人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オルガマリー「こんな時にあれだけど、その黒い礼装、似合っているわよ。藤丸君」

藤丸「・・・!」

「見た所、極地に対応する為の礼装の様ね。本格的な登山や砂漠や雪山だろうと問題無いわ、それ。変わらず、カルデアスタッフは優秀みたいね」

藤丸「・・・はい。皆が、作ってくれたものです。大事な、ものです」

オルガマリー「変わらず、負けずに頑張っているのね。本当に偉いわ、藤丸君」

「──所長!、あ、アイリーンさん!」

「・・・どうしたの?」

「今の事件が終わったら、あなたに話したい事があります・・・!今、オレがどんな戦いをしているのか。オレたちの世界がどうなっているのかを、全部・・・!」

「・・・藤丸君?」

「まだ間に合うカルデアに喚ばれたら、どうか助けになってあげてください・・・!手遅れに、なる前に・・・」

「──。解ったわ。必ず・・・皆で生き残りましょう」




撤退戦

「何をバカな事を・・・!エルメロイ二世はここにいる!迂闊にも命を奪われ、誠に遺憾ながら屍になってな!」

 

「「「「エルメロイ二世・・・?」」」」

 

現れたオートマタに啖呵を切り、同時に藤丸とオルガマリーの前に二人を庇うように躍り出るライネス。死者を弔う葬列にしては、文字通り血も涙も無いと言うやつだ。

 

「オルガマリー、すまないが我が弟子を頼む。少しムカついていた所だ、出掛ける前に憂さ晴らしをしていく事にする!」

 

「手助けは?」

 

「いらん!下で待っていろ、すぐに向かう!」

 

ライネスの剣幕と気迫に水を差さぬよう、両手を上げるジェスチャーと共に了承の意志を示す。この場は、もう一人のロードたるライネスに預けることにしたのだ。

 

「行きましょう。入り口で待ち合わせよ」

 

「待ち合わせって・・・!え、うわ、アイリーンさん!?」

 

サーヴァントがいない状態の藤丸を放っておくのは危険すぎる。万が一にも彼を失わないように、彼の意見を求めず首根っこをふん掴み、スタスタと窓に、敵の反対側に向けて歩いていく。

 

「待っているわ、ライネス」

 

「あぁ、そう長くは待たせないさ!」

 

それだけの言葉を交わし、オルガマリーと藤丸は橙色の魔方陣の中へと消えていく。オルガマリーが使役する神代の転移魔術、そのワープゲート術式によりワープしたのだ。本気なら、オルガマリーを束縛するのは不可能である。脚力、魔術、両の面において、だ。

 

「トリム!観客はいないが派手にやれ!兄上の遺体は傷つけず繊細かつ慎重にだ!」

 

『承知致しました、マスター』

 

ライネスの合図と共に、水銀の塊が形を取る。メイド服を纏った、文字通り彫刻のような白銀の美女。時計塔で最も機能美に溢れると名高き礼装『月霊髄液』の戦闘形態を表したのだ。

 

「「「「エルメロイ二世・・・?」」」」

 

「斬!」

 

ライネスの合図と共に、トリムの両腕がムチの様にしなり、遠心力を保持した鋭利な水の刃となりて部屋ごとオートマタを切り裂いていく。その速さと精確さは、およそ人の手にはなし得ない驚愕にして超絶の技巧だ。

 

かつてのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが編纂し編み出した至上礼装。その名に偽りなくこの発明はエルメロイ一族の財産として息づいている。暗殺と権謀術数に晒されてきたライネスが唯一信頼を置くのもこの礼装だ。理由は単純明快。決して裏切らないからである。

 

「いいぞ、そのままスクラップにしてしまえ!」

 

『承知致しました』

 

そのままトリムの攻勢は続く。鞭から刃物に変え接近戦をこなし、ハンマーに変化させ頭から叩き潰し、有刺鉄線やクモの巣が如くに張り巡らし触れたものを切り刻み絡めとる。まさに水のような柔軟性と万能さを発揮し、オートマタをまるで寄せ付けない。それほどまでにトリムは磐石かつ、万能たる才能の具現であったのだ。これを破るには正しく反則技を用いるしか無いだろう。触れただけで魔術回路に致命的なダメージを与えるような悪辣な反則技が。

 

『戦闘、終了致しました。マスター』

 

最後の一体を破壊するのを確認したと同時に、ライネスは窓へと駆け出していた。勝利の余韻などに浸る暇はない。魔力を感知し増援が来ていることは把握済みだったからだ。

 

「御苦労!ではこれからハリウッドアクションの真似事だ!うまくやれればエルメロイの借金も返済できるかもしれん!銀幕出演のギャラでな!」

 

そんな言葉にて自分を鼓舞しながら、最早この世におらぬ兄の亡骸にライネスは誓う。哀しみと決意を露にして。

 

(ただでは終わらすまい。少し待っていろ兄上、私とその頼もしい友人がお前の無念を晴らして見せるとも・・・!)

