チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
今回は勘違い要素薄めです。
それでは、どうぞ
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五月になった。
絶対にお咎め、というか警察の関与があるよなぁ、と戦々恐々としていた僕だが、時が過ぎれども何も無し。何かあるより何もない方が恐ろしいと言うべきか、僕のチート染みた力への追及も無ければ桐原先輩や達也君の過剰防衛に対する問い質しも無し。
文字通り何事も無く五月になった。
もっともここで言う「何事」は事件に関する事だけで、人間関係の方で言うのならば……進展、そう言っても許されるだろう事があった。これは僕にとって結構な重大事件だったりする。
それは、
「よ、青。おはよーさん」
「ん。あぁ、
輝く性格イケメンこと、レオンハルト君との仲が深まった、という事。
こういう言い方をすると変に捉えられるのでもっとしっかりとした言い方に変えるのならば、「友達」と――そう、呼べる存在になったのだ。
ギリギリ――そう、ギリギリ、レオをェオと発音しても名前だとわかってもらえる。
達也君とか深雪ちゃんとか、エリカちゃんとかおっぱいメガネちゃん(まだ名前を知らない)とか、発音できない子達との交流は全然だが……レオ君だけは頑張って呼んでみた所、彼も僕の事を下の名前で呼んでくれるようになったのだ。
これは大きな一歩である。
無論今までの人生に母音ーッンだけで構成された名前を持つ人間がいなかったわけではない。愛とか葵とかそういう名前を持つ子は少なからずいた。が、僕のこの
レオ君がここまで親身になってくれているのは恐らくあの共闘が原因だろう。
テロリスト相手の大立ち回り。使用魔法の近似や戦闘スタイルの噛み合い。少年漫画で言う戦友と書いてトモと読む、みたいな信頼性が生まれたのだ。
……と、僕は信じている。信じたい。
「今日は壬生先輩の退院日なんだってよー」
レオ君は僕の口数が極端に少ない事をそれとなく感じ取ってくれているらしく、相槌も求めずに色々な事を話してくれる。無論彼の占める時間の割合は達也君たちやエリカちゃんと共に居る事の方が多いのだが、一割でも僕に割いてくれているそのイケメンっぷりに、僕の頭は下がり過ぎて地面にめり込む勢いだ。
ちなみに壬生先輩というのはあの日ベッドで横になっていた女子生徒の事。
レオ君曰く怪力女ことエリカちゃんに叩きつけられて骨が折れていたのだとか。エリカちゃんは怒らせないようにしよう。
とにかく、僕は第一高校に入って初めての友達が出来ました。
家族に報告したら、飛びあがって喜んでくれた。本当に、良い家族だ。
よし、これからの学校生活も頑張るぞ!
*
七月中旬。
僕の心は折れかけていた。
原因は、定期試験。
魔法の実技テストはまだ良い。チート染みた力を使えば、個別の部屋でやる分には何ら問題なく行使できるから。
問題は、魔法理論の記述式テストだ。
知っての通り、僕は母音ーッンしか書けない。
一時期はどうにかして母音ーッン以外を
そんな僕が、だよ。
魔法理論の記述? ハハッ、出来ない出来ない。
ペーパーテストは捨てた。他の普通科目も、普段の提出課題が評価点になるため、当たり前だが文字を書けない僕はほとんど提出していないので超低評価。
家族は魔法理論なんてさっぱりだから頼めないし、そもそも僕が頼みたくない。家族に課題やってもらう高校生とか……ないない。
そんなワケで、見るも無残な、という言葉がしっくりくるレベルまで劣等生評価を受けた僕は、しかし呼び出される事は無かった。
ふざけているのか、くらいは言われると思ったのだが……。
まぁ一応魔法実技の方はしっかりとやったし、処理能力と干渉力に関してはチート染みた力の方を使えば一科生にも勝る自信がある。オイシャサマがBS魔法と言ったコレは、文字通り思いのままにエイドスを改変できるからね。
