チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第二十三話のタイトルは「そんなのチートだよチート!」でした。おまいう。
恐ろしいほど寒いので、お体にお気をおつけてお読みおくだおさい。


あいいいぅうおんあ おーう・えんい・いぅーお

*

 

 

 

「よ、青。お前、明日って暇か?」

 

「え。……あー、おう」

 

「じゃあよ、達也のコンペって奴を見に行こうぜ。どうせお前、怪我で遊びにも行けないだろ?」

 

「ん、oui(うい)

 

 ――というような会話が、今日の朝行われた。

 なんでも明日、達也君が抜擢された論文コンペなるものが開催されるらしいのだ。もっと言うならば、そもそもあの克人先輩との訓練はこのコンペの警備のためのものだったらしい。

 さらに詳しく話を聞けば、レオ君とエリカちゃんはこのコンペの見張り番――コンペにて発表する機器が例年狙われているため――になろうと画策しているようで。まぁその辺りに関して、僕は何も口を出せない。文字通り口に出せないのもあるのだが、妹をこれ以上心配させるわけにはいかないのだ。

 

 この身体をあんまり傷付けるのも、本意ではないしね。

 

 一限目が終わり(と言ってもほぼ自習なのだが)、エリカちゃんがまず達也君にアタックを開始した。明らかに余所余所しく、明日のコンペの開幕時間などを訊ねるエリカちゃん。

 八時に現地集合、九時に開幕。第一高校の出番は午後三時から。

 どうしてそんなことを訊ねるのかと達也君に問われたエリカちゃんは、たじたじとしどろもどろになる。助け船を出したのはレオ君だった。助け舟というよりは、モーターボートで直球に無理矢理割り込んだ感じだったが。

 

 なんでもレオ君とエリカちゃんは特訓とやらをしていたらしい。僕が昔の勘を取り戻す為に訓練を行っていた時に、彼らも同じように身体を鍛えていたのだ。僕も混ぜてもらえばよかった、などと思いつつも、流石に妹の居ない合宿は色々とキツいものがあるだろう。

 どの道、入院していたので行けなかったのだが。

 

 こういう危ない事(?)に学友を巻き込まないようにする……という精神は無いようで、むしろ学生とは思えない程の戦闘経験に溢れる二人を文字通り戦力になると思ったのだろう、達也君は見張りの話を快諾した。

 ついでに、幹比古君も仲間に成ったようだ。前衛三人に後衛一人……まぁ、そこそこバランスのいいパーティなのかもしれない。出来る事なら白魔か時魔が欲しい所であるが。

 

 と、視線。

 

 それは話の中心に居た達也君からで、残念ながら僕に彼のアイコンタクトは伝わってこなかったのだが、とりあえず肩を竦めておいた。

 はいともいいえとも言わないこのボディランゲージは素晴らしく有用だ。ここ、テストに出るよ! 僕は答えられないのだが。

 

 

 

*

 

 

 

 全国高校生魔法学論文コンペティション開催日当日。

 この大切な日に寝坊する、等という事は無く、真紅朗と将輝は予定通りの時刻で開場に到着した。

 それなりに大きい舞台装置を乗せていた大型バスは、既に装置を下ろして所定の駐車場に止まっている。

 

 欠席は一人もおらず、皆万全の準備を終えている。もっとも、どうしても心配は残る物で、チェックだけは何度も行っているのだが。

 

 そんな時だった。

 

 ふと、将輝は気配を感じた。

 そちらに顔を向ければ、片目だけに仮想型ディスプレイを付けた、どこか見覚えのある長身の男が平行移動をしているではないか。左手で仮想型ディスプレイを押さえ、右手には缶ジュースの缶を持っている。見た目こそ真面目そうなのだが、行為は不良生徒そのものだった。

 将輝の視線に気づいていないのか、気付いていて無視をしているのか。

 彼は将輝達の目の前を通り過ぎて行く。

 

 缶ジュースの中身が無くなったことに気付いたのだろう、彼は無造作に缶を放り投げる。

 

