ジムを綺麗にした後、食事を取りに行く。その途中で模擬戦が行われていた。気になり様子を見に行くとザクとジムが模擬戦をしていた。ザクがジムの攻撃を避けて反撃をする。しかし、弾はあらぬ方向へ撃つ。その隙にジムがザクに接近して至近距離からペイント弾を撃つ。更にザクが倒れても撃ち続ける。
「やっぱりザクなんてジムに掛かれば弱いんだな!」
「ああ、連邦軍のモビルスーツの方が性能は良いみたいだしな」
「所詮スペースノイドが俺達地球連邦に反抗する事が間違いなのさ」
恐らく彼等は別のパイロット候補生達何だろう。彼等はザクを圧倒したジムの性能を信じているのだろう。だが、俺はジムの動きよりザクの方が気になっていた。あの流れる様な動きからの反撃。どう見てもザクの方が良かった。
「ジムの方が性能が劣っているのか?」
だが、操作した時は特に不満は無かった。なら一体何が違う?
「機体性能じゃ無くて…パイロットか?」
恐らくそうだろう。ザクのハッチが開きパイロットが出てくる。其処には若い青年がいた。正直驚きだった。だが、一番驚いたのは雰囲気だった。
(俺と同い年位か?なのに、何か貫禄出てるし)
間違い無い。あの青年はエースパイロットだ。そんな雰囲気が見て取れる。俺は近くにいる伍長の奴に話し掛ける。
「なあ、あのザクのパイロットは何処の部隊の人なんだ?」
「あ?…曹長ですか。彼はジオンからの亡命者です。確か、【アグレッサー部隊】だったかと」
「ジオンからの亡命者?アグレッサー部隊か…」
「アグレッサー部隊は基本ジオンからの亡命者で構成されてると聞いてます。まあ、好き好んで近付く奴は居ません。曹長も余り近寄らない方が良いですよ。いつ背中から撃たれるか分かりませんから」
伍長は声のボリュームを少し下げて忠告気味に話す。
「そうか。無理に聞き出して悪かったな」
「いえ、曹長殿の役に立てれれば良いです」
しかしアグレッサー部隊か。彼等は何を思って亡命したんだろうか。祖国を裏切る程の事をしたのだろか?そんな事を考えながら、俺は演習場を後にして食堂に向かうのだった。
……
食事を終えて訓練に行こうとしたら、先程のアグレッサー部隊のザクパイロットが食堂に来た。側には中年辺りの男性が居た。俺はそんな二人の側に行く。
「失礼、少し良いですか?」
「…何か我々に用ですかな曹長殿」
頬に傷がある軍曹が話しかけて来る。
「自分はシュウ・コートニー曹長です。実は伍長にお願いが有りまして」
「自分にですか?」
「単刀直入に言います。俺にモビルスーツの動かし方を教えてくれ」
軍曹と伍長は、その言葉を聞いた瞬間固まった。
「コートニー曹長、悪い事は言わない。俺達に関わらない方が良い」
「理解した上で言っています。貴方達がジオン軍からの亡命者である事を。アグレッサー部隊が元ジオン兵で構成されてる事も」
そう聞いた二人は目を合わせる。
「コートニー曹長。一つ聞いても宜しいですか?」
「構いません」
「コートニー曹長は自分達からモビルスーツの動かし方を教えて貰って何をするんですか?」
何をするか…簡単な事さ。
「生き残る為さ。それに、伍長の指導が有れば確実に生存率は上がると考えてます」
「あー、曹長。少し待ってて貰っても?」
「大丈夫です」
二人は少し離れて話し合う。そして暫く待つと戻って来た。
「コートニー曹長、自分達は三日後にはパトロール任務に戻ります。その間でしたら構いません」
「本当ですか!それは助かります!」
「ただ、一つだけ約束して下さい。決してジオン兵を殺すなとは言いません。ですが、戦う意思の無い者や投降者には適切な対応をお願いします。それを約束しなければ」
「言われるまでも無いですよ。俺は殺戮者として歴史に名を連ねたくは無いからな」
俺は伍長の言葉を遮る。確かにジオンは敵だ。だが、無抵抗な奴を殺す事に悦に浸り事は無いからな。暫く睨み合う形になる。
「…分かりました。曹長を信じます」
「信じて貰って損は無いさ。早速モビルスーツの操縦を教えてくれ。勿論スパルタで構わんさ」
「スパルタ…中尉、それで良いですか?」
「ん?まあ、本人が望んでるんだ。泣き始めても遠慮無くがっつりやってやれ。後、俺は中尉じゃねえ」
「いやいや、泣きませんよ。因みに伍長はいつ頃からモビルスーツの操縦を?」
「曹長、良い事教えてやるよ。このチェイス・スカルガード伍長は元ジオニックのテストパイロットさ。然もSランクだとよ」
………え?ジオニックのテストパイロット?Sランク……Aより上のパターンですか?
この時チェイス・スカルガード伍長の笑顔がとても怖かったのを覚えている。
そして三日間のチェイス・スカルガード伍長のスパルタ指導の結果、ギリギリ及第点を頂けました。
「教官殿!この三日間、御指導して頂き有難うございました!」
「うん。シュウ曹長も直ぐに覚えてくれたので教え甲斐が有りました」
「よく三日間耐えたな。ま、これならそうそう死にはしないだろう」
暫く談笑を交わす。
「チェイス伍長、ハインツ軍曹。色々御指導有難うございました。他の人達が何と言おうとも、俺は二人からの指導をして頂いた事を胸張って言います」
「シュウ曹長。これから厳しい戦いに行くと思います。ですか、どうか無事に帰って来て下さい」
「今度会ったら腕前を確認させて貰うからな」
そして、二人はアグレッサー部隊に戻って行く。アグレッサー部隊はそのままパトロール任務に行く。誰も見送る人は居ない。だが、俺は見送る。彼等だって理由があって連邦軍に亡命した。嘗ての仲間に銃を向ける。それはとても辛く悲しい事だと思う。
「チェイス伍長、ハインツ軍曹も…どうかご無事で」
俺はアグレッサー部隊に対して敬礼をしながら見送るのだった。