ハリー・ポッターと古王の帰還   作:ハリムラ

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眠れるドラゴンをくすぐるべからずパート2

日の光が届かない暗い暗い森の中、一つの物体が目を覚ました

 

「~~!~~様!」

 

それは近くにあった巨木を握り抱き寄せた、絶対に離さない様に、二度と逃がさない様に大事に大事に抱き寄せた

 

「…夢…懐かしい、永遠に戻らない…主との思い出…」

 

それは鋭い瞳から一粒の涙を流し、また夢の中で会える大切な人との思い出に寄り添った

 

 

 

 

 

 

 

 

父はとても大きかった、その翼は風を掴み、その鋭い爪は城壁をも切り裂いた

父の役目は宝物庫の番人だ、この部屋に入る者を一人残らず焼き、殺し噛み殺す

 

母は純白の翼を持っていた、父とは違いフワフワの翼は、子供の私を容易く包み込み夢の中へ招き寄せた

私の翼も母の様にフワフワの毛並みだったが、色は父に似て漆黒に染まっていた

 

その爪も鋭く、触れば何者をも切り裂く刃となっていた、私は幸せだった

何も困ることも無く、父と母は無限に湧く愛を私だけに注いでいてくれた

 

しかしそんな時間は容易く崩れ落ちた

バンッ!と言う音と同時に開く宝物庫の扉、父は悠然と立ち上がり侵入者を睨む

そいつらは容赦無く父に向かってきた、何時もと変わらず獄炎の焔を浴びせかけ、灰塵へと化す

ただ何時もと違ったのは一つだけ、数だ

 

父の火炎袋は度重なる戦闘で最早火を出すことさえ困難になっていた、私たちの住んでいた城は何千何万と言う武装した兵士に囲まれ次々に宝物庫へ侵入してくる

 

もう何十分経っただろうか、偉大だった父の堅牢な体には幾千もの槍や剣が突き刺さり、絶えず弾幕のような破壊魔法に晒され見る影も無かった

そしてとうとう父は黄金の上に倒れ込んだ、何人もの人間が父の上に乗り容赦無く武器を降り下ろす、その度に父の体からは血が飛び散り、微かに巨体を震わせる

 

母は飛び出し、父を助ける事より私を守るため近付いて来る兵士を相手取っていた

次第に母の美しかった翼も血にまみれ、爪も殆んど折れてしまった

 

 

遂に母も倒れた、一斉に人間が母の体によじ登り蒼い瞳や、焔を吐くための喉を切り裂いた

羽をバタつかせ抵抗すれば、羽を根元から引き裂いた

 

今まさに、巨大な斧で首を斬られそうになっている母はこちらを向くと一声叫んだ

人間には只の死にかけの断末魔、咆哮に聞こえたかも知れないが、私には確かに聞こえた

 

≪逃げなさい!!!生き抜きなさい!!!≫

 

私はまだ未熟な羽をはためかせ壁に開いた穴から外へ飛び出した、見たこともない空は蒼く、先程までの地獄からは考えられないほど美しかった

 

ふと後ろを振り返ってしまった、そこには首を切り落とされた母の骸と,体を切り刻まれ解体されている父の姿があった、私は思わず気が狂いそうになった

しかし、母と父の顔は何故かは分からないが安堵の表情を浮かべていた

 

私は父と母に誓いこの地獄のような世界を生き抜く、そう決意した

それからと言うもの私は世界中を飛び回った、今で言うところの中国、日本、アメリカ、ロシア、イギリス、エジプト、オーストラリア、その頃はどこも戦争や魔獣が暴れており、平穏な日などは無かった

常に周りに気を張って生活し、自分よりも大きな魔獣を狩らなければ為らない時もあった

 

その度に私は戦い、勝利し喰らって来た

こんな生活を何百年も続けている内に感覚が狂って来たのだろう、私はより強い者を求め世界を渡り歩いた

 

和の国と呼ばれていた日本にそれぞれ東西南北の守護を司る聖獣が居ると聞けば訪れ、戦い喰らった

オーストラリアに魔獣が出ればそこへ赴き喰らった

 

あぁ満ちない、喉が渇いた…より強い者を…より大きい者を

私が行き着いたのは、あの父と母のいた城の宝物庫だった、城は最早錆びれ瓦礫の様になっていた、宝物庫の壁に大穴を開けそこから侵入した

先ず目に入ったのは巨大なナニかの頭蓋骨だった、傍らにはその体で在ろう骨が丸く横たわっていた

 

