リッカ「うん!・・・GIって?」
フワイサム『私の冷静にして思慮深き脳から導き出される叡知・・・
「猿とは」
イヌヌワン『中々曲者でして・・・答えは間違いなく正しさを導く賢者なんですが、過程をすっ飛ばして導き出すので賢さと言うより短絡的に思えてしまうのが珠に瑕・・・』
フワイサム『それでは、リッカ様。御武運を』
リッカ「わ、解った!行ってくるね、二人とも!」
イヌヌワン『お気をつけて!・・・イヌヌワン・・・名前は良いものだ・・・なんだか胴体が伸びる気がする。ニュッと』
フワイサム『私の名前の由来はなんなのだろうか。フワイ・サム?何故から始まる疑問詞・・・?私のGIでも、困難な問題だ・・・』
『我等が慈母、天照大神も時に狼の姿を取ると聞く。偉大なる慈母の似姿を取る身として、いつか出逢いたいものだ・・・イヌヌワン・・・』
「大丈夫?痛くない?モモちゃん。違和感があったらいつでも言ってね?」
「あ、りが、とう」
猿・・・フワイサムを取り返し、そして続く特異点の最果てに向かう最中、リッカはサーヴァントである髀の御世話を行っていた。具体的には、彼女の霊基のメンテナンス・・・彼女の存在の安定と、それを行うための魔力供給である。彼女の背中に触れ、壊れた器官や魔力の循環経路を開拓、修理といった様子である。フワイサム、イヌヌワンから教授された通りに、慎重に、丁寧にリッカが行っていく。
「・・・・・・・・・・・・」
髀はリッカに為すがまま、全てを任せている。自身の信頼をとうに預けているという意思表示であり、それは全幅の信頼の証でもあった。自らの身体を許している理由は、髀がリッカに向ける問いの答えに集約されている。
「リッちゃんは、マスター。なのに、何故、サーヴァントを、呼ば、ないの?」
修復され、鋭い目付きが緩和されながら髀が問う。自己分析を行うくらいは出来る髀からして、今は鬼を殺す為に総てを投げ捨てている状態の自分より役に立つサーヴァントはいくらでもいる筈だ。自身にこだわる理由は戦術的観点からしてみれば存在しないのは明白である。・・・だが、リッカは当然のように返答する。
「今の私はモモちゃんの友達でマスターだから。ここにいる間はモモちゃんを信じて命を預けるつもりなの。モモちゃんと二人で、この窮地を切り抜けたいって事!」
「・・・私と、一緒に・・・」
そんな真っ直ぐな想いを向けられ、耳と頭から蒸気を放つ髀。称賛、信頼されたのはいつ以来だろうか。お供以外とこんなにも親しく会話したのはそれほど遠い昔である。その真っ直ぐな好意と信頼は、今の自身には熱すぎて。
「・・・頑張る。期待に、応えられる、ように」
「うん!じゃあその意気で~・・・おめかしも頑張ってみよー!」
「ふぁ・・・」
リッカは修理だけにとどまらず、モモの『おめかし』に取りかかる。傷んでしまっている美しき黒髪をトリートメント・ケイオス即ち泥にてかき解かし世界が嫉妬する髪へ。傷や損傷が目立つボディにも泥を塗り薬と魔力に変えて修復し、澱み、荒れた肌を化粧やアイメイク、睫毛をお洒落に魅せるテクニックを駆使し整える。頬当てをそっと外し、顔の汚れを丹念に拭う。
それはリッカが、楽園の皆に教えて貰った『女子力』を高めるための手段にして研鑽の成果。女子のおめかしに無縁だったリッカは、とうとう誰かを『可愛らしく』する事が出来るようになったのだ。
「やだぁー!可愛い、やだー!モモちゃん可愛いー!カーマみたいに可愛いー!好きー!」
「ぁ・・・ぅ・・・」
「モモちゃん可愛い・・・可愛すぎて、川神百代になったね 」
鏡に映る自身の姿を見て、驚きと驚愕に満ち溢れる髀。封印していた感情と情緒の一部が、リッカの触れ合いにて解き放たれたのだ。これが彼女なりのメンテナンス。髀の心を、少しずつ癒していくコミュニケーションである。
