「はぁ……」
「どうしたんだ?彩里」
「……なんでもない」
リニューアルイベントが行われる少し前。
十八時に集合した。
彩里もしっかり戻ってきている。いつもは遅れるけど。
で、その彩里は沈んでいた。
「ま、何かあったんでしょ。自信家の彩里がここまでへこんでるんだし」
「彩里様は少しでも何か思った通りに行かないとすぐに拗ねますからね」
「……彩里さん。元気出して」
よくわからぬ空気が流れている気がした。
とはいっても、誠一郎は何かを聞かれない限りは答えないようにしている。
それは昔からだ。
第一、彩里は思ったことは全部言うタイプの人間なのだ。
宗達に負けた程度でここまでへこむとは思っていなかったのである。
「ちょっと負けただけよ」
「!」
彩里の言葉にもっとも反応したのはフォルテだ。
聖は『ふーん』と興味のなさそうな顔をして、刹那は得に表情を変えた様子はない。
おそらく、フォルテとしても、彩里が負ける様子は想像できないのだ。
誠一郎、彩里、フォルテ、聖、刹那を強さの順番で並べると……
誠一郎>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>彩里>>>>>フォルテ>>刹那≧聖
と言った感じである。
え、何、俺がインフレしすぎだって?知らんな。
それはそれとして、彩里はフォルテと比べてもかなり強いのだ。
その彩里が負けた。
それは、フォルテにとっては大きいことなのである。
「まあいいわ。次は私が勝つ」
「彩里様はそれくらいがちょうどいいと思います」
フォルテは呆れたように言う。
実際問題。今まで彩里を倒せるデュエリストは誠一郎しかいなかったのだ。
それは要するに、一位にはなれないが、それでも、三位以下になることもないという妙なものだが。
いずれにせよ、目標と言うのは多い方がいい。
彩里は、目標が少ないうえに、自らを目標とする人間に答えることはない。
それくらいがちょうどいいのである。
「そう言えば、もうそろそろリニューアルイベントがあるけど、行かなくて席って取れるの?」
「優待券があるから席が取れないということはない」
「……これってどれくらいの値段なの?」
「知らん」
少なくとも、一日限りの優待券に支払うにしてはおかしい金額になると思うが、それ以上のことは知らないし、別に知ろうとも思わない。
とりあえず分かっているのは、今、この優待券を使うことが出来るということだ。
それで十分である。
「そろそろ行くか」
★
先ほど彩里が戦った場所。
……とは別に、もうひとつステージがある。
中央にあるステージではデュエルが行われるが、壁際にある側面ステージでは、こうした歌手などのイベントが行われるのだ。
「……すごい人の数」
「
「そうですね。チケットをオークションに出せば、それだけで数十万の値段がついた記録もあるほどです」
「チケットの転売って規制されるだろ」
「出した瞬間に止まらなくなるのよ。いろんな意味でね」
あふれんばかりの人の数。
それがもっとも適しているだろう。
はっきり言って壁際のステージが遠いのだが、それを言うのは野暮と言うものだろうか。
「これほど人が集まるのか……」
「アンタ。本当に御堂天音のこと全然知らないのね」
「まあ、誠一郎様にとっては、トップアイドルであっても『ただの女』ですから」
「お兄ちゃんは『かわいいだけの女の人』って見慣れてる」
「そうね。誠一郎はたまにラスベガスでデュエルしたりするけど、どれほど美女が来ても無表情だから」
「……」
聖が絶句する。
誠一郎も、『お前ら、俺のことをそういうふうに見てたの?』と言いたそうな目で見た。
もちろん、当の三人は知らんふりである。
「まあ、楽しみにできるっていうのは良いことだがな」
誠一郎は結局、そうつぶやいた。
「あ。もうそろそろ始まるわよ」
彩里が言うと、天井の電気が消えた。
それと同時に、あたりが一気に静まり返る。
そして……。
『『『ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』』
圧倒的なエネルギーを持つ歓声とともに、ステージにスポットライトが当たる。
そこにいたのは、黒いステージ衣装を着た、薄紫色の髪を持つ美少女。
物静かな雰囲気だが、誠一郎には見える『内に秘めた感情』がある。
暗い印象を持つ色が多いが、それでも、彼女本人が持つ魅力はあふれていた。
暗くなった空も、彼女を照らすスポットライトも、彼女の登場によって沸き起こる歓声も、魅力を引き立てる二は十分だった。
「~♪」
そして、歌姫は綴る。連ねる。
手に持ったマイクで、内に秘めた感情を届ける。
やや静かで、暗い印象があるものの、それでも、清楚な雰囲気にあっており、彼女の魅力はさらにその輝きを増した。
