遊戯王 Replica   作:レルクス

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今回はデュエルはないです。


十七話

「あーあ、シルバーオフィス。ネットで叩かれまくってるぞ」

「そうなのか?界介」

 

 とある喫茶店。

 誠一郎は、金髪を短く切りそろえて、黒いスーツを着崩したようないでたちの少年、呉島界介(くれしまかいすけ)と話していた。

 

「当然だろ。まあ、原因の八割はお前だけどな」

「ほう」

「お前があのアリーナのデュエルで負けたからな。それが一部の人間にとっては衝撃的だったが、ある一点、クリムゾン・ワイズマンを出していなかったということもあるし、天音のことを知っていた人間もいたから、察することはできたって感じだ」

 

 あえて出していなかった。

 そもそも、らしくない。と言うべきだっただろう。

 星王兵リンクの効果を使ってサーチし、さらに『魔導契約の扉』まで使ったのに、一度もクリムゾン・ワイズマンをサーチしなかった。

 クリムゾン・ワイズマンに合わせたカードをそれなりに投入しているのが誠一郎のデッキである。

 そう考えると、あのデュエルは不自然なものだった。

 

「ま、一部のバカが暴走したって言う部分もあるな。表の方では、お前はそこまで評価が高いというわけではない。というより、功績は大きいんだが、秘匿されやすい情報に該当する場合が多すぎて、あまり出回っていないっていうのが正確なところか」

 

 イーストセントラルにおける実技単位取得にしろ、アノニマス・トーナメントにしても、いずれにせよ、そう出回るものではない。

 まあその上で、誠一郎は余裕の表情だった。

 

「暴走って言うのが何なのかって言うと、お前があのデュエルに負けたことで、御堂天音と言うデュエリストの評価が急上昇したんだ。まあ、あまりわかってないバカが多かったんだが……おかげで、この一週間は寄付金の額が莫大なものになったみたいだな」

「まあ、わざとやったとはいっても、俺に勝ったんだ。その事実は変わらないからな」

「それに、お前があの場所にいたのは、ある意味偶然だ。まあ、お前の彼女が懸賞で当てたんだろうが……要するに、お前がデュエルするということすら、裏社会の方では想定外だった」

 

 偶然だった。

 そして、想定外だった。

 ただ、それだけ。

 

「よくわかってるじゃないか」

「……で、一週間たって、あの動画が出回った。しかも、『フェイクラスターの考案者』として、カードデザイナーとしてもいろいろなところから引っ張りだこになるかもって時の話だったからな」

「ひっくり返っただろうな」

「あの動画の中で、お前は途中、何度も降りようとしたが、木戸は何度もお前に挑んだ。一度でも勝てば、可能性はあると思ったんだろう。だが、お前はそう言うデュエリストじゃないからな」

 

 界介は溜息を吐きながらコーヒーを口に含んだ。

 

「御堂天音のイヤホンの話は昔からあった話だ。それに加えて、莫大な寄付金をはらった後でこの状況になったんだ。まあ、ブチ切れた連中の気持ちも、投資家としては分からんわけじゃないがな……」

 

 界介は溜息を吐いた。

 誠一郎は微笑んだままだ。

 

「御堂天音に対して脅迫していたのではないか。と言う話だが、実際にあったらしい。ま、あそこまで歌って踊れるアイドルはなかなかいねえし、デュエルの方でも強いことをアピールすれば、儲けることが出来ると思ったんだろうぜ。『持つべきものは力』っていうのは分かっていたみたいだが、『上には上がいる』っていうのをわかってなかった。ある意味当然の結果だろ」

 

 何故、今までこうなっていなかったのか、と言う疑問はあるが……。

 

「で、誠一郎。お前から見て、フェイクラスターは、完成度としてはどうだ?」

「……そうだな。別に良くも悪くもない。御堂天音が使っているから、ということで過剰評価されているだけで、言っては何だが、普通だったぞ」

「まあ、お前ならそう言う評価を出すだろうな」

 

 使い方に寄るだろう。

 一枚のカードでどこまで出来るのか。デッキの中でカード同士がどういう関係なのか、それを考えれば、見えて来るものはあるのだが、もう遅い。

 

「シルバーオフィスはもう終わりかもな」

「界介から見てもそう思うのか?」

「御堂天音がいたから支援していたところも多いからな。あのステージにいたのなら分かるだろうが、おっそろしい金額が動くんだよ。だから、投資家や銀行がバンバン金を出していたんだ。そんな中でこの醜態だぞ。しかも、思いっきり情報が拡散してるし」

