁してください。お金持ってないんです...」
「なんや...無一文かい...どないしよ...あ痛ぁ!」
「ちょっとどいたどい...痛ってぇぇぇ!!」
西谷がチンピラの一人を締め上げてるとどっからとも無く走ってきた人影に頭からぶつかってしまう。
「おー、痛ぁ...なんやねん嬢ちゃん。こいつらの仲間かなんかか?」
未だ頭を抱えもんどりうってる少女に、頭をさすりながら問いかける西谷。
少女はセミロングの金髪に、悪戯っぽい八重歯をのぞかせ、顔は可愛らしく、年の頃は10代前半だろうか。
「仲間なわけねぇだろ!馬鹿野郎、どけって言ったじゃねぇか!痛ってぇ...どんな石頭してんだおっさん!」
しばらくして、回復した少女は涙目で睨みつけながら、口悪く西谷に文句を言う。
「お前からぶつかってきよったんやないか!先ずは謝らんかいボケェ!」
それに対して、少しカチンときたのか強面の顔でそう凄んで言い返せば少女は少し竦む。
「わ、悪かったよ!これでいいだろ!アタシ急いでんだ!じゃあな!それと、あいつら逃げたぞ。いいのか?」
一言だけ謝れば、早口にそうまくし立て、切羽詰まった様子で西谷にチンピラが逃げた事だけ伝えれば去って行った。
「しゃーないの、許したる。あ...ほんまや逃げてもうた...」
少女の言葉を聞き振り返ると、すでに路地裏から逃げており、西谷だけが取り残された。
「痛っ...なんや、切れてるやないか...なんかついてないのぉ...」
先程少女とぶつかった拍子にチンピラの持っていたナイフで切ったのか手の甲から血が滴っていた。
「あの、貴方大丈夫?怪我してるみたいだけど...それより、盗んだもの返して?」
路地裏にまた訪問者が現れる。今度は、銀髪を腰まで伸ばし、気品溢れる佇まいと、美しさと可憐さが同居した顔つきだが幼さも多少残っており、西谷風に言えば、後数年したらえらいべっぴんさん、そんな少女だった。
「あ?おう、このぐらいどうって事ないで!ツバつけとけば治るわ。それとワシぁなんも盗んだりしとらん。」
「...そう...では、私は行くわ。...と、言いたいところだけど...犯人扱いして、しかも怪我を放っておくなんて出来ない。治療するから犯人扱いした事は無しにして。」
随分と回りくどい言い方をしているが、要は怪我人を放っておく事など出来ないのだろう。
「いや、なんや知らんけどワシは大丈夫やって...」
「動かないで!」
少女が両掌を西谷の傷口に向け、手が淡く光ると傷口が暖かく包まれいつのまにか塞がっていた。
「おぉ!?すごいやないか!魔法っちゅうやつか!」
「え?え、ええ...そうだけど...ってそんな事より、私は急いでるから行くわね?」
西谷の傷を魔法で治した少女は、西谷の圧に少し引き気味で答えれば急いでいるといい去ろうとする。
「おっと、嬢ちゃん!ちょぉ待ちぃな!」
「...なに?傷は治したわ。これ以上、貴方にしてあげられる事なんてなにも無いのだけれど...」
そう、つっけんどんに答えながらも、しっかりと足を止めて何も出来ないと答えるあたりお人好しである。
「嬢ちゃんなんや知らんけど、大切なもん盗まれたんやろ?傷のお礼や!ワシがそれ探すの手伝うたる!」
初の小説ですので、どうか生暖かい目で見てください。