「モモちゃんはカッコよくて凄く可愛い!だからいっぱいお洒落してみようよ!戦った後は身嗜みに気を遣ったりして、ね?」
「・・・ぅ・・・うん・・・ありが、あり、ありが・・・」
余りの優遇と歓待に、完全に言語能力が機能不全に陥る髀。無理もない、彼女が『人』のように扱われ人のように触れ合ったのは、遥か昔の僅かな時間だけだったのだから。
「リッちゃんみたいに・・・かわい、く、なれた?」
「ヌッ!!!!」
壮絶なカウンターを食らい致命傷を受けたリッカ。復活した際に改めてみると髀の絶世の美少女ぶりに仰天する。艶やかな長い黒髪、しなやかにして適切な膨らみの女体、目をすがめていなければくりくりと丸い可愛らしい眼。そしてちょこんと収まる、日本人形の様な所作の整い。最高級の人形と言われれば信じてしまう程の、神秘を形にした美少女である。高校一年生くらいの外見と見受けている中、リッカはふと気になった質問を投げ掛ける
「モモは・・・なんでアサシンなの?」
アサシン。そう、夜闇に紛れられるクラスのアサシン。暗殺者のクラス。この部分がリッカは気になった。復讐するアヴェンジャーでなく、狂い果てたバーサーカーでなく。理性を以て殺すアサシンに、自身を改造してまで変異する理由はなんなのか?
「・・・・・・誤解、されているかも。私は、人は、好き。護りたかったし、好き」
髀は語り始めた。自身が復讐も狂う事も選ばなかった理由を。理性を保った理由を。
「おじいさん、おばあさんは、人。わたしは、人に大切にして貰った。今でも、人は好き。人間は・・・好き。狂ったら、思い出せなくなる。復讐は、人が人に行う、もの、だから」
「モモちゃん・・・」
では、何故?その意地らしい返答に目頭を熱くしながら、リッカは更に問う。すると、髀は先の安定した情緒の回路から、自身の心の一部を取り出した。
「・・・殺さないと、怖い。恐ろしい。・・・角無しの鬼は、恐ろしい」
「恐ろしい・・・?」
衝撃的な言葉だった。あれほど強い髀が、あれほど強い桃太郎たる彼女が、恐ろしいと口にした。角無しの鬼は、恐ろしいのだと。
「角在りは、手強い。でも、怖くはない。強く、ただ強い。真っ直ぐで、嘘を絶対につかない。仲良しで、仲間を裏切らない。・・・角無しは、違う」
「違う・・・?」
「裏切る、嘘をつく、仲間を差し出す、殺し合う。・・・私のおじいさんとおばあさんを、『人間のふりをして殺した』。弱くて、ずる賢くて、世界にたくさん生きている。・・・私は、怖い。堪えられない」
そう。彼女は何よりも恐れていたのだ。角無しを、人を、人の為す悪を。人の悪性を。おじいさんとおばあさんを奪った、人間の・・・群れを為した鬼の卑劣さを。おぞましさを。
「殺される。殺さなきゃ殺される。あのときみたいに、おじいさんやおばあさんみたいに殺される。だから殺さなきゃ。自分の大事な誰かを、奪いにやってくる。角無しは怖い、恐ろしい。怖い、怖い・・・」
「髀ちゃん・・・」
「信じられない。角無しの言葉は何も信じられない。笑顔の裏で、きっと誰かを騙そうと考えている。嘘をつくから、何を考えているか解らない。またやってくる。また、私の大切な人達を奪いにやってくる。・・・殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ・・・殺される、またおじいさんやおばあさんが殺される・・・」
譫言のように呟く髀。そう、彼女が人の悪意を見た時、感じた感情は憎しみでも、狂気でもない。星の想いが鍛え上げた兵器がラーニングした感情は、バーサーカーやアヴェンジャーに連なるものではない。
【恐ろしい。この角の無い鬼を皆殺しにしなくては、いつか自分がまた喪ってしまう。おじいさんを、おばあさんを。いつか、お供達も、自分の大切な人達を、奪いにやってくる。殺しにやってくる。おじいさんを奪った様に。おばあさんを奪った様に】