太陽のような明るさはない。
氷のような冷たさもない。
熱い魂が宿る、水面下の激情の歌。
――だからこそ、というのだろうか。
しかし、と続けるべきなのか。
「――――♪」
『『『ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』』
歌が終わって、その熱狂の渦が巻き起こる中。
自分の隣にいる少女たちが、その魅力に心をわしづかみにされている中。
彼女本人の心ではないその言葉の羅列は、誠一郎の心には、届くものがなかった。
★
歌姫の一つの歌が終わるたびに、熱狂の渦が途絶えることはない。
「……ありがとうございます。それでは、次の曲……に続ける前に、スペシャルサプライズです!」
その言葉に、会場が静まり返る。
サプライズの言葉通り、予定にはなかったものだ。
彼女の言葉を聞こうと、会場のすべてが静まり返る。
「皆さんの中から一人、今、ここで、私とデュエルをしたいと思います!」
その言葉に。
再度、会場は熱狂に包まれる。
「すごいわね。御堂天音と言えば、デュエリストとしてもかなりの腕前なのよ」
「面白いですね」
「こんな近くで見られるなんて」
「……♪」
全員が嬉しそうにしている。
「それでは、ランダムで選ばれます。スポットライトの先に、ご注目!」
天音が指を鳴らす。
スポットライトが光って……。
「……誠一郎」
彩里がぽつりとつぶやく。
スポットライトは確かに、誠一郎。
いや、誠一郎が持つデュエルディスクに照準を合わせていた。
「面倒なことになったもんだ」
誠一郎は溜息を吐きそうになったが、こらえる。
スポットライトが当てられている誠一郎を、多くの観客が見ているのだ。
ここで下手なことはできない。
「それでは、代表のデュエリストに拍手!」
天音の言葉で、拍手が巻き起こる。
まあ、中には自分がやりたかったと思うものもいるだろうが、それは置いておこう。
スポットライトに照らされた道を、誠一郎は歩いていく。
当然、視線の数はすごい。
が、この程度で緊張するほど、誠一郎はやわではない。
だが、ここで特殊な視線を感じる。
ちょっとだけ視線を向ける。
聡子が見える。いつも通りの着物姿だ。
(あ、笑ってやがる。一枚かんでるな。アイツ)
何をさせたいのかは知らんが、やりたいようにやれということだろう。
仕方がない。
やりたいようにやるか。
ステージに上がって、天音の近くに行く。
若干驚いたような顔を一瞬だけしていたが、すぐに表情を戻した。
「だいじょうぶ?」
「……ああ」
一応と言うことで聞いてきたようだ。
「さて、それでは、改めてお名前を聞かせてください」
「遊霧誠一郎だ」
ここで宗達の名前でも使っておこうか。とか一瞬考えたが、八つ当たりにしては遠回りなのでやめておくことにした。
「はい。それでは、楽しいデュエルをしましょう」
すると、ステージの中央から一つのデュエルディスクが出て来る。
天音はそれを手に取って、左腕に付けた。
「始めましょうか。誠一郎君」
「そうだな」
お互いにデュエルディスクを起動して、そして、シャッフルされたデッキから五枚のカードをドローする。
誠一郎は、天音の左耳を見る。
そこに付けられているイヤホンだが、今はあえて気にしないことにした。
「「デュエル!」」
誠一郎 LP4000
天音 LP4000
「先攻はあなたからだよ」
「そうか」
まあ、そう言うのなら問題はない。
「ちょっとだけ派手に行くか。俺は『増援』を発動して、デッキから『星王兵リンク』を手札に加える。そして、手札一枚をコストにして、『星王兵リンク』を特殊召喚」
星王兵リンク ATK1700 ☆4
「そして。墓地の『星王兵クラッカー』の効果発動。デュエル中に一度、デッキトップを一枚墓地に送ることで、墓地のこのモンスターを特殊召喚!」
星王兵クラッカー ATK500 ☆2
星王兵クラッカー
レベル2 ATK500 DFE300 闇属性 戦士族
このカード名の効果はデュエル中に一度しか使用できない。
①:このカードが墓地に存在する場合に発動できる。自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。
「そして、星王兵リンクの効果発動。このカードと、もう一体の星王兵モンスターを守備表示にすることで、デッキからレベル8以下のオーディナルモンスター一体を手札に加える。俺は『双星王ケイオステラ』を手札に加える」
星王兵リンク ATK1700→DFE1000
星王兵クラッカー ATK 500→DFE 300
さて、そろそろやるか。
「そして、闇属性のクラッカーをシンボルリリース!今、星々の輝きを得て、混沌に染まり、顕現せよ。オーディナル召喚、レベル6『双星王ケイオステラ』!」
