人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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トリム『活動開始しますか?』

ライネス(あぁ、だが人型はまだいい。ベストタイミングで弟子を驚かせてやろう)

オートマタ「──!」

藤丸「師匠!前、前!」

オートマタの一撃を、ライネスの眼前に張られた巨大な魔方陣が受け止める。咄嗟の奇襲対策に編み込んだ防衛魔術。ロードのたしなみだ。そして──

「覚えておくといい。魔術師には決闘が奨励されている。すなわち!戦闘力はあって当然と言うことさ!」

パチリ!と鳴らされた指に合わせて、水銀礼装『月霊髄液(トリムマウ)』がオートマタを遠心力のついた銀の刃でバラバラに解体する。

藤丸「おおっ!?」

ライネス「フフン♪驚きたまえビックリしたまえ!どうだオルガマリー、現代科のミソッカスだなどと馬鹿にできないだろう──」

瞬く間に戦闘を終了させ、自慢げにオルガマリーにマウントを取ろうとしたライネスは目の当たりにする。

──寝て起きたら別人になっていたアニムスフィアのロードの姿を。


ウォーミングアップ

(戦闘用、には見えないわね。武装からして周囲の巡回、或いは監視の任務を遂行しているオートマタかしら)

 

異常を感知し、更にやってきたオートマタに相対し、分析の思考を巡らせながらもオルガマリーは目の前のオートマタを挑発・・・機械にとってはただの間隙、隙にしかならないアクションを行う。かかってきなさい、と手をクイクイ振るような動作を認めたオートマタは一直線に排除の為の戦闘駆動を開始する。一瞬で、様子見の距離である数メートルがクロスレンジたる近接戦のフィールドへと変わる。

 

(となると、此処で壊しておいた方が増援の心配は無さそうね)

 

方針を定めたオルガマリーと、オートマタの戦いが始まった。腕部をしならせ、遠心力と鋭利な刃を合体させた殺戮機構が縦横無尽に振るわれ、一度当てれば肉を引き裂き骨を断つ威力を込めて振るわれる。

 

「あっ!危ないっ!」

 

「何をしている!?君は不必要なくらいに距離を取って精度が無駄に高い遠距離魔術で一方的に倒すチキン戦法が得意技だろう!?」

 

そう言えばそうだったわね・・・もう楽園の皆と会う前の自分はとにかくいっぱいいっぱいな事しか覚えていないのでそんな方針や自分の戦術すらも抜け落ちていた。鼻先を霞める刃や先程まで自分の身体があった場所を通過する殺傷を、軽く首を傾けたり身体を反らせる最小限の動きでかわしながら苦笑するオルガマリー。

 

(心配をかけたり、戦力外と思われるのもやりにくいわ。ここはサラリとスマートに行こうかしら)

 

『えぇ。魅せる戦いは大事だもの。今の貴女の実力を見せちゃいましょうよ』

 

ノリノリのパートナーの声に応え、オルガマリーは反撃に移る。扇風機の様な一撃をかわし、すらりと『背中を見せる』。

 

「なっ──」

 

何を、と言う言葉を藤丸は口に出すことが出来なかった。ゆらりと翻った動作にてオートマタをひらりといなし、そのまま『背面で攻撃をかわす』などという神業をオルガマリーが魅せたからだ。

 

「・・・おいおい。アクションスターに夢の中で指導でも受けたのか・・・?」

 

まるで背面が見えているかのように──実際は空気の切り裂かれる音や其処から導き出される軌道を割り出し計算して身体を避けているだけだが──オートマタを翻弄し続ける。攻撃を行い続けているのはオートマタだが、戦場を支配しているのはオルガマリーの方だ。完膚無き迄に。そして──

 

「───ふっ!」

 

突如、反転からの銃撃がオートマタの右腕を吹き飛ばした。オルガマリーの背面より右斜め上段から振るわれた腕に照準を合わせ、左回りに急旋回しオートマタに向き直り、関節目掛けて右手の銃『アニムスフィア』から高出力のエネルギー弾を発射し肘から先を消し飛ばしたのだ。

 

右腕を失いながらも、機械の合理的な思考から左腕を首元目掛けて反撃として振るうオートマタの動きも彼女は把握していた。右の裏拳から肘に強固な魔法陣を展開し、腕を受け止めカチ上げた。最小限の動作と魔力で無力化され跳ね上げられた腕に『フリージア』が三連バーストで弾を放ち、肩の付け根からもぎ取られる。完全に攻め込んでいた筈のオートマタが、オルガマリーがアクションを起こした瞬間両腕を喪う満身創痍となる。

 

「し、師匠・・・どっちがピンチでどっちが機械なんですか・・・?」

 

「(あんぐり)」

 

限定召喚(インクルード)・──力をお借りします」

 

距離を離すための牽制のフロントキックを放ち吹き飛ばしたオートマタに向けて、大切に所持している『ライダー・アキレウス』のカードを自らに置換する。一歩一歩歩むオルガマリーの左足に、アキレウスの母が祈りを込めて息子の為に用意した黄金の鎧の脚パーツが装着される。

 

「──、──」

 

