ウルトラマン ビリーヴ   作:一刀菜耀

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初登校です。すいません初投稿です。
長年温めていたものを形にしようかと一念発起しました。
優しい瞳で見つめてください。ウルトラマンの方々は銀色の瞳で見つめてください。

できる限り楽しんでいただけるように頑張ります。



第一章 NO.0

小さいころからウルトラマンが好きだった。人間では太刀打ちできない強大な敵に果敢に立ち向かう姿は、あの頃の僕にいつも勇気をくれた。

 

特に印象深いのは「ウルトラマンネクサス」だ。話を全て覚えているか、と言われたら微妙だが、初めてウルトラマンを知ったのがネクサスであり、そのうえ別作品と一線を画した設定・デザインだったためか、これ以降の作品や昭和の作品を観た今でも最高のウルトラマンはネクサスだと思っている。

 

そんな一端のウルトラマンファンとしてもう22歳。18年近いキャリアを積んできたことになる僕はあの大手トイメーカー「バンダイ」に就職することができた。ウルトラマンに少しでも貢献できるよう精いっぱい頑張りたいと思う。

 

真新しいスーツをきっちり着こなした自分が鏡の中からこちらを見ている。自然と口元に笑みが浮かぶのがわかる。新しい挑戦が始まるってことを考えるだけで心が躍る。日の光さえいつもより優しく感じる。ああ。この感動を叫んでしまいたいくらいだ。…おっと、いけない。出勤の準備をしなければ。

 

時計を見ると鏡の前に立ってから10分近く経っている。淹れたてで熱かったコーヒーは丁度いい温度になっていた。猫舌の僕はずずずとコーヒーをすすりながら、天気予報だけでも見ておこうとテレビをつけた。

 

「n在、東京湾沿岸に超巨大未確認飛行物体が確認されています。周辺住民の皆様は自治体の避難勧告に従い、安全な場所に速やかに避難してください。繰り返しお知らせ…」

 

 …………意味がわからなかった。コーヒーを床にこぼさなかっただけでも評価に値すると思う。

 

何が起こっているのか。自分はまだ夢の中にいるのではないか。明晰夢、というやつだろうか。それとも新手のドッキリか?

 

そうだったら仕掛け人は人選に失敗したようだ。テレビに映っているのは、色は銀色だが、間違いなくペダニウムランチャーを搭載した「キングジョー」の分離した飛行形態だったのだから。ファンとして見間違えるわけがない。

 

だが、そんなドッキリをわざわざただの新卒にかけてくるなんてありえない。やはりどこかの放送局の企画だろう。

 

「朝っぱらから何やってんだ。しかも平日に…」

 

 …またまたおかしい。どのチャンネルにしても同じニュースだ。まさか本気で僕にドッキリを仕掛けてきてるのか?

 

テレビリモコンを置き、スマートフォンを手に取る。SNSに出ていなければドッキリ決定……だ……。

 

出てる。ばっちり出てる。誰もが話題にしてる。やはりキングジョーだと気付いた人が大勢いるようだ。トレンドはキングジョー一色だ。どうやらドッキリじゃなく現実らしい。

 

「一体どういう…」

 

 僕が訝しむ声を上げると同時にテレビ内でも声が上がった。いつもは落ち着きのある声で淡々とニュースを読み上げるアナウンサーも今回ばかりは声が上ずっている。

 

「たった今現場に動きがあった模様です。東京湾沿岸に現れた未確認飛行物体は移動を開始したとのことです。あ、繋げる?現場から中継です」

 

映像が出る。なんてことだ。動いてる。あのキングジョーが。キングジョーが。飛んでる!

 

恐怖はなかった。いや、無いと言うと嘘になる。ただ、ほとんどなかった。あったのはただただ驚きだけだった。

 

だが驚いて惚けている時間はそうなかった。銀色のキングジョーはほんの数秒で僕の住んでいるマンション付近まで飛んできたからだ。それだけならまだよかったのだが、運の悪いことに飛んできただけでは終わらず、マンションまで800mあたりに着地してきた。その上銃口をこのマンションに向けてくるサービス付き。

 

テレビはもういらない。部屋から出て自分の目で見てみなくては。

 

電源を切ろうとリモコンに手を伸ばしたそのときだった。

 

「キュイイイイイイイイイン…」とモーターの駆動音のようなものが聞こえたと思うと  「ドゥ!」とテレビの中のキングジョーの右腕のペダニウムランチャーが光を放ち、部屋の外、上階から同時に崩落音が聞こえてきた。

 

撃ったのだ。撃たれたのだ。

 

まずい。そう思い何も持たず部屋を飛び出したのと、視界が真っ白に光で塗りつぶされるのはほぼ同時だった。

 

