チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
第八話タイトルは「交通法違反」でした。
ちょっとだけ、主人公の体質の意外な点が見られるかも?
では、どうぞ。
*
僕にとって未踏の地というのはそれだけで危険だ。
道を人に尋ねられない。地図が読めない。不作法をした場合、言い訳ができない。
まともに人と話せないというのは自身がその土地に馴染んでいなければいない程強固な壁となって道に立ちはだかる物だ。
故に僕は、
「……」
仮想型ディスプレイで律動ヘヴンをプレイする――ッ!
例の大量生産ゲーは放置していても大丈夫なので、今日は妹が入れてくれたリズムゲームを遊ぶことにした。
勿論、ビジネスホテルの中で。
九校戦は明後日から。
人と話す用事は無い。
さっき下の自動販売機で買ってきたご飯(カ○リーメイト)も十分。
僕に死角はない!
*
「……」
九校戦懇親会の来賓挨拶。
大人達の挨拶が滞りなく進み、最後に出てきたトリック・スターこと九島烈の「手品」に、達也は強烈な既視感を覚えていた。
目立つ物を用意して、人の注意を逸らすと言う事象改変とすら呼べぬ「改変」。大勢に、一斉に引き起こすための微かで弱い、故に気付くのが困難である魔法。
精神干渉系魔法。全く同一のモノではないだろうが、達也はこの「結果」に覚えがあった。
追上青の視線外しだ。
確実に、一挙手一投足を見逃さぬよう努めていたはずなのに、いつの間にか深雪に向かって腕を伸ばしていたあの男のソレととても良く似ている。
一瞬とはいえ、達也の「精霊の眼」からも逃げ遂せたソレが精神干渉系魔法で、八雲の言う通りBS魔法の類いだとすれば、なんと厄介な事だろうか。
技術的なものであれば対策の取り様があるし、CADを使っての魔法行使であっても達也なら無効化の手段がある。だが、先天性の
CADを使わずとも行使できるコレは隠密性が高く、かけられた後で無ければ気付けないその厄介さは、達也もまたBS魔法を扱うが故に身にしみてわかっている。身内に精神干渉系魔法を使う者がいる故に、そちらの対処のし難さもまた、同じく。
しかし、そうであるのならば、何故奴は普通の魔法を扱える?
達也自身のソレは、後天的に創り上げられた魔法演算領域があるからだ。
ならば、追上もまたそういう処置を受けた存在だと言うのか――?
九島の演説が終わり、拍手が起きる。
達也もまた拍手を送った。ようやく見えてきたあの不良生徒の足掛かりの、礼として。
*
「うあー……」
気付けば二日経っていた。正確には一日半。
恐ろしい……誰にも何も言われない時間って恐ろしい!
小学校も中学校も僕はヤンキーファッションで過ごしていたが、丸一日誰にも何も言われない、なんて事は無かった。小学校は学校の先生が諭す様な口調で、中学校は上級生が脅す様な口調でそれなりに話しかけられたものだ。
生まれた時からこの体質で、生まれた時からこのチート染みた力を持っていた僕は、その力を遺憾なく(バレないように)発揮して、先生や上級生を躱していた。
だからか、会話こそなかったものの時間だけが早く過ぎ去る、という事は中々無かったんだ。なかなかなかなか大変だったんだ。
家にいれば妹や母親が話しかけてくれるし、高校でも何かしら……あ、いや、うん。
レオ君は話しかけてくれるが、基本僕ぼっちだったっけ。いやまぁ自分で招いた結果だから気にしていないのだが。
というより、魔法科高校は学ぶことが多いから時間を潰す、っていう概念がないんだよね。
だからこうして久しぶりに一人の時間で且つ暇つぶしの日だったから、体感時間二時間もないくらいで九校戦当日になっちゃった、というわけだ。
「……」
さて、九校戦である。
妹のナビゲーションによってスピードシューティングの観客席に着いた僕は、視線外しと光の軌道逸らしを盛大に使って最前列にいる。情報端末はすでにカメラモード。充電はばっちし。チョベリグ。
光の軌道を逸らして何をしているかと言えば、カメラの向く先を弄っているのだ。カメラの視野角というか画角が見えるし操れる。ちなみにその辺の監視カメラの画角も見えるし、こちらも画角を操れると言えば操れるが、物凄く映像が歪んでしまうのであまりやらないようにしている。
ビバチート染みた力。僕が割り込んで入ってきた事は誰も気付いていないし、僕のカメラの画角は誰にも邪魔されない。
さぁ来いメロンパンナちゃん! その美貌、その肢体、その揺れ!!