反面魔法規模の方は今一だったりする。何故って、僕のこのチート染みた力は魔法式なんて構築しないから。よって構築しうる魔法式は自分のCAD……つまりアイオーンに込められたものだけとなり、一番大きいもので三工程のものしか入っていない。(ちなみにエアとアイアンは一工程だ。どちらもその後の事は考えていない)
ということで、なんとか落第は免れた(魔法実技が重要視されるため)が、劣等生も劣等生な結果に終わった、というワケで。
貼り出された定期試験のランキングを見て、ランク外の文字に僕の心はブロークンファンタズムしかけていた。
これが最初のテストで、これからどんどん評価基準が上がって行くのなら……果たして、僕は無事にここを卒業できるのだろうか。
自主退学をしなければ、余程の問題を起こさない限り退学させられる、ということはないだろう。だが、魔法科高校の卒業資格は与えられず、魔法科大学へ進学するための前提すらもらえない結果になるだろう。
それはまぁ、割と困る。
そもそも魔法科高校に入りたいと思った理由は、分かっているかとは思うがこの症状の治療、もしくは制御を学ぶためだ。
最悪チート染みた力の方が使えなくなっても良い。良いから、普通に喋れるようになりたい。ぶっちゃけ魔法師としての素養が無くなっても全く以て構わないので、言葉を取り戻したい。元から持ってないが。
それが、僕がここにいる理由。
魔法科大学にならば、僕を治癒し得る人、もしくは魔法がある事を願っている。
オイシャサマや魔工技師でも治せなかったこの症状。というか、治るか治らないかだけでも良いからはっきりさせたいのだ。治る可能性が一厘でもあるのならそれを死ぬ気で目指すし、不治だと断定されればそれはそれで向き合っていく。
今のオイシャサマは何故こういう症状が起きているのか、は説明してくれても、どのようにすれば治るのか、はわからなかった。だから、僕は魔法科大学に進みたい。
……なんて、格好つけておいて、この
「……あぁ」
普通の人なら、溜息をつけばハ行を扱える。
僕の溜息は「あぁ」になる。はぁ~。
「ああ、うん」
だめだめ。
一人でいる時に落ち込み、そのまま
明るい事。
……明るい事……?
太陽を見上げる。
うおっ、眩しっ。
「……あー」
うん、馬鹿な事をやったら気分が晴れた。太陽だけに。
まぁ、なんとかなるさ!
*
「青ッ!」
魔法科高校にも魔法以外の授業は当然のようにある。
そんな普通科目の一つ、体育。科目はレッグボール。フットサル派生の……なんだろう、実はスーパーボールなんじゃないかってくらい跳ねまわるボールを、透明の箱のようなもので覆われたフィールドで蹴り合う競技だ。ヘディングがハンド扱いなとこ以外は、まぁ大体サッカーと同じ。とはいえ凄まじく跳ねまわるボールなのでドリブルは至難。
足を使うポートボールだと考えた方がいいかもしれないね。
ところがぎっちょん。
僕に限って言えば、その認識は少し変わってくる。
僕は物の行き先が見える。操れる。その軌道がどういう干渉を受けたらどう逸れるのかまで見える。
どれだけ反発力があろうが、何処に跳ぶのか分かっていれば対処は容易い。
コート上にいるプレイヤーの軌道だってわかる。急停止された場合はその限りではないが、その身体がそのまま走ったらどういうラインを辿るかが見えるのだ。故にフェイントは効かないし、相手の視線(視界の最も濃い部分)がどこを向いているかわかっている僕のフェイントは必ず通る。
レオ君がくれたパス。他の生徒は僕を忌避し、嫌厭する故に僕にパスを出す事は無いが、レオ君はその限りではない。むしろ僕の身体能力を知っているからこそ頻繁にパスを出してくれる。
そして僕は、その期待に応えるだけの力がある。
「ォォオオオアアアア!!」
ドリブルをしない事が基本であるから近づいてくるプレイヤーはほとんどいない。故にディフェンスがいるぎりぎりまでをドリブルで接近し、パッと見では絶対に入らない角度で――しかし、
キーパーが魔法を使わなければ絶対に届かない場所へ向かって抉り込むように放たれたシュートは、魔法を使わない、つまり自然に起こり得る範囲での最大限の鋭角を描いてゴールを穿つ。