双星王ケイオステラ ATK2400 ☆6
誠一郎 SP0→1
「オーディナル召喚……」
「まだだ。墓地の『ADチェンジャー』を除外して、リンクの表示形式を変更」
星王兵リンク DFE1000→ATK1700
「まさか……」
「リンクは『王』には手出しできない。永続魔法『双星王の勅命』を発動。一ターンに一度、フィールドに『双星王』オーディナルモンスターが存在する場合、デッキからレベル3以下の『星王兵』モンスター一体を特殊召喚できる。俺はデッキから『星王兵ゲイザー』を特殊召喚」
双星王の勅命
永続魔法
このカード名の①の効果は、このカードを発動したターン中のみ発動でき、「双星王の勅命」はフィールドに一枚しか存在できない。
①:一ターンに一度、自分フィールドに表側表示の「双星王」オーディナルモンスターが存在する場合のみ発動できる。デッキからレベル3以下の「星王兵」モンスター一体を特殊召喚する。
②:自分フィールドの「双星王」オーディナルモンスターが存在する場合、自分は通常召喚に加えて1度だけモンスター1体をオーディナル召喚できる。
星王兵ゲイザー ATK1000 ☆3
「そして、リンクの効果をもう一度発動、リンクとゲイザーを守備表示にして、デッキから『双星王イビルステラ』を手札に加える」
星王兵リンク ATK1700→DFE1000
星王兵ゲイザー ATK1000→DFE1000
「ゲイザーの表示形式が変更したターン。俺はカードを一枚ドロー出来る。そして、双星王の勅命の効果に寄り、俺の場に双星王が存在する場合、もう一度オーディナル召喚ができる」
「な……」
「俺は闇属性のゲイザーをシンボルリリース!今、星々の輝きを得て、邪悪に染まり、生誕せよ。オーディナル召喚、レベル6『双星王イビルステラ』!」
双星王イビルステラ ATK2400 ☆6
誠一郎 SP1→2
「一ターンに、オーディナル召喚を二回」
「パフォーマンスとしては十分だろ。魔法カード『星王の宝札』を発動。自分フィールド、または手札の『星王』モンスター一体を墓地に送り、デッキからカードを二枚ドローする。俺はリンクを墓地に送り、二枚ドロー」
星王の宝札
通常魔法
①:自分の手札、またはフィールドの「星王」モンスター一体を墓地に送って発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。
「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」
攻撃力2400のオーディナルモンスターが二体。
そして、セットカードが一枚。
まだ手札は三枚残っている。
「なるほど。私のターン。ドロー!」
天音は勢いよくドローした。
「ケイオステラの効果、相手ターンのスタンバイフェイズ。俺はSPを一つ増やす」
誠一郎 SP2→3
「放っておいたらやばいってことか……」
誠一郎は、一瞬だけ、天音の動きが止まった気がした。
が、天音はすぐに動く。
そこに至る表情の変化の仕方は、誠一郎は見覚えがあるものだった。
「私は手札から魔法カード『ラスター・ゲート』を発動。手札からレベル3以下の『フェイクラスター』モンスター二体を特殊召喚することができる。私は手札から『フェイクラスター・ルビー』と『フェイクラスター・アクアマリン』を特殊召喚!」
ラスター・ゲート
通常魔法
このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。
①:手札のレベル3以下の「フェイクラスター」モンスター二体を選択して特殊召喚する。
フェイクラスター・ルビー ATK1400 ☆3
フェイクラスター・アクアマリン ATK1400 ☆3
出現したのは、宝石の名を冠する二体のドラゴン。
「ルビーの効果発動。このモンスターの特殊召喚に成功した時、デッキからカードを一枚ドロー!」
フェイクラスター・ルビー
レベル3 ATK1400 DFE300 光属性 ドラゴン族
このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚した時、このカードのコントローラーはカードを1枚ドローする。
特殊召喚しただけでドローか。『聖鳥クレイン』と違って、リクルーターに対応する攻撃力と言うのも評価にはなる。
「そして、アクアマリンの効果、一ターンに一度、フィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力を、ターン終了時まで半分にする!『アクア・インパクト』!」
双星王ケイオステラ ATK2400→1200
