チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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無理矢理な勘違いがあります。というかこの作品そんなんばっかで全然煮詰めてないので、クオリティの高さはあんまり保証できません。
2話までの高評価ありがとうございました――!


あいあんあ あいえんいえんいいおいいえ

*

 

 

 

 

 特に何でもない午前授業が終わり、買ってきたコンビニ弁当(一世紀以上続く7と11のコンビニ)を食し、午後の授業。

 僕は絶望した。

 

「あぁ……」

 

 この授業で使われる教育用CADはあらかじめ設定された起動式に想子を流し込み、反作用で返ってきた起動式を元に魔法式を構築する必要があるというもの。

 そう、魔法式の構築が必要なのだ。

 

 僕は魔法式が構築できないのだ。なぜならaiueoしか発せないから。促音としての「っ」はxtuかltuの組み合わせでのみなら使えるが、バラして使う事は出来ない。音節主音としての「ん」も同じで、nnとして使う事は出来るがn単体で使う事は出来ない。そんな状態で魔法式が構築できるはずもない。

 結果僕はヤンキーっぽさを利用してバックレた。だって出来ないもん、あれ。

 

 二科生ということもあって呼び出される事は無く、今回はただCADに慣れよう、という旨の授業だったために評価されることもなかった。

 

 

 

*

 

 

 

 なんでも桃太郎君は司波達也君という名前で、風紀委員会に勧誘されたらしい。

 あの美少女ちゃんも司波だったし、多分兄妹だろう。妹にまで手を出しているのだろうか。

 どちらにせよもう深く関わるつもりはない。達也君も深雪ちゃんも名前を呼ぶことが出来ないのだ。名前とは互いを認識する上で最も必要なツール。動物のように鳴き声がそのまま感情を示すのならともかく、言語なんて面倒な物に縛られている以上名前は必須だ。

 それが呼べないのなら、関われるものでもない。

 

 しかし風紀委員かぁ。

 見た目なー……。見た目なぁ、ヤンキーだもんなぁ。

 ヤンキーは取り締まってくるよなぁ、確実になぁ……。

 

 深雪ちゃんなら目の保養にもなるからいいのだが、達也君の方は正直遠慮したい。

 僕のチート染みた力の応用である視線外しを軽々と躱して僕を見つけてしまうのは、もうそれだけで大分天敵だ。黒子君と高尾君くらいの天敵だ。ちなみに僕はチート染みた力の性質上3Pシュートは得意である。得意なのだよ。

 

 さて、そんな僕は現在体育館の屋上にいる。屋上というか屋根というか。

 眼下に広がる学校はお祭り騒ぎの最中で、数多の上級生で溢れかえっていた。

 何をしているかと言えば、部員募集だ。学校らしくクラブ活動があるのでその新入部員を集めているのである。

 世はまさに、大勧誘時代ッッッ!!

 

「ん?」

 

 何やら下方が騒がしい。下方というか中が。

 さながら忍者のように屋根のヘリを掴んで身体を中空に投げ出し、そのままの足で窓枠に着地する。どうやらこの第二小体育館の中では剣道の試合? が行われている様だった。

 観客数はそれなりで、試合はかなりの白熱をしている様である。

 剣道かぁ。

 僕、面も胴も篭手も言えないんだよなぁ。

 居合! なら言えるが、言えたところで意味は無いし。

 

 とりとめのない思考をねるねるねるねしながら試合を眺めていると、観客の中に件の達也君の姿を見つけた。

 達也君は人垣を掻き分け、あろうことか試合をしていた男子生徒に直進する。

 そして、彼のCADから波が放たれた。

 

「うおっ!?」

 

 咄嗟にそれを避ける。あの密集地帯ではほぼ全員が被弾したのだろうが、これほど離れていれば避ける事は容易だった。

 それにしても、今のはなんだ?