こういうスポーツの選手になるのもいいなぁ、なんて思う事はあるのだが、こういう競技こそチームプレーが第一だ。意志の疎通がうまくいかないワンマンプレイヤーなんて、すぐに対策を練られてしまうだろう。あと僕、インタビューとか答えられないし。
「ナイッシュ!」
「おう」
レオ君とハイタッチ。
いやぁ、しかし良いね。こういう汗を流すスポーツは嫌いじゃないよ。
というか好きだよ。
「っと、休んでる場合じゃないよな」
「……ああ!」
僕の見た目は
この後めちゃくちゃレッグボールした。
*
「意外だ、って顔してるぜ、達也」
「……いや、身体能力の面から言えば然程驚きはないさ」
見学レーンに戻ったレオの達也に向けた第一声がコレだった。 試合はレオ、達也、追上、そして細身の男子生徒――吉田幹比古の活躍によって圧勝。むしろ圧倒的なまでのディフェンス力を誇る追上のおかげで失点無しの完全試合となった。
「俺だってそっちを言ってるわけじゃねえよ。意外だったのは、青があんなに真面目に授業を受けてる、ってトコだろ? それもこんな、チーム一丸になってやるスポーツなんかに」
その指摘に、達也は「半分は当たりだな」、と思う。
この七月までの間に体育の授業が無かったというわけではないが、基本的にサボタージュを敢行するか一匹狼を貫いていた追上。だからこそ、今回のようなチームプレーを主体とする競技こそ面倒くさがるのだと思っていた事は事実だ。故にその半分は当たっている。
だが、もう半分は違う理由。とはいえこっちはレオが気付けるわけも無い。
残りの半分とは、西EUの
学校の教師陣は低成績者に目をくれる事は無い。達也のように実技と理論がしっちゃかめっちゃかしている場合はその限りではなかったようだが、二科生にまで割くリソースのない学校は
だからこそ、追上が入学時点から不良生徒であり続ける事は意味があったのだ。
だというに、その能力を隠そうともしないのは不可思議だ。魔法ではなく体育の授業故にトレーナー資格を持った職員がいるのだから、記録にも記憶にも残る。特に今日の授業は観客も多く、追上の運動神経の良さはE組、F組共に知れ渡った事だろう。
魔法こそ絡んでいない授業ではあるが、一般科目でも定期試験前と定期試験後で成績結果や授業態度が段違いであれば怪しまれることなど容易にわかるだろう。
それとも、注目されたい理由があるのか?
「そうだね……偏見になるけれど、僕も彼はこういうスポーツは、参加しても不真面目にやると思っていたよ。
けど、周りも良く見えているしフェイントなんかの技術もしっかりしている。特に弾道予測が格段に上手い。正直、あのボールをドリブルした時は目を剥いたけどね」
「あぁ、あれは俺も驚いたぜ。あのボール、ドリブル出来たんだな」
先程交流を持った幹比古がレオと達也の話に入ってくる。
幹比古が正に良い例だろう。不良生徒だと思っていた追上の
――それが狙いか?
「……それにしても、レオ。随分と追上と仲良くなったようだが」
「ん? あぁ、そうだな。あんまり喋らないヤツだけど、割と普通に付き合えるぜ?」
「――なんだ、やっぱりソッチなの? アンタ」
ふと、不意に声がする。
聞き覚えのある声に三人が振り返ると、そこにいたのはエリカ。と、美月。
ソッチってなんだよ、とレオが聞き返そうとして、その恰好を見てフリーズした。
*
それは休憩時間の事だった。
天使が、舞い降りたのだ。
お山こそ低いものの、その余りにも健康的な御魅足は崇めたくなるほどの美しさ。
いや、いやいや!
昔は普通に見られた光景だが、この時代においてそれはもう、情欲を掻きたてると言っても過言ではない
そう!!
ブルマきたぁぁあああああああ!!
ナァイスだよエリカちゃん! 暗い事考える僕の頭の中がブルマ一色、いや、その健康的な脚で埋め尽くされたよ! いやぁ世界は明るいね!!
*
「む?」
「どうした、エリカ」
「いや、今一瞬視線を感じたような……」
*
主人公は当たり前ですがネット検索機能を使う事が出来ません。トップページからのサーフィンなら出来ますが。
故に、色々と溜まっているのです(何がとは言いませんが)
ゲーム等々は全部妹が紹介・インストールしてくれています。