「御堂天音に依存していたか。脅迫するんじゃなくてうまく転がしておけばよかったのに」

「だな。変に感情的になることもないわけじゃないし、お前みたいに精神年齢が高いわけでもないからな。経験があるやつにとっては扱いやすいだろうぜ」

 

 うまく扱った結果としてアイドルの方が調子に乗るのならそれはそれでまた考える必要はあるが、今回の場合はそう言うものではない。

 

「御堂天音も、やろうと思えば、アイドルをやめて、新たにシンガーソングライターとしてやっていける。もともと、歌って踊る以外はあまりできていないっていうのは分かってるからな」

「そう言うものか?」

「そんなもんだ」

 

 世の中と言うのは、いろいろと分かっているものである。

 

「一部の人間は、お前と天音の再戦を望んでる」

「ほう」

「御堂天音が新しくデッキを作ったんだ。それを使った快進撃だぞ。もちろん、イヤホンもなし」

「だろうな」

「とっくの昔に、シルバーオフィスじゃ扱いきれないじゃじゃ馬になってんだよ」

「じゃじゃ馬か。俺からすればまだまだ子供だがな」

「体力的についていけなかっただろ」

「なんでしってんの?」

「宗達から聞いた」

 

 アイツ……。

 

「本当にマジで強いぞ。今度は本当に、お前にダメージくらいなら与えられるんじゃないか?」

「ま、それはないだろうな」

 

 誠一郎はコーヒーを飲みほした。

 そして、席を立つ。

 

「マッチングの方は好きにしろ。よほど出鱈目な時間じゃなかったら出てやる」

「いいのか?」

「その代わり、ちゃんと調節して置けよ」

「俺がやるのか!?」

「お前から送られていた大会、調べたら裏でデュエルくじが展開されている大会ばっかり選んでだろ。それがお前に対する人件費だ」

「いや、あの、莫大すぎるんだが……」

「知らんな」

 

 誠一郎は自分が飲んだ分の代金として千円札を三枚置いた後、喫茶店を出ていった。

 

「……やっぱ中途半端なアイドル事務所の相手にした後にアイツを相手にするのはダメだな。難易度が違いすぎて調子が狂うったらありゃしない」

 

 界介は誠一郎がおいていった三千円と伝票をもってカウンターに行った。

 

 ★

 

「誠一郎。また御堂天音とはデュエルするの?」

 

 お茶漬けを作りながら、彩里が誠一郎に聞いた。

 誠一郎はテレビを見ていたが、彩里の方を見る。

 

「……そうだな。ま、頼まれたらやるだろう」

「なんだかんだ言ってかかわるのね……誠一郎と一緒にいるとちょっとレベルの高い知り合いが増えるから面白いわ」

「いいのやら悪いのやら……」

 

 彩里としては、いろいろなものを見せてくれる誠一郎のことはすごいと思っている。

 誰かのことをすごいと思ったことはあまりない彩里だが、測り切れない実力を持つ誠一郎のことは想定不可能だった。

 

「お茶漬け出来たわよ」

「ああ」

「……そう言えば、刹那ちゃん。起きるの遅いわね」

「そう言えば確かに……」

 

 いつもならもう起きているんだが。

 

「腹時計は性格だから降りてくると思うけどな」

 

 ご飯を作ったら自然に降りてくるのだ。何故か知らないが。

 

 

 

 さて、その頃の刹那だが……。

 

「刹那ちゃん。聡子お母さんの胸の中でいっぱい寝てくださいね」

 

 どこから侵入したのか、聡子がベッドで一緒に寝ていた。

 なお、聡子は若干浴衣に近い服装である。

 

「うぅん……ママぁ」

 

 すっかり甘えた様子で聡子を抱きしめる刹那。

 そのかわいらしい仕草に、聡子はよだれを流していた。

 それでいいのか。聡子よ。

 

「……あら?」

 

 聡子は抱きしめている時に気が付いた。

 

「グスッ……うぅん……」

 

 刹那が泣いているのだ。

 どんな夢を見ているのかはわからないが、うなされているようには見えない。

 ただ、泣いている。

 

「大丈夫ですよ。聡子お母さんがついていますからね」

 

 宝物を扱うように抱きしめる。

 そして――

 

