Black Barrel(改訂版)   作:風梨

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短いです。




鬱 IF

「あ────、鬱だ、鬱だぁあ」

 

 男をぶっ殺して生きる悦びに目覚めた俺私ことアンリちゃん。

 絶賛鬱です。

 なんでかって? ところがどっこい、特に理由はねえんだな。

 殺した直後は最高にハイで幸せ絶頂すぎたけど、殺しって私にとってアップ系の麻薬みたいなものになったみたいで、テンション切れたらまじでダルイ。

 死にたくないけど死ぬってくらいダルイ。

 

「あ────、生きてぇーー殺してーけど、めんどくせー」

 冷静になったら、念能力者なんて腐るほど居そうじゃんね。秘匿されてるとかいうけど、ガキン? バキン? だかの国はワサワサいるみたいだし、裏家業だと珍しくもないかもじゃん。

 何とか獣っていう、マフィアの子飼い念能力者もいるっぽいしさ。

 じゃあ、適当に殺し回ったらやばいんじゃねっていう。

 てか、殺人犯で念能力者ってバレたらプロハンターに狙われるじゃんっていう。

 殺すに殺せねーの。

 

 好き勝手に生きたい。自由になった気でいたけど、まぁそう簡単じゃあない。

 金なら春売ってもいいし、盗んでもいいけど、鬱じゃん。やる気起きねーじゃん。

 結果、念バリバリ使えるはずなのに路地裏でぼーっとしてるアンリちゃん自称10歳です。

 

「イボクリでもすっか」

 ぼーっと両手でイボクリしておく。爪ないよな、地味痛い。

 でも、これ修行にならんとか言われてたよーな。

 なんで? めっちゃオーラ動かすのになんで? 

 

「……鬱だ」

 やることなす事意味がない気がしてくる。まじダルイ。

 がっくしと体育座りしながら俯いた。

 飯食いてー、でも動くのダルイー。まぶた重くなってきた。

 よじよじ路地裏の日陰に避難して、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

「────ねえ。あんた、生きてるだろ? 返事しなよ」

「んあ?」

 寝ぼけ目で見上げれば、全身刺青ピアスの金髪で短髪のボインボインのお姉さんが立っていた。

 

「ボインボインー? スタイルは自信あるけど、胸そんななくない?」

「あー、よくみたらそうかも」

 いっけね。口に出してたみたい。

 気にした様子もなくお姉さんは続けた。

 

「あっそう。まぁいいけど。あんた良いオーラしてるのよね、仕事待ち?」

「んー? 無職ッス。さーせん」

「むしろ願ったりね。どう、うちで働く気ない? 良い給料してるわよ」

「仕事かあ、あー、うー、……お腹すいた」

「働くんなら奢るけど?」

 働いて食うか、ダラダラして食わぬか。

 究極の選択と言ってもいいのでは……? 

 でも、とりあえずお腹すいた。

 

「……はたらきます」

「オッケー、じゃあ、奢るわ。立てる?」

「うす、たてます」

「はいはい、行くわよ。仕事の話しなくっちゃねー」

「あー、腕ひっぱらないでー」

 ずるずる引きずられながら付いて行き、適当な飯処にに入る。

 ガツガツむしゃむしゃご飯を食べて、食後のデザートを頂く。うまうまー。

 

「──で、仕事って色々あるのよ。うちの最低条件は『念』が使える事。他は問わないわ。まぁプロのライセンスがあれば言う事ないけど、あんた持ってなさそうだし、それでも良いって客もいるから」

 お姉さんはアイスコーヒーをストローで吸いながら左手で一本だけ指を上に伸ばした。

 

「ドクロ?」

「そ、合格。あんたが見えないとは思ってなかったけど、一応ね。斡旋所なのよ、うち。そこそこ人選もしてる。でも人手が少な過ぎてね、あんたなら任せられそうってあたしの直感が言ってるの。どう?」

「んー……、仕事内容は選べるの?」

「もちろん。無理強いはしないわ、そんなことして下手な仕事されても困るし。成功報酬だけだから、依頼受けないとお金は払えない。雇用じゃないから」

「ふーん、殺しもある?」

「あるわよ、いっぱいね。こっそりがお好み? それともド派手にやりたい? お金重視でもいいわ」

「ド派手にかなー、後始末とか無理だし」

「あんたの条件なら2件ね。事務所行きましょ。詳しい話はそこでするわ」

「うっすボス」

「ボスじゃないわよ、あたしはただの斡旋屋。仕事中以外は気楽にやってくれていいわ」

「ういーっす」

「その三下みたいな口調どうにかならない? 違和感すごいんだけど」

「あー、なんか混ざっちゃってるみたいで。気を抜くと男出ちゃうんだよなあ」

「……まぁ気楽にやってって言ったし、何でもないわ。好きにして」

「う──っす」

「そういえば、名乗ってなかったわ。あたしはレズミイ、レミって呼んで」

「アンリっす、よろしくっす」

 お会計を終わらせたレミに付いていく。

 お腹いっぱい。ちょっと元気出てきたかな。

 両手にオーラ集めてみる。

 ずずずと溢れるオーラは体感多目だ。

 でも、殺した後みたいな無尽蔵って感じじゃない。ハイになりすぎて勘違いしたかな? 

 

「ちょっと、あたしの後ろでオーラ動かさないで。気が散るわ」

「あ、ごめん。ついついなー、ついつい」

「着いたわ」

 レミが入っていくのは何の変哲もなさそうなコンクリ造りのアパートだ。

 上り階段を進み、廃墟じみた家内を歩く。

 廊下の窓ガラスの中に無事な物はない。

 吹き抜けていたり、割れていたり、欠けていたりと普通の感性なら住もうと思えないくらい、廃墟だ。

 まぁ、私からすればホームって感じだから逆に落ち着く。

 

「ここよ、付いてきて」

 一室に辿り着き、レミが先に入っていく。

 後に続いて入室してドアを閉めて、カタカタとパソコンを触るレミに近づいた。

 

「あった、これ。2人いるわ。経歴問わず面接で判断っての。一人目。マフィアの幹部。同僚の幹部を殺してほしい。ターゲット以外の殺害不可。殺し方、場所は問わない。隠蔽なし希望。見せしめかしらね。……二人目。絵画マニア。ターゲット以外の殺害許可。屋内で殺害する場合は備品に損傷不可。殺し方、場所は問わない。隠蔽に関して記載なし。マニア同士の殺し合いかしら。さて……誰にする?」

 眼を瞑って考える。

 一人しか殺しちゃダメ。備品関係なし。複数人殺してオッケー。備品損傷だめ。

 備品にってのがめんどくさそー。私壊しそう。

 なら、一人でいっか。ちょーーっとやる気出てきたかも。

 にいっと笑った。

 

「マフィアの依頼、受けるわ」

 

 

 

 

 

 

 





お姉さんの名前は捏造です。
クラピカ斡旋所の原作キャラです。

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