寮が存在するが、それでも自宅から通うことができる利点の一つに、『時間を必要以上に拘束されない』というものがある。
イーストセントラルはそのあたりのルールは緩いようで、門限が存在しないようだ。
授業までに来ていれば問題ないと言っているようなものなのだ。明らかにいろいろとおかしい。
まあ、約一万人もの人間が泊まることができるように、超巨大ビルが六つあるくらいだからな。
ちなみに全自動システムだ。人を雇っていたら管理など話にならない。
寮の利用費もそこそこあるのだが、奨学金制度が充実している(スポンサーが多いとも言う)のがデュエルスクールの特徴でもある。
とはいえ、文字通りのバカげた規模になっている理由は、ここが東とはいえ、中心に位置する学校だからだ。
寮は大きいが、その点、VIPルームなど作れないので全員が同じだ。
それを我慢できない一部の傲慢たちは学校周辺に家を持っていることもある。
近くにあった家を一括購入した誠一郎も、一応、家では比較的自由である。
「ふあ~……ん。刹那。もう起きてたのか」
テレビを見ていた少女のポニテがピクッと震えた。
そして、こちらを見る。
ダークシルバーの髪をポニーテールにしており、マフラーで口元を隠した少女だった。
身長も低く、胸も年不相応に大きい。
中等部二年。
誠一郎の二つ下の妹である。
「お兄ちゃん。おはよう」
「おはよう。何見てたんだ?」
「デュエルリーグの試合」
「ほう……誰と誰だ?」
「どっちも火野家。あ。今決着ついた」
オルトロスが見えたから何となく予想はしていたがな。
その時、リビングの扉が開いてフォルテが入ってきた。
「おはようございます。誠一郎様。刹那様」
「フォルテさん。おはよう」
「おはよう。フォルテ」
フォルテも来たので、朝食も済ませて、その後、学校に向かった。
フォルテは相変わらず二人分の荷物を持っており、刹那は持っていない。
いや、小さめのデュエルディスクを持っているが、それ以外はロッカーに預けているのだ。
「刹那。最近はどうだ?」
「デュエルの実技は今のところ負けてない!」
長い袖が若干余っているが、その状態でガッツポーズしている。
「そうか」
「お兄ちゃんは?」
質問した刹那に、誠一郎は首をかしげる。
「言っていなかったか?」
「言っていませんよ。誠一郎様は、編入試験と筆記試験に合格した後、『実技単位取得試験』を受け、合格されていますから、実技においてデュエルをする必要はないのです」
「俺の実力を学校側は知っているって訳だ。だから、学校ではデュエルをする必要はない」
デュエルスクールなのに学校内でデュエルをする必要がないというのも妙な話だが、事実なのだ。
「それって難易度高い?」
「今の刹那とフォルテでは無理だな」
「お兄ちゃんは、合格するの、苦労した?」
「いや、ぶっちゃけそんなに」
誠一郎は即答した。
刹那は頷いた。
「ん。納得した」
それでいい。
「着きましたよ」
丁度ついたようだ。
まあ、近い場所に家を買ったのだから、それも当然といえば当然である。
「それじゃあ、私はこっちだから」
「おう。また後で」
刹那は中等部二年の校舎に走って行った。
「……思うんだけどさ。校舎多すぎじゃね?」
「仕方がないでしょう。単位制ではありますが、クラス制度を採用しており、さらに、生徒数が多すぎますから」
すごいくらいの移動手段の数が存在するし、移動教室だってあるのだ。明らかにいろいろおかしい。
「まあいいか。俺達も行こう」
「そうですね」
時間に余裕はあるが、それでも、ゆっくりしすぎる理由もない。
教室に行って、普通に過ごすだけである。
★
昼休みの時間の使い方は人それぞれだ。
いや、どんな時間であったとしても、その使い方は個人に寄るというのが普通だろう。
そうでないと言う人達に関しては、君らを支配する環境が悪いとしか言えない。
誠一郎は、基本的には寝ているか、本を読んでいる。
因みに、その読んでいる本も鞄に入れている私物だが、それはこの際置いておこう。
それはともかく、あまり周りには関与しない過ごし方をするタイプとも取れなくはない。
