闇夜を裂く直死の魔眼 作:蒼蠍
「はあっ、はあっ!」
1人の男が薄暗い路地裏を走る。
この男は違法薬物の売買を中心に活動している犯罪グループのリーダーだった。裏社会の中でもグループはそれなりの規模を誇り、順調に勢力を拡大していた。
だが、彼らは調子に乗りすぎた。
コツ………………コツ………………コツ………………
男の後方からブーツの足音が聞こえる。
「ひぃぃぃ‼︎」
男にとってその音は死神の足音のように聞こえた。
彼らは調子に乗って自分たちより格上の組織に手を出した。
出してしまった。
これはきっとその報いなのだろう。
「なっ!クソ!」
男が逃げた先は行き止まりであった。
コツ………………コツ…………
そうして男が立ち止まってしまった時に、後ろで足音が止まった。
男が恐る恐る音が止まった方へと振り向くと、そこには1人のナイフを持った女がいた。
女の姿は、髪は黒髪で日本においては見慣れたものだったが、服装は藍色の和服の上に黒のジャンパーを羽織っているという奇妙な出で立ちをしていた。
だが、それ以上に目を引いたのは女の
それでも男はその恐怖を抑えながら、女へと命乞いを叫ぶ。
「アンタの組織に手を出したことは悪かったと思っている!俺たちの支援をしてくれたヤツの名前も言うしアンタの望むものなら何でも聞く!だからどうか見逃してくれ‼︎」
男は自身のプライドを捨て土下座をしながらそう言った。これが今、男ができる生き残るための最優の手段だったのだろう。
そうして男の言葉が発されてから現実では数秒、男にとっては数時間のように感じる時間が過ぎた頃、その男の言葉に今まで無言だった女がやがて口を開いた。
「……お前らのバックについてるヤツはもう調べが付いている。オレが今最も望んでいるものは、お前の死だけだ。だから…………お前はここで死ね」
「なっ‼︎……!このアマがぁ‼︎」
男は女の言葉に言葉を失うが、やがてフラフラと立ち上がり懐から一丁の拳銃を出した。
「こうなりゃやってやる!テメェが死ねぇ!」
男は引き金に指をかけ、自分の命を奪わんとする女を狙おうとする。
だが……
「なっ!?ぐはっ!」
「もう黙れよ。さっさと逝け」
女は男が銃弾を放つよりも早く接近し、最初に銃を持つ腕に走る"線"をなぞるように切り裂き、そのまま体をステップを踏むように回転させ背中や腰を切りつけた。
すると男は糸の切れた操り人形のように倒れこみ、本来ならば大怪我にはなるかもしれないが致命傷には至らないはずの箇所を切り刻まれ、絶命した。
死んだ男の顔は自分に起こったことが理解できていないような表情を浮かべていた。
そうして絶命した男の体から血が噴き出し、やがて小さな血溜まりとなりつつあった。
そんな光景をなんとも思わないように男をいとも容易く殺した女は携帯を取り出してとある人物へと連絡する。
「ああ、もしもしオヤジ?任務の内容通りターゲットの殺害、及びグループのバックにいたヤツの特定を完了した。
なあ、今回の任務はオレが行く必要あったか?拍子抜けもいいとこなんだが」
『まあ、そんな事を言わないでくれ。念には念を、というヤツだ。殺しでお前の右に出る者は居ないのだからな』
携帯から聞こえた声は、老齢の男性と思わしきものだった。
「殺すことなんて他のメンバーだって得意だろ」
『"相手を殺す"事における確実性の高さを言っているのだが……まあいい、グループのバックについていた者は此方で始末しておこう。これで今回の任務は完了だ。ご苦労だったな"アスティ"よ』
「ハイハイ、分かったよ
そう言って通話を終えたアスティと呼ばれた女
"両儀式"は暗い路地裏へと消えてゆくのであった。
あれはオレの前世の話だ。
高校生だったオレは休日電車で出かける際、途中の駅の階段を下りていた時に、後ろから走るように下りてきた小学生くらいの子供に背中を押され階段から転落し、打ち所が悪くて死亡したのだった。
オレが目を覚ますとそこは真っ白な空間だった。
わけもわからずに混乱していると、後ろからパンッ!とクラッカーの音が聞こえたので慌てて振り返ると、白いローブを被ってクラッカーを持った女が居たのでお前は誰だと問いかけると
「私は神様!この空間に住んでいるの!貴方は私のミスで死んでしまった記念すべき333人目の人だよ!これから転生させてあげるよー!なんでこんなに人数が多いのかっていうと私ドジっ子なの……だからゴメンね?」
とぬかしやがったので、ブン殴ろうと拳を握りしめた。
アホかコイツ!ミスし過ぎだろうが‼︎
神がドジっ子とか最悪だわ!