 

「っ、おいおい……!」

 

 そして始まる乱闘騒ぎ。

 いや、乱闘ではない。リンチだ。

 達也君1人に対して、周囲の剣道部員? らしき面々が襲いかかる。

 

 僕は見た目ヤンキーだが、実は良い人だ。いじめの現場は見過ごせない。

 だから窓をけ破ってでも助けに行こうとして――、

 

「あ?」

 

 必要ないな、とわかった。

 当たらない。彼にはどの攻撃も当たらない。

 まるで僕と同じものが見えているかのように、彼は掠りさえせずに暴徒を鎮圧していった。鎮圧というか周りが疲れて行っているだけのようにも見えたが。

 

 いや、凄い物を見た。

 あれがワンマンアーミー。無双シリーズをプレイしていた時代が懐かしい。

 そしてあんなのに目を付けられた事に絶望した。やばい人の妹に手を出そうとしてしまったようだ。出してないからセーフ!

 

 くわばらくわばら……とさえ呟けないこの身に絶望しつつ、下校時間まで屋根の上で過ごした。クラブ活動に入る気はないのだ。

 

 

 

*

 

 

 

「――以上が、剣道部の新歓演武に剣術部が乱入した事件の顛末です」

 

 風紀委員になって早々事件に遭遇した達也はその旨を風紀委員長である渡辺摩利と七草真由美に報告していた。真由美は十人近い剣術部の生徒を1人で往なした事に驚き、摩利は忍術使い・九重八雲の弟子であるのなら納得だと言う。ちなみに部屋には巌のような顔の男子生徒・十文字克人もいる。

 二、三の確認の質問に対して、達也はある程度都合のいい報告に変えている事を顔に出さずに受け答える。そのポーカーフェイスは余りにも高校生離れしていた。

 

 部活連本部を出て生徒会室に向かうために昇降口へ向かう達也だったが、彼の視界に2つの光景が飛び込んできた。

 一つは昇降口付近で集まっている彼の妹と彼のクラスメイト。

 もう一つは、彼らと対峙するようにしてニヤついているヤンキー、追上青の姿だった。

 追上は品定めでもするかのように彼の妹とクラスメイトの千葉エリカ、柴田美月を見ている。美月の前に深雪が立ち、その前にエリカとレオが立っているのだが、その下卑た瞳はレオの一切を視界に入れていない様だった。

 

 達也は少しばかりの溜息を吐きながら、学友と追上の間に割って入る。

 

「あ、おつかれ~達也くん」

「お疲れ様です、お兄様」

 

 こんな状況でも普通に労ってくれるエリカと深雪。

 それに言葉を返したかったが、目の前にいるヤンキーを放っておくことはできなかった。

 相手は「精霊の眼」を持つ達也の視線から、一瞬でも逃れた相手だ。

 油断はしない。

 

「おお」

 

 そして追上は、割り込んできた達也を見て目を輝かせるように嗤った。

 ようやく本命が来たな、とでもいうように。

 

「私達を出汁に達也くんを呼び出そうとしてた、ってワケ?」

「そりゃ、また。随分と舐められてんな」

 

 その眼に気付いたエリカとレオが血を滾らせて言う。流石にクラスメイトを取り締まりたくない達也としては、その血気盛んさに溜息が出そうだった。

 だが、達也を狙って妹の深雪が不快な思いをしたというのなら見過ごせる話ではない。

 

「用があるなら、俺が相手になるぞ」

「いぁ……いい」

「何?」

 

 もう用は済んだとばかりに踵を返して去っていく追上。

 

「何? 何をしたかったのよ、アイツ」

「わからねぇが……何かを確認した、のか?」

 

 エリカにもレオにもわからないようで、美月と深雪も首を横に振っていた。

 目的はわからないが、ただのヤンキーというわけでもなさそうだ。ならば、用心するに越したことはない。

 

 達也は追上の去って行った方向に目を向け、そう独り言ちるのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 入学式から一週間が過ぎた。

 

 アイオーンは別にCADとして使わなくとも普通にローラースケートとして滑る事が出来る。というか街中で魔法を使う事の方が実はあまり褒められた事ではないので、靴兼武装一体型音声認識CADであるアイオーンは、見た目普通にスニーカー、のような偽装が施されている。

 そんなアイオーンで、校内をしゃーっと滑る。

 

 本来なら最初に預けるべきなのだが、今の時刻は午前5時。つまり誰もいない。預けられない。

 何故そんな時間に僕がここにいるのかといえば、いくつかの理由があげられる。

 

 1つはこの学校を見て回りたかったという点。学校を自由に探索する、という時間は最初の一日以外(本当はここも違うのだが)無かったので、何処に何があるかくらいは知っておきたいのだ。

