ハリー・ポッターと古王の帰還 作:ハリムラ
コッコッと軽やかな足取りで、元堅牢な石畳を歩く二つの影があった。
しかし、その影が通りすぎる頃にはその丈夫さのみが取り柄の石畳は、引き裂かれ、爆散し付き従う魔獣の業火に焼かれた。
それでもなおその者は歩みを止めない、と言うよりもより一層魔法の激しさを増していた。
「ギルバート!左の壁から魔術反応!」
「ハッ!」
アリシアの言葉に直ぐ様反応するのはギルバート、その凶悪な口内からは、何千℃にも熱せられた爆炎が壁を叩きガラス状になり崩れ落ちた。
「それにしても楽しいなギルバート!」
壁から飛び出してきた数多の矢をフランディールの剣で切り落とす、同時に一歩後ろに下がると先程までいた場所に落とし天井がめり込む。吊るされていた鎖を切り離し、安全を確保後乗り越え先に進む。
「そうですなぁ~、しかしどれもこれも危険な罠ばかりですお気をつけを!」
「お前誰に言っている、私はアリシア・ボスフェルトだぞ!」
フラッフィーとの主従契約を終えた後アリシアとギルバートは隠し扉へ降りた…いや落ちた、一瞬の浮遊感と共に急降下する
「フンッ、やはり阻害呪文が施されているな…こんなことが出来るのはダンブルドア位のものだろう、ギルバート!」
垂直に自由落下しながらアリシアがそう言うと、先に降りていたギルバートが羽を広げアリシアを柔らかな羽毛で衝撃ごと包み込んだ。
眼下に広がるのは、フラッフィーのいた部屋より少し大きめな部屋、そこには吸魔の蔓がまるで森のように張り巡らされていた、この魔法植物はその蔓に触った生物を絡めとり、容赦なく絞め殺す魔法界でも上位に食い込むほどの危険植物だ、しかし今回は相手が悪かった。
「ギルバート…突っ込め」
その言葉と同時に一途の恐怖や抵抗もなく、ギルバートは四翼をはためかせ視界を埋め尽くす蔓の森へ突貫した。
蔓がその黒翼にぶつかったその瞬間
≪ドッ!≫
鈍い音が発せられたと同時に上下左右から吸魔の蔓が隙間なく襲ってくる、あっという間にギルバートとその背に乗ったアリシアを覆い尽くし緑の繭を形成した。
しかし、そんな繭も国崩しの魔獣を押さえ付ける事は出来なかった、緑だった外皮が次第に茶色になり黒になる、次の瞬間には一角から深紅の獄炎が噴き出した。
「おいギルバート、お主なまっているのでは無いだろうな」
「何をおっしゃいますか、まだ体の大きさに慣れず捕まっただけにございます」
そう言うとギルバートはその四翼を大きく広げ吸魔の蔓を引きちぎった、一度羽ばたけば蔓が千切れ二度羽ばたけば蔓が吹き飛ぶ。
「では行きますか」
追加で迫ってきた蔓を前足で切り裂き、後ろから迫る蔓は尻尾を高速で振ることで真空波を作り出しバラバラに砕け散る。アリシアはまるで他人事の様に、その背に胡座をかき事の終焉を待った
ギルバートもそろそろ面倒になってきたのか、終わらせに掛かった。
「滅びよ…」
その呟きと同時に口内で熱せられた高熱の炎を噴いた、部屋内が深紅に染まり一気に室温を上げ始める。そんな中、アリシアは自身の体の周りに薄い空気の膜を張り、何事も無いように平然と過ごしている。
約十秒もすれば部屋内には消し炭となった吸魔の蔓が散乱していた、ギルバートはフンッと鼻から煙を吐くと満足げに眼下の光景を望んだ。
「さぁ、終わったみたいだし次いくか?」
「ハッ!お待たせいたしました」
それからは高速で飛び回り襲ってくる数百の蜂の群れの中から一つの鍵鳥を探しだす試練〈ギルバートが焼き付くして為多少壊れたかも〉や、石鎧を着た石像兵士をアリシアが爆撃魔法で木っ端微塵に吹き飛ばした。
そして今まさに凶悪な罠が仕掛けられた迷路を突破したのだ
「フゥー、もうじき最終試練と言った所か?」
アリシアの頭の中には、広域探索呪文により広大なこの施設の全体図が手に取る様に映し出されていた。その結果目の前にある扉の先が行き止まりになると共に、巨大な魔力の反応を捉えていた。
「行くぞギルバート」
「仰せのままに主よ」
ギルバートが器用に扉を開けると目の前の部屋に一つの大きな鏡が置いてある、それ以外は何もない、ただポツンと一つの大鏡が置いてあるだけだ。
ギルバートがゆっくりとした足取りでその大鏡に近付き覗きこんだ。
「ムゥ、何か魔力の流れを感じますが私しか写りませんなぁ」
そこにはギルバートの姿のみ写し出されていた
「どれ、私も…」
