・・・これは・・・
『それでもね、あのキリシュタリアがいる。腹の中を明かしていなくても傑物は傑物だ。どれ程の試練が待ち受けていようと、彼は完璧に迎え撃つだろう』
二人の、記憶・・・
『だけど。こればかりは致命的だ。カルデアの現行システムではどうしようもない。観測されなくなれば、彼等は消滅するしかない』
『・・・でも、彼女は不完全なんだろう?』
『残念ながら。天才にも少しばかり時間がね。だから未来に託す。時間が解決してくれることを祈ってねあぁ、つまりさ──』
──君には、結構期待してるんだぜ。ムネーモシュネー──
「今の、は・・・」
垣間見た記憶。垣間見た、誰かの想い。其処に話していたのは大切な人達。大切な、大切な・・・
『もうあなたが二度と出逢えない。あなたが救えなかった、あなたの旅路の活路を開くために犠牲にした方たちです』
「・・・!!」
困惑する藤丸。其処に現れたのはムネーモシュネー。記憶の女神の名を冠する、カルデアのサブシステム。何も見えない、聞こえない空間で。虚ろに呟く藤丸に優しく語りかける。
『私に保存された、最も古いデータの一つです。今のやりとり通り、私はずっと眠っていたのです』
そう、ずっとずっと眠っていたのだ。起動の目を見ないまま、期待を受けて生誕、製造された筈のシステムでありながら。自身の命題や、使命をはたせないまま。
一般人が懸命に頑張り成し遂げた人理の修復も。楽園が知る由の無い、カルデアが完全に壊滅した時にシャドウ・ボーダーにデータを移植され際も。何処までも、何処までも眠り続けていた。その微睡みが終わりを告げたのは、ごく最近の事だという。
『新たなカルデアが設立されたとき、私はようやく目覚めました。彷徨海に、新しいカルデアが作られた際に』
「ノウム・カルデア・・・」
『はい。今思えば、彷徨海でありながら。異質性が、私を目覚めさせる呼び水に。きっかけになったのでしょう。・・・──しかし』
その目覚めに観測したものは、正しい意味の絶望ばかりであったとムネーモシュネーは語る。一度修復された人理が覆った事も。Aチームが寝返り、敵に回り。空想樹を育て始めた事も。それら全てが凶兆であり、絶望だった。そして、何より──
『何より、私の創造主が既に死んでいた事。・・・私は、期待されていた性能を一つも発揮出来ませんでした。・・・助けたかった。カルデアの皆さんを。人理の旅を。そして──あなたを』
だから、だからこそ。ムネーモシュネーは行動に移した。自身の機能に赦された全て。観測された全てを境界の揺らぎに注ぎ込み、カルデアの中、或いは近くで。自身は聖杯のカケラに届いたのだという。そしてその時に、彼女は自身を定義した。
『私は定めました。創造主が期待した私であろうと』
そう。カルデアが機能を停止し、職員がいなくなったとしても藤丸立香を助け、支えようと。
『私は定めました。創造主の喪失を、正しく運用すると。私は観測します。私が観測します。そう──』
───私だけが観測したなら、何を真実にするか、私だけが選択できます───
「そ、れは・・・真実じゃ、ない・・・」
それは都合のいい夢、幻想だ。残った自由意思で、懸命に藤丸は抗う。だが、ムネーモシュネーの優しい慈悲は終わらない。
『だって、あなたたちは
そう、彼女。或いは彼。ムネーモシュネーの産みの親。もう二度と逢うことの出来ない、万能の天才。彼はもういない。彼女はもういない。殺された。目の前で。助けられなかった。目の前で。
【だとしたら、その悲しみは癒されるべきだ。忘却は、必要な癒しに他ならない。だからこそ私は、自身の存在価値をそのように証明する】
全てを観測する。全てを観測し、都合のよろしい記憶を真実とし、辛く悲しい結果を剥奪し、忘却する。もう二度と、苦しまなくていいように。苦しいと感じる事はもうない。要らない記憶はすぐ消える。
【全知たるは私だけでいい。記憶・・・ムネーモシュネーと名付けられた私が記憶する。あなた方は、存分に忘却すべきだ】
辛かったから、苦しかったから。もう苦しまなくていい。もう辛い思いをしなくていい。もう忘れていい。素敵な思い出だけを楽しめばいい。生命維持装置に生かされた、末期の病人の様に。──心が張り裂けるような創造主の死を、胸に懐く事は無くていいのだから。
「それ、が・・・ダ・ヴィンチちゃんの死が・・・きみの、ホワイ・ダニット・・・」
【安らかな忘却を。来る戦いの為の癒しを。そう。それこそがきっと創造主への弔いになる。長い悲しみ、長い苦しみなど、創造主は欲していなかったでしょう。だから聖杯によって三つの紙片を作り、然るべき位置に誘導し、記憶を奪わせました】
だから皆が忘れていた。記憶の紙片が、皆の記憶を奪っていた。新しい記憶を作るため。そして新しい記憶を受け入れやすくするため。
【ただ与えるのではよくない。試練を越えて、あなたが自ら回収したというカタチが最善でした。・・・あのエルメロイ二世のせいでその最善を貫けなかったのは申し訳なく、そしてあのオルガマリー・アニムスフィアのせいで私の企みを覆されかけたのは申し訳なく思います】
「・・・・・・」
まぶたが、重い。喋るのも、考えるのも、辛く、苦しくなってきた。
何故戦う?何故進む?希望に満ちた未来を取り戻す戦いはもうとっくに終わった。今自分が歩むのは、誰かの生きたいと願い、それでも宇宙に爪弾きにされた世界の伐採。其処に生きる全ての人間の抹殺だ。
歩めば死体の感覚が広がる。戦えばまた滅亡に近付く。誰も味方をするものはいない。成し遂げた時、声なき声が自分を糾弾する。聞こえてくる。
【お前はまた人と世界を殺したな】
【人間や世界を殺すことなんて簡単だ。慣れてしまえ、慣れてしまえ】
【哀しみや苦しみをわかったつもりになるなんて自己満足だ。綺麗事だ。どれだけお前が耳障りのいい言葉を吐こうと、お前が世界を滅ぼした事実は永遠に変わらない。お前は最低最悪の人殺しだ】
辛い。堪えられない。──そもそも何故、堪えなければならないのだろう?なんで自分は責められているんだろう?
