チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第五話のタイトルは「嵐の前の静けさ」でした。
今回チート染みた力が出てきます。
合わない方もたくさんいらっしゃるかと思いますので、前置きさせていただきました。

テロリスト回になります。


あいおうあ あーああー

*

 

 

 

 公開討論会とやらは強制参加ではなかった。

 だから僕は普通にCADを返してもらって、普通に帰ろうとしていたのだが……。

 

「……」

 

 もうね。

 思いっきり怪しい黒塗りワゴンカーが学校の近く――実技棟の裏手――に止まっていた。

 そして中の人間が見ているのは第一高校。僕のチート染みた力の性質上、そういうのはよくわかる。

 そして、綺麗な放物線を描いて実技棟の窓に向かうそのもう一つの線に溜息を吐く。

 

 散々勿体ぶったが、僕のチート染みた力というものについて軽く説明しよう。

 僕には、物の線や軌道が見えるんだ。あ、なぞったら死んじゃうアレじゃないよ。

 

 日常生活でよく使う視線外しや3Pシュートが得意って言った理由もこのチート染みた力に由来する。そのエイドスがこれから行く軌道の予測……というか、ラインが見えると言うか。

 弾道予測なんか計算しなくてもわかるし、誰が、もしくは何がどこを向いているかもわかる。

 

 そして、わかるだけでなく操れる。

 視線や意識を視認・操作する方は系統外魔法……それも精神干渉魔法のBS魔法で、エイドスの移動予測・操作は移動魔法のBS魔法だってオイシャサマは言っていた。CADを使わなくても念じるだけで出来てしまう魔法。

 ON/OFFの切り替えは出来るし、見たいラインだけを特徴的な色に変える事も出来る。

 これが、僕のチート染みた能力だ。

 

 そして母音ーッン語しか発せられない原因でもあったりする。

 

 正直僕は納得していないのだが、オイシャサマの話に寄ればこういうことらしい。

 

・僕の脳は物の先を見る事が出来る。

・よって僕の脳は常に最終端にいるに等しい。

・だから僕は言葉の終端である母音ーッンしか発せられない。

 

 なにが「よって」なのか、なにが「だから」なのか今一……というか全くスッキリしない答えなんだが、そのオイシャサマはこういうことだ、って断言した。 まぁ普通の病院に行っても「様子見ですねー」とか「何が原因かはわかりませんねー」とか、オイシャサマよりももっと遠い回答を貰ってしまったが故に、一番理由らしい理由を言ってくれたオイシャサマを信じる事にしたのだ。

 

 僕のチート染みた力と母音ーッン語しか使えない理由の説明はこれで終わり。

 簡単にまとめると、僕は想子(サイオン)の向かう先、飛んできた痕跡を視認出来て、操れて、系統外魔法擬きも使えるBS魔法師、というわけだ。

 ね、チート染みた力でしょ。

 もっともサイオン単位での視認・操作は正直今の僕には難しい。何故って見えないから。

 小さすぎて見えないんだよね……。もっと大きい括りならともかく、サイオンって光みたいなものだから、その粒子を一粒一粒動かせって言われても無理。

 

 さて、そんな僕の力について説明したところで……これ、どうしようかなぁ。

 そりゃ勿論止めた方がいいんだろうが、それは僕のチート染みた力を公表するようなものなわけで。オイシャサマに、出来るだけバレないようにしてほしい、って言われているんだよなぁ。いや視線外し日常的に使っちゃってはいるのだが。

 

 とかなんとか考えている内に、黒塗りワゴンの窓が開いた。

 そして出てくる、FPSなんかで良く見る紡錘形の先端部分。

 あ、これ榴弾(やばいヤツ)だ。

 

 僕のチート染みた力がチートに成りきれない欠点。

 何かが飛んでくるのはわかっても、何が飛んでくるかまではわからない!

 

 っていうかこれどこに逸らしてもまずいんじゃ……。

 せ、せめて上に!