視線を更に宝物庫の入り口付近にずらすと、この骨よりも大きな物体が有った

どちらの骨にも牙や爪、角などは無く、無理に取られた形跡だけが残されていた

 

「父よ、母よ、私は……」

 

父と母の骸の脇で私は何年も何十年も待った、何故かは分からない何故ここで私は待っているのか、何を待っているのか

しかし、私は知りたかったのだ、母が…父が死に際何故笑ったのかを

 

≪バン!≫

 

「ここがあの滅びた王国の最重要宝物庫か…ん?」

 

私は直感した…やっと、答えが来た

 

「何者だ…」

 

「ほぉ、人語を話す程のドラゴンは最近は見なかったが…我が名はフランディール・ルシアーナ、この世を支配する王だ」

 

「フランディール・ルシアーナ…この世を支配だと?笑わせるわ」

 

何だ、この女の雰囲気…こいつ本当に人間か?

 

「フフッ…確かにな、我ながら馬鹿なことを言っていると思っている

だがな、生憎私には不可能と言う言葉を知らんのだ」

 

笑顔でそんな夢物語を語る女、その目には一切の迷いや疑問など無かった

まるで、当たり前…決定された事を話すようだった

 

「…何を根拠にそんな事を言える」

 

「根拠何て無いさ…ただ私にはそれが出来る力がある」

 

「我よりも力無き女が、戯言ばかり抜かすな!」

 

「ん?誰が誰より力が無いって?」

 

少し空気がピリついた

しかし私は何が在ろうと負ける筈はない、世界各地に居る魔獣、聖獣を喰らい尽くし、その力を体に宿した私が

 

その考えは甘かった、魔力を解放した彼女は気高く、恐ろしく、何よりも美しかった

私は持ちうる全ての力を以て挑んだ、炎は防がれ、牙は折られ爪も意味を為さなかった

 

終始笑顔な彼女に吊られ、満身創痍の私にも思わず笑みが出てしまう

勝負は空が暗くなり月が天に昇りきった時終わりを迎えた。

 

「ハァ、ハァ、全く…何て頑丈な奴なんだ」

 

「私の牙は折られ、爪は無意味、ここまでだ…」

 

血にまみれた巨体を床に投げ捨て、首をルシアーナに伸ばす

さぁ、一思いに止めを差してくれ

目を瞑り、これから起こるであろう死に向き合うドラゴン、ルシアーナは杖をドラゴンの首へ付けると呪文を唱えた

 

「守癒魔法≪極癒光≫」

 

杖から出た淡い光はドラゴンの体を包み込み、全身に負った傷を治していった

数分経つと、全身に及んでいた傷は跡形もなく消えていた、同時に何かが頭の中に流れ込んでくる

 

 

「逃げなさい!!!生き抜きなさい!!!」

 

これは母との最後の思い出、母は飛び立つ私を見て聞こえない程小さな声でこう言った

≪あなただけでも、飛んで良かった≫

また情景が代わる、今度は私が生まれた当時の様だ

 

「ねぇあなた、この子はあの大きな空も、美しい海も、恵み溢れる森も知らずに、この宝物庫で生きていくのよね」

 

「あぁ、この子の世界はこの宝物庫の中だけなんだ…飛ばせてあげたいなぁ」

 

「えぇ、この大空をめい一杯飛んで行って欲しいわ」

 

「もしも、この子が外に飛び立つ機会があれば、送り出そう、この子なら大丈夫ドラゴンの誇りを胸に生き抜くだろう」

 

そこまで言うと私は現実に引き戻された

そこには、先程まで戦っていた女が立っていた

 

「さっきのは何だ?」

 

「霊気魔法だ、この部屋に残る魔力の残気からここで何があったのか、何を伝えたかったのかを教えてくれる魔法、お前も何か見たな?」

 

「私は…」

 

「どうだ?私と来ないか?私がお前の道しるべとなろう、お前が間違った方向へ進めば必ず私が道を正してやる、代わりにお前の力を貸せ、この世を平定するためにはお前のように強い者が必要だ」

 

こいつは何を言っているんだ…先程までの殺しあっていた私に付いてこいだと?