双星王イビルステラ ATK2400→1200
フェイクラスター・ルビー ATK1400→ 700
フェイクラスター・アクアマリン ATK1400→ 700
フェイクラスター・アクアマリン
レベル3 ATK1400 DFE300 光属性 ドラゴン族
このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。
①:メインフェイズ1に発動できる。フィールドに表側表示で存在するモンスター全ての攻撃力を、ターン終了時まで半分にする。
「そう来たか……」
「そして私は、光属性のルビーとアクアマリンをシンボルリリース!」
二つの宝石の名を持つドラゴンがシンボルに変わる。
「双玉の竜。魂の咆哮を綴り、その力、我が手に宿れ。オーディナル召喚!レベル7『フェイクラスター・アメジスト』!」
フェイクラスター・アメジスト ATK2500 ☆7
天音 SP0→2
「アメジストは、相手モンスター全てに一度ずつ攻撃できる」
フェイクラスター・アメジスト
レベル7 ATK2500 DFE1500 光属性 ドラゴン族
オーディナル・効果
光属性×2
①:このカードは相手フィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃できる。
②:このモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、バトルフェイズ終了時、破壊したモンスター一体につき一枚。カードをドローする。
③:このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドの他のモンスターは攻撃できない。
『SP2』
「アメジストは、このカード以外の攻撃を封じる代わりに、相手モンスター全てに攻撃できる!バトル!アメジストで、ケイオステラとイビルステラを攻撃!」
「発動SPを一つ消費して、ケイオステラの効果発動。このターン。俺のフィールドの『双星王』モンスターは、戦闘では破壊されない」
「でも、ダメージは受けてもらうわ」
双星王ケイオステラ
レベル6 ATK2400 DFE1900 闇属性 ドラゴン族
オーディナル・効果
闇属性×1
①:一ターンに一度、SPを一つ消費して発動できる。このターン。自分フィールドの「双星王」モンスターは戦闘では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。
②:「双星王イビルステラ」が自分フィールドに表側表示で存在する場合、相手スタンバイフェイズに発動する。自分のSPを一つ増やす。
『SP1』
誠一郎 SP3→2
誠一郎 LP4000→2700→1400
一気に減らされていくライフ。
そして、その光景に最も驚愕したのは、彩里たちだ。
「……誠一郎。さっきの攻撃、防御出来なかったのかしら」
「いえ、それはないと思います」
「お兄ちゃんのフィールドにいるイビルステラが存在する時、手札一枚を捨てて、ダメージが発生するたびにそれを無効にできる」
双星王イビルステラ
レベル6 ATK2400 DFE1900 闇属性 ドラゴン族
オーディナル・効果
闇属性×1
①:自分が戦闘、及び効果でダメージを受ける場合、手札を一枚墓地に送ることでそのダメージを無効にすることが出来る。
②:「双星王ケイオステラ」が自分フィールドに表側表示で存在する場合、自分スタンバイフェイズに発動する。デッキからカードを一枚ドローする。
『SP1』
「この前見せた双星王とは違って防御的な効果ね……でも、それなら……」
「手札が三枚ある誠一郎は、ダメージを受けることはなかった。何を考えているのかしら……」
何が起こっているのかわからない。
ただ、不気味だ。
とはいえ、彩里たちに何かができるわけではない。
「私はカードを一枚セットして、ターンエンド」
「アクアマリンの効果が終了。俺のモンスターの攻撃力はもと通りになる」
双星王ケイオステラ ATK1200→2400
双星王イビルステラ ATK1200→2400
「そして、俺のターン。ドロー!スタンバイフェイズ。イビルステラの効果に寄り、ケイオステラが存在することで一枚ドローする」
ドローしたカードを見て、することは決まった。
「俺は魔法カード『魔導契約の扉』を発動。俺は手札のこの魔法カードを君に渡す」
一枚のカードを渡した。
それを見た天音は表情を一瞬だけ変えたが、すぐに戻した。
「そして、デッキからレベル7か8の闇属性モンスター……レベル8の『星王兵ジェネシスグラム』を手札に加える」
さてと……。
「俺は二体の双星王をリリース。手札の『星王兵ジェネシスグラム』をアドバンス召喚!」