 

 

 

*

 

 

 

 ()()()()()()()()()窓を破って入ってきた紡錘形のソレ。

 演説と拍手の陶酔に酔っていた生徒たちに反応できるものではなかった。

 だが、事を起こすだろう事は前夜の時点で風紀委員の全員が知っていた。

 故に軍隊たるやという速度で同盟メンバーを拘束し、煙を吐き出し始めた紡錘形のソレは、逆再生を見ているかのような様子で煙をその内に戻し、破ってきた窓から体育館の外に放り出された。

 

「先輩、俺は図書館へ向かいます!」

「お兄様、お供します!」

「気を付けろよ!」

 

 達也には確信があった。

 先日、追上が深雪に与えたヒント。奴が本当にブランシュやエガリテを快く思っていないのならば、その目論見を潰そうとするはず。

 即ち(i.e.)入室禁止(Aucune entrée)

 つまり、テロリストの目的地は図書館の特別閲覧室だ。

 

 講堂を出た達也達はしかし、直後に轟音を聞く。

 場所は実技棟……その上空付近。

 恐らくは炸裂焼夷弾だろう。達也と深雪は顔を見合わせる。

 

 逡巡は一瞬。

 二人は実技棟へ向かって駆けだした。

 

 

 

*

 

 

 

「何の騒ぎだ、こりゃ?」

 

 二人の走力をもってすれば実技棟への道のりなどあってないようなもの。すぐに駆け付けたそこは、しかし全てが終わっていた。

 倒れ伏す電気工事作業員のような恰好の男達。無線機を使ってどこかへ指示を飛ばしている教師二人。そして、レオ。

 教師二人にもレオにも怪我はないようだ。

 

「テロリストが学内に侵入した」

 

「物騒だな、おい」

 

「レオ! ホウキ! ……ってありゃ」

 

 事務室の方からエリカが姿を現す。

 彼女にも怪我はないようだ。

 教師二人は既にCADを取り出していて、倒れ伏した男達の痕跡から見てもレオではなく教師が迎撃した事が窺い知れる。

 

 ――この場は大丈夫だ。

 

 警戒心を欠片も抱いていなかった平時ならともかく、この状況であるならば教師は信頼に値する魔法師になる。ツーマンセルで行動すれば奇襲も問題ないだろう。

 

「図書館に向かう。そこにテロリスト共は向かっているはずだ」

 

 そのきっぱりとした物言いに、状況も考えて何故を問うている場合ではないとエリカもレオも顔を引き締める。雑談やじゃれ合いをすることなく、達也達は図書館へと駆け出して行った。

 

 

 

*

 

 

 

「……追上、青君ね。随分と無茶をしたようだけど……大丈夫?」

 

「……ああ」

 

 咄嗟に榴弾の軌道を真上に逸らしたはいいのだが、どう云うタイプの信管なのかは分からなかったためにその辺に落とす事も出来ず、空中で爆発させる手を選んだ。

 アイオーンを履き、Airで直上まで飛びあがり、僕自身の軌道をチート染みた力で曲げてIronで固めたアイオーンによる上下反転ライダーキック。

 衝撃で爆発するタイプだったのはよかったのだが、まさか炸裂焼夷弾だとは思っていなかったから、モロに爆風を受けて叩き落された次第だ。

 とはいえ自身に向かってくる炸裂片は全て逸らしたし、地面に着くまでにその軌道を逸らしまくる事で落下速度を落とし、無事植え込みに着地する事が出来たのでこれといったダメージはない。服も焼け焦げていない。

 

 着地してすぐ、セーターを着たパンツスーツの女性が僕を労ってくれた。

 身長が高くなってから覗きこまれるっていう経験がほぼほぼなくなっていた事と、その女性の持つ余りにもスェックスィーな富士山が僕を癒す。何その大きさ……ってあれ、どっかで見たことあるような……。

 あぁ! 初登校日に、担任っぽい恰好をしていた人だ!

 

「……気付いていたのね?」

 

「ん? あぁ……おう」

 

 唐突に話し始めるものだから一瞬戸惑ってしまったが、焼夷弾の事だろう。

 気付いていたというか、見てしまったというか。

 

 よっこらしょういち、と口には出さないが心の中で思いながら立ち上がる。

 うわ、この先生ちっちゃ! いやフジヤマヴォルケイノがじゃなくて、背が!

 フジヤマヴォルケイノの方はメロンパンナちゃんやおっぱいメガネちゃんを抜く勢いでイラプションしているが、身長に対して大きすぎてもう巨っていうか爆だよ爆!

