神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。
我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。
そして2015年の現代。輝かしい成果は続き、人理継続保障機関「カルデア」により人類史は100年先までの安全を保証されていたはずだった。
しかし、近未来観測レンズ「シバ」によって人類は2017年で滅び行く事が証明されてしまった。何の前触れもなく、何が原因かも分からず。
カルデアの研究者が困惑する中、「シバ」によって西暦2004年日本のとある地方都市に今まではなかった、「観測できない領域」が観測された。
これを人類絶滅の原因と仮定したカルデアは人類絶滅を防ぐため、実験の最中だった過去への時間旅行の決行に踏み切る。
それは術者を過去に送り込み、過去の事象に介入することで時空の特異点を探し出し、解明・破壊する禁断の儀式。
禁断の儀式の名は、聖杯探索 ―――――― グランドオーダー。
それは同時に、人類を守るために永きに渡る人類史を遡り、運命と戦う者達への呼び名でもある。
カルデアは保有する「英霊召喚システム・フェイト」の力を借りてサーヴァントを召喚し、「聖杯」を探し当て人類絶滅の理由を解き明かすために、マスター候補たちを過去へと送り込む。
だが、この人類を守護するための「聖杯探索」(グランドオーダー)は、レイシフト直前の"事故"により携わるマスター候補がほぼ全滅という最悪の事態に直面する。
マスター候補には一人だけ難を逃れた者がいた。数合わせとしてカルデアの機関員に迎えられたにすぎない、魔術経験を全く持たない只の一般人がそれであった。
マスター候補の少年とマシュ・キリエライト、この2人に人理の命運の全てがかかっている。
それは、未来を取り戻す物語。 『Fate』史上最大規模の戦いが、いま、幕を開ける。
されど、魔術王は致命的なミスを犯してしまった。
アラヤという意思そのものとカルデアの召喚術式そのものだ。
人理焼却という未曾有の災害が起きたこと、またカルデアの英霊召喚システムの未熟さによる「その隙間の多さ、曖昧さのおかげ」で、通常ならば例外・不可能・極低確率とされるサーヴァントの召喚も可能となっている。
それに加え、アラヤの意思がある。
魔術王は偉業を成し遂げた。されど、その程度である。
並行世界が存在する以上、たった一つの世界しか焼却していないのである。
しかし、無意識のアラヤがこの危機を感じ取った。
【前例を作り出してはいけない】
その危機感によって抑止力による召喚術式への後押しが発生した。つまりはありとあらゆる並行世界の助力をだ。
そう、人類最後のマスターは最高の世界の救世主を………魔王を召還した。
「えぇ? 俺が英霊だって? そんな大したやつではないんだけどなぁ……まぁ、人類のために協力しますね」
◾人理定礎値 C+
第1の聖杯:“救国の聖処女” AD.1431 邪竜百年戦争 オルレアン
「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……『吼え立てよ、我が憤怒ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン』!」
「── 我がもとに来たれ、勝利のために。不死の太陽よ、我がために輝ける駿馬(しゅんめ)を遣(つか)わし給(たま)え。駿足にして霊妙なる馬よ、汝(なんじ)の主たる光輪を疾(と)く運べ!」
互いの熱が互いを燃やしつく。
憎悪の炎と正義の炎……その決着は―――
◾人理定礎値 B+
第2の聖杯:“薔薇の皇帝” AD.0060 永続狂気帝国 セプテム
「見よ! これが余のローマだ!」
「ローマ……コロッセオ…嫌な思い出が……」
◾人理定礎値 A
第3の聖杯:“嵐の航海者” AD.1573 封鎖終局四海 オケアノス
「さて汝は契約を破り、世に悪をもたらした。主は仰せられる。咎人には裁きをくだせ。背を砕き、骨、髪、脳髄を抉り出し、血と泥と共に踏みつぶせと。我は鋭く近寄り難き者なれば、主の仰せにより汝に破滅を与えよう」
「えーーーあれ卑怯じゃない?」
「おじさんに言われても……」
魔王が召還した大猪が船に興奮した目で睨み付ける。
◾人理定礎値 A-
第4の聖杯:“ロンディニウムの騎士” AD.1888 死界魔霧都市 ロンドン
「神の雷霆らいていは此処ここにある。さぁ、ご覧に入れよう! 『人類神話・雷電降臨システム・ケラウノス』!!」
「稲妻よ、稲妻よ! 我は百の打撃を以て千を、千の打撃を以て万を、万の打撃を以て幾万を討つ者なり。義によりて立つ我のために、今こそ光り輝き、助力せよ!」
人類史において長らく神々の領域とされてきた雷電の権能を地上に引きずり降ろし、科学によって人が操れる領域に堕とし人類を発展させた偉人―――!
