「聖はこのあたりに来たはずだが……」
メリーゴーランドに乗った後、刹那は逃げるようにどこかに行ってしまったので、一番近い売店エリアに歩いてきた誠一郎。
リニューアルオープンと言うことで来場客も多いので、売店の方も客は多い。
「……多いのは火属性関係のモンスターのマスコットだな……」
爆炎獣をデフォルメしたようなものが多いのだが……燃えてるヤツが多いためだろう。ほとんど違いがない。
さすがに、首の数が多いオルトロスやケルベロスは分かるのだが、後のモンスターはポーズに違いがあるだけで特に変わった印象はないのだ。
「何か食べていくか……」
自由行動と言いきった以上、時間になるまで全員が集まることはないだろう。
軽く何か食べていくくらいなら別に大丈夫のはずだ。多分だが。
まだ土産などを買うタイミングではないので、軽食店のところに行く。
いろいろあるが、炎をイメージさせたいのか、熱いものや赤いものが多い。
誠一郎はそこまで食の好みにうるさくはないが……あ、激辛チャレンジの店がある。大丈夫なのか?
「……なんか、ボールが跳ねる音が聞こえるな。向こうからか」
サッカーボールやバスケットボールが跳ねる音が聞こえる。
行ってみると、スポーツコーナーがあった。
小さなものではあるが、ギャラリーもそこそこ楽しんでいるようだ。
「バスケットボールのギャラリーが多いな」
誰か有名人でも来てるのか?
行ってみると……。
「聖が暴れてる……」
ロングシュートをはじめ、横に跳びながらのサーカスシュート、背面シュート、さらには、ゴールを見ずにドリブル中に急にシュートしても入る。
物を投げることに関しての正確さはすさまじいと思っていたが、なんというか……化け物だ。
誠一郎もそれなりに本気でやればできなくはないが、聖のような自然さを出しながら入れるのは不可能である。
「あ。コートの端から高弾道でいれた。緑○かよ。髪、赤いのに」
しかも、利き腕関係ないのだ。右手でやっても左手でやっても普通に入る。君デュエリストとして大成できなくてもバスケット選手にになれるよ。絶対にマークが2、3人はつくから。
……あ、二人マークしてても、軽いミスディレクションを利用してぶち抜いた。
マークしてても無駄か。
……でもボールを持っていなかったら?
あ、スカイダイレクトで入れやがった。あいつどこのバスケ漫画から出てきたんだ?
スコアには三桁の数字が刻まれている。聖がいれると同時にどんどん増えていくので、稼ぎまくった感じか。
あ、バスケットコートのそばにある看板に何か書いてある。
『チーム戦!勝利したチームメンバー全員に、スコア2点につき100円の商品券をプレゼント!
※挑戦権は一人一度のみ』
スコアが三桁を超えている時点で聖のチームは5000円分が確定している。ということか。
そしてなるブザー。
相手チームの燃え尽きた表情が印象的だった。
「フッフッフ。稼いだ稼いだ。あ、誠一郎。来てたんだ」
「ああ……暴れてたな。聖」
「この商品券、優待券の割引と重複して使えるからね。無駄遣いしたくなかったから、ちょうどいいのがあって助かった」
理不尽な才能を言うのはこういうときに運営側に損害を与えるものだ。
まあそれはそれとして。
「あ。次はあれにする」
「ん?」
野球ボールを的に当てて、落とした枚数で景品が決まるゲームだ。
的は九つ。
簡単に言うなら。
1 2 3
4 5 6
7 8 9
↑こんな感じで並んでいるヤツだ。
「箱に入った十個のボールを使うんだな」
「九つ全部落とせばボックスでパックをもらえるみたいね」
なかなかの報酬だ。
下にもいろいろ書いてあるが、カードパックだったり商品券だったりと、会場の中で完結するタイプのものが多い。
一番下。オリジナルパッケージのポケットティッシュだ。一応、記念にはなるだろう。
「途中で棄権することもできるみたいだな」
「ボールを残して途中棄権もできるみたいね。箱にボールを入れた状態でスタッフに渡せば、追加報酬もあると」
そっちはリニューアルオープンの特例報酬らしい。
このゲームはワンプレイ500円で、ボール一個で50円のキャッシュバックだ。
このサービスが利用できるのは一人一回である。
「ふむふむ……投球エリアの外で地面に落ちたボールは箱に入れることはできない……か」
「おそらく、センサーで管理しているんだろう。丸くなっている投球エリアだが、ワイヤーのようなものがあるからな」
「なるほどね……」
そういって黒い笑みを浮かべる聖。
ニコニコ笑っている受付のお姉さんに五百円玉を渡して、ボール十個を入れた箱を受け取る。
そして、箱を投球エリア内において、一つを手に取る。
「目標は?」
「当然、全部取るわよ」
聖はボールを地面に当てて跳ね具合を確認している。
……なぜ?