 次に、良い感じの昼寝ポイントの捜索をしたかった点。ファッションヤンキーである僕だが、ヤンキーぶるために時たま授業をバックれて適当な所で昼寝、という行為を中学時代から繰り返していたら、これがもう気持ちいいのなんの。

 みんなが必死に勉学に打ち込んでいる横でグースカピースカ寝る事の優越感と背徳は何物にも代えがたい。特に何かやりたい事があって入学したというわけでもないし、入試で落ちてしまった子達には申し訳ないが頑張って勉強した、ということもない。

 高卒認定を貰いたい事と、家から一番近い国立大学付属魔法学校がここだった、というだけの話なのだ。

 

 シャー、シャーっとローラーを鳴らして学校を跳ねまわる。

 一応教員の中には早く来る人もいるようなのでその辺だけ気を付けて、走り滑る事一時間。

 

「それで? 校内でのCAD無断使用に関して、何か申し開きはあるのか?」

「……いいえ」

 

 僕は捕まっていた。

 

 

 

 女性にしては背の高い、僕から見ればちんまい女子生徒。

 女子生徒は風紀委員長の渡辺摩利と名乗った。

 

「やけに殊勝な態度じゃないか。持ち込みは禁止だとわかっていてやっていたのか?」

「ああ」

「素直なのは良い事だな。だが、これは没収させてもらう。放課後風紀委員会に取りに来い」

「えぇ……」

「わかったな?」

「あーい」

 

 別に没収される事は構わないのだが、風紀委員に行くのが嫌だ。

 昨日も、僕が不思議な視線を持っているメガネおっぱいちゃんに近づこうとしたらヒーローかと思うタイミングでやってきて、彼女らをガードしてしまった彼がいる場所。

 毅然とした態度でメガネおっぱいちゃんを守る凛々しい深雪ちゃんも可愛かったが、怯えてはいたものの決して視線を逸らさなかったメガネおっぱいちゃんも結構な気の強さだと思う。

 普通こんなヤンキーが近づいてきたら怖いよ。

 あ、だから達也君はガードしてきたのか。納得した。

 

「そうだ、お前。名前は?」

「……追上青」

「追上だな。覚えたぞ」

 

 それはもう悪さが出来ないように覚えたぞ、という意味でせうか。

 おいおい生徒会長と風紀委員長とシスコンに目を付けられちゃったよ……3人なのに八方ふさがりとはこれ如何に。

 じゃあもういいスかね、という感じの表情を作って立ち上がる。見せろ僕のハンドレットフェイス。伝われ!

 

「ん? なんだ、まだ何か言いたい事があるのか?」

 

 だめだったよ……。

 そう、これで伝わるのなら僕の人生に苦労は無かった。

 目で会話する、なんて言葉があるが、あれはある程度の会話を経てのものであって、会話が上手くできない僕には意味の解らない高等技術なのである。

 

「いえ」

「なら、もう下がっていいぞ」

「うい」

 

 でも結果オーライ。

 素晴らしい先輩だったようだ。

 相手から沢山の事をしゃべってくれれば、僕は相槌を打つだけで会話が成立する。

 素晴らしきかなそのコミュニケーション能力。逆に無口だとか寡黙だとかいう相手だと会話は一切成立しないのだが。

 

 僕は顎を突き出して会釈をして、昇降口へ入って行った。

 

 

 

*

 

 

 

 授業を終えて。

 僕は言われた通り風紀委員会に顔を出した。幸いなことに渡辺先輩は風紀委員会でデスクワークをしていて、面倒な書類なんかを書かされることも無くアイオーンは帰ってきた。もし書かされたとしてもかけないのだが。

 

 いやぁ話の分かる先輩がいるとありがたいなぁと心無し上機嫌で廊下を戻っていると、目の前から視線を感じるではないか。

 前を向いてみれば、そこには目が覚めるほどの美少女。

 司波深雪ちゃんである。驚いたことに、達也君は一緒じゃない。

 1人だ。

 

「……私に何か?」

「ああ――合縁、良い縁?」

 

 中々縁が合うね、これが良い縁だったらよかったんだがね、という意味で伝われー! と念じる。

 深雪ちゃんは警戒しながらも「?」を浮かべていた。デスヨネー。

 深雪ちゃんに近づく。

 

「ッ、」

「――応援」

 

 視線を避けて深雪ちゃんの肩に手を置き、囁く。

 お兄さんとの仲、応援してるよ!

