「う……はっ!こ、此処は?」
目の前には漆黒の宇宙と煌めく多数の星が見えた。だが、其処には連邦軍はおろかジオン軍も居ない。
「かなり流されたみたいだな。機体の状況は」
モニターで確認すると第2.4エンジンが機能停止。目視で確認するとエンジンそのものが無い。多分エンジンが丸ごと無くなったお陰で誘爆しなかったのだろう。
「此方、地球連邦軍第1連合艦隊第27機動戦隊所属シュウ・コートニー一等兵!誰か応答願います!」
しかし、返信は無い。ミノフスキー粒子の影響も有るだろう。だが、目に見える範囲に味方の艦隊は見えない。それに、セイバーフィッシュも被弾した結果推進力を半分失った。更に燃料も第2.4エンジン分が無い。取り敢えず救難信号を出しておく。空気残量を確認すると3時間も無い。
「死ぬのか……俺は」
漆黒の宇宙を見る。正直恐怖しか湧かない。この宇宙の中で独立を宣言したジオン公国は怖く無いのだろうか?いや、その恐怖心より地球連邦から離れたかったのだろう。
「結局、自分達で蒔いた種なんだな」
暫く漆黒の宇宙を眺める。最早絶望感しか湧かない。何となくモニターを操作して周辺をチェックする。すると反応があった。
「っ!?何の反応だ!」
急いでチェックする。すると、何かの残骸を確認した。
「兎に角近付いて見るしか無いな」
そしてセイバーフィッシュを動かし近付く。そして、残骸が何なのか確認出来た。
「アレはジオン軍の輸送艦パプアか」
半壊したパプアを発見。しかし、贅沢言ってる余裕は無い。それどころか、敵が居る可能性だって有るんだ。そのままセイバーフィッシュを近付けて行く。パプアから攻撃は無く、無事に近付く事が出来た。
「戦闘機でも脱出艇でも有れば助かる」
そして、輸送艦パプアの格納庫に入る。
「コレは…まさか」
其処で忌まわしき兵器と出会う。仲間達を殺し、地球連邦艦隊を壊滅状態にまで持ち込んだ人型兵器。そしてこの人型兵器ザクⅡと呼ばれるモビルスーツとの出会いが、俺の人生を大きく揺るがす事になった。
この後、先ずは空気を確保する事にした。輸送艦パプアにはまだ、生きてる区画があった。其処で空気を確保。艦内は死体しか無かったが、生きてる人間より安心した。その感情が間違ってるのかは如何かは、この時は理解出来なかった。
「さて、この人型兵器…ザクⅡか。マニュアルとか無いのか?」
ザクⅡのコクピットを探すとメモ帳があった。其処には起動方法や操作方法、更にザクⅡの機動等も書かれていた。だが、このメモ帳はかなり奥に仕舞われていた。多分、このザクⅡは様々なパイロットを乗せて来たのだろう。その内の誰かが忘れいった物だろう。
「機体チェック。油圧、バッテリー、各部異常無し。操作方法も多分イケる筈だ」
ザクⅡを起動。モニターから外の状況を確認。武器もザクマシンガンを一挺確保。但し弾はザクマシンガンに付いてる分しか無い。セイバーフィッシュの戦場から流れて来た際のルートデータを、なんとかザクⅡにダウンロードするのに成功した。
「ありがとう」
俺はセイバーフィッシュに対して感謝と共に敬礼をする。あの機体が無ければ死んでただろう。そのままザクⅡを発進させる。ザクⅡの出力、推力はかなり高い。セイバーフィッシュなんかとは比べ物になら無い位高性能だ。
「然も装甲はセイバーフィッシュ以上か。確かに負ける要素が無いな」
ミノフスキー粒子戦闘を主眼としているモビルスーツと通常戦闘を主眼にしてる戦艦と戦闘機。最初から戦う土台が違い過ぎたんだ。
「兎に角、今は連邦艦隊を探さないと。先ずはルウム付近に行くしか無い」
そのままザクⅡを加速させる。ルウム付近に近付くが残骸しか見当たらない。しかし、何処に撤退したのかは予想出来る。と言うか、ルナツーしか無いのだ。他に撤退出来る場所なんて無いからな。そして、ルナツーに進路を向ける。この近辺もジオン軍の占領下になるだろう。