と思ったら、聖はボールを全力投球。
数字の的『8』に当たって、的が落ちる。
さすがだ。
と思ったら、ボールがその間との奥にあった壁に激突。
そのまま『5』を貫通しながら戻ってきて、聖の手に戻ってきた。
聖は誠一郎の方を向いて。言う。
「これって一球目よね」
ひどい……これはひど過ぎる。
「……」
誠一郎は絶句するとともに、受付のお姉さんの方を見る。
お姉さんはマニュアルのようなものをとりだして開いた。
だが……すぐに止まる。
目次の時点で、何を見ればいいのかよくわからないからだろう。
気持ちは分かるが……。
そして、困惑しながらも言う。
「一応……問題はないと思います。ルール違反ではないですから」
とりあえず、ルールブックにもかかれていない奇天烈な方法だということは理解した。
結局、ボールを一つも投球エリアの外の地面に落とすことなく、聖は手に持った野球ボールで全ての的をぶち抜いた。
受付のお姉さんはよくわからないものを見るような表情を隠しながらも笑顔で対応してくれた。
パックのボックスと五百円。
それなりの損失になっただろう。ご愁傷さま。
「ふふふ。儲かったわね」
「何言ってんだか……」
誠一郎としてはもう何を言えばいいのかわからない感じだったが、追及しても仕方のないことだ。
「あ。あそこ、スペシャルパックがある。ちょっと買ってくるね」
聖は屋台に並んでいたパックを買いに行った。
だが……。
そのパックを掴んだのは、聖だけではなかった。
全く同じタイミングで、パックを掴んだ男がいる。
「……む?」
それは……綿あめを片手で頬張る火野正也だった。
「……ちょっと!これは私が先に目を付けていたんだからね!」
「五月蝿い!こういうのは早いもの勝ちだろう!」
ワーワーキャーキャーと騒ぎ出す二人。
おい、バイトの店員がおろおろしてるじゃないか。
「おい。お前ら、とりあえずデュエルで決めろ」
優待端末を見えるようにして、とりあえず金をはらっておく誠一郎。
一パック1300円(税込)……税別でも1200円くらいか。五枚入りだよな。何だこのぼったくりは。
まあそれはいい。あとでこいつらに払わせるだけだ。
「……お前は、遊霧誠一郎!一体なぜここに……」
「そりゃ、彼女が優待券を当てたからだが……」
「彼女?……ああ。あの『クロスロジック』を使っている人か」
彩里はルックスもスタイルも完成しているので、少なくとも話題には上がる。
ただ、正哉にはその雰囲気がない。
正也は、そういうのに呑まれるタイプではないようだ。
「まあそれはいい。誠一郎。ここでデュエルだ!」
「その前にパックをどうするか決めろよ……」
「む……そうか……」
正也は聖を見る。
「デュエルで決めるぞ!」
「何よ。レディーファーストって言葉知らないの?」
「それはお化け屋敷の前で言うことだ!」
何と、誠一郎と同じ考え方をしている正也。
聖はどういえばいいの変わらない表情になったが、デュエルの腕に自信がないわけではない。イーストセントラルではエリアDだが、弱いデュエリストではないのだ。
「近くに広場があるからな。そこで決めろ」
さすがに露天の目の前でやるのはマナー違反だ。
正論で勝負して二人を移動させる。
二人がデュエルディスクを構えて、離れて立った。
「さて、一応ルールだ。デュエルは一回だ。手札事故は認めない。で、勝った方がこのパックを購入する権利を得る。と言うことだ。代わりにはらっているだけなのでしっかり金を出すように」
そういうことに関しては、良い言い方をすれば真面目、悪い言い方をすれあケチな誠一郎。
「かまわん」
「上等よ」
二人がカードを五枚引いた。
「「デュエル!」」
聖 LP4000
正也 LP4000
「私の先攻よ。手札二枚を捨てて、手札から魔法カード『トレード・セット』を発動。カードを二枚ドローする」
この流れは……。