 

「何を……」

 

 ばいばーいと手を振ってそそくさと逃げる。

 家族とならコレで伝わるんだが、まだ無理だよねぇ。

 

 

 

*

 

 

 

「追上が接触を?」

「はい。先程、風紀委員会の前で接触しました」

 

 兄が風紀委員会にいると踏んで向かっていた矢先、深雪は件のヤンキーと遭遇した。

 後からわかった事だが兄はカウンセラーの小野遥に呼び出されていて風紀委員会にはいなかったようなのだが、その時は中にいるだろう兄と風紀委員会から出てきた風の追上を繋げ、一悶着あったのではないかと考えた。

 故に最初から敵意を含んだ口調と態度になっていたのだが、言われた言葉の難解さに気を緩めてしまったのだろう、いつのまにか接近・接触され、後ろを取られていた。

 

 家に帰ってからその旨を兄・達也に報告している次第である。

 

「……奴は何か言って来たのか?」

「初めは、合縁、良い縁? と聞いてきました。その後、私の背後を取ると応援、と一言だけ」

 

 それは確かに難解だと、達也は呟く。

 何かの暗号かとも考えたが、それを自分に言う意味が無い。兄と違って自分は軍属ではないし、今考えて分からない時点で暗号という形を取ること自体無為なものだ。

 

「何故奴が風紀委員会(そんなところ)にいたのかは聞いたのかい?」

「はい。渡辺先輩に、没収されていた持ち込みCADを取り返しに来たのだと聞かされました」

「……すると、あのローラースケートのCADは奴のものだったのか」

 

 達也は心当たりがあるというように言う。

 

「ローラースケート、ですか?」

「ああ、昨日には無かったCADが無造作に置かれていてね。随分と独特な造りをしていたから、印象に深いよ。恐らくフリーの魔工技師によるものだろうね」

 

 達也がいつも学校に持って行っている情報端末に画像を乗せる。それは確かに、廊下で追上が履いていたものだった。

 

「恐らくは武装一体型CAD……奴の武器は蹴撃だろう。あの不可解な視線外しも含めて少し調べてみようか。合縁、良い縁、応援の意味も」

 

 そう言って先程まで見ていた「ブランシュ」に関するファイルを閉じ、「追上青」と名の付いたファイルを開く達也。そこには追上の簡単なデータがあった。

 彼は深雪を守る為に危険な芽は残しておかないのだ。とはいえ相手はあくまで同校生、それもクラスメイト。とりあえず何かと繋がっていないかなどを調べては見たもの、結果は芳しくない様だった。証拠に、出されるデータに特に変わった所はない。

 

 兄が諸々を調べている間、深雪ももう少し考えてみる事にした。

 

「合縁、良い縁、応援……あい、いー、おう。IEO?」

「独立評価機関かい? そんなダジャレを好む奴には思えなかったけど……もしそうだとして、エンは何を示すと思う?」

「いえ、すみません。思いつきで言ってしまって……」

「いや……enが3つ……entréeか? 英語なら前菜、フランス語なら……制限された場所への入場か」

 

 制限された場所、と聞いて思い浮かべるのは第一高校の図書館だ。

 特別閲覧室という場所がそこにある。一般閲覧禁止の非公開文献にアクセスできる場所。

 

O(オー)ではなくA(オウ)だとすれば……Aucune entrée?」

「そういえば合縁、良い縁で切っていました。IE……i.e.*1でしょうか」

「即ち、入室禁止。……意味が繋がらないな。もう少し奴の反応を探ってみる必要があるか……」

 

 これだけの情報ではわからない。

 だが、不穏な事には変わりない。兄程の人間が調べても何も出てこないという事は、なんらかの規制がかかっているのか。

 

 その日は結局、どれほど探しても有益な情報は得られなかった。

 

 

 

*

 

*1
ラテン語。id estの略。すなわち~








こんな一発ネタに感想くれる優しい人達ばっかりだった。
一応補足説明tips.

i.e.  :ラテン語。id estの略。すなわち~

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