そのため、いつも誠一郎とそばにいるフォルテも、本当の意味でいつも一緒にいる訳ではないのだ。
「フォルテ。いつもあの遊霧と一緒にいるけど、どういう関係なの?」
さらに言えば、顔立ちも整っており、さらには性格も悪くはなく、さらに言えば持ってきている弁当も手作りで美味いとなれば、昼休みに友達と一緒にいることは多くなる。
移動だけでもすごく時間のかかる学校なので、たっぷりと時間が設けられており、さらには昼食をとる時間でもある昼休みは、学生たちにとって貴重だ。
とはいえ、昼休みに時間がたくさんあるというより、掃除が機械洗浄により自動化され、その掃除の時間が昼休みに追加されただけなので、授業終了時間が普通科高校と異なるわけでもないのだが。
「そうですね……簡単に言えば、主人とその従者。と言った関係です」
赤髪ツインテールでクラスメイトの女子生徒、
別に嘘をつくような関係ではない。
さらに言えば、カフェで話しても普通の話題だ……そう思っているのはフォルテだけかもしれないが。
「へぇ……メイドみたいな感じ?」
「そうですね」
実際問題、フォルテは家事を引き受けている。
誠一郎は自分でもできる(正しくは誠一郎の方ができる)のだが、フォルテからやると言いだしたので、ずっとこの関係だ。
「そういえば、遊霧ってフォルテに荷物を持たせてるけど、何も思わないの?」
「私から言いだしたことですから。それに、腕力と握力に関しては私の方が上ですよ」
「……そうなの?」
「これでも握力は92キロありますから」
「ブフッ!」
聖が口に含んでいた缶コーヒーを吹きだした。
「きゅ……92キロって」
「リンゴくらいなら普通につぶせますね」
そう言ってからからと笑うフォルテ。
聖は思う。『手遅れだわ。これ』と。
「まあいいわ。なんかこれ以上考えても無駄な気がしてきた」
ごもっともである。
そして、次の話題に移った。
「……思ったんだけど、遊霧ってデュエルしてるところ見たことないけど、いつデュエルしてるの?」
「すでに試験を受けて単位を取得していますから、デュエルする必要はないのですよ」
「……羨ましいって言うか、アイツって雰囲気通りの化け物なのね。って、普段からデュエルしてないの?」
「しているところを見たことは当然ありますが、強いですよ。本当に」
聖は唖然としている。
「ど、どれくらい?」
「そうですね。もし私たちが最強を目指しているとすれば、ラスボスでしょうね。どのような大会を優勝したとしても、誠一郎様に勝てなければ意味はありません」
「ふーむ……フォルテは勝ったことはないの?」
「ダメージを与えたことがありません」
「……それもそれでおかしくない?」
「そうなんですよね……」
フォルテはデュエルしている誠一郎を思いだし、何とも言え無い表情になる。
「一度、デュエルしてもらえるように頼んでみよっか」
「一応聞いておきますが、聖さんのランキングは……」
「エリアDよ」
ランキング。と呼ばれるものが存在している。
スコアを積み上げていき、それによってランキングを上げていく方式だ。
ちなみに、一万人弱いるので同じポイントの生徒もそこそこいるが、それはそれとして。
一万人弱いるイーストセントラルだが、
一位から十位 エリアS 1~ 10位
上位 1% エリアA 11~ 96位
上位 5% エリアB 97~ 480位
上位10% エリアC 481~ 960位
上位25% エリアD 961~2400位
上位50% エリアE 2401~4800位
上位51%以下 エリアF 4801~9600位
と言った感じでいろいろと『エリア』が分かれている。
ちなみに、昨日戦った火野正也はエリアFだ。
聖が言ったエリアDは、上位四分の一。
なるほど。確かにすごい。
「それでは……結果は私と同じですね」
「むぅ……フォルテのエリアは?」
「私はBですよ」
「編入してきたばかりでもうエリアB!?」
カフェでこの大声は少々まずかったかもしれないが、フォルテはそこまで気にしていなかった。