「そして、墓地の『凍結恐竜プテラ』の効果を発動。墓地から除外して、墓地の『ブリザード・エッグ』を一枚発動できる。そして、私はブリザード・エッグの効果で、一ターンに一度、手札の凍結恐竜モンスターを特殊召喚できる。私は『凍結恐竜ディメノコドン』を特殊召喚!」
凍結恐竜ディメノコドン ATK1300 ☆4
「ディメノコドンの効果によって、このモンスターをリリースしてオーディナル召喚されたモンスターの攻撃力は、300ポイントアップするわよ」
凍結恐竜ディメノコドン
レベル4 ATK1300 DFE0 水属性 恐竜族
①:このカードをリリースしてオーディナル召喚されたモンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
②;自分フィールドの「凍結恐竜」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外する。
「そして私は、水属性の凍結恐竜ディメノコドンをシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させて刃となれ!」
アンキロがシンボルになる。
「オーディナル召喚!レベル5『凍結恐竜セイバー・プテラ』!」
凍結恐竜セイバー・プテラ ATK2200→2500 ☆5
聖 SP0→1
「モンスター効果発動。オーディナル召喚に成功した時、デッキから『凍結恐竜』モンスター一体を手札に加える。私は『凍結恐竜ティラノ・エッジ』を手札に加える」
ほう……。
凍結恐竜セイバー・プテラ
レベル5 ATK2200 DFE1800 水属性 恐竜族
水属性×1
①:このモンスターのオーディナル召喚に成功した時、デッキから『凍結恐竜』モンスター一体を手札に加えることができる。
『SP1』
「私はカードを一枚セットして、ターンエンドよ」
「俺のターンだ。ドロー!」
聖が残した手札は二枚。
一枚はオーディナルモンスターだ。
セイバー・プテラを破壊すれば、デュエルの流れを一気に切り替えることが出来る。
そう考えて、正也はカードを発動する。
「俺は手札を一枚捨てて、フィールド魔法『爆炎倉庫ゲートソウル』を発動する。カード効果で、手札のレベル4以下の爆炎獣を特殊召喚だ。『爆炎獣ライオドール』を特殊召喚!」
爆炎獣ライオドール ATK1600→2000 ☆4
「そして、装備魔法『デュアル・ブレイズ』を装備、これにより、ライオドール一体で二体分のオーディナル素材にすることが出来る」
「こ……こんな簡単に……」
「俺は炎属性のライオドールをシンボルリリース!溶岩に紛れる豹よ。現世に現れ、瞳に映る獲物を滅せよ!」
現れる。
「オーディアル召喚!レベル7『爆炎獣マグマレオパルド』!」
爆炎獣マグマレオパルド ATK2300→3000 ☆7
正也 SP0→2
「一気に出してきた……」
「マグマレオパルドのモンスター効果。一ターンに一度、相手に800ポイントのダメージを与える!」
マグマレオパルドが雄叫びを上げると、聖を襲う。
「く……」
聖 LP4000→3200
爆炎獣マグマレオパルド
レベル7 ATK2300 DFE1200 炎属性 獣族
オーディナル・効果
炎属性×2
①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。
②:一ターンに一度発動できる。相手に800ポイントのダメージを与える。
『SP2』
800ポイントのダメージ。
多いといえば多いし、少ないといえば少ない数字だが、五回受けたら終了と考えるとバカにはできない数字だ。
「バトルフェイズ!マグマレオパルドで、セイバー・プテラを攻撃!」
マグマレオパルドが飛びかかる。
「フィールド魔法、爆炎倉庫ゲートソウルの効果により、爆炎獣の攻撃時、相手はカードの効果の発動はできない!」
(マズい。そうなると、ブリザード・エッグの効果で攻撃力が上がらない)
聖は冷や汗を流す。