 

そう固く誓い、トリムに合図し窓を壁ごと叩き壊す。バラバラに切り刻んだあと、ハンマーを叩き付ける要領で粉々にし・・・

 

「見るがいい!ロンドンよ!今大いなるエルメロイが未来へ飛翔するぞあっははははははっ!」

 

馬鹿で酔狂な真似を狂人めいたテンションでごまかしながら跳躍し、ふわりとした一瞬の浮遊感の後真っ逆さまに落ちていく。これで窮地は──

 

「「「「エルメロイ二世・・・?」」」」

 

脱してはいない。ライネスを追ってオートマタが同じように跳躍し、追ってきたのだ。上機嫌なフリーフォールが、気味の悪いオートマタとのランデブーに変化した事に舌打ちしながらも、ライネスは慌てることはない。

 

「トリム!着地を頼む!」

 

『承知致しました、マスター』

 

あえてトリムを迎撃に回さず、着地の際の衝撃から自身を保護させた。オートマタの攻撃から無防備を晒す事となるが、今はこれでいい。何故なら──

 

「──やれ!オルガマリー!!」

 

「アイアイ、マム」

 

ライネスの呼び掛けに、『一階入り口から跳躍しライネスの前に現れた』オルガマリーに激を飛ばす。先程の『待っていろ』は『呑気にアクビでもしていろ』という意味ではない。『飛び出したらすかさず私をフォローしに来い!』という無茶ぶり極まる指令だったのだ。常人には伝わりはしないだろうが、幸い此処にいるのはロードであるオルガマリーとライネス。意志疎通と暗黙の了解が伝わらぬ愚昧では無い──!

 

「はっ!」

 

其処から先は鮮やかなる瞬時の出来事だった。トリムの肩を借り、踏み出す事により勢いを付け適当なオートマタに矢の様に自分を打ち出し、飛び膝蹴りにて無力化した後脳天に一撃。そして亡骸を三角蹴りの要領で足場にし別のオートマタに飛び蹴りを浴びせ首を撥ね飛ばす。勢いを相殺し、八艘飛びの要領でオートマタを一体、一体と駆逐していきながら、勢いを殺し落下していく。

 

「即席ライフシート、ジェームズ!」

 

フリージアより鞭アンカーを射出し、力なく宙に浮くオートマタの残骸を貫き纏め上げ、自分の足許に敷き詰める形で広げる。時間にして二秒に満たない空中の攻防。その結果は──

 

「うわぁあぁああ!?」

 

着地地点で待っていた藤丸の眼前に、地面を割り着地するトリムと抱かれるライネス。陶器が粉々に割れ潰れる轟音と同時に、月面宙返り跳躍の要領で跳躍し、銃を納めるオルガマリー。二人のロードは、力を合わせて窮地を乗りきったのだ。

 

「ただいま我が弟子!どうだ!これが私のトリムマウだ!可愛いだろう美しいだろう!カッコいいだろう!」

 

「はい!トリムマウは凄く可愛らしくてカッコよくて素敵です!」

 

『お褒めに預かり光栄です、藤丸様。あなたも無事で、何よりです』

 

「どうだオルガマリー!君の鼻っ柱をへし折ってやったぞ!何故なら今のムーブ!我が弟子は見ていないんだからな!はっはっはっ!」

 

「えぇ、お見事だったわライネス。やはりエルメロイ家は名門、時計塔の俗物の評価はアテにならないわね」

 

「えっ、あ、・・・うん。解っているならいいんだ、うん。──せいっ!」

 

「あいたっ」

 

「張り合わないか!もっと悔しがらないか!これじゃあ私がまるで空回りした子供のようじゃないか!もっともっと鼻を明かされてくれなくては師匠の面目が無いんだぞ!これではまるで道化だよ!」

 

Say what else(それ以外のなんだと言うの)?」

 

「こいつぅ!蹴れ!弟子!オルガマリーの脚を潰せ!この!この癖の悪い脚だ!この!」

 

「止めましょうよ師匠・・・!?大丈夫です!師匠は可愛いとオレは思います!」

 

「解ればいいんだ!(о´∀`о)」

 

『オルガマリー様。マスターはハイになっておられます。どうか、温かく見守っていただければ』

 

「・・・友達や弟子と、事件に挑むなら無理もない、か」

 

頼もしいパーティーね。オルガマリーは静かに頷き、灰色の空を見上げるのだった──




ライネス「さて、溜飲も下がった事だし調査を始めるとしようか。・・・あぁ、改めて自己紹介をしようか。私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。先程倒れていた死体の義妹だよ」

『トリムマウともうします。マスターの様に、私もエルメロイ二世を誤認していました』

藤丸「オレも、まだ名前以外の記憶が曖昧です。所長の事は、忘れてませんでしたけど」

オルガマリー「カルデアの初対面でイビられたからかしら」

藤丸「違います!・・・ただ、カルデアの皆はもう、所長を過去の人としてしか扱ってなくて」

オルガマリー「・・・・・・無理からぬ話ね。自業自得よ」

「だからせめて、オレとマシュだけは覚えていようって・・・、・・・──マシュ?そうだ!!」

ガバリと顔を上げ、藤丸の魂に火が入る。そのまま叫ぶ

「オレはマシュが大好きだ!!!!!」

ライネス「はぁ!?──!?なんだ!?景色が・・・!」

藤丸の叫びが空間を割ったかのように、仮初めのロンドン世界が吹き飛ばされる。そして、同時に──

マシュ『先輩!聞こえ、ますか!レイシフト・・・連絡、今も・・・!先輩・・・!』

「!?マシュ!?そのシルエットとノイズに消されない後輩パワーはマシュなのか!?」

『霊基グラフの、トランクを・・・!』

同時に──

ロマン『オルガマリー!お願いだ、返事をしてくれ!』

ダ・ヴィンチ『無事なのかい!?無事だよね!無事だと言ってくれ!愛弟子よ、君を失うことは世界の損失なんだ!』

聖杯に直接、願いと通信が届けられる。──歪み、姿を変えたロンドンが認識を正しく三人に叩き込み──

ライネス「・・・おとぎ話の・・・世界か?」

継ぎ接ぎのロンドンが、その姿を現す──


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