チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第三話のタイトルは「合縁奇縁一期一会」でした。感想欄で解読してくれた方ありがとう!
タイトルのネタバレはその話の次の話の前書きに書こうと思います!

ちょっとチート要素出てきます。嫌いな方はバックバック!


あいおんあ あああうあおおえおんあうお

*

 

 

 

「ああいあー*1

 

「ん、おかえりー」

 

 僕の家族は僕の体質(?)に理解がある。幼少期というか生まれた直後というか、とても早い時期から僕自身は母音ーっんしか発せられない事を知っていて、家族にはそれを隠そうとはしなかった。

 知能障害や言語障害というのは一世紀前から存在する。人間の脳って言うのはとっても繊細で複雑怪奇だから、ちょっとのダメージや原因で正常な機能が失われる事は当然のようにあり得る事なのだ。

 それはどれほど医療技術が発達しても変わらず、むしろ想子や霊子、エイドスとイデアの発見などによってもっともっと複雑に、難解な「症状」として扱われるようになったと言えるだろう。技術の発達が招いた闇、という奴だね。

 

「おかえりー、青兄(あおにい)

 

「うん、ああいあー*2

 

 僕のコレが明らかに「舌足らず」だとか「悪ふざけ」だとかでは片付けられない「障害」だと分かった時点で、家族は僕の体質改善に走ってくれた。一般のお医者様だけでなく、魔法師まで頼って。

 結果今のオイシャサマの元で僕の症状が判明し、その上で見捨てる事無く向き合ってくれている家族には感謝の念しかない。

 

「どう、魔法科高校は楽しい?」

 

「うん」

 

「それならいいんだけど……いじめられたりして無い?」

 

「うん」

 

「彼女出来た?」

 

「ううん」

 

「やっぱり高校生じゃダメかぁ~」

 

「えお、ああいいおあいあお」

 

「……でも、かわいいこはいたよ?」

 

「いぇあ!」

 

「いぇーい!」

 

 僕の母音ーッン語を瞬時に理解・翻訳できるのは妹と母だけ。父は単身赴任が多くて、理解はあるが即座に翻訳する事はできない。それでもこっちが簡単な受け答えしか出来ないとわかった上で話してくれるからとっても楽なんだがね。

 この体質は一応第一高校にも伝えてあって、まだ会ったことはないが保健医の先生にも伝えてあると聞いている。それでも学校側が公表しないのは、公表しないでほしいという旨を僕が(正確に言えば母が)伝えたから。一々僕が話す母音ーッン語を生徒のみんなに理解させるのは酷だし、何より僕は普通に考え、行動が出来る健康体。

 難関名門校に入るっていうのに、障害があるから援助して、ってのは僕が嫌だった。みんなと同じテストを受けて、ギリギリでも合格したかった。

 

 なんて、高尚な思いはなくて。

 面倒なんだよね、治らない病気を持っている事に対する周囲の反応って。

 「まだ治らないのか」とか「もう治ったのか?」とか、「そんな病気で辛い思いするんなら外に出るなよ」とか「あぁコイツ……(察し)」とか。

 実際に言われても、目が語っていても、例え善意からのものだとしても、非常に面倒だ。反応に困るし、ストレスも溜まる。

 

 だったら隠して、学ぶことだけ学んで、盗める技術だけ盗んで、結果評価が悪くて退学、とかなら何の文句も無い。だって隠している僕が悪いんだし。

 ダメでもともと、行けたらサイコー!

 そんなノリ。

 

「いつか青兄を貰ってくれるお嫁さんが現れるといいねー」

 

「あああえああっああ、おあっえうえう?*3

 

「んー、私にはほら、彼氏がいるから~」

 

「あっうい」

 

 がっくし。

 チート染みた力があるのも、母音ーッン語しか発せられないのも僕だけだ。妹も両親も両祖父母も健康体で、魔法師の素養は無い。ただの突然変異って奴だね。

 普通の両親と、普通に……あ、いや、めちゃくちゃ可愛い妹。目に入れても痛くない。と、僕の四人家族。これが追上家の家族構成だ。

 盛大に贔屓して言うが、妹はめちゃくちゃすごい。料理も出来る。洗濯もできる。掃除も出来るし勉強もできる! 運動もできるんだぞ! グゥレイトゥ!