 それを受けて、将輝は眉間を顰めた。同じく気付いた真紅朗も同じだ。

 その行為自体に嫌悪を示している事もあるが、私服ではなく第一高校の制服を纏ったままに、このような全魔法高校及び関係者の集まる場所で不良行為を働いているのだ。

 第三高校にとって第一高校は久しく見ない好敵手だ。にっくき、とまではいかないものの、散々苦汁をなめさせられた司波達也や、将輝が密かな――将輝は密かだと思っている――思いを寄せている司波深雪のいる学校。

 他校であり敵校とはいえ、元より正義感の強い将輝にとって、見逃せるものではなかった。

 

 注意を行おうとしたのだろう、将輝が口を開いた――その直後。

 

 ガコン、と。

 将輝達の右後方――先程無造作に缶が投げられた方向――から、奇妙な音がした。

 50mほど先の、そこにあるもの。

 それは、一世紀前から形を変えながらも存在し続けている、ペットボトルや缶のゴミを入れるための、屑入――もとい、ゴミ箱。

 

 そこから、まるで投げられた缶がホールインワンを果たしたかのような音が響いたのだ。

 二人はその瞬間を目視していない。だから、もしかしたら丁度中で挟まっていた缶類が落ちただけかもしれない。

 だが、投げられたはずの缶がどこにもないことが、その’まるで’に真実味を帯びさせていた。

 

「……ジョージ。今のは……移動魔法、か?」

 

「いや、単なる移動魔法じゃあの軌道にはならないよ。加速、加重系……あの瞬間にそれだけの事を? もしくは技術で……ううん、どう考えても、どう見てもあの速度で投げられた缶が、あの角度の穴に入るはずがない……。

 それに、彼はCADを付けている様子も無ければ、魔法式を構築した様子も無かった。単なる技術でも、系統魔法でもないのなら……」

 

「常識にとらわれないBS魔法師、もしくは、ジョージの知らないSB魔法師か……。何処か見覚えがあるんだが、九校戦にいたか? あんな男」

 

「ごめん、将輝。僕も覚えているような、覚えていないような……そんな印象だ。けど、あの速度でああいった魔法を扱えるのなら、クラウド・ボールに出て来なかった理由がわからない。

 この時期に転校してきたとも考えられないし、隠しておく意味もない」

 

「……なら、何かの理由で目立たないようにしていた生徒、という事か?」

 

「……将輝は、どんな理由だと思う?」

 

「……身を隠さなければいけない理由と、名前を知られてはいけない事情……」

 

「それだけ聞くと、どこかの国の間者みたいだね」

 

「……一波乱起きる可能性は危惧しておいたほうがいいのかもしれないな」

 

 

 

*

 

 

 

「司波さん!」

 

 五十里と花音に見張り番を交代した達也が客席に戻ってきた時、それは起こった。

 事件などではない。尤も、声をかけてきた当人にとっては事件にも等しい事だったのかもしれないが。

 

「一条さん」

 

 一条将輝。

 九校戦で達也と死闘を繰り広げた第三高校の彼が、頬を赤らめながら深雪に話しかけたのだ。深雪もまた、お嬢様然とした仕草で名を呼び返す。

 隣にいるのがカーディナル・ジョージではない事に違和感を覚えながらも、自分と深雪がそうであるように常に共に居るわけではないのだと思い直す。そもそも吉祥寺真紅朗は控室にいるのだろう。

 戦力として申し分のないクリムゾン・プリンスは、見回りといった所か。

 

 完全な外交モードで対応する深雪を余所に、達也は会場を見渡す。

 深雪の煽りに舞い上がる将輝を視界の端に収め、今日一日彼が最後まで持つかどうか、他人事ながら達也は懸念を覚えるのだった。

 

「おい」

 

 と、深雪と会話を終えたらしい将輝が、達也に話しかけてきた。

 珍しい事もあるものだと思いながら、達也は彼を向く。

 

「なんだ」

 

「黒髪に仮想型ディスプレイをつけた、ローラースケートを走らせる長身の男。この特徴が当てはまる奴は、第一高校にいるか?」

 

 そのあまりのピンポイントな質問に、少しだけ面食らう達也。

 答えるのなら、いる。だが、

 

「……それが何か、お前達に関係があるのか」

 

「……いや、いるならいい。今朝、少し不審な動きをしていたからな。第一高校の生徒に扮した者の可能性を考えていただけだ」

 

 それだけ言って、将輝は警備のパートナーとなったのだろう小柄な少年と合流し、去って行った。

 彼の背中を見送りながら、達也は心の中で眉をひそめる。

 昨日、達也はその特徴のあてはまる男に対し、「お前は今回関わって来るのか」という意の目線を向けた。

 結果返ってきたのは、肩を竦める、という行為だけ。

 達也はそれをNOだと受け取っていたのだが。

 

 ――何の目的があって、ここへ来たんだ?

