あべこべポケモン(仮) 作:ユーキ
私の名前はワタル、カントー四天王の一人にして最強のドラゴン使いである。カントーにおいてドラゴンタイプは少ない為、水と飛行の複合タイプであるギャラドスを手持ちにしているが、それには突っ込まないでくれ。
十年前、ポケモンリーグを勝ち抜き四天王を制覇した少年達がいた。才能に満ち溢れた少年達は四天王を制覇しチャンピオンへと至った。それから十年の間、彼等に夢焦がれた者達が次々に現れ、ポケモンバトルは曾てない程の盛り上がりをみせた。
その二人の男の再来とも呼べる新たなトレーナーがいると私の元に情報が入った。彼は彼らと同じ町の出身であり、何かしらの運命を感じたりもした。だが彼は彼らとは違いその腕を十全に振るう事はなかった。何故なのか、疑問は私の胸の内で燻り続け、遂に私は彼に接触した。
「何故力を隠す。何故上を目指さない」
私は彼にそう問いかけた。それに対し彼はこう返した。
「中小の大会が私に合っています」
合っている? それは否だ。試合を行う彼の一挙手一投足を見ていれば、理解出来る。彼がポケモンの動きを制限している事に。
バトルで実力をセーブし、全てのジムを制覇する事が出来るのに行わず、ポケモン協会主催の大会は出ない。
バトルを行う事によって、それが記録になる。それを見た者達は手本とする。そういった事の積み重ねによってポケモンバトルは発展してきた、先立ちが築いたものを継承し更に昇華させていく。それが私達トレーナーの宿命。なのに何故彼は……。
それ以降私は彼に度々接触を図っている。だがカントー中を巡る彼を見つけるのは困難だ。大会に出ているという情報から、彼の居場所を特定し会いに行くのが鉄板であった。
「今度ジムバッジを20以上持つトレーナーだけが参加出来る大会が開かれる」
「ポケモン協会から君を専属トレーナーにするという話があるのだが」
「ジムリーダーも参加するのだが、君もどうだ?」
話をしながらもこちら側へと促したりしてみたが。
「大会は遠慮させていただきます」
「専属トレーナー? 私にはとても」
「その様な大会、恐れ多い」
彼は目を伏せながらそう言うだけであり、こちらの誘いに乗る事はなかった。
そんな彼に対して違和感というか、何とも言えない感覚を覚えた。それが如実に現れたのはあの異常気象が起きた時だ。
「上空に滅多には現れないクラスの巨大な雲が!」
「広範囲での強風豪雨落雷!サンダーの目撃情報は無しです!」
「人工衛星と未来予知の情報から被害想定早くしろよ。あ、そうだ現地での避難勧告も加え入れろ」
日課となっているポケモンのケアを行なっている時、ポケモン協会から収集が掛かった。ある地域に突如として暗雲が立ち込めたという。ただの嵐ならば四天王を招集などしない、この日の天気は穏やかであり、カントー全域で見ても雨が降る地域が二、三箇所ある程度であった。しかし異常が生まれた。
現地の情報では、上空に小さな雲が現れたかと思うとあっという間に広がり今に至るという。
協会本部に到着した私は会議室へと通された。研究者然とした者達がプリントの束やパソコンの画面、壁に投影された映像を見ながら話し合っていた。
「サンダーが回遊しているのであればこの現象にも納得がいきます。しかし過去のデータとの相違点が見られますし、サンダーの姿は目撃されておりません」
「今現在確認出来ていないだけでは?」
「あ、おい待てい。肝心な事忘れてるぞ。他の可能性も考慮するべきだよなぁ?」
会議室の中へと足を踏み入れば、そこでは先に来ていた他の四天王も既にやって来ていた。
「それで、どの程度話は進んでいるんだ?」
「サンダーの仕業ではないか、って所までよ」
空席に座り隣のカンナに詳しく聞くがあまり進んではいない様子。その後も収集される情報から議論は重ねられ、1時間が経つ前に現地に向かい本格的な調査を行う事となった。
分かった事は少ない。過去の前例から伝説のポケモン『サンダー』があの辺りを飛行しているからではないか、という可能性が上がった。しかし発生から数時間、未だに雲はその場に留まり続けている。サンダーなら雲が飛行に合わせて動いていく筈。まぁあの辺りを旋回し続けている可能性もあるのだが。