そして、ルナツーに向かう途中で閃光を確認した。更に味方の通信も傍受する。
『……ら……攻撃を…ザザ……救……』
「味方の通信!サラミスかマゼランからか!」
ザクⅡを加速させる。しかし、その間にサラミス級が一隻爆沈する。残りのサラミスとマゼランにも敵が纏わり付いてる。後方にはムサイ級が3隻いる。
「味方を見捨てる訳無いだろ!」
一気にザクⅡをサラミスとマゼランに近付ける。
『其処のザク!何処の……だ!答え…』
ムサイから通信が来るが無視する。そのまま敵のザクに照準を向ける。
(まだだ、まだ……まだ……)
確実に当てる距離まで近付くんだ。
side 地球連邦軍マゼラン級パラマウン バリス艦長
「ノリルバーゲン撃沈!」
「敵モビルスーツ振り切れません!」
「左舷銃座大破!後部メガ粒子砲大破!」
「くっ…まさか此処までやられるとは。急いで振り切るんだ!」
私はジオン軍の戦力を侮っていた。ミノフスキー粒子、そしてモビルスーツ。この二つによって我々地球連邦艦隊は大敗北を被った。我々も傷付いた艦隊を率いてルナツーに撤退する途中だった。だが、ジオン軍は見逃すつもりは無い様だ。
「艦長!上方より敵接近!来ます!更にうわあああ!」
「此処までか……ジオンめ」
上方と目の前にモビルスーツ。機銃座は殆どか機能停止状態。私はジオンに屈するつもりは無い。最後まで敵を睨み付ける。その時だった。
目の前のモビルスーツが被弾。そして爆発。
「何が起きた!」
「不明です!あっ、先程の上方のモビルスーツが!」
そう、1機のモビルスーツが艦隊の周りに居るモビルスーツに攻撃を仕掛けていたのだ。
『此方……連邦軍第……艦隊第27機動……所属シュウ・コートニー一等兵!応答願います!』
「アレは…味方なのか?っ!何を呆然としている!援護しろ!」
「り、了解!」
アレが味方は分からない。だが、今助かるにはあのモビルスーツを援護するしか無い。他のサラミスも援護射撃を開始する。
「生きてる機銃座は敵モビルスーツに攻撃!あのモビルスーツに当てるなよ!返信も急ぐんだ!」
私は1機のモビルスーツを見つめたのだった。
side out
side シュウ・コートニー
『此方第1連合艦隊所属マゼラン級パラマウンの艦長バリスだ』
漸く繋がった。良かった。
『御覧の通り、現在戦闘中だ。よって周辺の敵を排除してくれ』
「了解です」
周辺を見るが味方のセイバーフィッシュは居ない。居るのはサラミス級3隻、マゼラン級1隻だけだ。だが、機銃とミサイルの援護は有る。
「やるだけやるさ!」
ザクⅡを加速させる。
『この裏切り野郎!よくもジャックを!』
『許さねえぞ!覚悟しやがれ!』
4機のザクⅡが迫って来る。そのままムサイに向けて加速させる。ムサイも味方に向けて発砲は出来無いだろう。
「さあ、付いて来い。もっとだ、もっと加速して来い!」
このモビルスーツには戦闘機では無い。そう、戦闘機とは違う機動性が出来るのだ。
「行くぞ。AMBAC、そして一気に急停止!」
ザクⅡの脚部を前に出し、一気に全力噴射して停止する。途轍も無いGが掛かるが、視界は失わ無い。
『何!後ろだと!か、回避し』
「貰った!」
ザクマシンガンでザクⅡの背後のバックパックを撃ち抜く。一気に3機撃破する事に成功する。だが、弾切れになり1機を取り逃がす。
「さて、逃げるぞ。ムサイからの砲撃が!やっぱり来た!」
ザクⅡの近くに艦砲射撃が来る。しかし、連邦軍艦隊も負けてはいない。元々高い対艦能力があるのだから。ムサイ相手も充分対処出来る。そのまま味方の艦隊に近付く。
「何とかなったな。しかし、モビルスーツ。これ程の物なんてな」
特にAMBAC機動は凄いとしか思えない。確かにGはかなり掛かるが、耐えてしまえば背後を取れる。連邦軍のセイバーフィッシュなんて簡単に背後を取られてしまうだろう。そんな事を考えながらマゼラン級に近付くのだった。