「むぅ…………………………………む?」

 

 ――刹那の言葉に、意識が宿った。

 寝ぼけ眼でボーっと聡子を見る。

 そして、その格好を見る。

 抱きしめている自分の腕、そこから、自分の格好を悟った。

 さらに、布団の中にいる。

 ……理解した。

 

「……え」

 

 刹那の顔が戸惑いにあふれて、そして青くなった。

 聡子は宝物を扱うように抱きしめていたが、こうなればもう手加減はしない。

 思いっきりギューッと抱きしめる。

 

「むーーーー!むむーーーー!!」

 

 じたばたと暴れる刹那。

 だが、小さな筋肉が鍛えられており、バランス感覚がケタ違いの刹那も、そこまでたいした筋力があるわけではない。

 聡子は諜報部員。いろいろと鍛えることも多いのだ。

 結果的に、確実に分配が聡子に上がる。

 

「フフフ。刹那ちゃん。私色に染まってもいいんですよっぶない!」

 

 急に聡子の感触が離れると、ズガン!という音とともに、鉄拳が聡子がいた場所に振りおろされる。

 刹那は顔を上げる。

 無表情のフォルテがいた。

 どこにいたのかはわからないし、いつ入って来たのかはわからないが、とにかく、助かったといえるだろう。

 多分。

 

「何しているのですか?聡子さん」

 

 フォルテは拳をバキバキ言わせながら聡子の方を見る。

 

「いいではないですか。刹那ちゃんは可愛いですからね。孤児院にいる五歳くらいの女の子のようです」

「むぅーーーーー!もう十四歳だもん!」

 

 両手を突き上げて怒る刹那。

 だが、残念。怒ることが先天的に苦手な人間が多少怒ったところで対して怖くないのが世界と言うものだ。

 聡子は、姉とかそう言った部分を超えて母性を感じさせる雰囲気を持つ女。

 この程度の怒りなど笑ってスルーできる。

 

「でも、気持ちよかったでしょう」

 

 正座をしてポンポンと自分の膝を叩く聡子。

 母性もあるだろう。すごく気持ちがよさそうだ。

 ヒップが大きいフォルテも太股はまあそれなりにあるのだが、彼女の本質は『清楚な姉』であって『母』ではない。

 刹那に取って、彩里のような人間がそばにいるので姉と言う存在はもうお腹いっぱいである。

 だが、すでに両親はいない刹那にとって、誠一郎は父性属性を持っているので父親がいないことは我慢できても、母親代わりはいないのだ。

 

「む……むぅ……」

 

 聡子の気持ちよさそうな太股を見て気持ちが揺れる刹那。

 

「もうすぐ朝食です。彩里様がお茶漬けを作っていますから。早く食べに行きましょう」

「……」

 

 刹那はフォルテの方を見る。

 そしてその後、聡子の方を見る。

 聡子は微笑んだままだ。

 

 どちらが勝ったのか。

 

 グゥー……。

 

 刹那の腹の虫が鳴った。

 次の瞬間、聡子にはもう目もくれず、スタッと立ち上がり、トコトコ扉に向かって歩いていった。

 

「ちょ……刹那ちゃん!?」

 

 聡子はここまで無視されるのは初めてである。

 食欲が勝つのか。いや、まあ、朝食を食べるタイミングなのだから別に変と言うわけではないが、いろいろおかしいと言わせてもらいたい。

 だが、刹那は聡子の悲痛な叫びに振り向くことすらなかった。

 『母』としてはいいが、あまり『女』としては好きではないのだ。まる。

 

 

 ――で。

 

「誠一郎。なにしてるの?」

「刹那の新しいベッドを通販で購入しているんだ。また壊したみたいだからな」

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

 ★

 

 当然といえば当然だが、学校内でも御堂天音のファンはいるし、シルバーオフィスに対していやな感情を持っているものもいる。

 

「で、どうしたの和春。そんなイライラした表情をして」

 

 イーストセントラルに存在する場所。

 序列一位から四位までを独占する元素四名家の円卓会議室。

 そこで、風間浩一。火野和春。水谷聡子。土門天理がそろっていた。

 そして、和春はイライラしたような表情だった。

 

「一週間前のデュエルは覚えているか?」

「あの遊霧誠一郎と御堂天音のデュエルでしょ?あれはこっちでも有名だよね。天理はどう思う?」

「私の方でも聞いた。まあ、デュエルを見れば分かるが、エースモンスターすら出していないものだったからな」

「わかる人にはわかるでしょうね」

 