「天候が悪い為空路は無理だ。なので陸路を進んでいく」
「陸路で? 2日は掛かると思うが?」
「安全を考慮すれば仕方のない事です」
その翌日準備を済ませた私達は暗雲が立ち込める中心であるトキワの森へと向かった。一団の主役は研究者達であり、私達は護衛。サンダー及び強大な力を持ったポケモンと戦闘になった場合の時間稼ぎである。
雲の範囲に入れば雨が車体を強く打ち、窓から見える木々は風によって揺れていた。 特殊装甲車両である大型バスの中ではサンダーに出会えると元気に話している伝説関連の研究者、嵐の中に向かうと憂鬱気味の気象庁の研究者、それと我等四天王。
「ようやく辿り着いたか」
嵐の中心は鬱蒼と木々が生い茂る森の奥深く、暗雲によって日は差さず嵐と相俟って不気味に感じる。レインコートを被り車内から出る。吹き荒ぶ風と雨が身体を打ち揺らす。周りに危険がないかを確認した所で研究者達がポケモン達と共に頑丈そうなテントを張り機材を運び込む。
「この辺りには強力なエネルギーの力場が観測出来ます。強力な力を持った何かがいると思われます」
ここに来る前から何かしらの力を感じてはいた、遠くからでも感じ取れるプレッシャー。やって来た事ではっきりと分かった、ここには強大な力を持ったポケモンがいる、もしくはいたと。
空を見上げる、空を覆い隠す暗雲が渦を巻き、雨と雷を大地に落としている。
「サンダー未だ見つからず。外からの情報でも姿は確認されず」
「観測される膨大なエネルギーからして伝説クラスなのは間違いない筈です」
「あ、そうだ。空を飛ばないポケモンの可能性もあるぞ」
空を飛ばない、そうするとジョウト地方にいるというライコウがもしかしたらカントーにまで来ているのかもしれない。
得ている情報を再度纏めていく者、車を走らせ周りの散策に出る者、サイコメトラーに周囲の情報を収集させる者。
そんな研究者達の様子を観察しながら時折やってくるポケモンを追い払っていると嵐に異変が起き始めた。
「んん? 風と雨が弱まってきた? いやこれは完全に収まるのでは?」
研究者の一人が発した言葉を皮切りに皆が空を見上げた。確かに嵐が弱まってきている。急速に変わる天気に騒つきながらも観測を続けていく研究者達。
雨は止み風は穏やかになり、最終的に空を覆い隠していた分厚い暗雲は、あっという間に消え去った。
散策班からは何も見つけられず、機材班はエネルギーしか捉えられず、エスパー使いは力が強過ぎて感知出来なかった。
「ガァルルゥ……」
「どうしたカイリュー? 誰か来るのか?」
ボールから出していたカイリューが警戒する様に一点を見つめ始めた。辺りを警戒していた他の四天王達が集まる中、木々の間から一人の男が現れた。
黒のスポーツキャップに動き易そうな青のジャージを身につけた男。その男はこちらを視界に収めた瞬間その目を大きく見開いた、今こちらの存在に気付いた様に。
「おやおや、最近ワタルがお熱を上げてカントー中を追いかけ回している少年ではないかい?」
隣に控えていたキクコが話し掛ける。だが待ってほしい。熱を上げる? 追いかけ回す? 確かに何度か会いに行ってはいるが、その言い方は誤解を招く。案の定研究者達から向けられる目から冷ややかさが滲んでいる。
「へー、可愛い顔してるわね。ワタルはああいう子が好きなの?」
「他人の恋愛にとやかく言う気はないが、ストーカーは見過ごせないぞ?」
「誤解だ! 私にそちらの趣味はない!」
カンナとシバの言葉に反射的に叫んでしまった。いや、こんな茶番をしている時ではないのだ。
二人に向けていた顔を彼に向け直し問い掛ける。
「どうしてこんな森の奥へ?」
「トレーナーですから、修行ですよ」
驚いていた彼も私達が話している間に冷静になったのか、質問に普通に返してくれた。しかし、修行? 今の今まで突発的な嵐が起きてしまい、荒れに荒れていた森の奥へ? 百歩譲って嵐の日に修行に来たとしよう、しかしこの最もエネルギーが高い嵐の中心であったここにピンポイントで来れるのか? それにやってくるのに合わせるように嵐が止むのだろうか?