 

「……行くのね?」

 

 って、そうだ物見遊山(こんなこと)している場合じゃないんだった。

 あんなの学校に打ち込むって、あれテロリストだよね。というかそれ以外だったら恐ろし過ぎる。

 こういうことって大人達に任せた方がいいのだろうが、流石にこれほど線に溢れている学校を見捨てていくのは無理。特に不味そうなのは図書館。水平の線……銃器特有のソレが見える。

 

「おう」

 

 とりあえずフジヤマヴォルケイノ先生に返事をして、ぐっとしゃがみこむ。

 Airの欠点はあくまで加速系魔法であるということだ。ベクトルを変えるに過ぎないコレは、最初の運動エネルギーが必要になる。チート染みた力の方でやればその限りではないのだが、今はフジヤマ先生が傍にいる。見られるのは不味い。

 クラウチングスタート。

 すりー、とぅー、わん。

 

「ォォオォオオオオ!!」

 

 GO!

 十分な助走を付けたらエアで飛びあがる。

 自分の軌道予測は見えているので、面倒な計算をする必要もない。

 飛びあがった眼下、レオンハルト君が侵入者っぽい人たちに囲まれているのが見えた。

 間に合ったみたいだ。アイアンを使いながら、着地する。

 

「あいう、あいうぃんう……!」

 

 ナイスタイミング! 早かれ遅かれ昨日の怪しい人の一件でバレるんだ、少しくらい喋っても良いでしょ。衝撃音で聞こえていないかもしれないが。

 

 

 

*

 

 

 

パンツァァー(Panzer)!!」

 

 図書館前で行われていた侵入者vsCAD無しの三年生の乱戦に雄叫びを上げて突っ込んでいくレオ。音声認識というレアなCADもさることながら、逐次展開という最早廃れつつある昔流行した技術に呆れ顔の面々。

 そこへ。

 

アイアン(Iron)!」

 

 まるで砲弾か何かかのように、見覚えのある金髪が突っ込んできた。

 

「うおっ!?」

 

「I’m willing to fight……!」

 

 レオが飛び退く最中、そいつは呟く。

 さぁ、俺と戦おうと。

 

 現れた闖入者に驚きつつも、侵入者たちはソイツ――追上にも攻撃を仕掛ける。一人がナイフで切りかかったのだ。

 だが、ふらふらとした動きで追上はその一切を躱す。次にどこに何が来るかを熟知している様な動きは危なっかしい部分が一切ない、戦い慣れた動きだ。

 

アイアン(Iron)!」

 

 ローラースケートの車輪部分の分子構造の位置が固定され、硬化する。レオのものとほとんど同じだが、レオが全身であるのに対して追上は足だけ。一切の攻撃に当たる気は無いとでも言いたげな魔法行使だ。

 追上は硬化したローラー部分で以て侵入者を蹴り飛ばす。

 

「へっ! アンタは足技かよ! んじゃ、役割分担は丁度いいな」

 

 言いながらレオは侵入者を殴り倒していく。拳のレオと脚の青。どちらも長身故に、まるでコンビでも組んでいるかのような様相だった。

 速力とローラースケートという移動手段で戦場を縦横無尽に駆け回る追上と、剛力と全身鎧(フルプレートアーマー)という防衛手段で堅実に且つ豪快に殲滅をしていくレオ。 周囲からは三年生の魔法が飛び交い、テロリストを包囲する。

 

「レオ! 追上! 先に行くぞ!」

 

「おうよ、引き受けた!」

 

YEAH(イェア)!」

 

 拮抗していた戦況は変わったのだ。

 レオと追上に場を任せ、達也達は図書館へ入って行く。

 

 

 

*

 

 

 テロリスト達を拘束して、それじゃあ家に帰ろう! とした所をフジヤマ先生に止められた。腕を掴まれて、こう、ぐにょっていうかふにょっていうか。

 「まさかそのまま帰る気じゃないわよね?」って……まさかお礼!? 曲がりなりにも学校を守った事への!?

