遊戯王 Replica   作:レルクス

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十六話

「ふああ……ん?」

 

 遊園地から電車で帰ってきて、風呂に入って部屋に戻った後、誠一郎はスマホが鳴っているのに気が付いた。

 番号を確認する。

 ちょっとだけ、頬が緩んだ。

 

「はいもしもし」

『あ、誠一郎君』

 

 聞こえてきたのは、御堂天音の声。

 

「どうした?」

『私とあってほしいの。ただ、私の方で時間が取れないから、一週間後でいいかな』

 

 誠一郎はカレンダーを見る。

 一週間後に予定はなかった。

 

「ああ。いいぞ」

『わかった。ありがと。それじゃあ、一週間後に会おうね』

 

 そう言うと、電話が終了。

 

「……仕方がないか」

 

 別のところに電話をかける。

 

「……あ、界介(かいすけ)。俺だ、ちょっと命令(たのみ)がある。え、ルビがおかしいって?俺とお前の仲だろ。ちょっと調べてほしいことがある。いろいろあるし、一度しか言わんぞ。え、すでに録音済み?用意周到だなお前。まあいいか、それじゃあいうぞ。まず――」

 

 誠一郎は様々な指示を出して、電話を切った。

 

「……自分で言ってから言うのも何だが、面倒だな」

 

 そう言って、溜息を吐いた。

 

 ★

 

 一週間後。

 

「彩里の奴。いろいろわかっていたような顔だったな。逆に聖が意味が分かっていなかったみたいで苦労したが……まあいいか」

 

 この一週間の自分の周辺のようすを思いだして苦労した誠一郎だが、溜息を吐いて気持ちを切り替えた。

 

「待ち合わせはここだったはずだが……」

 

 きょろきょろとあたりを見渡す誠一郎。

 その視界の端に、パーカーを着て、フードを被った少女が写る。

 

「お、来たな……あ、時間ジャストに来るタイプなのか」

 

 腕時計を見てそう思った誠一郎。

 天音はこちらに気が付いたようで、走ってきた。

 フードをかぶっていて、帽子もかぶっている。

 サングラスは付けていないが、ほぼ、あの日と同じだった。

 

「一週間ぶりだな。で、何時もその格好なのか?」

「お気に入りだから」

「そうか……まあそれならいいや。で、どうするんだ?いつ、どこで、その二つしか聞いていないから、どうするのかさっぱりわからんのだが……」

「ちょっと……遊びに行こっか」

 

 笑顔でそう言う天音。

 誠一郎は頷いた。

 

「まあ、そうしたいというのならそうしよう」

「ちかくに私オススメのファミレスがあるんだ。まずはそこに行こう」

 

 誠一郎の手を引っ張って、歩きだす天音。

 誠一郎は、溜息を吐くのを我慢しているような、そんな顔だった。

 

 ★

 

 ファミレスに入った誠一郎と天音は、一番奥の席をとった。

 座って、店員が水を二人分持ってくる。

 

「好きなものを頼んでいいよ。これでも稼いでるから」

「その上で言っても、俺の方が個人資産は多いと思うんだが……」

「じゃあ、君の奢りね」

「いいだろう」

「え……本当にいいの?」

「ああ」

 

 ファミレスで払う程度の金額でケチる金銭感覚を持っていない。

 彩里たちにその話をすれば『そりゃそうだ。一杯三千円のコーヒーを普通に飲むんだもん』と言いだすだろう。

 誠一郎はカツカレーを頼んで、天音はハンバーグランチを頼んだ。

 

「……誠一郎君は、私のこと。どこまで気が付いてるの?」

「デュエルの話か?」

「うん」

 

 あの日のデュエルを見る限りは……。

 

「……左耳のイヤホン。あれに、カメラもついてたな。舞台裏のスタッフから指示をされていたんだろう」

「そうだよ」

 

 天音は即座に肯定した。

 