なお、刹那は中等部から入学して今に至るが、誠一郎とフォルテは高等部から編入してこの学校に来た。
そのため、ほとんど戦績はない。
「ですが、このスコアは下剋上も達成できるようにうまく作られていますよ。それに、編入組なので、少なくはないスコアを最初からもらえましたから」
「でもいくらなんでもやばいわよ。まだ編入してから三日目よ。あなた」
「そうですね」
とはいえ、誠一郎のそばにいれば、そうでもないような感覚になるのはなぜなのだろうか。
「なので、少々勝ちすぎてしまったようで、放課後にあまりランキングデュエルを受けてくれません」
「そりゃそうよ」
即答同意されてしまった。
「まあでも、一回、遊霧に挑んでみるのも面白いんじゃない?」
「それは否定しませんが、一人で挑むつもりなのですか?」
「うーん……まずはアイツの妹を誘いましょうか。って、妹のエリアは?」
「私と同じです」
「ちょっと化け物過ぎない?まずはその妹さんに一回挑んでからにしましょうか」
「では、放課後に呼んでみましょう」
ということで、電話で誠一郎には待ってもらうことにして、刹那にはOKをもらった。
★
「で、俺はぶらぶらしておいてくれ。ということか」
「私の刹那様のデッキはすでにご存じでしょう。ですが、聖さんのデッキを知らないという情報アドバンテージは私も欲しいところです」
「……君らの中でどんな話が進んでいるのか知らんが、それはそれでいいとしよう。どうせ話は長くなるだろうから、俺のデッキの改善点でも考えてるよ」
「そうしてもらえると助かります。それではまた」
フォルテはそう言うと、広場の方にあるデュエルコートの場所まで走って行った。
デュエルコートは数がすさまじく、各校舎の屋上や地下にも存在し、一度に膨大な数のデュエルを円滑に進めるために設けられている。
そこでは、いつも通り、マフラーで口元を隠した刹那と、活発な雰囲気を纏った聖がいた。
「さて、それでは始めましょうか。一応初めましてよね」
「うん。聖先輩と話すのは初めて」
「だよね。もしあってたら恥ずかしいところだったわ。今回のデュエルの目的は、三人であの遊霧を倒すため、まあ、こちらに有利な条件を吹っかけるけど、そのお互いのタクティクスの把握のためよ」
「うん。わかった」
刹那はコクリと頷いた。
聖も笑顔になる。
……とはいえ、自らの兄を倒すために協力するという言い分に快く答える刹那も刹那といえるだろう。
それほど、壁が高いのだ。
「それでは始めましょう」
フォルテが言うと、二人はディスクを構えた。
「「デュエル!」」
聖 LP4000
刹那 LP4000
「先攻は私からね」
「うん」
聖の先攻だ。
「私は手札から、『凍結恐竜ステゴ』を召喚!」
出現したのは、カチコチになったステゴサウルス。
凍結恐竜ステゴ ATK1400 ☆3
「と……凍結恐竜」
「そう、私のデッキは、水属性・恐竜族の凍結恐竜よ。ステゴの効果を発動。このモンスターの召喚に成功した時、デッキから『ブリザード・エッグ』を手札に加えることが出来る」
デッキから一枚出てきたので、聖はそれを手札に加えた。
凍結恐竜ステゴ
レベル3 ATK1300 DFE1000 水属性 恐竜族
①:このモンスターの召喚に成功した時、デッキから「ブリザード・エッグ」一枚を手札に加えることが出来る。
「ブリザード・エッグ。確か。永続罠だったはず」
「このカテゴリでは重要なカードよ。私はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」
刹那は頷いた後、ディスクを構える。
「私のターン。ドロー」
手札を見て、すぐにどうするかを決めた。
「私は手札から、『
出現したのは、赤い塗装で、機関銃を装備したジェット機だった。
MJガトリング ATK1800 ☆4
「ほうほう……機械族か。フォルテと一緒だね」
「機械族じゃない。こう見えて戦士族」
「……フォルテの魔光騎士は騎士なのに機械族で、刹那のMJはジェット機なのに戦士族なのね」
ごもっとも。
「このままバトル。MJガトリングで、凍結恐竜ステゴを攻撃!」