オートマタは動けない。先の放たれた牽制の一蹴りが全身の駆動系を完全にショートさせる程のダメージを刻み込んだ為である。離脱も反撃もできず棒立ちするオートマタの眼前に迫ったオルガマリーが、両手に握った銃を高々と宙に放り投げ──

 

break down(壊れなさい)

 

左脚に全魔力を集中した最高度のハイキックを、首下──延髄目掛けて突き刺すように叩き込む。胴体と頭を繋ぐ重要かつ脆い箇所に渾身の一撃を突き刺し、脚を抜き放つ動作のオーバースルーで身体毎振り返り、投げた銃をキャッチしホルスターに収めライネス達の下へと歩み出す。──各部に限界以上のダメージを刻み込まれ、静かに爆発四散したオートマタの爆風を背に受けながら。

 

「───カッコいい・・・」

 

オルガマリーの格闘の動きはアキレウス直伝であるものであり、同時にリッカと共に鑑賞したライダーや特撮作品の『カッコよくオーバーな動作』を重ね合わせたものであるため、端的に言えばヒーローもののアクションそのものである。男の子である藤丸が、弟子の立場すら忘れて感嘆を漏らすのも無理からぬ話であった。

 

(男好きしそうな技術(テク)をいつの間に覚えたオルガマリー・・・!)

 

口に出したら誤解待ったなしの台詞を浮かべながら悔しげに地団駄を踏むライネス。弟子をカッコいい師匠がメロメロにしてやろうと見栄を張った結果がコレである。しかし、魔術師の観点から見て正しいのはライネスである。真似をしないようにしよう

 

(・・・見張りを付けていたという事は、見られたくないものがあるという事ね。となると・・・)

 

感覚のチャンネルを鋭敏にし、五感で周囲の探索を行う。数瞬の間の後、嗅覚に違和感がヒットした。

 

「──血の臭い・・・」

 

「血、ですか?」

 

「──誰かが死んでいるようね。行きましょう、ライネス、藤丸君。今回の遠征、楽しいものとはいかないみたいよ」

 

二人を促し、走り出すオルガマリー。その即断即決にして颯爽とした立ち振舞いにただただ困惑しながらも、二人は彼女の後を追う。

 

「待てオルガマリー!これで勝ったと思うなよ!私もトリムも、手の内はなーんにも見せていないんだからなっ!ほら弟子!まさかオルガマリーに見とれていたとか言うんじゃ無いだろうな!」

 

「見とれてません!カッコいいなと思っただけです!」

 

「私とどっちがカッコよかった!」

 

「断然オルガマリーです!師匠突っ立ってただけじゃないですか!」

 

「馬鹿者!かよわい少女が戦場で突っ立って無傷でいられるエルメロイの至上礼装の価値が解らないとはこれだから馬鹿弟子は!後でみっちりトリムの魅力を教えてやる!オルガマリーとは別の意味で男子を釘付けにできる性能も完備している私の切り札を──ってこら!待て馬鹿弟子!二人ともーっ!」

 

疾風の如く駆け抜けるオルガマリー、鍛えた事で一般人離れした脚力の藤丸、運動はそんなに、まぁ、うんなので、慌てて四肢強化を行うライネス。瞬く間に危機を脱した三人パーティーが、次なる混乱の現場へと赴く。

 

この特異点、この事件簿はまだ始まったばかり。この緒戦はまだ、ほんの導入に過ぎない。

 

(リッカのように規格外でもなく、マシュの様に依代も英霊も一級品でもない。楽園のメンバーが私だけで何処までやれるかしら・・・)

 

出来れば、そんなに難しくない短編な特異点が望ましい。──そんな彼女の予想は、容易く崩されるのは確定しているのだから──




集合住宅・ドア前

オルガマリー「此処ね。ここから穏やかでない臭いがするわ」

ライネス「魔術の罠は・・・あ。我が弟子。開けたまえ」

藤丸「あ、ってなんですか!?この流れでオレに振るって!実験台ですね!?師匠が率先してくださいよ!?」

ライネス「つべこべ言うな。女二人の後ろで庇われるだけの男でいるつもりか?弟子なら師匠の為に死ぬものだ、ほら開けろ!」

オルガマリー「スパルタね。good-bye」

藤丸「うぁあチクショウ!魔術師の世界はこんなにも残酷だ──!」

やけくそぎみに開けられた部屋に・・・漂うは血の臭い。

「・・・やはり、ね」

そして、其処にあるのは当然──死体。スーツの黒が赤に染まり、蝋のように白くなった肌。横たわる、長髪の男性。

ライネス「そんな・・・お前、お前は・・・!──兄上!『ロード・エルメロイ二世』・・・!」

オルガマリー(やはり認識阻害・・・なんらかの手段でライネスは自分をエルメロイ二世だと・・・)

藤丸「──所長?・・・オルガマリー、所長・・・?」

オルガマリー「・・・!」

アイリーン『あちゃあ・・・どうやらこの子も、認識阻害を受けていたみたいね』

「なんで、所長が此処に・・・?」

「・・・・・・」

エルメロイ二世の死体。呼び戻される記憶。謎と衝撃は、更なる困窮を呼ぶ──

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