「・・・やりたくて、やったんじゃ・・・ない・・・オレは、オレの、たびじは・・・」
【そんな逃げ道は赦されない。あなたは殺した。あなたは滅ぼした。刃を振るい、伐採しておきながら。あなたはその言葉を、消していった世界に言えますか?】
振り向けば、うず高く積まれている死者たち。一斉にこちらを見ている。指差している。屍にて作られた道を進めと。そう言っている。
【自らが成し遂げた功績に自惚れ、他者に自慢した事が一つも無いと言えますか?『世界を救ったマスター』という響きに、僅かな陶酔を感じないと言い切れますか?稀代の殺人者、藤丸立香】
「・・・・・・・・・・・・」
・・・考えたくない。辛いだけの、辛いだけの思考を、止めてしまいたい。
【疲れに気付かれましたか?瞼を開けているのも、生きるのすらも辛いでしょう】
苦しい。悲しい。滅ぼした世界が、摘み取った命が重い。堪えられない。何故こんな事に。どうしてこんな事に。
【さぁ、私の記憶を受け入れて。苦しみも、悲しみも、全て手放しなさい】
忘れてしまえば。考えるのを止めてしまえば救われるのだろうか。この、辛いだけの人生が。
【今こそ忘却が必要なのです。都合のいい世界にだけ、都合のいい安寧にだけ浸っていい。周りの期待や世界の行く末などどうでもいい。ロストベルトを滅ぼすという罪は、一個人には重すぎるのだから】
未来永劫、殺した事実や滅ぼした結果は消えない。生きる限り、平穏に戻ろうと、死のうと、死んだ後も消えない。
藤丸立香は、世界を滅ぼした罪人であり咎人だ。そんな覆しようもない刻印に、重すぎる罪に、藤丸の魂が急激に萎えていく。罪を、数えたが故に。
【さぁ、立香──】
「・・・・・・・・・・・・」
最早何も考える事すら出来ず。何のために生きているのかも解らず。差し伸べられた手の意味すら解らず、藤丸はムネーモシュネーの手を取って───
オルガマリー『満身創痍ね、藤丸君。心も身体も』
藤丸「・・・!!」
ムネーモシュネー『声?・・・何故。あなたは、とうに吹き飛ばした筈。干渉できる筈が・・・』
オルガマリー『あなたの事はよく知っているもの。システムには必ず空白がある。そして──聖杯のカケラを使ったなら、私にも話ができる』
ムネーモシュネー『・・・類感魔術・・・』
オルガマリー『そのうちあなたがサルベージした『私』にも会いに行くわ。でもその前に・・・藤丸君。あなたはとっくに一人前のマスターよ。開位を貰ったのだから反論の余地は無いわ。だから言わせてもらうけれど・・・』
「・・・」
『あなたの辛い記憶は、本当に辛いだけのものだったの?あなたは一人で歩いてきたの?それは思い上がりよ。見渡しなさい。あなたの周りを。振り向きなさい。あなたの横を、背を』
ムネーモシュネー『オルガマリー・アニムスフィア。無駄です。彼はもう』
『モノは試しよ。ダメならあなたの企み毎その子を終わらせるわ。──私のカルデアを背負った瞬間から、中途半端は赦さない』
「所長──、・・・!」
『──聞こえるか!聞こえるか、我が弟子!』
「・・・ししょう・・・」
ムネーモシュネー『・・・類感魔術で語りかけましたか。しかし今更。語りかけるだけで何が出来ると言うのです──』
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