ガトリングが起動する。
「通さないよ。永続罠『ブリザード・エッグ』を発動。自分フィールドの『凍結恐竜』モンスターは、バトルフェイズ中、攻撃力が500ポイントアップする!」
凍結恐竜ステゴ ATK1400→1900
ブリザード・エッグ
永続罠
①:お互いのバトルフェイズ中、自分フィールドの「凍結恐竜」モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
②:一ターンに一度、手札のレベル4以下の「凍結恐竜」モンスター一体を特殊召喚することが出来る。
なかなか強力な効果と言えるだろう。
500ポイントとは言え、ノーコストで上げてくれるのだからバカにはできない。
「でも、バトルと言うのなら、MJは負けない。ガトリングの効果発動。このモンスターと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで元々の攻撃力になる」
MJガトリング
レベル4 ATK1800 DFE400 地属性 戦士族
①:このモンスターと戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで元々の攻撃力になる。
凍り付いた卵から発生するエネルギーが途絶えて、ステゴの攻撃力がもとに戻る。
凍結恐竜ステゴ ATK1900→1400
「マジで!?」
「撃ち抜け!」
ステゴが破壊された。
聖 LP4000→3600
「私はカードと二枚伏せて、ターンエンド」
「ふう、なんだかんだ言って奇襲性が強いのね。私のターン。ドロー!」
聖はブリザード・エッグを見る。
このカードがすでにフィールドにあるというのなら、怖いものはほとんどない。
……あくまでもほとんどだが。
「私はブリザード・エッグの効果発動!一ターンに一度、レベル4以下の凍結恐竜モンスターを手札から特殊召喚できる。私は『凍結恐竜プテラ』を特殊召喚!」
凍結恐竜プテラ ATK1200 ☆3
「プテラの効果を発動、このカードの特殊召喚に成功したとき、自分フィールドの『ブリザード・エッグ』一枚につき、カードを一枚ドローできる。私は一枚ドロー!」
凍結恐竜プテラ
レベル3 ATK1200 DFE1200 水属性 恐竜族
このカード名の①の効果は一ターンに一度しか発動できない。
①:このカードの特殊召喚に成功したとき、自分フィールドの「ブリザード・エッグ」一枚につき、カードを一枚ドローできる。
②:墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の墓地の「ブリザード・エッグ」一枚を選択して発動する。この効果は相手ターンでも使用できる。
「そして私は、フィールドに表側表示の『ブリザード・エッグ』が存在することで、魔法カード『凍結の化石』を発動。デッキから『凍結恐竜』モンスター一体を特殊召喚できる。『凍結恐竜アンキロ』を特殊召喚!」
凍結恐竜アンキロ ATK1000 ☆4
「アンキロの効果で、一ターンに一度、墓地、または除外されている『凍結恐竜』モンスター一体を手札に加えることができる。私は『凍結恐竜ステゴ』を手札に加える」
凍結恐竜アンキロ
レベル4 ATK1000 DFE1000 水属性 恐竜族
①:一ターンに一度、自分の墓地、または除外されている「凍結恐竜」モンスター一体を選択し、手札に加えることができる。
①:自分フィールドに「ブリザード・エッグ」が存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。相手モンスター一体の攻撃を無効にする。
「いくよ!私は水属性モンスターであるステゴとアンキロをシンボルリリース。今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させてあらわれろ!」
青のシンボルが二つ。
「オーディナル召喚!レベル7。『凍結恐竜ティラノ・エッジ』!」
出現したのは、氷の刃を持つティラノ!