「どうしてわかったの?」

「俺が先攻のターンを終えた後のスタンバイフェイズだな。ケイオステラの効果が発動した後だ。表情の雲り方が、俺が知っている奴に似ていた。そいつも、イヤホンを使って、裏から指示を受けてデュエルをしていたよ」

「そっか……」

「まあそもそもの話、君がやっているデュエルは、そもそも、君がやりたいデュエルではない。使っているカードも、君のプレイングも、君本来のものではないだろう」

 

 淡々と誠一郎は続ける。

 

「なんで、そんなことまで分かるの?」

「分かるくらい凄い場所にいただけだ。それと……少し調べれば分かった。『フェイクラスター』だが、あれは全て君のカードではなく、君の事務所から渡されたレンタルデッキだろう」

「その通り」

 

 フェイクラスターは、天音が所属する事務所『シルバーオフィス』が考案したカテゴリデッキだ。

 デュエルモンスターズを運営する会社がデザインカードではないが、カードパワーがしっかりと考えられたものであれば、そういったカードを作ることもできる。

 最近はそう言う流れも多く、『フェイクラスター』の販売権をシルバーオフィスは持っているのだ。

 アイドルとして知名度の高い天音が使い、そして勝っていれば、知名度も上がる。

 

「あと、あの舞台だな。君がデュエルサプライズを行うとき、それらは、かなり大きなステージでのみ行われている。まあ、君がかかわるステージで極端に小さいものもそうそうないが、あれに寄って、デュエリストの判断を鈍らせることが目的なんだろう」

「そうだね。聞き耳を立てていたら、そんな話も聞いたよ。でも、誠一郎君には通用しなかったみたいだけどね」

「あの程度で鈍るものではないからな」

 

 本当の意味で、数千人程度の観客の目で鈍るような精神をしていない。

 

「クールだって、私は言われる。でも、本当はそうじゃない。こんな、稽古中に跳び出して、男に会いに行くようなやんちゃ娘だもん」

「やんちゃ……ねぇ。俺からすればかわいいもんだが」

 

 天音の言い分を聞いて、そう思う誠一郎。

 小野寺彩里という女の付きあっている誠一郎からすると、アイドルとはいえ、その程度(・・・・)といえるレベルのものだった。

 確かに、スキャンダルになる可能性があったりとか、そういう話はあるだろう。

 だが、それは男の方のレベルに寄るのだ。それはいまはいいが。

 

「誠一郎君って、苦労人だったりする?」

「強者って言うのは苦労人だろう。頼られる存在ではあるが、それと同時に、応えなければならないからな」

 

 強者ゆえの有名税程度ならば、はらうことに文句はない。

 だが、明らかに釣りあってないものを、人は求めるものなのだ。

 

「誠一郎君のこと。私はちょっと調べてみたよ。イーストセントラルで、すでに実技単位取得してるんだってね」

「ああ……ていうか、そのデータって一般公開されていないはずなんだが……」

「シルバーオフィスは、そこそこ大きいんだよ」

「君が膨らましただけだろう」

「まあ、そうともいうね」

 

 シルバーオフィスの収益のうちのほとんどを占めているのが、天音の仕事だ。

 それを考えるとすさまじい。

 たった一人の少女の舞台で、多くの人間が給料を得て生活しているのだ。これ以上に妙な話もない。

 とはいえ、イーストセントラルの権力もそれなりにあるが、別に誠一郎の情報がトップシークレットと言うわけではないし、誠一郎本人も、『イーストセントラルが言いふらすのは止めてほしいが、それ以外の団体が言いふらすのならそれには関与しなくていい』と言ったのだ。

 アノニマス・トーナメントに関しては、まあ、情報を取り扱うことを専門としている人間にはばれている節があるが、今のところ、気になるものはない。

 

「事務所の人達、喜んでたよ。修学仮定終了間際のものならともかく、早期における実技単位取得試験は、デュエルスクールは難関だって噂だったから」

「俺からすればたいしたものではないがな。それほどのデュエリストを倒せるデッキだって宣伝できる。みたいなことを言ってるんだろう」

「うん。でもね。私にもわかった。あのデュエル。誠一郎君はわざと負けたんだよね」

「ああ」

 