 幼少から僕の母音ーッン語を解読するためにアクセントやイントネーションを研究しているので、僕のこの暗号染みた言語の解読方法を記したルーズリーフがあるくらいマメで甲斐性があって優しい! エェックセレンッ!!

 

「ん、どしたの青兄」

 

「いあ、ああいいあ、っえ*4

 

「だめだってー、私には将来を誓い合ったヒトがいるんだからぁ」

 

 なにより――可愛い。

 そう、それが何よりも大きく、それが全てだ。

 そう、それだけで――パーフェクツッ!!!

 

 本当に僕は良い家族に恵まれたと思う。

 

 

 

*

 

 

 

「Oh……」

 

 今日の授業は魔法実習。

 当然、魔法式を構築し得ない僕は全くできない。他の子が1000msecを努力して切ろう! とやっている中で、僕はどうやって発動しよう、という所で躓いている。本当によく入学できましたねぇ!?

 ちなみにペアの子はいない。はいはーい、ペア作ってー(生徒数奇数)のパッティーンだ。

 用意されたCADを使わなければこの程度は出来るのだが、僕専用チューンでもない実習用CAD(コレ)では出来るものも出来ないのだ(言い訳)。

 

 ところで達也君は意外にも実技が苦手なようで、1000msecを切るのに三回もの再試技を必要としていた。隣で見ているおっぱいメガネちゃんを見る限りでは、悪いのは達也君ではなく機械の方のようだが。

 あれほど動けていい目を持っていても、出来ない事は出来ないんだなぁ、という感慨深さと共に、僕も頑張らなきゃ! という想いが湧いてくる。なんでもソツなく熟しそうな彼があれだけ努力してようやく、という技術なのだ。僕はもっと努力しなければいけないだろう。

 よし、もう一回!

 

 

 

*

 

 

 

 実習用CADには勝てなかったよ……。

 

 昼休みになっても、当たり前だが魔法式は構築されなかった。むしろこんな短時間で改善されるのならば僕の今までの生はなんだったのかというツッコミをいれたくなるので当然の事ではあるのだが。

 僕と同じように居残っているのは桃太郎のお供こと千葉エリカちゃんと西城レオンハルト君。彼らの付添いで達也君とメガネおっぱいちゃんも残っている。

 並べられた情報端末の両端にいるので彼らの会話は聞こえてこないが、それはもうチラッチラとみられているのが分かる。アレか、ヤンキーが努力しちゃダメですか。でもなぁ、流石に基礎魔法学はバックレられないんだよなぁ。必履修科目だから。

 

 さてどうするか、もういっそのことチート染みた力の方を使ってしまおうかと考えていると、ガラりと実習室の扉を開けてロリィが二人入ってきた。

 見た目クールロリィと見た目元気ロリィだ。見たことが無いから違うクラスだろう。

 ……まさか彼女たちも達也君ハレムなのか!?

 くぅっ、少しでも「出来ない同士頑張ろうな!」とか思った僕の気持ちを返してくれ!

 

 あれ? というか達也君は三回かかったとはいえ出来ていて、女の子もたくさんいる。

 僕は何千回何万回やっても出来るわけがなくて、女の子もいない。

 

 Oh ! Jesus !!(神は死んだ) 

 

 Oh, no ! My cola !!