 

「だが、良いのか?」

 

「何がだ?」

 

「私はドラゴンだ」

 

「だからどうした?」

 

女は私の頭を鷲掴むと顔を近付けた

 

「私はお前が欲しいんだ!来るか?来ないか?ハッキリしろ!」

 

こいつには恐らく偏見なんて物は無いんだろう、こいつと回る世界もまた面白そうだな

 

「ならば私はお前の翼と為ろう、どこへでも連れてってやる、地獄の底まで行ってやろうぞ!」

 

父よ母よ、私はこいつの足となり翼と成ります、共に世界を変えるため…私は飛び立とうと思います

 

「よし!ではお前の名はギルバート、王の横に立つものだ!」

 

それから何かよく分からない石を飲まされ、ルシアーナ様と私は世界中を飛び回った、盗賊団のアジトを壊滅させ、フランディール城等と名前を付け、そこを反逆の城として同士を集めた

巨鬼族、ケンタウロス族、吸血鬼族、人狼族、巨人族、ドラゴン族…

 

 

 

 

「報告します!敵方総数約30万、自軍約2万、圧倒的に敵方の有利です!」

 

「報告ご苦労!デューク!デンホルム!サレバス!さぁどうする?」

 

デュークが一歩前へ出た

「な~にを仰いますか、我ら三名でその大差埋めて見せましょう」

 

「吾が輩のみで十分だがな」

 

デンホルムの一声にまたデュークが突っ掛かっている、次いで巨人族のサレバスが口を開いた

 

「うぁー、今日も相手の方が多い~、ルシアーナ様~もう行ってええか?」

 

おっとりとした口調からは考えられないほど好戦的な男だ全く

私は手を空にかざした

 

「先ずは開戦の合図と行こう!ギルバート!!!」

 

手を敵陣に向けた瞬間、自軍後方から一つの巨大な影が敵陣に向け飛び立った、次いでドラゴン部隊が後を追う

 

「我が名はギルバート!フランディール・ルシアーナ様に使える者!さぁひれ伏すが良い!」

 

ギルバートはその巨大な口を広げ紅蓮の炎を吐き出した、赤い炎は敵兵の魔法城壁を容易く打ち崩し、容赦無く焼き払う、次いでドラドラゴン部隊も火炎を吐き始めた

 

「おぉおぉ、ギルバート殿が暴れて居られる…味方ならこれ程頼もしい方は居られぬが敵ならば…全く恐ろしいものよ」

 

デュークは身震いさせている

私はスラリと刀を抜くと敵陣を差した

 

「ギルバートに遅れを取るな!全軍突撃!!!」

 

 

 

 

 

全ての戦争が終わり、ルシアーナ様は世界を平定させた

その後は弟子たちを連れて世界を回った、寝ているときにくすぐられたのは本当に腹が立った

思わず全力で咆哮して弟子たちを全員泣かせてしまった、あの時はルシアーナ様に槍の雨を降らされたな…

 

デュークの村に寄ったとき私はルシアーナ様に、ここに弟子たちは置いていくと聞かされたが反対はしなかった、これ以上ルシアーナ様と居ると強くなりすぎる、世界は平和になった、過ぎた力は争いの元に成る

 

私はルシアーナ様を背にのせ今度は二人っきりで旅をした、まるで同士集めに明け暮れた昔に戻った様で楽しかった

しかしまた別れの時が近付いていた、ルシアーナ様は年中霧が掛かる土地に家を立て、念入りに阻害呪文や防衛呪文、不可視の呪文を掛けた、ルシアーナ様が全力で掛けた魔法だ、突破できる者は居なかった

 

寝たきりになったルシアーナ様の横で私は何度も進言した、賢者の石を飲んで下さいと、しかしそれは全て拒否された

ならば私も共に死ぬと、首を切り裂いた事もあったが直ぐに治ってしまった

 

何でこんなにも強くなりすぎてしまったのだろう、体に取り込まれた賢者の石は細胞全てに行き届き、最早不老不死の体と成ってしまった

 

何も恨むことは無い、恨む筈はない、共にこの方と歩めたのだから、ただ…

 

「私も連れていって下さい…ルシアーナ様」

 

「駄目だ、ここからの旅は私だけの物…お前には苦労を掛けたなこんな老いぼれからは離れ、この大空を飛びなさい、後、申し訳無いんだけど」

 

「何ですか!私に出来ることなら何でも仰って下さい」

 

「この世界の均衡を保つため、これからも世界を見守ってくれないかしら…貴方にしか頼めない」

 

ギルバートはその金の瞳に大粒の涙を浮かべ頷いた

 