「はぁ……遠回しな質問は避けよう。ここに私達は調査に来ている。この森には大勢の警察や協会職員が待機している。そんな森の中の奥、他の者達に見つからずに来れるのか? しかも今日に限ってね」
「……目的があってここに来たとして、態々貴方方の前に出てくる意味があるのでしょうか?」
「む?」
一つ大きく息を吐いてから彼は話し出した。何かをするために森の奥へとやって来た、それが悪い行いだとしたら態々人前に出てくる訳がないだろう。それ以外だとしても巡回している者達がいる場所に好き好んで向かうだろうか?
「重要な目的を達成する為に来たとして、他人が邪魔をしてくるかもしれないと考えれば人前には出ないと思うのです。貴方方の前に出てくれば、目的を果たす前に連行されてしまうのは火を見るよりも明らか」
「……つまり、今日に限って偶然にもこの場所に来てしまったと」
「はい」
分かってくれましたか、と朗らかな笑顔を浮かべる少年。しかし、納得出来ない。
「今の今まで嵐だったのよ? 収まると同時にやってくるとか、出来過ぎてないかしら」
「嵐の中で修行? 男の子がそんな危険な事をしようとするとは到底思えない。確か彼の住所はマサラタウン……あの爺さんが絡んでいる……?」
「『過酷な状況で心身を鍛え上げる』とは思わんのか? 俺も若い頃、嵐の中や火山の火口付近で修行に明け暮れた。俺は信じても良いと思うが」
「「貴方はもう少し慎ましくなりなさい」」
後ろで話している3人。確かに彼らの言う通り嵐があった手前信じることは難しい……よし。
「私達は数日前から起きていた異常気象の調査でやって来た。高いエネルギー反応がここで計測されている。ここに何かがいた、もしくは何かが起こっていたのは確実。そんな場所にやってくる人物は怪しいだろう?」
「……」
「君が言いたい事は分かる。だが君をこのまま帰す訳には行かない。少しの間だが、取り調べを受けてもらう」
「……はい」
この後テントの中へと彼を連れて行き一時間程話を聞いた訳だが、ここにいるのは研究職やバトル一筋の人間達、情報の引き出し等出来る訳もなく聴き取りは終わった。荷物の中身も調べたがボール類や木の実類等一般トレーナーの持ち物と変わらず、特筆するべき物はなかった。
「それではこれで」
「……時間を取らせてしまいすまなかったな」
「いえ、疑いが晴れるのならばこの程度」
「……帰り道には気を付けてくれ、最近はロケット団の残党と思われる者達の動きがある」
「はい、それでは」
もう修行の空気ではないと彼は帰っていった。その後を着けさせたが出身地であるマサラタウンの家へと入っていき、それ以降動きはなかった。
「話をしてみたが、君達はどう見る?」
「一度バトルしてみないと俺には分からんな」
「あたしは何か隠してると思ったけれど、何かまではね」
「食事に誘ってみたけど断られちゃったわ。つれない態度はそれはそれで良いのだけど」
シバは相変わらずの脳筋。カンナに至っては聴き取りの合間合間に「好きなタイプは?」とか「好きなポケモンは?」とか「食事に行こう」とか。お前は何を聞いているのかと問い掛けたくなる有様であった。
その後はテントを畳み機材を運び込み帰って来たのだが。私の心の内に違和感だけが残っていた。彼は目立つのを避ける強いだけのトレーナーから、謎のトレーナーへと変わってしまった。優秀なトレーナーを疑いたくはない、しかし偶然にしては出来過ぎているのだ。
そんな彼がアローラへと旅立ったのは、それから数ヶ月後の出来事であった。
久し振りに文章書いたけど、文章ってどう書けばいいのかコレガワカラナイ。
アクジキングの色違いを粘って4日、結局あれ以降出ない悲しみ。分かる?この罪の重さ(自問自責)