 

 

 

*

 

 

 

 達也達は困っていた。

 

「……なぁ、あれ……助けてやった方がいいのか……?」

 

「いいでしょ、別に。ああいうのはプライド高いから、下手に優しくすると怒るわよ」

 

「でもなぁ……。さっきから魔法の発動自体出来てねぇぞ? 何か理由があるんじゃ……」

 

 実習室の最奥でCADに片手を置いたままず~~~っと立ち尽くしている件のヤンキー、追上青の存在に。

 レオもエリカも中々1000msecを切ることが出来ず、達也にコーチングをお願いしていた身だ。出来なければ終われないのはそうなのだが、誰にも「ダメな所」を教えられずにいれば自分達も立ち尽くすことになっただろうことは想像に易い。

 達也の助言もあってなんとか1000msecを切る事が出来たが、反面一切の進展が無さそうな追上が気になり始めていた。

 

「……」

 

「お兄様……」

 

 そして、彼の事が気になるのは司波兄妹も同じ。

 先日深雪が言われた暗号の意味や、妙な視線外しの技術。探っても探っても、普通の情報しか出てこない経歴。

専用の武装一体型CADを持っているのだ、魔法師としての技量はそれなりにはあるはずで、そもそも第一高校に入学できるのだから魔法の発動が出来ないなんてことはないだろう。

 

 で、あるならば。

 何か目的があって、居残っているのか。

 そう思うのも当然の事だった。

 

「だ~、すまん! 俺、ちょっと行ってくるわ! 体調悪いとかかもしんねぇし!」

 

 レオが立ち上がり、追上の方へ早足で歩いていく。

 

「うわ、アイツほんとお人好しね……」

 

 エリカが呆れたようにつぶやく。

 

「……あの人、知り合い?」

 

 深雪と共にやってきた一科生の女子二人の内の一人、北山雫が深雪へと尋ねた。

 

「ええと……知り合いと言いますか、何と言いますか……」

 

「深雪を狙ってるヤンキーよ。二人も気をつけといた方がいいわね」

 

「や、ヤンキー!?」

 

 もう一人の女子、光井ほのかが怯えたように言う。

 言われてみればさもヤンキー然とした恰好だとほのかは思った。

 

 五人が見守る中、高身長男子二人が接触する――。

 

 

 

*

 

 

 

「よぉ、追上。さっきからずっと固まってるが、大丈夫か? 何か手伝う事、」

 

 西城レオンハルト君が快活に話しかけてきた。

 クッ、これが性格イケメンか……ッ!! 困っている者ならヤンキーであっても見捨てない……眩しい、眩しい!! ゾンビにケアルを掛けたら死んでしまうぞ!!

 

「いい」

 

「……あそこにいる達也に見てもらえば、少しは上達するかもしんねーぜ? なんたって俺やあそこにいる奴も達也に助言貰ったら出来るようになったし、」

 

「……いいッ!」

 

 だが、すまないなレオンハルト君。

 僕のこれは助言どうこうでどうにかなるものじゃないし、何よりお兄様ラブな深雪ちゃんの折角の達也君と一緒時間(タイム)を僕で潰させるのもアレだ。どれほど彼が凄くても僕のコレはどうにもならないだろうから、恐らく次のクラスがここを使う時間まで彼を拘束してしまうだろうし。

 あぁ、なんて献身的な僕。可愛い子はやりたい事を望むままにやらせてあげるのが一番だよね!!

 

「……そうかよ」

 

 ごめん、性格イケメンハルト君。君の好意は確かに受け取った!

 しかしほら、明るい君は明るい所にいた方がいいのだよ! 僕みたいなくらーいドロップアウトヤンキーみたいなのと関わらずに彼女でも作っていてくれ!

 ……彼女欲しいなぁ!

 

 ただまぁ、そうか。

 余計な心配をさせてしまうかぁ。これ以上せっかくの善意を不意にするのは心が痛いからなぁ。

 

 えいっ☆

 

 

 

*

 

 

 

 レオが何かを話しかけ、追上が拒絶を怒鳴り返した直後。

 少しだけ顰めた額と共に達也達の元へ帰ってくるレオの後ろで、それは起こった。

 丁度レオの影になって追上の姿は見えなかったが、モニターにいきなり(・・・・)122msecの表記が出たのだ。

 

「なッ!?」

 

「うそ……」

 