セイバー・プテラとマグマレオパルドが激突する。
だが……どちらのモンスターも破壊されなかった。
「「え……」」
聖も正也も、状況を理解していないようだ。
誠一郎は溜息を吐きながら、解説する。
「知らんのか?ブリザード・エッグの効果は、バトルフェイズに入った時点ですでに適用される。バトルフェイズに入る宣言と、モンスターの攻撃宣言の間に、既に攻撃力上昇がついているんだよ」
凍結恐竜セイバー・プテラ ATK2500→3000
誠一郎としては、何故知らなかったのかが不思議だが。
ブリザード・エッグの効果は攻撃宣言時ではなく、バトルフェイズの『スタートステップ』の時点で発動する『永続効果』である。
「聖の墓地にあったディメノコドンの効果は俺も知っているが、墓地にある時に除外することで、凍結恐竜を破壊から守ることが出来る効果だ」
「ちょっと待て、ゲートソウルの効果で、効果の発動は……」
勘違いするデュエリストがたまにいるんだが……。
「これは『発動』ではなく『適用』だ。ゲートソウルの『発動できない』という制限を突破して効果を使える。さらに言えば、ディメノコドンの効果は強制的に発動されるから、特に宣言しなくともデュエルディスクが効果を勝手に処理するんだ」
「え……あ、そうなの?」
発動と適用は違うのだ。『復活の福音』にも言えるけどな。あれの適用効果は強制ではないが。
「対して、マグマレオパルドが破壊されなかった理由だが、ライオドールをリリースしてオーディナル召喚された爆炎獣モンスターは、一ターンに一度、戦闘で破壊されない。という効果が付与される。合ってるな?」
「あ……ああ、そうだ」
爆炎獣ライオドール
レベル4 ATK1600 DFE1200 炎属性 獣族
①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。
②:このモンスターを素材としてオーディナル召喚された「爆炎獣」オーディナルモンスターは、一ターンに一度、戦闘では破壊されない。
「結果として、セイバー・プテラの破壊はディメノコドンが墓地から除外されることで身代わりになり、マグマレオパルドの破壊は、ライオドールに付与された効果に寄って破壊されなかった。分かったか?」
「「分かった」」
「よろしい。デュエル続行だ」
正也は頷いた後、手札のカードを発動する。
「俺のバトルフェイズを終了だ」
凍結恐竜セイバー・プテラ ATK3000→2500
「そして、魔法カード『ブレイズ・インパクト』を発動。フィールドで一番攻撃力の高いモンスターが自分フィールドに存在する場合、メインフェイズ2に発動できるカードだ。相手モンスター一体を手札に戻す」
ブレイズ・インパクト
通常魔法
①:メインフェイズ2のみ、フィールドで一番攻撃力の高いモンスターが自分フィールドに存在する場合に発動できる。相手モンスター一体を手札に戻す。
②:自分のスタンバイフェイズ開始時、このカードを除外して発動できる。カードを一枚ドローする。
爆炎がセイバー・プテラを包んで手札に戻す。
「なんか。一歩遅いカードを使うのね……」
「だが、このカードは悪くはないぞ」
「そうなの?」
聖が誠一郎を見る。
「……ポイントとしては、対象をとらずに手札に戻すことだ。『対象にできない』と『破壊されない』という、二大耐性とも言える永続効果を突破できる」
破壊耐性や対象耐性を持つモンスターはそれなりに存在するが、そのどちらに対しても効果が及ぶというのはなかなかすさまじいことだ。
メインフェイズ2にしか発動出来ない。という効果がなければ、禁止カードになっていてもおかしくはない性能である。
「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」
手札が尽きた。
まあ、ブレイズ・インパクトでドローは可能だが。
