遊戯王 Replica   作:レルクス

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二十五話

 合宿から帰って来た誠一郎たち。

 それぞれ、思うところがあったり、何か知らダメージがあったり(刹那)、いろいろ思うデュエル合宿だっただろうが、それでも充実していたことは間違いないだろう。

 

「……うそでしょ。すごいじゃん。これ」

 

 合宿終了後、天音は高揚感に浸っていた。

 

 合宿に行く前にも、誠一郎と関わり、そうして彼を取り巻くインフレした環境に身を置いた。

 もちろん、彼女に持実力はあるし、何より努力も積み重ねている。

 

 合宿のために無理矢理スケジュールを開けた彼女だが、そこから帰って来た彼女の実力は圧倒的だ。

 デッキを急遽変更したということもあって、デッキその物に対する知識や知恵が不足していた部分があった天音。

 だが、今の彼女はそれを理解している。

 彼女のデュエルはエンターテインメント要素が求められる場所が多い。

 

 彼女は歌って踊れるが、エンターテインメント的な要素はそちらに極振りしており、デュエルにおいては圧倒することでごまかしていた。

 挑んでくるデュエリストの実力が高くなってきたこともあるにはあるだろう。

 それ故に、彼女には余裕が足りなくなってきていた。

 

 だが、誠一郎から与えらえたオーディナルモンスターに加えて、本来彼女が持つ努力に対する姿勢。

 結果的に、『エンターテインメント要素のあるデュエル』の余裕ができるようになっていた。

 

「最近だと、必要経費のためじゃなくて、演出のためにダメージを負うことも多くなってきた」

 

 圧倒的。と言うのは引かれるものだが、アイドルとしてはイメージ的によくはない。

 さらに言えば、相手にも見せ場を作ることが求められることもある。

 決して舐めているわけではない。

 それをしたときにどんなひどい目にあうのかを知っている。

 

 だが、それでもである。

 

 合宿で得た力は、彼女にとっては大きなものだったのだ。

 

 そう。

 彼女は、『満足』してしまっているのである。

 

「あれ?フォルテだ」

 

 天音は現在休憩中だ。

 オフではない。というより……スタミナだけで言えば誠一郎を凌駕する天音に休日など不要なのだ。給料がインフレする理由はこんなところにある。

 当然、トップアイドルである彼女は変装中。

 スーパーの中に入っていくフォルテが見えたのだ。

 

「一体何を買いに入ったんだろ」

 

 自分でつぶやいておいて、食料品以外を買うためにスーパーに入るだろうかと思いなおす天音。

 ただ、気になるのだ。

 フォルテは、『誠一郎様の方が料理もできる』と言っていたし、どちらかと言うと彩里が料理をしているイメージがあった。

 買いだしはフォルテなのだろうか。

 

(ちょっと見てみよっと)

 

 フォルテが何を買っているのか見てみることにした。

 ほぼ銀に近い金髪であるフォルテは目立つ。

 スーパーに入るとすぐに発見出来た。

 

(……カレー粉とお茶漬け?)

 

 籠の中に放り込むフォルテに迷いはない。

 

(……ケチャップとマヨネーズとサラダ油とアボカド?あとポテトチップス)

 

 ちなみにポテトチップスは『ゲイボルグニール味』と書かれていた。

 どんな味だ。ていうかなんで混ぜた。

 

(……なんていうか、何かを買いに来たって言うより、『在庫補充』って感じね。ポテチはちょっと意味わからないけど)

 

 流石の天音もよく分からないものに手は出さない。

 ゲテモノはそもそも無理。

 と言うより、普段から高いものを普通に食べているのだ。収入を舐めてはいけない。

 

 なんだかんだ言って、普通ならカートを使うであろう重量になっているのだが、フォルテは気にしない。

 腕力が人間をやめているフォルテにとってこの程度は朝飯前だ。今は午後六時だが。

 

 会計を済ませて出てきたフォルテ。

 

(さすがにまっすぐ帰るわよね……)

「先ほどからどうしたのですか?天音」

「え?」

 

 どうやら、普通に気がついていたようだ。

 

「あー……今は休憩時間なんだけど、スーパーに入って行くフォルテが見えたから、ちょっと気になってね」

「そうですか。ただ、私はよくこのスーパーに来ますよ」

「誠一郎の収入もすごいんだし、もっと高いものを食べてると思ってたけど……」

「基本的に家では普通のものを食べますよ。外では値段を気にしませんが」

 