全て収めてやる!!
*
七草真由美のスピード・シューティングを見る為に観客席へと来た達也達。途中、エリカ、レオ、幹比古、美月とも合流し、観客席の後列で競技の開始を待つ。
前列に行かないのは、高速で飛来する標的を撃ち落す様を見たいのであって選手を見たいわけではないからだ。それでも前席の方に客が多いのは、
「バカな男が多い所為ね~……って、あれ?」
「青少年だけではないようだがな……どうした?」
「いや、あれ……ほら、あの金髪」
いた。
最前列。大きな機材を持った男やキャーキャー叫ぶ女の子たちに紛れて、フィルムディスプレイ型の情報端末を持った見覚えのあり過ぎる男子。しっかり脇を締め、ブレがおきないように(この時代にもなればとても強い手ブレ補正がついているのだが)しっかりと腰を落とす格好で端末を構えている。
視線の先にいるのは勿論、七草真由美。
射撃場所である上空ではなく、プレイヤーである真由美を激写せんと構えているのは丸わかりだった。
「ま、アイツも男だった、ってことだな!」
レオが快活に笑う。
そう、魔法の発生速度を見るにしても、魔法の規模や干渉力を見るにしても、知覚範囲を見るにしても、プレイヤーである真由美を見ている必要は欠片として無いのだ。
もしあるとすれば、その美貌や肢体そのものへ興味を抱いている場合……つまりレオの言う通りの場合だけだろう。
いや、もしくは……達也と同じような目を……?
「あ、始まるわよ」
エリカの声に顔を上げる達也。
開始のシグナルが点った。
*
あんまり揺れない。
スピード・シューティングは文字通り早撃ち競技だ。クレー射撃みたいなものだ。
だからもう少しこう、身体を横に振るなりして揺れるものだと思っていたのだが、真由美先輩は不動だった。不動のまま、飛んでくる標的すべてを早い弾で砕いている。
一応動画と写真のどちらも撮ったが、これで妹の彼氏君は満足してくれるのだろうか?
こう……女の子の写真としては、色々と足りないような……。
まぁ、いいか。そもそも妹の彼氏なワケだし。そんな不埒な写真撮って帰って二人の仲に罅でも入ろうものなら土下座ものだ。
しかし、この競技……僕と相性いいなぁ。
アイオーンに遠隔系の魔法は入っていないから実際に今からやるとなると難しいが、何処に何がくるかわかる僕にとってこの競技ほど簡単な物はないというか……。
なんなら全部の標的をバレないようにズラして一点にまとめることだってできるわけで……。
そう考えると、それが出来ない真由美先輩の凄さがわかる。
「おぉ、うおい」
おお、すごい。パーフェクトで終わった。
軌道も見えない、操れないのに全発全中って……流石は生徒会長だなぁ。
でも……、
「あっえいあいあぁ……」
やってみたいなぁ……。
そんな風に、思ってしまうのは仕方のない事だと思う。
九校戦なんて……出られるわけも、ないのだから。
*
「Almost…… as『
その呟きは、今までの彼の言動からは浮いているように感じた。
まるで
独唱曲。確かに言い得て妙だと達也は思った。
ステージの上で毅然とした態度で前を見据える真由美。彼女の
……少し、いやかなりクサいな、とは自分でも思ったが。
どちらにせよ、
相手が心無い機械や化け物ではなく人間ならば、取れる手段は一段と増えるのだから。
発足式とは違う、おざなりではない拍手をする追上を見ながら、達也はそう独り言ちるのだった。
*
「相手」に「意志」を伝えようと思っていなければ、「言葉」を「普通」に使える(意味深)