かたや、
人類史において数少ない神々の権能を簒奪し、魔王が振るうことができる領域に堕ちた権能の稲妻を使用する魔王―――!
どちらも雷を地上に堕とした存在―――その決着は、
◾人理定礎値 A+
第5の聖杯:“鋼鉄の白衣” AD.1783 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム
「全呪開放、加減は無しだ……絶望に挑むがいい。『噛み砕く死牙の獣クリード・コインヘン』!」
「ぐあああああああああああああああああああああああ!」
魔王は死んだ―――霊基を破壊され―――完全に死んだ。
故に――――あの力は発動する!
◾人理定礎値 EX
第6の聖杯:“輝けるアガートラム” AD.1273 神聖円卓領域 キャメロット
「最果てより光を放て……其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨! 『最果てにて輝ける槍ロンゴミニアド』!!」
人類最後のマスターたちは非常に危険な状況だった。
誰か―――助けて
その願いは聞き届けられた。強風と共に魔王は悠然と現れた。
獅子王は全身が強張った。人のカタチをしてはいるが、聖槍に秘められた性質によって、人の英霊ではなく神霊、強いて言えば女神に近しい存在へと変化・変質したが故に―――目の前の敵が己をも屠る存在だと理解した。
「―――神殺し」
◾人理定礎値 A++
第7の聖杯:“天の鎖” BC.2655 絶対魔獣戦線 バビロニア
魔王は―――始めて、この旅において始めて、神と対峙すると闘争心が湧く体質が発揮された。
神話に抗う神―――創世後に切り捨てられた母胎。追放された母なる海。生命を生み出す土壌として使われたが、地球の環境が落ち着き、生態系が確立された後に、不要なものとして追放された。並行世界でもなければ、一枚の敷物の下にある旧世界にでさえない、世界の裏側――生命のいない虚数世界に―――故に『不死の領域』から地上に出でて受肉することで顕現を果たし、現存の生命体である人類を一掃した後、新生命体達の母へと返り咲こうとする。
魔王は――彼には義務がある。あらゆる横暴が許される程が許される人類が求める義務―――「まつろわぬ神が現れた場合、人類代表として戦うこと」のみ。
◾人理定礎値 --
終局特異点:“極天の流星雨” AD.2016 冠位時間神殿 ソロモン
ゲーティアが吼える。
「また貴様か神殺し! 貴様らはそうだ。人間の分際で―――人は最低でも大いなる神や大自然の前になすすべなく翻弄され、宇宙のはじまりから終わりまで、あるべきように物事が進み、つつがなく歴史の糸が紡がれるべきだった。なのに神の権能を簒奪しても死を克服できず、なぜ戦う。いずれ終わる命、神々と永遠に殺しあう命と知って、なぜまだ生き続けようと縋る。おまえの未来には、何一つ救いがないと気付きながら……」
人類悪が叫ぶ。
「抑止力に、守護者に、運命に―――全てに呪われながら―――なぜ貴様ら神殺しは!」
ゲーティアは知らない。
かつて十の命を持つ神殺しと最強の鋼と呼ばれるこの世の最後に顕れる王、最後の王との一幕を―――
「貴様も貴様だ。邪魔な運命なら、とっとと放り出して身軽になればいいものを。いつまでも律儀に背負い続けるな」
魔王の言葉に最後の王は感服する。
「運命、宿命、血縁、神々の加護、義務、信仰、人の身の限界、非力さ、本来であれば抗うことも許されないほどの力の差…ありとあらゆる障害をすり抜けて、君たち神殺しはいつも僕の前に立ちはだかり、僕を幾度も倒す―――だからだろうな。僕は君たちと戦うたびに敬意を抱いてしまう」
魔王と人類最後のマスターは似ていない。けれど、どちらも愚か者である。
あとから考える巨神と人類最初の女の子孫である人間は愛されている。
そして人が持つ普遍的な欲求は同じだ。
それを未だ理解していないゲーティアは――もう少しあとで理解するだろう。
その時こそ、今を生きる同士の―――愚者同士の戦いだ。
【元ネタ カンピーネ! 草薙 護堂」