 男前である。

 

「それはそれとして……テレビで見ていますよ。あなたのデュエル」

「あ、そうなんだ」

 

 見せるデュエルができるほど強くなった。

 それがフォルテに伝わっていると、天音は思った。

 

「今のままだと、確かに負けることはほとんどありませんが、いつか負けますよ」

「え?」

 

 褒められると思っていた。

 認められたと思っていた。

 だが、フォルテから言われたのはそうではなかった。

 

「……私が弱いってこと?」

「弱くはありません。向上心が無いわけではありません。ただし、満足している。納得している。それが悪いということですよ」

「満足……」

「デュエリストは、四十枚のデッキの中に数々の経験や信念を詰め込み、それを魂とします。魂を磨き上げることを止めたデュエリストは、強くなれませんよ」

「!」

 

 デッキはデュエリストの魂。

 それはある意味、デュエリストであるならば当然。

 改造だとかいろいろ言うが、その作業は『魂を磨く』ということ。

 

「ただし、カードが変わっているかどうか、という判断をするわけではありません。今を客観的に見ることも必要です」

 

 別に、カードが変わっていないからと言って成長していないというつもりは毛頭ない。

 コピーデッキを使う場合を除いて、毎日毎日使うカードが変わるなどと言うことになれば、それはそれで必死過ぎて笑えない状況だ。

 

「ただし……自分より弱いと思ったデュエリストに対して余裕を持つために、あの合宿があったわけではありませんよ」

「……!」

 

 天音はギリッと歯を鳴らす。

 

 見ると、いつの間にか、フォルテはデュエルディスクを構えていた。

 

「あとはデュエルで語るってこと?」

「デュエリストですからね。口で言うことはほぼ全て言いましたから」

 

 それを聞いて、天音もデュエルディスクを構える。

 そして、お互いのカードを五枚引いた。

 

「「デュエル!」」

 

 天音   LP4000

 フォルテ LP4000

 

「私の先攻」

 

 先攻は天音。

 

「私は手札から永続魔法『シュプレヒコール・アドミッション』を発動。発動時の処理として、このカードの効果で、デッキから『シュプレヒコール』モンスター二体を特殊召喚できる。手札の『シュプレヒコール・ヒーラー』と『シュプレヒコール・ヒーロー』を特殊召喚!」

 

 シュプレヒコール・ヒーラー ATK1500 ☆4

 シュプレヒコール・ヒーロー ATK1500 ☆4

 

 出現する悪役と英雄。

 

「ヒーロー以外のシュプレヒコールモンスターの効果をターン終了時まで無効にして、効果発動。次の私のターンのスタンバイフェイズまで、シュプレヒコールモンスターは効果では破壊されない」

 

 

 シュプレヒコール・ヒーロー

 レベル4 ATK1500 DFE1000 風属性 悪魔族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにいる、このカード以外の「シュプレヒコール」モンスター全ての効果をターン終了時まで無効にして発動する。自分フィールドの「シュプレヒコール」モンスターは全て、次の自分のスタンバイフェイズまで、戦闘では破壊されない。

 

 

「私はカードを一枚セットして、ターンエンド!」

「私のターン。ドロー」

 

 フォルテはドローしたカードを見て、戦術を決めた。

 

「私は手札から『魔光技術・プロトタイプサモン』を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから『魔光騎士』モンスターを特殊召喚することができます」

「む……」

「私はデッキから、『魔光騎士ソニック』を特殊召喚します。そして、このモンスターは召喚、特殊召喚成功時、デッキから『魔光具』装備魔法一枚を手札に加えることができる。私は『魔光具・ジュエルエンジン』を手札に加えます」

 

 魔光騎士ソニック ATK1500 ☆4

 

「そして、自分フィールドに魔光騎士が存在するとき、手札のこのモンスターは特殊召喚できます。『魔光騎士パワード』!」

 

 魔光騎士パワード ATK1800 ☆4

 

「パワードは、手札一枚を捨てることで、デッキから『魔光具』を手札に加えることができます。手札一枚をコストに、デッキから『魔光具・ピアースリボルバー』を手札に」

 