「私のターン。ドロー!まずは、SPを一つ消費して魔法カード『シンボル・ドロー』を発動。デッキからカードを二枚ドロー!」
聖 SP1→0
手札を入れ替えたか。
「そして、通常罠『凍結連携』を発動。手札のオーディナルモンスター一体をデッキに戻して、カードをドローした後、デッキからレベル4以下の凍結恐竜モンスター一体を守備表示で特殊召喚する。私は『凍結恐竜セイバー・プテラ』をデッキに戻して、カードを一枚ドロー。そして、デッキから『凍結恐竜アンキロ』を特殊召喚!」
凍結連携
通常罠
①:手札のオーディナルモンスター一体をデッキに戻して発動できる。デッキからカードを一枚ドローし、デッキからレベル4以下の「凍結恐竜」モンスター一体を選択し、守備表示で特殊召喚する。
凍結恐竜アンキロ DFE1000 ☆4
「アンキロの効果で、一ターンに一度、墓地、または除外されている凍結恐竜を手札に加えることが出来る。私は『凍結恐竜ディメノコドン』を手札に加えて、『ブリザード・エッグ』の効果で特殊召喚!」
凍結恐竜ディメノコドン ATK1300 ☆4
「そして、水属性のアンキロとディメノコドンをシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させてあらわれろ!」
青のシンボルが二つ。
「オーディナル召喚!レベル7。『凍結恐竜ティラノ・エッジ』!」
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300 ☆7
聖 SP0→2
「オーディナル召喚……」
これが聖のエースモンスターか。
「私はティラノ・エッジの効果発動。相手モンスター一体の効果を無効にする!」
ティラノ・エッジの刃が飛んでいって、マグマレオパルドの効果が無効になる。
それと同時に、共通効果が無効になる。
爆炎獣マグマレオパルド ATK3000→2300
「このままだと攻撃力は同じだけど、ブリザード・エッグの効果で、ティラノ・エッジの攻撃力は500ポイントアップする」
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2300→2800
「バトル!ティラノ・エッジで、マグマレオパルドを攻撃!これで破壊出来る!」
聖のその言葉に、誠一郎は溜息を吐く。
「く……」
正也も汗を流している。
が……まあ、知っている人は知っていると思うが、破壊されることはなかった。
「「え?」」
正也 LP4000→3500
そして、二人ともわかっていない。
「……君たち。もしかして、マグマレオパルドがなぜ破壊されない?と考えているんじゃないだろうな」
「そうよ!私のティラノ・エッジの効果で、モンスター効果は無効になっているのよ!」
集まっているギャラリーも、『あのデュエルディスク。壊れているんじゃないか?』とか言いだすやつまでいるが、誠一郎は溜息を吐きながら説明する。
「はぁ……ティラノ・エッジの効果で、相手モンスターの効果を無効にしたとしても、ライオドールのような効果は無効にはならないんだ」
「え?」
周りも誠一郎に対して、『何言ってんだこいつ』見たいな目を向けてきている。
「君たち。『付与された効果』がどういった感じで扱われるのか知らないのか?」
「え?付与?」
「現在、マグマレオパルドが持っている破壊耐性は、『ライオドールによって付与された効果』であって、マグマレオパルド自身の効果ではない。だから、効果を無効にされても、ライオドールに寄って付与された効果は残るんだ」
「……なんで?」
「なんで?もクソもない。そういうルールだ」
耐性を付与する効果を持つカードはそこそこ多いのだが、表側表示のカードの『永続効果』に寄って付与され、さらに、付与していたその表側表示のカードの効果が無効になることで、フィールドに付与されていた効果がなくなる。と言うシーンがデュエルでは多い。
例としては『ワイド夫人』あたりか?