 いやぁ~そこまでされたら断れないっていうか~、も、もうちょっとこの感触を楽しんでいたいっていうかぁ~。

 

「小野先生と……追上君?」

 

 下卑た思考を顔に出さないように努めていたら話を聞きのがしていた。何かフジヤマ先生に言われた気がしたんだが、うん、良く覚えていない。

 とりあえず強制連行される形で保健室に入ると、そこには達也君の知り合いと風紀委員の渡辺先輩、メロンパンナちゃんこと生徒会長の七草先輩、そして僕なんかメじゃないくらいに超絶ゴツイ男子生徒。というか多分先輩。

 

 人垣で見えなかったが、体育館で試合をしていた剣道部員(?)の先輩もいるようだ。怪我をしているのか、包帯を巻いて寝台に横になっている。

 

「小野先生、追上。事ここに至って知らないフリはありませんよね?」

 

 達也君の鋭い目線が僕とフジヤマ先生……もとい小野先生を貫く。

 なに、何の話? 小野先生の柔らかみの話?

 ……ふざけている雰囲気ではなさそうだ。

 

「……地図を出してもらえないかしら。その方が早いから」

 

 小野先生は何か心当たりがあるらしい。しかし、なんだろう。 

 ここ、僕がいるべきじゃないよね。さっきまで舞い上がってた僕がいて良い場所じゃないよね。

 あとゴツイ先輩の視線が超怖いんだが?

 

 達也君が情報端末を取り出し、地図アプリを展開する。

 小野先生もオサレな端末を取り出して何かを送信。達也君の地図アプリにマーカーが出た。座標を送ったみたいだ。

 

 うわ、めっちゃ近所。ウチが街の終端だから……歩いて10分くらい?

 そこから交わされた会話を聞く限りでは、そこには環境テロリストがいたらしい。そして今は、今回学校を襲ったテロリストが隠れ潜んでいると。

 なにそれ怖い。

 

 達也君と七草先輩たちの話はとんとん拍子に進み、なんでも達也君達とゴツイ先輩こと十文字先輩が突入する事になったんだとか。いやいや、学生の領分越えてるよね。教師に任せちゃダメなのかなー……というか、警察とかさ!

 しかし僕にはそれらを呼んではどうか、という提案をするための術がない。

 そしてなーぜか僕も突入班に入れられた。自然な流れで。

 

「会頭と会長が十師族なのはわかったけどよ……遥ちゃんと追上って何者なんだ?」

 

「その話は後だ。行くぞ」

 

 後にしないでー!

 大事! そこ大事! フジヤマ先生のフルネームが小野遥だってわかった事は嬉しいが、そこスルーしちゃだめなとこ!

 

 勿論、心の声は誰にも届かなかった。

 

 

 

*

 

 

 

「追上、やるな!」

「ああ」

「……なんか手馴れてたわね~」

 

 時速百キロ超で走行中の大型車全体を衝突のタイミングで硬化してくれ、とは達也君の依頼。まぁいつもやっている事とさほど変わらないので引き受けた次第だ。

 さっき一緒に戦った時もそうだったのだが、先日あんな風に好意を無下にしたにも関わらずレオ君は僕を褒めたり激励したり、とにかく気にかけてくれる。もうすぐ日が沈むというのにレオ君だけ輝いて見えるよ。

 親愛も込めて(心の中だが)レオンハルト君からレオ君呼びに変更させてもらった。

 エリカちゃんは未だいぶかしむような目で僕を見てくるのだが。

 

「司波、お前が立てた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

「はい。

 レオ、お前はここで退路の確保。エリカはレオのアシストと、逃げ出そうとする奴の始末だ」

 

「捕まえなくていいの?」

 

「余計なリスクを背負う必要はない。安全確実に、始末しろ」

 

 達也君は冷徹な顔でそう言い放つ。

 始末って……殺す、って事かなぁ。

 それ過剰防衛で捕まりそうだなぁ。

 

「会頭は桐原先輩、追上と共に左手を迂回して裏口に回ってください。俺と深雪はこのまま踏み込みます」

 

「わかった」

 

「まぁいいさ。逃げ出す鼠は残らず斬り捨ててやるぜ」

 

「……おう」

 

 んー、出来るだけみんなが罪に問われないように、手早く昏倒させていくべきかぁ。

 特にこの桐原先輩(?)、目つきがギラギラしていて……確実にヤりそうだもんなぁ。

 

 桐原先輩が刀を手に駆けていく。眼を離さないようにアイオーンでシャーっと付いていく。十文字先輩は、悠然と歩いてくるようだった。急ごうと言う気はないらしい。

 出来れば死人が出ませんように、っと。

 

 

 