「そこまでじゃアリシア穣」
背後から萎びた声音が聞こえてきた…ハァー、タイミングが悪いなぁ
アリシアが振り返る、そこには立派な白髭をたくわえた老人アルバス・ダンブルドアが立っていた。
「これはダンブルドア校長、こんなところで会うとは奇遇ですね」
「そうじゃの、まっこと奇遇じゃ…してアリシア嬢はここで何をしておったのかな?」
「…なぁーに、少し面白そうな扉を見付けたから道すがら迷宮攻略をしていただけですよ」
二人と一匹、互いに一騎当千の強者のみが立つことを許されたこの場、冷たい部屋内に沈黙が流れれば少し熱を持ってきた様なピリピリとした雰囲気が流れた。
「フッ…何もしませんよ」
私はそういってダンブルドアの脇を通りすぎる、後に付いてギルバートも来た。
地上に上がる道すがら危険な罠を全て安全な罠に変えておいた、これでハーマイオニーも安全だろう。
「全く…あの罠の数々を突破するとはのぉ~」
うっすらと額に流れる冷や汗を拭き取り、ダンブルドアもアリシアの後を追った。
「なぁギルバート、デューク、アレクシア、デンホルムのことをどう思う?」
「どう思うとは?主に忠誠を誓いそれに見会うだけの力も持つ、とても素晴らしい誇りに思える配下の者だと思いますが…」
「そうではない、あの三人の力だ、現時点では三人とも最高幹部としているが…やはり昔に比べるとデューク以外の者達は力が足りないと感じてしまうのだ」
少し微笑を浮かべながらうつ向くアリシア。
「可笑しなものだな…力の…暴力の要らない世を作るためにより強い力を求める、なぁギルバート、私は正しく生きられているのか?」
ギルバートは羽をバタつかせながら。
「当たり前です!主は我々人外の為にその力を振るわれている…今も昔も我々の王はあなたでありあなただから我々は王と崇めるのです!ですから…そんな気弱な事を言わないで下され」
少し寂しそうにギルバートはアリシアの顔を覗き込んだ、アリシアはギルバートの頭を優しく撫でるとスッと背筋を伸ばした。
「フフフッ、ギルバートは厳しいなぁ…では遅れずに付いてこい、私の隣に立つものとしての義務だからな?」
イタズラっぽく笑うアリシア、ギルバートはブンブンと尻尾を左右に振る。
「お任せください!」
二人で少し歩くとピタッとアリシアの歩みが止まった
「…そうだ、ギルバート良いことを思い付いたぞ!」
「主がそう言うと絶対に良い予感がしないのですが」
ニヤッとするとアリシアはギルバートにあることを命じた。
「あぁ~ぁ、やっぱり良いことでは無かったな…」
ファントムゲートをアリシアとギルバートが潜る、フランディール城内に入り開発室と情報管制室へと向かう。
開発室ではデュークが白衣に身を包みながら緻密な作業を行っていた、でかい図体であんなに繊細な作業をされると凄いギャップだ。
情報管制室ではデンホルムが配下のケンタウロスとアレクシアから送られてくる各国の魔法省や魔法生物の生息状況、そして私達特別魔獣管理省の部隊構成を行っている。
私はデンホルム、デューク を会議室へと呼んだ。
「おぉ!戻られたかアリシア様!丁度報告したいことが御座いましてなぁ~!!!」
「アリシア様、ただいまアレクシア殿は人狼部隊を率いて戦力拡大にイギリスを駆け回ってございます、もうじきイギリスの狼男、狼女の全隷属化が完了するかと」
全員が円卓の豪華絢爛な椅子に腰かけると話が始まった
「ほぉ、それは行幸、して我が配下となった者達には然るべき待遇をしているのだろうな?」
「勿論でございます、家族があればここフランディール城の中に家を建て住んで貰っています、もしも独身な者達もアパートを建てましたのでそこに住んでおります」
「そうか、自ら希望する者は軍隊へ、志望しない者達は農業や産業でここを支えて貰ってくれ」
「御心のままに」
「デューク、〈抗銀薬〉〈真理の涙〉の製造はどうなっている?短縮化を成功させて見せると息巻いておったよな?」
内心私が短縮化をやってないからと言ってこやつが短縮化に成功すると言う可能性は30%と見積もっていたが…
「ガッハッハッ!!勿論成功しましたぞ!まぁ〈抗銀薬〉の場合は材料の収集が手間なだけで調合はそれほど難しくは有りませんでしたな」
うそ…だろ?一応あの抗銀薬でさえ相当高度な調合技術が必要だと思っていたのだが…流石は巨鬼族だな恐ろしい
「〈真理の涙〉の方はどうだ?」