ともかく、付与された効果は無効にはならない。
ギャラリーも気が付いてきたようだ。
中には携帯端末で確認しているものもいる。
「……まって、それじゃあ、戦闘では破壊できないってこと?」
「とはいっても無敵感はゼロだがな」
一ターンに一度だけだし、一度裏側守備表示にすれば効果も消える。
まあ、知っていればいいだけのことだ。
(刹那は授業で聞いていたと言っていたが……それについては今は言わない方がいいか)
デュエルモンスターズのルールはそこそこ難しい。
気を付けよう。間違えるとジャッジされるぞ。
「むう……まあいいわ。カードを一枚伏せて、ターンエンド」
凍結恐竜ティラノ・エッジ ATK2800→2300
爆炎獣マグマレオパルド ATK2300→3000
「俺のターン。ドロー!スタンバイフェイズ開始時、墓地の『ブレイズ・インパクト』を除外して、皿に一枚ドロー。まずはマグマレオパルドのモンスター効果。800ポイントのダメージだ」
「くっ……」
聖 LP3200→2400
若干危険な感じになっているような気がするな。聖。
「そして、手札から『サイクロン』を発動!『ブリザード・エッグ』を破壊する!」
「手札を一枚コストに『アヌビスの裁き』を発動!やっぱり学習してないみたいね」
「頭が足りないのはお前の方だ。カウンター罠『爆炎の海域』発動!相手の魔法・罠カードの発動を無効にする。本来ならライフコスト1500が必要になるが、爆炎獣オーディナルモンスターが自分フィールドにいる時、コストは不要となる」
「な……」
爆炎の海域
カウンター罠
このカードを発動するとき、自分フィールドに「爆炎獣」オーディナルモンスターが存在する場合、ライフを支払う必要がなくなる。
①:1500ポイントのライフをはらって発動できる。相手が発動した魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する。
アヌビスの裁きが無効となったため、サイクロンの効果でブリザード・エッグが破壊される。
「バトルだ!マグマレオパルドで、ティラノ・エッジを攻撃!」
「む……」
聖 LP2400→1700
「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」
「私のターン。ドロー!」
聖は二枚の手札を見る。
「私は、私のSPを全て消費して、魔法カード『序数世界の大洪水』を発動!」
聖 SP2→0
「このカードの発動時に消費したSPの数、自分フィールドに、水属性の『洪水トークン』を特殊召喚できる。私は、二体の『洪水トークン』を特殊召喚!」
洪水トークン ATK0 ☆1
洪水トークン ATK0 ☆1
序数世界の大洪水
通常魔法
「序数世界の大洪水」はデュエル中に一度しか発動出来ない
①:シンボルポイントを全て消費して発動できる。消費したシンボルポイント一つにつき、自分フィールドに「洪水トークン」(水族・水・星1・攻/守0)を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたトークンは、他のカードの効果に寄って水属性以外の属性として扱うことはできない。
「トークンを出してリリースを……」
「その通り!。私は水属性の洪水トークン二体をシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させてすべてを砕け!」
青のシンボルが二つ。
「オーディナル召喚!レベル8。『凍結恐竜ブラキオ・バスター』!」
凍結恐竜ブラキオ・バスター ATK2700 ☆8
聖 SP0→2
「ぶ……ブラキオサウルスか……」
「効果発動!オーディナル召喚成功時、デッキ、または墓地の『ブリザード・エッグ』一枚を発動する!」
「破壊したのにもう戻って来るのか……」
凍結恐竜ブラキオ・バスター
レベル8 ATK2700 DFE2000 水属性 恐竜族
オーディナル・効果
水属性×2
「凍結恐竜ブラキオ・バスター」の②の効果は、一ターンに一度しか発動出来ない。
①:このモンスターのオーディナル召喚成功時、デッキ、または墓地の「ブリザード・エッグ」一枚を選択して、発動することが出来る。
②:シンボルポイントを二つ消費し、相手の表側表示のモンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを破壊する。その後、このカードが表側表示で存在する限り、破壊したモンスターの列に存在する相手のメインモンスターゾーンは使用できない。
『SP2』
「SPを二つ使って、相手モンスター一体を破壊する!そして、破壊したモンスターゾーンの使用を禁ずる!」
聖 SP2→0
「何!?」
「ブラキオ・バスターは、相手を粉砕するだけなんてことはしないわよ。そのゾーンごと踏み抜く!」
ブラキオ・バスターがマグマレオパルドを踏みつけると、マグマレオパルドが破壊されると同時に、マグマレオパルドが立っていた真ん中のモンスターゾーンがベキベキになった。
「まさか、フィールドごと踏み抜くとは……」