 

 このコンペは、大学、企業、研究機関等と言った国内の大人を相手にした発表会だ。

 フランスの間者か、軍に何かしらの縁のある者か。

 その正体は未だにはっきりしないとはいえ、コンペティションの内容に興味があるとは思えない。

 

 ならば、彼がここに来た理由は。

 

「……一波乱は、確実にあるというわけか」

 

 危惧していなかったわけではないが、何も起きないと言う可能性を期待していなかったわけでもない。確実に守りきる覚悟があるとはいえ、必ず危険に脅かされると決まっているような場所に、深雪や学友を連れてくるような残酷さは達也にない。

 少しだけ痛くなった頭を余所に、達也は一層の気を引き締めるのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 会場に到着した僕は、危機に立たされていた。

 

「……」

 

「……あー」

 

 克人先輩に、睨まれているのだ。

 いや、本人に睨んでいるつもりはないのだろうが、その眼力があんまりにも強い。

 都合が悪いので口伝を突っぱねた事を怒っているんじゃないかと、そんな気分になってしまう。

 

「……追上」

 

「うい」

 

「傷は……大丈夫か?」

 

「え? ……あ、ええ」

 

 そう返すと、克人先輩は少しだけ安心したような呼気を吐いた。

 

 ……あぁ、そうか。

 克人先輩との訓練中に、しかも克人先輩と鬩ぎあっている途中に吐血&出血をしたのだ。

 その原因が克人先輩に無いとはいえ、自校の生徒を守るべき存在が生徒を傷付けたとあっては、罪悪感やら何やらに苛まれた事だろう。

 悪い事をした。

 

 しかし、僕には説明をする言葉も補填する物品も持っていない。

 ……確か、克人先輩は僕がファランクスを動かした魔法について聞きたかったんだっけ?

 

「あー……」

 

 これで伝わるかなぁ、と握手をするように手を差し出す。

 意図を理解したわけでもないのだろう、克人先輩は「?」を浮かべながらも、それに応じてくれた。

 

 その手のひらに僕の手が触れた瞬間、軌道を逸らす。

 

「!?」

 

「うぃ」

 

 驚いて手を引く克人先輩に、ぺこりと頭を下げてから、口元に人差し指を当てる。

 これを守ってくれるかなんてわからない。だが、せめてものお返しがこれしか思い浮かばなかったのだから、仕方がない。

 後ろ手を振ってその場を去る。

 声がかかる事は、無かった。

 

 

 

*

 

 

 

 案内板のしっかり整備された会場内は、僕が迷うことなく客席に辿り着くのに大いに役立ってくれた。そうだよ、街中もこれくらい至る所に案内板を置いてくれるなら、迷ったりはしないのに。

 

 客席には既にレオ君やエリカちゃん、幹比古君に……というか、1-Eのみんなが来ていて、さらには見覚えのある顔がちらほらと見えた。まぁ、劣等生クラスである僕達の期待の星が壇上にいるのだ、ノリの良い彼らが応援しに来ないはずもない。

 既に第一高校の発表は始まってしまっているようだったので、座高の高いレオ君を目印にいそいそ彼らの元へ行く――という事は無く、壁にもたれかかった。

 

 今僕が客席に行けば、どうあっても他のお客さんの視界を遮ってしまう。

 こういう場での長身の邪魔さ加減はわかっているつもりだ。別に、ここでも十二分に聞けるのだから、問題はないだろう。

 

 そんな途中から聞き始めた論文コンペは、やっぱり、案の定、予想通り……あまり楽しい物ではなかった。いや、僕も魔法科高校の一生徒として、内容自体は理解できる。だが、目を輝かせるようなスーパー技術かと問われれば、うーん。である。

 だから、僕は壁にもたれかかったまま――すやすやと、眠りの世界へ落ちていったのだった。

 

 

 

*

 








あけましておめでとうございます!!

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