するとデュークの真っ赤な顔が裂けるのではと言うほどにやけた
「よくぞ聞いてくださいました!このデューク遂にやり遂げましたぞ!」
そう言うとデュークは足元に置いてあった巨大な瓶を円卓に乗せる、中には金色の淡い光を放つ液体が入っていた。
「デューク、それは?」
「ハッ!これこそ〈真理の涙〉の量産品でございます!真理の涙は、各材料自体の魔力量が多く全ての材料の魔力結合が難しいため、時間を掛けてゆっくりと調合させていました、しかし私はそこをどうにか改善すればもっと早く調合、量産が出来るのでは?と考え調合に取り組みました!」
「お、おぉ、そうか…」
「ここからが面白いのです!ですので私は~~~……」
…1時間後…
「と言うことで、秘薬〈真理の涙〉の量産に成功したのです!」
「や、やっと終わった…」
「話が長いぞデューク!アリシア様がお疲れではないか!」
デンホルムが私の身を案じて発言してくれた
「何より副作用に付いて話しておらんではないか!」
なん…だと、まだあったのか、、、
「副作用があるのか、して、どんなものだ?」
「いやぁ~、副作用と言うほどの物では無いのですがのぉ~」
「あれを副作用と言わずしてなんと言う…」
デンホルムが呆れている…これは覚悟しておいた方が良さそうだな。
私はデンホルムとデュークに連れられ洞窟の奥に作られた巨大闘技場に向かった…そして絶望した
「オラァーー!!!終わりか貴様ら!次は誰が俺の相手をしてくれるんだあぁん!」
「てめぇ、これで俺を倒したつもりでいるのか!ちっとも効いてねぇよバァカ!」
「あぁもう、弱いやつが何人来ても仕方ねぇ!全員いっぺんに掛かってこいや!」
「上等だこら!」
…なにこの戦闘狂集団、300人ほどの人狼がバトルロワイヤル方式に戦闘を繰り返している。
一人一人の顔はみんな満面の笑みを浮かべており、控えめに言ってヤバイ、正直に言って恐怖だ。
「おい見ろ!アリシア様だぞ!」
「アリシア様!アリシア様!」
「アリシア様万歳!!!」
大半の人狼が私を見付けると膝ま付き声を上げていた
「…おいデューク、説明しろ」
私の記憶が正しければ彼らは人狼化の前ならとても律儀な温厚な性格な者達ばかりだと思ったのだが…
「えっと~、何と言いますかなぁ…彼らが満月の日に人狼に変わるのは自分の中に流れる獣としての本能があふれでてしまうからです、人間の時に自分の中の本能を理性で全て押さえ込みそれが満月の日に増幅して押さえられなくなるから変身するのです」
「だから?」
「だったら平常時から多少の本能を出しておけば、満月の日に変身することもなく、自分の望むときに変身できるのではと思い…これが結果です」
「ハァー…デューク、お前と言うやつは!」
「お待ちくださいアリシア様!!!」
私がデュークを叱ろうとした瞬間、眼下の闘技場から声が飛んできた。
発言者は人狼族の青年だった
「恐れながら発言の許可を頂きたく!!!」
「許そう、面を上げよ」
「ハッ!人狼部隊フランディール城守備軍所属、ギンザと申します!恐れ多くもデューク様を叱らないことをお願い申し上げます」
その青年の目は真っ直ぐに私の方を見つめていた
「何故だ?少なくともお前達の性格を変えるような事をしたのはこちらの落ち度だ」
「しかし、私達は今の自分がとても楽しく生きられるのです!以前は時おり訪れる破壊衝動に抗うため仲間でもそれこそ親子でさえ深く関わりを持つことが出来ませんでした」
「…だが」
「それに、確かに戦闘を行うことに抵抗や最早楽しさすら感じますが…我々は人狼、戦闘や狩りをすることを至高とする種族です、ましてやそれが理性を保つ事が出来るようになった事に感謝はすれど怒ることなどある筈が御座いません!」
少しうるうるしているデュークは置いておくとして…う~む
「…分かった、デューク良くやってくれた」
「ハッ!ありがたきお言葉!」
片膝を付き頭を下げるデューク、私は肩を叩き立たせた
「してどれ程の量の薬がどれ位で作れるのだ?」
「そうですなぁ、一人当たり小瓶一本ですので…約500本が一ヶ月程で出来ますな」
…本当にヤバイな巨鬼族
「よ、よし、では余ったものはケンタウロスや巨鬼族にも飲ませてやれ…勿論任意でだぞ?」
「ハッ!承知しました」
ふぅ~、さて本題に行くか
「時にデンホルム、我が組織と軍の総数を知りたい」
「ハッ!