*

 

 

 

 裏口までの道中に敵らしい敵はいなかった。

 裏口までは走って行った桐原先輩だが、流石にそこからは気配を殺す……かと思いきや、なんと工場の裏口のドアに刀――振動魔法・高周波ブレードを発動してあるもの――を突き刺したではないか。

 そしてバターでも切るかのように、扉を斬り落とす。

 

「行くぞ、後輩」

 

「おう」

 

 短く声を掛け合って進む。

 流石に裏口に誰も配備しない、ということはなかったようで、ドアが切り落とされた音に反応してかわらわらとテロリストたちが出てくる。

 工場のドアを斬った刀で人体を斬れば、殺傷するには十分だろう。

 そう判断し、桐原先輩よりも早くテロリストを制圧するためにチート染みた力を使いつつ駆けだす。

 

アイアン(Iron)!」

 

 昼間と同じようにローラーを硬化し、しかしチート染みた力で勢いを殺さずに身体に負担がかからない程度で軌道を曲げ、連続で蹴り抜いていく。

 身体を貫くラインが見えたら即座にジャンプし、シングルアクセルを決めつつ回しかかと落とし蹴り。鼻の骨が折れるくらいであれば、死よりはマシだろう。

 

 僕が露払いをするとわかったからか、桐原先輩はずんずん進んでドア、時には壁をも切り裂いて真っ直ぐに進んでいく。僕は離されないように蹴り倒していく。

 ひしひしと十文字先輩の視線を背中に感じていたが、気にしている余裕は無かった。

 

 そして。

 

 壁一枚を挟んで、向こう。

 「何故――!?」という、何事かを必死で問いかける男の声が聞こえた。

 僕達側の壁にほど近い場所。

 構わず桐原先輩は壁を切り裂く。

 

「ひぃぃっ!?」

 

 中は死屍累々だった。

 拳銃型のCADを持った達也君を囲むような形で、肩や足から血を噴出させた男達が倒れている。とある事情で血臭にこそ慣れているが、この光景はあんまり長く見ていたいものではない。

 

「よぉ。コイツらをやったのは、お前か?」

 

 そんなわかりきったことを聞く桐原先輩。

 あ、十文字先輩が追い付いた。

 

「やるじゃねぇか司波兄。それで、コイツは?」

 

「それが、ブランシュのリーダー、司一です」

 

 それを聞いた瞬間、桐原先輩の雰囲気が一変した。

 今まで抜身の刀のようなギラギラとしたソレから、荒れ狂う嵐のような怒気へ。

 

「お前か! 壬生を誑かしやがったのは!」

 

 あ、これヤバイ。

 咄嗟に桐原先輩の持つ高周波ブレードの軌道を逸らす。

 

「てめぇのせいで、壬生がぁぁあああああああ!!」

 

 右腕を肘から切り落とす軌道だったそれが逸れて、手首――腕にはまった真鍮色の腕輪ギリギリを斬り落とす結果に収まった。それでも十分に傷害罪に問われそうだが。

 

「ギャァァアアア!?」

 

 その腕輪から、先日体育館で見た達也君から発せられた波の荒いver.の様な物が飛ぶ。

 確かこれ、人を酔わせる魔法だっけ?

 当たるのは嫌な感じがするので、避けながら腕輪を蹴り飛ばした。

 ちょっとローラーに血が付いてしまったかもしれない。後で取っておかないと、つまりの原因になりそうだ。

 何より血が付いているとか、僕が嫌だ。

 

 さて、このままだとこの人出血多量で死んでしまう。流石に人殺しの罪は背負いたくないし、同じ学校の生徒にも背負ってほしくない。

 ので止血をするべきなのだが、生憎僕のアイオーンにそんな便利な魔法は入っていないかった。

 

 そこへ、ぬぅっと十文字先輩が顔を出す。

 十文字先輩は少し顔を顰めると、すぐにCADを取り出して魔法を発動した。

 

 ジュッ、という肉の焼ける音。

 

「あーあ……」

 

 二度と嗅ぎたくなかったなぁ、人体の焼ける匂い。

 うわー、当分お肉を食べられなそうだ。

 菜食主義のヤンキーへジョブチェンジしないと……。

 

 

 

*

 






小野先生がどんな勘違いをしていたかはもう少し後になるんじゃ。

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