「唖然としている暇はないわよ!バトルフェイズ!まずはブリザード・エッグの効果で攻撃力が上がる!」
凍結恐竜ブラキオ・バスター ATK2700→3200
「そして、ブラキオ・バスターでダイレクトアタック!」
「罠カード『爆炎獣のDNA』を発動!相手モンスターのダイレクトアタックを受ける時、攻撃を無効にして、デッキから『爆炎獣』と名の付いたレベル1モンスターを二体まで、攻撃表示で特殊召喚できる!俺はデッキから『爆炎獣リトルタイガー』を二体、特殊召喚だ!」
爆炎獣リトルタイガー ATK500→600 ☆1
爆炎獣リトルタイガー ATK500→600 ☆1
爆炎獣のDNA
通常罠
①:相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にして、デッキからレベル1の「爆炎獣」モンスター二体を攻撃表示で特殊召喚する。
「む……私はターンエンド」
凍結恐竜ブラキオ・バスター ATK3200→2700
「俺のターン。ドロー!……よし、俺の勝ちだ!」
「え……」
「行くぞ。これが俺のエースモンスターだ。俺は炎属性の爆炎獣リトルタイガー二体をシンボルリリース!熱き道を行く獣たちよ、今その激情を糧として、凍える炎で焼き尽くせ!」
リリースされた赤いシンボルは、青く変わる。
「な……」
「オーディナル召喚!レベル8『爆炎獣コキュートスレオン』!」
現れたのは、水色の毛並みの大きなライオン。
爆炎獣コキュートスレオン ATK2500→3300 ☆8
正也 SP2→4
「な……なに?そのモンスター」
「俺のエースモンスター。爆炎獣コキュートスレオンだ。効果発動!SPを一つ使って、相手フィールドの全ての表側表示のカード効果を無効にする!」
「な……」
正也 SP4→3
ブラキオ・バスターとブリザード・エッグが、水色の炎の鎖で封じられる。
「そしてさらなる効果!SPを二つ消費して、自分の墓地の『爆炎獣』オーディナルモンスター一体を除外し、ターン終了時まで攻撃力を1000ポイントアップする。マグマレオパルドを除外!」
正也 SP3→1
爆炎獣コキュートスレオン
レベル8 ATK2500 DFE900 水属性 獣族
オーディナル・効果
炎属性×2
①:このカードが表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、このカードのレベル×100ポイントアップする。
②:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。ターン終了時まで相手フィールドの表側表示のカードの効果はすべて無効になる。
③:一ターンに一度、シンボルポイントを二つ消費して発動できる。自分の墓地の「爆炎獣」オーディナルモンスター一体を除外して、ターン終了時まで攻撃力を1000ポイントアップする。
『SP2』
爆炎獣コキュートスレオン ATK3300→4300
「そんな……」
「バトルだ!コキュートスレオンで、ブラキオ・バスターを攻撃!」
コキュートスレオンの咆哮で、ブラキオ・バスターは砕け散る。
……サイズに違いがありすぎるからだろうか。
聖 LP1700→0
「俺の勝ちだ!」
そういって手を突き上げる正也。
強くなっているな。
「これでそのパックは俺の物だ!」
「そうだな。だがその前にまず、金を払え」
立て替えていただけだ。おごるつもりは毛頭ない。
そうだった。とばかりに財布をとりだして1300円をとりだす正也。
そのあたりは素直に出すんだな。
「またな。誠一郎。今度は俺とデュエルだ!」
「今からでもいいぞ」
「情報アドバンテージを与えたうえでデュエルしても負けるだけだ。次の機会にする」
そういうと正也は歩いていった。
溜息を吐くと、誠一郎は聖のところに行った。
珍しく沈んでいる。
「はぁ……火野正也かぁ……エリアFって言ってたのに、強かったわね」
「そうだな。だがアイツは……デュエルを楽しんでいる。まあ、その割にルールをしっかり分かっていないようだがな。それは聖も同じだが」
「うぐ……」
「デュエルディスクが処理するからと言って、それに任せっきりにしていたら、いつか足元をすくわれるぞ。ルールを利用した戦術っていうのは、それなりにあるからな」
「……そうね。それをわかっていたら、使うカードももうちょっと考えるかも」
そういうものだ。
「それにしても、あのオーディナルモンスター。一体どういうこと?」
「コキュートスレオンのことか?」
「うん。私、見たことが無いもん。リリースするモンスターと、召喚されるオーディナルモンスターの属性が違うなんて……」
「彩里が言っていたが、オーディナル召喚って言うのは、属性を揃えるんじゃなくて、求める召喚方法だ。そういうものがあると思うだけでいいと思うぞ」
「そんなものかな……」
そういうものだ。
「まあ、気にすることはないさ」
「……誠一郎なら、負けてなかったよね」
「俺が負けるところを想定できるか?」
「……無理」
「なら、それでいいだろ」
自分が後ろにいることで、安心する人間がいる。
誠一郎と言うデュエリストは、そうありたいと思う。
ただ、それだけだ。