二体の王が姿を消すと、将軍のようなモンスターが出現する。
星王兵ジェネシスグラム ATK2800 ☆8
「アドバンス召喚……」
「ジェネシスグラムの効果発動。SPを一つ消費して、相手フィールドの魔法、罠一枚を破壊出来る」
星王兵ジェネシスグラム
レベル8 ATK2800 DFE1400 闇属性 戦士族
①:一ターンに一度、墓地の星王兵モンスター一体を守備表示で特殊召喚することが出来る。
②:一ターンに一度、SPを一つ消費して、相手フィールドの魔法、罠一枚を対象にして発動できる。そのカードを破壊する。
誠一郎 SP2→1
破壊したのは『次元幽閉』だった。
「普通の効果モンスターが、SPを使うなんて……」
「勘違いしているようだが、SPを持つのはデュエリストの方だ。オーディナルモンスターは、極論、その供給源にすぎん。バトルだ!ジェネシスグラムで、フェイクラスター・アメジストを攻撃!」
天音 LP4000→3700
「俺はカードを一枚セット、ターンエンドだ」
「私のターン。ドロー!」
これで天音の手札は四枚。
そして、そのうち一枚は、誠一郎のカードだ。
天音の視線。
それは、誠一郎が渡したカードに注がれている。
何か、迷っているような感じだ。
「『ハーピィの羽根帚』を発動。あなたの魔法、罠を全て破壊する」
「……」
誠一郎は何もしない。
「『死者蘇生』を発動。墓地のアメジストを特殊召喚!」
フェイクラスター・アメジスト ATK2500 ☆7
蘇生したか。
まあ、それはいい。
さて、どう来るかな。
残っているのは、誠一郎が渡した手札と、もう一枚のカードのみ。
「わ……私は、『手札抹殺』を発動。手札をすべて捨てて、その枚数分、カードをドローする!」
誠一郎は、ニヤッと自分が笑ったのを自覚した。
誠一郎も、手札をすべて捨てて、その枚数分ドローする。
天音も一枚捨てて一枚ドロー。
安堵したような表情になる。
「SPを一つ消費して、『ゼロ・クライシス』を発動。ジェネシスグラムの攻撃力を0にする!」
天音 SP2→1
星王兵ジェネシスグラム ATK2800→0
「バトル!フェイクラスター・アメジストで、ジェネシスグラムを攻撃!」
アメジストがブレスを放出して、ジェネシスグラムを粉砕する。
誠一郎 LP1400→0
勝者、御堂天音。
次の瞬間、会場が拍手と熱狂に包まれる。
まあ、中には盛り上げるためのサクラもいるだろうが、それはいいとして、誠一郎は楽しい気分だった。
天音がこっちに歩いて来る。
そして、誠一郎が渡したカードをこちらに渡してくる。
「ありがとうございました。それでは、このカードはお返しします」
「おう」
そのカードを受け取る。
カードを確認する。
確かに、渡したカードだ。
リピート エフォーツ・アンド・ライズ
通常魔法
①:自分フィールドにオーディナルモンスターが特殊召喚されたターンのみ発動できる。相手フィールドのモンスター一体を破壊し、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える。このカードの発動に対して、相手は魔法、罠の効果を発動出来ず、このカードを発動するターン。自分はバトルフェイズを行えない。
「良く使わなかったな。俺の墓地のこれを読んでいたのか?」
誠一郎は墓地からカードを一枚取り出して、それを見せる。
逆に、驚いたのは天音の方だった。
クオリア・ルーラー
レベル1 ATK100 DFE100 地属性 戦士族
①:自分のモンスターを破壊する効果を相手が使用した場合、このカードを手札、または墓地から除外することで、その破壊を無効にして、相手モンスター一体を破壊する。この効果を発動するターン。相手に発生するすべてのダメージは半分になる。
「もし、天音が俺の魔法カードを使っていたら、逆に破壊されていたのはアメジストの方だった。
「あ、ありがとうございます」
天音は笑顔で、客席の方を向く。
「それでは皆さん。素晴らしいデュエルをしてくれた誠一郎さんに、もう一度盛大な拍手をお願いします!」
再び拍手が起こった。
天音のプレイングセンス。そしてデュエリストとしての勘に高評価を出すものもいるだろう。
客席に戻ってきた誠一郎に対して、彩里は何も言わず、フォルテは頭を抱えて、刹那はジーッと誠一郎を見て、聖は得に何もわかっていなかったようだ。
「誠一郎。あんた。なんであの魔法カードを渡したの?」
「いや、ちょっと試しただけだ」
そういって微笑む誠一郎。
その後も歌い続ける天音を見ながら、誠一郎はどうするべきかと考える。
「……?」
誠一郎は、返されたカードに添えられた紙を見る。
小さな紙片だ。
そこに、11個の数字がある。
(素直じゃないか)
少し、評価を上げた誠一郎だった。