 勝つのはたやすい。

 負けるのも簡単だ。

 シナリオを綴る権利を、誠一郎は常に持っている。

 

「私はあの時、誠一郎君から渡されたカードを使うように、何度も言われた」

「だろうな。そういう顔だった」

「でも、私は使わなかった。雑誌ではあの駆け引きを褒めているところもある。でも、実は違う」

 

 あのカード。

 発動条件やデメリットがいろいろあって曲者だが、それはともかくとして、名前。

 

『リピート エフォーツ・アンド・ライズ』

 

 訳すると、『繰り返す 努力と嘘』

 

「『使わなかった』わけではなく、『使いたくなかった』ということだろう」

「あんな名前のカードがあるっていうのも驚いたけど、私はあれを使いたくなかった。使えば、今まで、それをしてきたことを肯定しているみたいだったから」

 

 本当に自分を出さず、本当のカードすら使えず、ただ戦ってきた操り人形。

 天音はおそらく、自分がそんな人間だと思っているのだ。

 

 だが、ちょうど料理が運ばれてきた。

 話はひとまず終わりだ。

 

「たべよっか」

「ああ」

 

 ★

 

 様々なところに行った。

 観光に適したスポットを回った。

 花畑が作られていたり、よくわからんオブジェクトを見て説明を見て苦笑したりした。

 ゲーセンに入った。

 クレーンゲームでとったり、音ゲーで二人で無双したり、エアホッケーで天音を遠慮なく叩きつぶしたり。

 

 その中で天音が見せる笑顔は、本人らしいというか、自然なものがあった。

 

「楽しいね。誠一郎君」

「そうだな……」

 

 テンションが高いというより、スタミナのある天音のテンポは速くはないのだが、落ちない。

 誠一郎も筋力だとかそう言った部分はある方だが、天音のそれには及ばない。

 誠一郎は全体的にポテンシャルがあるだけで、いい変えるなら『器用貧乏レベル100』みたいな感じなのであって、『全能』ではない。

 

「私ね。スタミナはある方なんだ。だから、普通の人だと一緒に遊ぶだけでも最後まで続かないんだよね。だから、今日は楽しかった」

「……だろうな」

 

 誠一郎は、『デュエルトライアスロン』という、なんと走ったり自転車を漕いだりしながら(さすがに泳ぎません)デュエルするというクレイジーイベントに参加したことがある。

 体力があるわりにみんなのデッキは速攻デッキと言うある種の願望があるが、誠一郎は完走した。

 

 ちなみに、女の話は話題が多いうえにすぐに変わるので、長いというより終わりようがないというのが誠一郎の見解だが、天音の場合はそれが講堂にも出て来るのだ。

 ネタが多いのは、暇にならないということなのだ。良い意味でも悪い意味でも。

 そういうわけなので、相手する男は疲れるのだ。

 

「……ロケとかみんな疲れるだろうな。これ」

「よく言われるよ」

 

 変に自由行動が多いロケなら、講堂の制限が少ない天音の本領発揮である。

 そうなれば、カメラマンもディレクターも『ちょっと待てやこのガキ!』と内心思いながらついていかざるを得ないだろう。

 

「こんなふうに楽しんだのは久しぶりだね。普段は自由時間なんてないようなものだから」

「アイドルは大変だな……」

「スタミナがあるのは事実なんだけどね。まあ、色々振り回すのは、私からのちょっとした意趣返しだよ」

「タチが悪い……」

 

 まあ、その程度ならいいのか?良くは知らんが。

 

「誠一郎君は、デュエルするのがつらいって思ったこと。ある?」

「いや全く」

「……ないんだ」

「デュエルは楽しいものだからな。それに、両親もいないし、妹もいるから、何かないと話にならん。まあ幸い、才能はあったからな」

 