人狼族620名、巨鬼族1250名、ケンタウロス族2300名、小鬼族120名、巨人族45名、キメラ1匹、グリフィン4匹、天馬が4種類各2匹ずつ、トロール20名、ヒッポグリフ30匹、不死鳥2名、ユニコーン30匹、三頭犬1匹締めて4431名になります」
「戦闘員は?」
「人狼500名、巨鬼族1100名、ケンタウロス2000名、小鬼族20名、巨人族20名、キメラ1匹、グリフィン2匹、天馬8匹、トロール10名、ヒッポグリフ10匹、不死鳥2匹、ユニコーン10匹、三頭犬1匹締めて3684名になります」
「フム、悪くは無いな…だが少なすぎるな、丁度良いな今いる者達全員に言っておく!」
アリシアは闘技場にいる人狼族の他に闘技を観戦していた各種族に声を張った
「我々は!これからこの世界の全ての人外生物の安全と平穏を勝ち取り守るために戦う、しかしこの世界は広大だ、全ての森、山、川、空を守るには絶対的に人が足りない、そして各々の力も足りない!」
話を始めると次第に私が来たことを聞いた者達も集まり始め、とうとう全員集合した。
「勿論強制するつもりは無い!しかし我々の領土そして仲間を守るための力を欲するものには…力を与えよう」
私が手を上へ掲げた、同時にフランディール城の上から何かが飛び立った。
それは漆黒の四翼をはためかせ闘技場の上を旋回する、闘技場に集まった者や私の話を聞いていた者達はみな空を指差し呟く
「あれが…フランディール・ルシアーナ様の最強の矛、国崩し魔龍王〈ギルバート〉様か…」
「これより毎日夕方よりここ≪ドーマの森≫を使い訓練を実施する!教官は≪国崩しギルバート≫≪紅鬼神デューク≫に任命する!!!」
遠くから〈聞いてませんぞぉぉぉぉ~~~!!!〉と言う声が聞こえた気がするが…気のせいか?
「巨鬼族、巨人族、小鬼族は急ピッチで各種設備の建設に取り掛かれ!
この特別強化訓練は毎日行う物とする、参加するものはこの紙に署名せよ、名前が分からずとも手を当て名前を唱えると勝手に記録されるから案ずるな!」
そう言うと私は服を翻し静かになった闘技場を後にしようとした、しかし
「お待ちくださいアリシア様!!!」
歩みを止めたのはデンホルムだった
「なぜ私は教官に選ばれないのでしょうか?確かに特魔省の運営など忙しくはありますが…」
私は即答した
「お前が弱いからだデンホルム7世よ」
デンホルムは明らかに絶句していた、それはそうだろう…自分が忙しいから選ばれなかったと思っていたのに理由は弱いから
「わ、私が弱い…ですと?」
ひきつった顔でデンホルムは訊ねてきた
「そうだデンホルム7世、正直に言おうお前はデュークの足元にも及ばない、ましてやギルバートとやれば一秒も持たないだろう」
これは本当に思っていた事だ、確かに初代デンホルムは強かった、デュークと戦っても半分くらいの確率で勝っていただろう。
だからこそデュークもデンホルムを親友、相棒、そしてライバルとしていたのだ、今のデュークが本気で戦えるのは私、ギルバート位の者だ。
確かにデンホルム7世は他のケンタウロスに比べれば格段に強い、しかしトロールに100匹に囲まれれば倒される程に弱い、デュークなら一刀の元に切り伏せるだろう。
「な、ならば私はデュークに決闘を申し込みます!これに勝てば私を教官にして頂きたい」
「う~む、デュークよどうする?」
「いやぁ~ワシとしては教官なんて柄では無いのですがなぁ~それに…決闘となればワシは手加減出来んぞ小童が!!!」
突如デュークの体から深紅の光が沸き立つ、肌は何時にもましてや深紅に染まり体の筋肉は戦闘を待ちきれず今にも動き出しそうだ。
「…っ、私は誇り高きケンタウロス族!巨鬼族族長デューク!貴様に決闘を申し込む!」
「クックハハハハッ!!!良いだろう、巨鬼族族長〈紅鬼神デューク〉その決闘を受け入れよう!判定はギルバート殿お願い出来ますかな?」
「良いだろう、決着は動けなくなる又は降参のみとする、相手を殺傷するような行為は禁止とする良いな?」
両者頷き合う
「だがデューク、お前が勝ったら何を求める?」
「そうですなぁ~、やはりワシよりも弱いものにデュークと呼ばれるのは腹が立つ…先生、又は師匠と呼んで貰おうかの?」
デュークはもう既にデンホルムを育てる気満々の様だ
「そんなこといくらでも呼んでやるわ!」
ギルバートが決闘の約束事項と報酬を取り決めその日は別れた、決闘は明日の夕方…どちらが勝つのかは決まっているがな。