同族を躊躇いなく殺す角無し・・・人間への【恐怖】。だから感情や心を殺し、お供達を殺戮の機械に変え、ひたすらに鬼を殺す鬼となった。
そうでなくては堪えられない。そうでなくては恐ろしくて堪らない。笑顔で素晴らしき善人を殺すようなおぞましい鬼の存在している世界に、存在できない。見つからないように、隠れていたい。気付かぬ内に首を落とすような在り方こそ、自身が望む鬼退治のやり方だと定めたのだ。
「怖い。怖い・・・。リッちゃんは、リッちゃんは護り抜く、護り抜きたい。角無しから、絶対に。だから・・・」
だから、どうか離れないでほしい。もう、大切な人を喪いたくない。角無しが、またやってくる前に殺す。そして護る。
「今度こそ・・・私が、リッちゃんを護るから・・・絶対、護ってみせるから・・・」
・・・鬼退治の英雄は、人の悪意を目の当たりにし、心を鬼に巣食われてしまっていたのだ。
「怖い・・・角無しは、怖いから・・・殺さなきゃ・・・殺される前に、殺さなきゃ・・・」
【疑心暗鬼】。疑い、心の暗闇に潜む鬼に。・・・桃太郎の中で、人間とは。理解不能の恐ろしき怪物にしか認識されない様に成り果ててしまったのだ。あの日・・・。自身の恩人を、奪われたあの瞬間に。
リッカ「・・・」
リッカは、言葉なく。そっと震える髀を抱きしめた。サーヴァントでありながら、体重は40程しかないほどの軽さを突き詰めた身体を抱き寄せる。
「リッちゃん・・・」
「大丈夫。大丈夫だよ。髀ちゃん。私は死なない。殺されない。いなくなったりしないから」
怖がらなくていい。深く深く傷付いた心を労る。髀の心身を優しく慈しむ。母上が、楽園の皆が自身にしてくれたように。
「もう一度、信じて。私を、人を。角無しとしか見えなくなってしまった以前に護りたいと願った、人を。もう一度」
「・・・いや、・・・怖い・・・」
「大丈夫。私は絶対裏切らない。嘘を付かない。髀の傷が癒えるまで、絶対に離れない」
力強く告げるリッカ。彼女に意志を強く示す。その力強さは、言葉の揺るぎなさを、髀は知っている。
「・・・、・・・リッちゃん・・・」
リッカ「怖くても、許せなくてもいい。誰を怖がったっていい。でも、これだけは言わせて。私は、あなたを絶対──」
そう、リッカが告げようとした──瞬間。
『ショオォオーッ!!!』
耳をつんざく鳴き声が、天地に響き渡る。震えていた髀は眼を紅く輝かせ、そっとリッカに目線を送る。
「──行こう、モモ!」
「う、ん。・・・あとで、つづき・・・」
フワイサム『満ち溢れるGIによれば、あの鳴き声は最後のユニット、雉です』
イヌヌワン『間違いなく!同時に海岸から沖沿いに大量の鬼の船を確認!上陸するつもりなのでしょう・・・ならば、あのきじが向かうはただ一つ!』
イヌヌワン、フワイサムの言葉と同時に──それらは、きじと並走を行うように空を切り裂いた。
はやぶさ『シュアァアーッ!!』
リッカ「えっ!?」
雉だけではない。眼なき、雉に追従する戦闘機の様な鳥の機械が次々と雉に集まっていくのだ。
たか『キョォオーッ!!』
わし『キュアォオォオ!!』
くじゃく『スァァアァッ!!』
リッカ「まさか──まさか・・・!!」
イヌヌワン『リッカ様、そのまさか・・・!雉は単独ではなく、随伴ファンネルユニットを従える存在。その真価は御存知──』
きじ『ショオォオーッ!!!』
フワイサム『──変形合神・・・!!』
きじの鳴き声に呼応し、五体の鳥が空中にて分離、変形、合体を繰り返し、姿を変え真価を発揮する。
イヌヌワン『彼こそは要塞攻略の要、天候操作遠距離広範囲殲滅を行う最後のお供、その名も──!』
オオトリ『スゥウァアァアァアーーーッ!!!』
輝く翼を広げる巨大なる機神鳥。そのプロセスに、リッカのテンションは最高潮に達した──
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