 それに……才能も努力も、上から叩き潰せるものを、誠一郎は持っている。

 だから、つらいと思ったことはない。

 やめようと思ったことはない。

 

「俺には、絶対に変わらないエースカードがある。だから、そいつを軸にして研究して、そして強くなった。天音にはないのか?」

「私は……」

 

 天音がそれを言おうとした時だった。

 

「天音!」

 

 空気を割くような勢いで、天音の名前を呼ぶ声が響いた。

 見ると、そこにはスーツ姿の男性がいた。

 

「き……木戸さん」

「天音。レッスンを抜け出して何をしていたんだ!」

 

 プロデューサーかな?

 それにしても……この目。

 よく見るものではあるが……誠一郎が好きなものじゃないな。

 

「俺が誘った。ということでいいか?」

「せ、誠一郎君……」

 

 誠一郎は怯えもせず、緊張することもなく、淡々という。

 

「君はあの時の対戦相手か……分かっているのか?天音はトップアイドルなんだ。こんなところを見られたら、スキャンダルになるんだぞ!」

「そう思うのならもうちょっと小声で喋ろって……」

 

 溜息を吐く誠一郎。

 

「私がいいたいのはそういうことではない。どう責任をとるつもりなのかと聞いているんだ!」

「取れなくもないぞ」

「何?」

「アイドルが男とあっていた。だが……俺ほどの実力者にあっていたんだ。別にそれくらいなら問題はないだろ。むしろ、最強のデュエリストと、トップクラスのアイドル兼デュエリストがあっていたんだ。雑誌としても、悪くはない記事にできる」

「一週間前に、天音に負けた貴様が何を……」

「そうだな。だが、あれは負けてやっただけだ。俺がどれくらい強いのかは……これを見てみろ」

 

 誠一郎はそう言って、スマホをとあるページを開く。

 飛び入り参加可能なデュエルの大会。

 その中でも、トップクラスと言われるほどのものがずらりと並んでいる。

 その結果を記載したサイトだ。

 誠一郎は、そのすべてで優勝している。

 

 その数、一週間で三十個以上。

 

「な……なんだこのでたらめな数字は」

 

 界介に電話していたのは、飛び入り参加可能で、さらにハイレベルと言われている大会。

 まあ、実力的に考えればある意味で『荒らし』と言われても仕方がないが、これ以上するつもりはないし、必要はない。

 実力を示すには、これくらいやっていれば十分。

 

「ついでに言うと……あんたらがイヤホンを使って指示を出していたっていうことだが、実のところ、二年以上前からネットに乗っているぞ」

「な……」

 

 気が付かないわけがない。そんなに甘くはない。

 だが、ネットの中では、天音は被害者だ。

 天音のブログだが、古いものを掘り起こせば、間接的にそれが分かる記述がある。

 

「もう一度、試してみるか?」

 

 誠一郎はデュエルディスクを構える。

 木戸は顔をしかめたが、デュエリストとしての本能があるのだろう。デュエルディスクを構える。

 誠一郎はポケットからビデオカメラをとりだして、それを天音に渡した。

 

「これもってちょっと離れて撮っていろ」

「え、あ、うん」

 

 状況はよくわかっていなかったようだが、天音は離れると、取り始めた。

 

「俺が負けたら……そうだな。ま、しばらくテレビにも出てやるさ。お前らの事務所『シルバーオフィス』の好きにしろよ」

「フン!既に録画中だ。声質はとったぞ。それにしても、ずいぶんと自信があるんだ」

「もちろん」

「なら、ハンデがあっても言いだろう?」

「今すぐにできるものならいいぞ」

「なら……ライフは1で、ハンドレスでスタートしろ」

「いいだろう」

 

 誠一郎は即答する。

 天音の口から驚愕が漏れた。

 が、カメラは持ったままだ。

 

 木戸も頬をピクッと動かしたが、カードを五枚引いた。

 