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300 ☆7
聖 SP0→2
「オーディナル召喚……」
「これが私のエース!私はティラノ・エッジの効果発動!一ターンに一度、ターン終了時まで、相手モンスター一体のモンスター効果を無効にする!私のフィールドにブリザード・エッグが存在するとき、この効果に対して、相手はカードの効果を発動できない!まあ、このターンはあまり意味はないけどね」
凍結恐竜ティラノ・エッジ
レベル7 ATK2300 DFE2300 水属性 恐竜族
オーディナル・効果
水属性×2
①:一ターンに一度、相手の表側表示モンスター一体を対象にして発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの効果を無効にする。自分フィールドに表側表示の「ブリザード・エッグ」が存在する場合、相手はこの効果の発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。
『SP2』
MJガトリングに氷の刃が突き刺さる。
「これがエース」
「バトル!ティラノ・エッジで、MJガトリングを攻撃!ブリザード・エッグが存在することで、攻撃力が500ポイントアップ!」
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300→2800
ティラノ・エッジの刃がガトリングを切り裂いた。
刹那 LP4000→3000
(刹那様から1000ポイントのダメージを……いえ、わざと受けたようですね)
フォルテには狙いはわかっていた。
「よし!」
「よしじゃない。罠カード『モーメント・リサイクル』を発動。MJモンスターが戦闘、効果で破壊されたときに発動して、そのモンスターを特殊召喚する」
破壊されたが、それらが組み立てられて、再度登場した。
モーメント・リサイクル
通常罠
①:自分フィールドに表側表示で存在する「MJ」モンスターが戦闘・効果で破壊されたとき発動できる。破壊されたモンスター一体を特殊召喚する。
MJガトリング ATK1800 ☆4
「うそ……まあいいわ。バトルフェイズ終了とともに、ティラノ・エッジの攻撃力が元に戻る」
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2800→2300
「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
「うん。私のターン。ドロー。私のフィールドのMJモンスターである『MJガトリング』を対象にして、罠カード『モーメント・オブジェクション』を発動。同名モンスター一体をデッキから特殊召喚する」
モーメント・オブジェクション
通常罠
①:自分フィールドの「MJ」モンスター一体を対象にして発動できる。デッキから同名モンスター一体をを特殊召喚する。
「私はこの効果で、デッキから『MJガトリング』を特殊召喚する」
MJガトリング ATK1800 ☆4
「二体になった……」
「そっちがオーディナル召喚をするのなら、私もする。私は光属性のMJガトリング二体をシンボルリリース!竜の核を宿し、刹那を超えて飛翔せよ!」
戦闘機の先端に竜を模したパーツが組み込まれたモンスターが出現。
「オーディナル召喚!レベル7。『
MJギガドラゴン ATK2500 ☆7
刹那 SP0→2
「攻撃力2500……でも、バトルフェイズなら、私のティラノ・エッジのほうが攻撃力は上になる!」
聖の宣言とともに、ティラノ・エッジが咆える。
……なかなか空気を読めるモンスターだ。
さらに言えば、フォルテはプテラとアンキロの効果を知っている。
二体の効果を使えば、そもそも攻撃を無効にすることができる。
「無駄。SPを一つ使い、魔法カード『ゼロ・クライシス』を発動。フィールドのモンスター一体の攻撃力を0にする。私はティラノ・エッジの攻撃力を0にする」
刹那 SP2→1
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300→0
ゼロ・クライシス
通常魔法
①:SPを一つ消費し、モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にする。
「な、ゼロって……」
「そして、ギガドラゴンの効果発動。SPを一つ消費することで、相手フィールドの魔法、罠を二枚まで選択し、手札に戻す」
「そんな……」
刹那 SP1→0
悔しい表情で、聖は『ブリザード・エッグ』と、伏せていた『次元幽閉』を手札に戻した。
「バトル!MJギガドラゴンで、ティラノ・エッジを攻撃!ギガドラゴンがバトルするとき、そのダメージは二倍になる!」
MJギガドラゴン
レベル7 ATK2500 DFE2000 光属性 戦士族
オーディナル・効果
光属性×2
このカード名の②の効果は一ターンに一度しか発動できない。