「さぁ、そろそろ私は新しい旅に出掛けるとしようか…世話に為ったなギルバート、最後にお前の飛翔を見せてくれないか?国崩しと恐れられた我が愛竜の飛翔を…」

 

ギルバートは涙を堪え、その四枚の翼をはためかせた、普通のドラゴンよりも二枚多いその黒翼はドラゴン特有の鱗ではなく、フワフワの羽で出来ていた、それが炎や魔法を受け流すギルバートしか持たない世界一の翼だ

 

「幾千もの国を崩した魔竜ギルバートの飛翔、ご覧ください!」

 

ギルバートが空に向け、黒い彗星の様に舞い上がった、ルシアーナはそれを見るとゆっくりと息を引き取った、ギルバートはルシアーナが天に昇るのを阻止するが如くその獄炎を空へと撒き散らし咆哮した

二度とは戻らない唯一無二の主への餞として

 

 

 

 

~現代~

「さぁ、我が主との命のため、今日も行こう」

 

≪バチン!≫

 

この音は…姿くらまし?いや、もっと古い懐かしい音だ

姿消し

 

「どこへ行こうと言うんだ?ギルバート」

 

全身の毛が逆立つ…こいつはヤバイ 、森が暗く相手の顔は見えない、しかしこれだけは分かるこの者は私が戦った生物でもトップクラスに入る分類だ

だが、私は敗けるわけには行かない、こいつが世界の均衡を破ると言うなら…全力をもって叩き潰す

 

羽を広げ四肢で確りと地をつかむ、前傾姿勢になり如何なる状況にも堪えられる様に集中力を高める

ゆっくりと近付いてくるその影

 

そして突如放たれる金色の白色の閃光、ギルバートはその場で動かず右手で打ち払う

バチン!と言う破裂音と共に右手には強烈な衝撃が襲う、ギルバートは身を翻し、鋭利な尻尾で辺りの木々共々敵を凪ぎ払う、敵は跳躍し空へと逃れる、それを見逃さず獄炎を浴びせる

 

「クッ!極防魔法≪国守の盾≫」

 

白色の魔方陣が敵の身を包み込み私の業火に耐えている、何て奴だ

しかし私も元は国崩しと異名をとった者、並みの防衛術などは容易く打ち砕いてやろう

 

更に強くなる業火、ゆっくりとしかし確実に削り取られる敵の盾

 

「…第一戦術魔法≪覇国の太陽≫」

 

突如敵の頭上に現れた巨大な太陽、その熱量は今私の使っている炎に匹敵した

私は敵への火炎を中断、空の太陽への掃射を始めた

 

「グウゥゥ…覇国の太陽、これは最早失われた太古の魔法、扱えるものは彼の偉大なる王≪フランディール・ルシアーナ≫様のみ何故お主が使える!!!」

 

敵はふと笑顔を見せると更に勢いを増した

 

「グオォォォ!!!我はフランディール・ルシアーナ様が使い竜…ギルバート!こんな物で…崩れるものか!!!」

 

ギルバートの炎の勢いが増し、一気に太陽を破壊した

 

「フフッ…流石はギルバート、我が全力の魔法にも耐えるとは」

 

敵はゆっくりとこちらに歩いてくる、その話口調や動作…見覚えがある

何よりこの魔力

 

「お前は…何者だ…?」

 

頭まで被っていたフードを取る、そこにはあの方と同じ銀髪の少女がいた

少女はギルバートに駆け寄るとそのフワフワの毛のなかに体を埋めた

 

「私を忘れたのかギルバート、そうだな…約束は守っていてくれたか?」

 

「約束?」

 

「世界の均衡を保つ、私が死ぬ前にお願いしただろう?」

 

同時に金瞳にに涙が溢れる、戻られた…我が主が

 

「ルシアーナ様ぁぁぁーーー!!!!」

 

猫の様に丸まりその頭を擦り付けて来るギルバート、長きに渡り私との約束を守り続けてくれた忠竜だ

 

「なぁギルバート、また私と来ないか?今回の戦いも大きいぞ?」

 

ギルバートの答えは決まっていた

 

「勿論です!何者が相手だろうと、この国崩し魔竜≪ギルバート≫が必ずや打ち破って見せましょう!」

 

私は改めてギルバートと主従契約を交じわせフランディール城へと向かった

久し振りのギルバートの背は、あの頃と変わらずフワフワで夢心地だった

ギルバートの顔もまた、夢では無いかと何度も確認し満面の笑みで大空を駆けていた。


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