自称神はオレが怒っている事を察知したのか
「ホントゴメンね!その代わりこれから転生させる時に特典3つあげるってことで許してね!ただし、特典と転生させる世界はこっちがクジ引きで決めるよー!」
よし殺す。絶対こいつだけは殴り殺す。
一方的な話し方がまずイラつくし、内容もほとんどこちらに決定権がなかった。
とはいえ、向こうのクジ引きで決まるとはいえ転生させてもらえるし特典も3つついているので無駄死によりはまだマシかと思い一応は納得した。
さらに余計なことを言って来た時にすぐ殴れるように握りしめた拳は緩めることはないが。
それでクジ引きの結果、オレの転生特典は
1、両儀式(織と"式"の人格は除外)
2、身体強化
3、気配遮断A
だった。
オイ、完全に殺人鬼もしくは暗殺者じゃねーかという前にオレは突如できた穴に没シュート。
ちょっと待て!特典言われてから転生させるの早過ぎだろうが!
あと転生する世界どこだよ!?
と叫びながらオレは落ちていったのだった。
「おおー、転生先は……名探偵コナンの世界かぁ。完全にこれ転生特典合わせると犯罪者サイドだなぁ……。これだったら
(まあ、その世界の主人公のコナンが死んじゃったら世界が崩壊しちゃうし、そうなりそうだったらこっちも介入するんだけどねー)
ということがあってオレは転生したが、問題がいくつかあった。
1つ目は両儀式という特典の影響で両儀式の姿になって性別が変わってしまったこと。
また、両儀式になったことで直死の魔眼を持っているがゆえにまわりの風景全てに線が走っており、ずっと見続けていたら気が狂っていただろうこと。しかしそれはどうやら自分の意思でON/OFFができるらしく何とか耐えることができた。
偶に感情が怒りや悲しみで不安定になって制御しきれない時があるけど。
だがもう1つの問題が重要だった。
オレは何故か5歳児の姿で橋の下にいた。周りに人気はなく、親もいなかった。
つまりオレはただ体を幼女にされそのまま転生されたため、両親なんて存在せず戸籍すらなかった。
まさか二度目の人生の方がハードモードだとは思わなかった(白目)。
そこからオレは引ったくりや置き引き、スリなど気配遮断を利用して犯罪を犯して何とか生きていった。
そんな生活をしているある日のことだった。
路地裏でスッた財布の中を確かめていると、1人の男が近づいて来たのである。
その男は何度か見かけたことがあった。
確かギャンブル依存症で賭け金を得るために財布を強奪するという、"財布目当て"という点においてはある意味同業者とも言える男だった。
どうやらこの男は、ここ最近いいカモがおらず金に困っているようだった。おそらく少しの金でもいいから手に入れたかったのであろう。
右手にナイフを構えた男がオレに金をよこすように脅してきた。
だがこちらも生活に余裕はなく、はいそうですかと渡すわけにはいかず断ると男は襲いかかってきた。
ここで普通であればどちらが有利か?
考えるまでもない、体格が勝る大人に決まっている。
その例に漏れずオレは大人と子供の体格差には勝てずに押し倒されてしまう。
男が嬉々とした表情でナイフを振り上げた時、オレはせめてもの抵抗として男の股間を蹴り上げ、男が悶絶しているうちに手からナイフを奪った。
その時俺は生まれて初めてこの男への殺意を抱いていたのだろう。
オレは男の体へナイフを突き刺した。
そうしてナイフを引き抜くと男が痛みに悶えているのが見えたので、オレは男の体に走る線を男がまともに身動きが出来ないうちに無我夢中で切りまくった。
それこそ自分の位置から見える箇所は全てだ。
すると男は最初は痛みによる呻き声を上げていたが、徐々にその声は小さくなっていきやがて絶命したことが分かった。
男が動かなくなってから、冷静になったオレが初めて人を殺したことへの恐怖を感じていると
「中々に興味深いな君は。久々に面白いものが見れたよ」
と言う声が聞こえ、そちらの方を振り向くと1人の40代くらいの紳士風の男が満足げな表情でオレを見ていた。
オレが警戒しながら男を見ていると
「君はその歳で盗みを働いているようだが親はどうした?」
と聞いてきたので
「オレは親も戸籍もない。生きていくために犯罪をしているだけだ」
と返すと男は考え込むように何かブツブツと言い出したが、やがて何かを決めたのかオレに
「では私に付いてこないか?君のような人材はこんな所で腐らせるには惜しい。君もこのままだとあの男を殺した人物として逮捕まではいかないが、厄介な事になるだろう。食事や寝床などは用意されるだろうから君の理想を満たしているとは言えるがね」
と言った。
オレは少し迷ったが少年院やら何やらに入れられるのは御免だし、この男から逃げる事も出来ないと自身の直感が告げていたので、アンタに付いていく事にすると言うと男は笑みを浮かべこう言った。
「宜しい!今この時から君は私の娘だ。呼び名は……済まないが今は
"ピスコ"と名乗らせてもらおうか」
あれ?この人もしかして"黒ずくめの組織"のピスコ?とすると、この世界って……名探偵コナンの世界かよ!?絶対最後捕まるだろこれ‼︎
と思ったが、殺人をしたことによる過度のストレスのせいかオレはその場で倒れ込んでしまった。
目を閉じる前に見たのは、突然の事にオロオロしている紳士のような雰囲気が四散した男の姿であった。
━━これはのちに黒ずくめの組織最凶と言われた女幹部の物語━━
続くかは未定です。
何故赤ではなく黒のジャンパーを着ているかというと赤が目立って
活動に支障が出るから。
男が死んだ場面やっつけ過ぎたなぁ...。