 次々と展開するフォルテ。

 だが、まだ終わらない。

 

「私は『魔光技術・パワーキューブ』を発動。魔光騎士オーディナルモンスターを墓地から除外して、デッキからレベル2の魔光騎士を特殊召喚します。私は墓地の『魔光騎士インベーダー』を除外して、デッキからこの二体を特殊召喚」

 

 魔光騎士コントロール ATK700 ☆2

 魔光騎士ターゲット  ATK600 ☆2

 

「オーディナルモンスターをコストに……」

「別に珍しいわけではありませんよ。私はコントロールの効果でカードを一枚ドロー。ターゲットの効果で、デッキから『魔光具・カオスブラスター』を手札に加えます」

 

 手札が減らない。

 

「そして、インベーダーの効果。このモンスターが除外された場合、デッキからレベル7か8の魔光騎士オーディナルモンスター一体を手札に加えることができます」

 

 

 魔光騎士ペンタゴン

 レベル5 ATK2000 DFE1200 光属性 機械族

 オーディナル・効果

 光属性×2

 ①:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。ターン終了時まで、攻撃力を500ポイントアップする。

 ②:このモンスターが除外された場合に発動できる。デッキからレベル7・8の魔光騎士オーディナルモンスター一体を手札に加えることができる。

 『SP1』

 

 

「私はデッキから『魔光騎士デリートアクセプター』を手札に。そして、光属性、魔光騎士モンスターのコントロールとターゲットをシンボルリリース!」

 

 二体のモンスターがシンボルに代わる。

 

「光を綴る遂行者よ。消去されし過去を求め、姿を現せ!オーディナル召喚!レベル8『魔光騎士デリートアクセプター』!」

 

 魔光騎士デリートアクセプター ATK3000 ☆8

 フォルテ SP0→2

 

「な……こ、ここまで……」

「二体のモンスターの召喚に効果破壊耐性。たしかに、悪いものではないでしょう。ですが……それはただの油断です。私は手札から、ジュエルエンジン。ピアースリボルバー。カオスブラスター。三つの装備魔法を発動します」

 

 魔光騎士デリートアクセプター ATK3000→3500→3800

 

「カオスブラスターは、攻撃を上げないの?」

「その通り。効果はいずれわかります。私はデリートアクセプターのモンスター効果を発動。SPを二つ使うことで、自分フィールドの、レベル4以下の魔光騎士モンスター二体を、このカードを装備カードとします」

 

 フォルテ SP2→0

 

 ソニックとパワードが装備魔法に代わる。

 

「そして、デリートアクセプターは、自らが装備する魔光具の数で追加効果を得ます」

「え……」

「一つ以上で相手の効果では破壊されなくなり、三つ以上で全体攻撃効果。五つあれば、このモンスターと、このモンスターが装備しているカードは、効果に対する完全耐性を得ます」

「な!?」

 

 

 魔光騎士デリートアクセプター

 レベル7 ATK3000 DFE1800 光属性 機械族

 オーディナル・効果

 光属性×2 魔光騎士

 ①:一ターンに一度、SPを二つ消費し、自分フィールドのレベル4以下の「魔光騎士」モンスター二体を対象にして発動できる。そのモンスターを装備する。

 ②:このカードは、このカードが装備している装備魔法の数により、以下の効果を得る。

  ●一枚以上:このカードは相手の効果では破壊されない。

  ●三枚以上:このモンスターは、相手モンスターすべてに攻撃できる。

  ●五つ以上:このカード及び、このカードが装備しているカードは、相手のカードの効果を受けない。

 

 

「バトル。デリートアクセプターで、二人に攻撃」

 

 二人の役者はいとも簡単に破壊される。

 

 天音 LP4000→1700→0

 

「……負けた」

「本来ならここまではしませんよ。ただ、思っていたのではないですか?あの合宿にいた私たちが、自分と変わらない成長しかしていないと」

「!」

「私が見た限り、一番成長していなかったのはあなたでしたよ。これからは、もっと強くなるために努力したほうが身のためです」

 

 そういうと、フォルテは買い物袋を持って帰って行った。

 

 ★

 

 近くのビルの屋上。

 

「慢心か……昔の自分にでも重ねたか?フォルテ」

 

 誠一郎は、微笑みながらそうつぶやいた。


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