 聡子はフフッと笑う。

 和春は「その話だ」と最初に付けて、言い始める。

 

「あの後、シルバーオフィスに莫大な投資があったようだ。まあ、イーストセントラルで数件しか前例のない、早期における実技単位取得者だからな。俺や天理ですらまだ持っていないものを持ってるんだ。ある意味、その闘志に意味があると思ったんだろう」

「問題なのは、ちょっと前に膨大に流れた動画だよね。フェイクラスターの評価が地に落ちたでしょ」

「そこなんだが……あのステージにおけるデュエルがなければ、ここまでの損失はないとか周辺企業が言いだしたんだ。で、そのとばっちりが俺に来てんだよ」

「ハッハッハ!傑作!」

 

 浩一は笑う。

 天理も肩をすくめる。

 火野和春は、元素四名家であると同時に実業家でもある。

 当然、大きな案件であるあのステージにもかかわっていた。

 シルバーオフィスは御堂天音が所属し、そして動いてきた事務所で、その契約費用は莫大である。

 和春はシルバーオフィスと契約して金を出したのはいい。

 実際、ステージは盛り上がり、さらに、誠一郎の『一ターンにおける連続サーチと二回のオーディナル召喚』と『【魔導契約の扉】を利用した頭脳戦』と言う部分が評価されている。

 結果として、御堂天音のデュエリストとしての勘とか、と言う言った部分は評価された。

 

 操り人形ではない歌姫の実力を、感じ取ったからだ。

 

「とはいえ、御堂天音のそれからの実力の伸び方もすさまじい」

「そうだね。ただ、オーディナルモンスターのシークレットレアが飛び出してくるとは思ってなかったけど」

「シルバーオフィスの株の暴落と共に、御堂天音個人の方はかなり動いています」

「うむ。原因は言うまでもないがな」

 

 遊霧誠一郎。

 突如現れたデュエリストだ。

 いや、情報部隊のものからすれば、どんな大会に出場していたのかはわかる。

 だが、その大会に出場する前。

 その段階のことは分かっていないのだ。

 

「さて、どうなるのかな。僕としては、もっと暴れてほしいけどね。最近はこういう祭りはなかったからさ」

「勘弁しやがれ。こっちは実業家だ。いろいろと支障が出る」

「すでに手遅れな気がしますけど……」

「ただ、他にもいろいろと動いているものがいる。かかわるべきなのか、それとも放置するべきなのか、議論する時間はあった方がいいだろう。もうそろそろ、イーストセントラルのイベントが開催される。御堂天音も、おそらく自分からかかわってくる可能性があるからな」

 

 イーストセントラルにおけるイベント。

 火野和春が考案する『特殊なフィールド魔法による特殊ルールにデュエル』を行うことでイベントを行うというものだ。

 今までは単純にデュエルするだけだったが、一対一のシングルデュエルではなく、乱戦となるバトルロイヤル戦が行われることになっている。

 一応、御堂天音も出て来ることになっている。

 

「そこで、デュエルをするのだろう。遊霧誠一郎VS御堂天音の対戦カードで」

「その予定みたいだね。和春が交渉に行ったんだよね」

「御堂天音本人が出てきた。かなり乗り気だったぞ」

「楽しみですね。ところで、本人が出てきた。と言いましたが、シルバーオフィスのスタッフは?」

「どこの誰かは良く知らん投資家が株を買いまくって、それを利用して自前の人間をシルバーオフィスにいれていた。あのステージとは全然違うスタッフばかりいて驚いたぞ」

 

 株は暴落した。

 だが、シルバーオフィスと言う『御堂天音が入っていた箱』を突如失うのはいろいろとリスクが高いのだ。

 誰がその箱の面倒を見るのか、と言う話もあったが、ある意味で解決したようなものである。

 

「結果的に、シルバーオフィスは続いて、御堂天音はそこに所属、そして、新しくは言ってくるわけか。まあ、御堂天音のあのスタミナは自前だし、新しいスタッフが振り回されるのが目に見えるね!」

 

 浩一はとても楽しそうである。

 とはいえ、楽しみなのは四人ともだ。

 

「これからは準備段階に入ることになる。ただ、デュエルの腕を落とさないようにな」

 

 天理がそう言って、この場は終了した。


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