 それは有り得ない事だと言えるだろう。

 人間の処理速度の限界に迫ると、そう評された司波深雪の235msecを上回る速度。

 どうしたって人間は考えてから動くまでにラグが存在する。

CADに想子を流し込み、帰ってきた起動式を読み込んで魔法式を構築し、エイドスを改変するという処理が必要不可欠なのだ。学校が教育用に用意したノイズまみれのCADでさえ235msecを出せる深雪の方が凄いのであって、普通の魔法師であれば500msecで一人前と言われる。

 0.5秒で物事の判断が出来れば十分であると。

 

 それを、今さっきまで魔法の起こりすら見せなかったヤンキーが、それも二科生が0.2秒を切る。それがどれほど有り得ない事か。

 その速度は、むしろ現代における「魔法」ではなく、魔法の元となった「超能力」にこそ相応しい物であるのだから。

 

 達也は考える。

 やはり追上は、何か意図があって残っていたのだと。

 そしてソレは、レオが追上の元に行った事で果たされたのだと。

 

 ――深雪を狙っているというのは思い違いで、レオに何かあるのか……?

 

 それともそれはミスディレクションで、深雪や、深雪と共に来た雫とほのかに……?

 

「おい」

 

「ん? なんだよ」

 

 追上が、レオに近づく。

 そして無理矢理何かを握らせた。

 

 実習室を出ていく追上。

 

「なになに、何渡されたのよ」

 

「……いや……500円玉、だな」

 

「はぁ?」

 

「レオ、その硬貨……少し貸してくれないか」

 

「そりゃ別に構わねえけど……」

 

 レオから受け取った硬貨を()る達也。だが、何処にもおかしい所は見受けられない。専用の機器を使わなければわからないものか、それとも渡したことに意味があるのか。

 通貨。それから連想させるのは、報酬や対価といった言葉。

 

「レオ、追上になんて言ったんだ?」

 

「んー、手伝うか? って聞いて、断られて。んで、達也っつー良いアドバイザーがいるんだが、ってもう一回言ったがそれも断られたな。んで帰ってきたんだ」

 

「ッ……」

 

 ギリ、と歯を噛みしめる。

 追上が帰った理由がレオではなく達也だと気付いたのだ。

 

 ――何を悟られた?

 

 思えば、先程の美月の暴走(エキサイト)の時だって追上はそこにいたのだ。後半の声量が大きくなった部分は聞こえていただろう。いや、もしかしたら前半も聴かれていた可能性はある。

 CADを使わなければもっと早くできるという技術は、美月には誤魔化しと嘘で隠せたものの、本来秘匿技術だ。それに加え、レオとエリカの魔法行使風景も追上は見ていたはず。自身と同じく彼らの欠点や上達方法がわかっていたとすれば、レオの言葉から達也もまた’そういった事’に気付く目を持っているという確信になる。

 あの視線外しを精霊の眼(エレメンタル・サイト)で無理矢理再認識した時、腕を掴まれた追上は明らかに驚いていた。つまり、あの時点ではソレを知らなかったのだろう。だが、この実習で確信を得て、情報をくれたレオに報酬まで支払った。

 正直に言えばこんな実習のこれだけの情報量で達也の精霊の眼に辿り着けるとは到底思えないが、その楽観が深雪への危害にでもなれば目も当てられない。

 

「……返すぞ」

 

「ん、おお。なんか変な仕掛けでもあったのか?」

 

「いや、特に何でもない五百円玉だろう。持っているのが嫌なら俺以外の五人にジュースでも奢ってやったらどうだ?」

 

「お、ラッキー!」

 

「……まだ奢るって言ってないんだが」

 

 とにかく、追上青は要警戒対象だ。

 達也は警戒度をさらに高め、深雪と共に頷き合うのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 好意の代金、五百円!

 ……安すぎたかな?

 

 

 

*

 

*1
ただいまー

*2
うん、ただいまー

*3
現れなかったら、貰ってくれる?

*4
いや、可愛いな、って


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