☆☆★

 

「……ッ!」

 

 これまで生きてきた中で最も速く瞼を開けた。と思うくらいには素早い覚醒だった。

 

起き上がって部屋を見回すが、異常は見られない。布団を出てテレビをつけるが、どこも同じような殺人や議員の汚職、不倫問題についてを頭が固そうなコメンテーターたちが語っている。

 

「…………久々にリアルな夢だったな」

 

ほっとした。ため息をつきながらテレビを消した。

 

いくらなんでもキングジョーが現実に現れるはずがないんだ。しかも銀色。そんなキングジョーは存在しない。明らかに夢だとわかるじゃないか。馬鹿か。

 

まだ朝の6時だ。出社までは時間がある。少し落ち着こう。顔を洗って…コーヒーでも飲めば頭も起きるだろう。

 

だが、どんなにしても銀色のキングジョーが頭から離れない。商品化したい、と以前なら嬉々として構想を練っただろうが、なぜか今はそんな気分ではなかった。

 

僕は結局予定より早く家を出た。

 

☆☆★

 

ビルが反射する光がまぶしい。今日は夏日らしく、シャツが汗で肌に張り付き気持ち悪い。自然と視線が下がるのがわかって、無理矢理顔を上げる。目に飛び込んでくるビル群。だが、今の僕にはそれがすべてあのキングジョーに見えて、また視線を下げてしまう。最悪な1日になりそうだ。

 

そろそろ本社だ。厩橋を渡る前で背筋を伸ばす。こんな陰気じゃ失礼だ。

 

「よし!」

 

 気合を入れて声を出す。準備は整った。さあ、『バシャーーン!』

 

右手側の川が隆起し水か降ってくる。そして大きな影が思考と視界を遮った。

 

水の壁が取り払われると、そこにいたのは…ベムラーだった。間違いない。

ウルトラマン最初の敵。ウルトラマンのきっかけとなった怪獣。まごうことなきベムラーだった。

 

まだ夢を見ているのではないか。そんな疑問は、撥ねた水滴の感触、ベムラーがあげた叫び声にかき消された。

 

それまではただ何が起きているのかわからないような顔をしていた周囲の人も一斉に叫びながら散りだした。

 

だがそんな人々を気にかけず、ベムラーは口を開く。喉の奥に青い光が見えた。

 

「まずっ…!」

 

 熱線発射の予備動作。理解した瞬間身体が動いた。橋のたもとの方へと横に跳ぶ。その一瞬後にもともと自分の立っていた場所を熱線が通り過ぎていった。

 

勢いをそのままに地面に転がった僕はすぐさま立ち上がると、もと来た道を全力で駆け出した。なぜかあいつが自分を狙っていると感じた。

 

なんでだなんでだなんでだなんでだ。

 

足を止めずに振り返ると、こちらをむいたベムラーが次の熱線を準備しているところだった。こちらに向けられたら、歩道の幅程度きれいに熱線は舐めとっていくだろう。もう無理か。そんなわけあるか!

 

道の端の店舗のドアを体当たりするように開けて中に入る。直後、熱線が歩道を焦土と変えた。

 

どうする!?どうする!?建物の中でも意味はない。裸がシャツ1枚装備状態に変わったレベルだろう。クソッ!

 

無人となっていた店内を突っ切り、裏口を探す。案外わかりやすい裏口から外へ出た。

はずだった。

 

転がるようにして出た先は日が照り付けじわじわと暑かった。

 

「なんっ」

 

 目が慣れると、そこはどこかのビルの屋上だった。ヘリポートの上。そして僕の脇に誰かが立っている。想定外に想定外が重なりもう頭がパンクしそうだ。

 

「そうか。君は愚かだ。だが、その在り方は素晴らしいものだ」

 

 脇の誰かがつぶやいた。どういうことだ…?僕は意を決してその誰か―男に問いかけた。

 

「あんたいったい誰だ…?」

 

初対面には敬語がマナーだが、構ってはいられない。おそらくこいつは何か知ってる。

 

「ウルトラマン」

 

その男は言った。

 

「は?」

 

訳が分からなかった。何を言ってるんだこいつは。

 

「おいなに言ってん…」

 

僕の言葉は男の眼下を指さす動きによってないものとされた。

 

ゆっくりと男の指さす方向に目をやって、僕はこの先の人生でこれ以上は味わわないであろう衝撃を受けた。

 

「嘘……だろ……?」

 

視界に飛び込んできたのは、厩橋を挟んで立つベムラーと光の巨人。

 

そうそれは…

 

 

 

『ウルトラマン』だった。

 

 

 




ご意見、ご感想お待ちしております。
もっとも、まだ何も始まってないんですがね…。

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