「まあ、俺が勝っても、何もなしでいいや。俺が勝つのは当然だからな」

「ふざけるな。フェイクラスターは私が考案したデッキだ。叩き潰してやろう」

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎 LP   1

 木戸  LP4000

 

「貴様の先攻だ」

「なるほどな。ま、俺はこのままターンエンドだ」

 

 両手をポケットに突っ込んで、そう言った。

 ハンドレススタート。要するに手札がないのだ。できることはほとんど(・・・・)ない。

 

「私のターン。ドロー!私は手札から魔法カード『ラスター・ゲート』を発動。手札からレベル3以下の『フェイクラスター』モンスター二体を特殊召喚することができる。私は手札から『フェイクラスター・エメラルド』と『フェイクラスター・トパーズ』を特殊召喚!」

 

 フェイクラスター・エメラルド ATK1000 ☆3

 フェイクラスター・トパーズ  ATK1000 ☆3

 

「エメラルドの効果発動。一ターンに一度、デッキからレベル4以下のフェイクラスターモンスター一体を選択し、守備表示で特殊召喚することが出来る。私はフェイクラスター・ルビーを特殊召喚!」

 

 フェイクラスター・ルビー DFE300 ☆3

 

 

 フェイクラスター・エメラルド

 レベル3 ATK1000 DFE800 光属性 ドラゴン族

 このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。

 ①:一ターンに一度、デッキからレベル4以下の「フェイクラスター」モンスター一体を守備表示で特殊召喚することが出来る。

 

 

「そして、私は光属性のエメラルドとトパーズをシンボルリリース。『フェイクラスター・アメジスト』をオーディナル召喚!」

 

 フェイクラスター・アメジスト ATK2500→2800 ☆7

 

 攻撃力が上がっている……。

 

「トパーズを素材にしてオーディナル召喚されたオーディナルモンスターは、攻撃力が300ポイントアップする」

「なるほどね」

 

 

 フェイクラスター・トパーズ

 レベル3 ATK1000 DFE800 光属性 ドラゴン族

 ①:このモンスターを素材にしてオーディナル召喚されたオーディナルモンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

「そして、魔法カード『ラスター・シフト』を発動。フェイクラスターモンスター一体をリリースすることで、他のモンスター一体の攻撃力を、リリースしたモンスターの数値分アップする」

 

 

 ラスター・シフト

 通常魔法

 ①:自分フィールドの「フェイクラスター」モンスター一体と、他のフィールドのモンスター一体を対象にして発動できる。対象にした「フェイクラスター」モンスター一体をリリースして、ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力分、もう一体のモンスターの攻撃力をアップする。

 

 

「私はルビーをリリース。アメジストの攻撃力を上げる」

 

 フェイクラスター・アメジスト ATK2800→4200

 

「フン!次のターンのドローに賭けようと思っていたのでしょう。ですが、次のターンはありません。バトル!フェイクラスター・アメジストで、ダイレクトアタック!」

 

 フェイクラスター・アメジストがブレスを放出してくる。

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「デッキから罠発動。『あざ笑う運命』!」

「な……デッキから罠だと!?」

「わざわざあんなハンデを付けて、それを即座に良いって言ったんだ。それくらいの警戒はしてほしいもんだ」

 

 誠一郎はMではない。

 

「自分フィールド、手札、墓地にカードがなく、相手モンスターの直接攻撃宣言時、ライフを半分払うことで、このカードはデッキから発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にして、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

 

 あざ笑う運命

 通常罠

 ①:このカードをデッキに戻す。

 ②:自分フィールド、手札、墓地にカードがなく、相手モンスターの直接攻撃宣言時、ライフを半分払うことで、このカードはデッキから発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にして、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

 

 ちなみに、ライフを半分支払うことになるが、誠一郎のライフは1で、デュエルモンスターズのルール上、1を半分支払うと0・5になり、四捨五入されて1に戻る。

 

「そんなカードが……」

 

 木戸は驚愕している。

 