①:このモンスターがモンスターとバトルするを場合、相手に与える戦闘ダメージは倍になる。
②:SPを一つ消費して発動できる。相手の魔法、罠を二枚まで選択し、手札に戻す。
『SP2』
「うそ……」
ギガドラゴンのブレスが、ティラノ・エッジを焼き尽くした。
聖 LP3600→0
倍のダメージ。
なかなか馬鹿にはできないもので、フォルテもこのモンスターには悩まされたものだ。
魔光具を使って能力を引き上げるタイプのデッキなので相性が悪いともいうが。
それはともかく、聖の敗北である。
「いたた……なんか一気にまけちゃったなぁ……遊霧ってこれ以上に強いんでしょ?」
「うん」
刹那は静かにうなずく。
「エリアDのなったから、強くなったと思ってたけど、まさか中等部に負けるとは……それに……」
聖は刹那のある場所を見る。
「……?」
自分の胸に視線を感じた刹那は首をかしげる。
そして、聖は自分の胸を見る。
まあ、別に、無いと言うわけではないが、ある。と表現できるものでもない。
絶妙な境界線といえるだろう。
それに比べて、この少女はどうだろう。
「……フィルテ。あんたのよりも大きいんじゃない?」
「……そうですね」
中等部二年に負けるとは……一体どうなっているのだろうか。
「うん。お兄ちゃんはいろいろなことを人に教えて、それをやらせるけど、豆、もしくは豆製品に関しては独自ルートから持ってくる」
「その巨乳は豆のおかげなの!?」
周りにいた女子生徒が反応する。
「え……でも、牛乳って……」
「牛乳はたんぱく質があるだけで、そのたんぱく質が全て胸に行くわけではない」
「ん?でも、きなこ牛乳は高評価って言うよね」
「きなこは大豆から作る」
ああ。なるほど~。
とでもいいたそうな表情をする聖。
「私はきなこと納豆が好きでよく食べていた」
「その結果。その胸があるのね……」
目算でGに達する胸。
はっきり言おうか。中等部二年としてはあまりにも大きい。
「その独自ルートって?」
「それは分からない。あと、お兄ちゃんは結構稼いでいるから、入手ルートもかなり豊富。想定不可能」
「え、稼いでるの?」
「うん」
コクリと頷く刹那。
聖はフォルテを見る。
「まあ、雰囲気通りの強さを持っていますからね」
「……まあいいわ。それにしても、マメかぁ……牛乳をバカみたいに飲んで母さんに生暖かい目で見られ続けていた私の苦労は一体……」
ご愁傷さま。
「それはそれとして、移動しませんか?」
「……それもそうね」
「うん」
デュエルコートから教室に移動した。
「さて、話を戻しましょう。誠一郎様を倒すために」
「そうね……」
「うん」
少女たちは話しあう。
その中で、ふと、聖がこんなことを言った。
「そう言えば、私たち以外にはいないの?アイツを倒したいって思ってる人」
「弟子が何人かいますから、狙っていると思いますよ」
「話すことはできないの?」
「いろいろな意味で忙しい。でも、そのうち会える」
刹那も言う。
「その弟子たちって刹那よりも強いの?」
「私と同じくらい」
それは……どういえばいいんだろうね。
「私よりも強いってことか……」
「それでも、そのうち会えますよ」
そんな感じで、三人の話は進んで行く。
★
「ふああ……フォルテがいないタイミングを狙ってくるとは……まあ、予想内ではあるが、それにしても、裏路地に入った瞬間に襲い掛かって来るとはなぁ」
イーストセントラルは校舎も多いうえに、カフェや雑貨店と言った店舗も周辺に存在する。
とはいえ、あらかじめ都市設計の図面を引いて決めているはずなのだが、意図的に裏路地が存在するのだ。
さらに言えば、デュエルと言うのは、実力が必要ではあるがエンターテインメントも兼ねている。
そのため、イーストセントラルを始め、多くのデュエルスクールでは金が動くことに反対する意見は少ない。推奨はしないが、学校側が取り締まることもないのだ。
よって、監視カメラが存在しない裏路地も存在するのである。
大体、クラブ、部活に入った時に上級生からポイントを教わるものである。
イーストセントラルでは、校舎内外、全てを含めると、その数は百を軽く超える。
「火野家……だな。一体何を考えているのやら」
誠一郎のそばで腕を組んで佇む赤の魔術師を従えて、五人のデュエリストを瞬殺した誠一郎。
「しかし、エリアFのデュエリストが五人。火野家はオルトロスの『人工開発』に成功しているから人数が増えても安定しているが、ここまで染まってるとはな」
虎の威を借りる狐、と言えばわかりやすいだろうか。
親の七光り、とでもいうのだろうか。
火野家は、その傾向が一番強い。
本家に関してはプライドはあるが、元ではあるが表世界で王者になったことがあるので、それを取り戻そうとしている。
「火野家……か、すでに隠居した爺さんがいるが、アイツ以外はたいしたことないな」
デュエルディスクをしまって、赤い魔術師を戻した。
「本来のイラストとは……いや、燃え上がっているからイラスト上の外見は同じだが、何か改変されているオルトロスのことを考えると……荒れるな。これは」
そうつぶやくと、誠一郎は歩きだした。