「俺はあんたがハンデを突き付けた時、カードのことを何も調べてないんだなって思ったよ。強いデッキを作れたと思って油断したか?デュエリスト失格だな。そんなデッキを自分が所属していたアイドルに押し付けるのは、脅迫以外の何物でもないぞ」

 

 運命をあざ笑う声が響いて、アメジストが放ったブレスは反射する。

 そして、木戸を貫いた。

 

 木戸 LP4000→0

 

「ば、バカな。この私が……」

「お前なんて、カード一枚で倒せる。そのデッキであろうとな。カードのことを調べずにカードを作ったやつのデッキが、強いわけないだろ」

 

 誠一郎は天音が持っていたビデオカメラをとり上げて、録画を終了する。

 そして、その録画データを、界介に送っておいた。

 

「誠一郎君」

「ま、こんなもんだ」

 

 ハンデなんて関係はない。

 というより、最近は犯罪者集団が違法ツールを使って、ハンデを押し付けたうえで一方的に蹂躙するような状況がたまにある。

 そのような特殊な状況に対応するために、防犯ブザーならぬ『防犯カード』がデザインされているのだ。

 ある意味、アイドル事務所なら、そう言った存在の対処は考えておくべきで、それらが全く考慮されていないというのは、この世界(デュエルモンスターズ)では自殺行為である。

 刹那やフォルテ、彩里や聖にも、メインデッキやサイドデッキとは言わないが、すぐにデッキに投入できる状況を作っておくように言ってある。

 

 この『あざ笑う運命』と言うカードも、そう言うカードの一枚だ。あまり防犯とは関係のないネーミングセンスだが。

 

「わ、私は認めない!」

「別にいいが、ならもう一回やるか?普通にやってもいいぞ」

「上等だ。絶対に許さん!」

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……三十分後。

 

「クリムゾン・ワイズマンで直接攻撃。なあ、もう二十連敗しているぞ。そろそろ弱い者いじめもかわいそうになってきたからやめておきたいんだが……」

 

 木戸のライフは0になった。

 

「な、なぜ勝てないんだ……」

「ていうかダメージすら与えられてないけどな。もう俺は帰るよ。あ、ちなみに、全てのデュエルを録画、投稿しておいた。あの手この手を変えてデュエルしていたから、もう、フェイクラスターは通用しないぞ」

「何!?」

 

 木戸がスマホで確認している。

 おそらく、そう言ったものを確認しているのだろう。

 

「ば……バカな……」

「じゃあな。次からカードを作る時は、もうちょっと頭をひねって作れよ」

 

 天音を引っ張って誠一郎は離れていった。

 

 ★

 

「誠一郎君」

「どうした?」

「どうして、あんなに強いの?」

「俺もわからん。強くなろうと思ったきっかけは、俺だって覚えていない。ただ、自分のためだったような気はしないわけでもない」

「自分のため?」

「そうだ」

 

 刹那のためでも、彩里のためでも、フォルテのためでもなかった。

 ただ、自分のためだったことは覚えている。

 

「私も自分のためにカードを選んだら、強くなれるかな」

「俺よりは弱いだろうけどな」

「まあ……ね」

 

 天音は苦笑する。

 ……ん?

 

(お前が自己主張するのは珍しいな)

 

 誠一郎は、ポケットから一枚のカードを出した。

 

「取り合えずこれをやるから、考えてみろ」

 

 天音に渡す。

 

「お、オーディナルモンスターのシークレットレア。いいの?」

「構わんよ。それじゃあな」

 

 誠一郎は帰って行った。

 で、路地を曲がったところで、電話をかける。

 

「あ、界介。俺だ。ちょっとシルバーオフィスで面倒なことになるかもしれないから、天音の援護をよろしく。ん?なんてお前にばかり頼むのかって?貸しが百を超えているんだ。ため込んでいるんだからちょっとは清算しろ」

 

 そう言って電話を切る誠一郎だった。


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