人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ニャル【人払いの魔術はかけてある。移動中は襲撃されまい。サブマスター諸君、ゆっくり休むといい】

カドック「そうさせてもらう。よし、仮眠を取るか」

アナスタシア「もう隈は取れたのに、まだ眠るのかしら?」

カドック「寝ないと頭は働かないからな。毎日七時間眠れれば、隈なんて無くなるさ」

アナスタシア「健康的ね、そのまま有能ぶりを私に見せなさい。期待しているわよ、カドック」

カドック「やる気の出る激励、ありがとう。寝れるときには寝ておかなくちゃ・・・」

シオン「カドックさん、カドックさん?」

「?どうかしたか?」

オルガマリー「美味しくなって、ありがとう、ありがとう。皆の為に美味しくなって。ありがとう、ありがとう・・・」

「アレ、何かの魔術的な儀式なんですか?私には珈琲入れてるようにしか見えないのですが」

カドック「・・・日本の生きるサムライはああやって珈琲を入れるものらしい。バーサーカーの國は変わってるな」

シオン「珈琲なんですかアレ!?あぁ・・・時に、ゴッフさんはいずこに?」

「あぁ、あのおじさんなら──」




ハンバーグとパセリ

「わぁー!はやい!はやーい!」

 

青き空、白き雲。そしてひたすらにだだっ広い合衆国の大地。突き抜けるような田舎の広野を、果てしない草原を漆黒のボーダーが駆け抜けていく。巨大な装甲車、その甲板にて後方に突き抜ける空気や景色を堪能するはバニヤンを初めとした一行。バニヤンはなんと、小さくなれると言うのだ。走らせなくてはならないとひやひやだったリッカらは深く安心し、共に風を受けている。

 

「そうだろうそうだろう!このサニティ・ボーダーはニャル君に提供された素材で全面改修が行われている!どんな道でもへっちゃらさ!」

 

「それに運転手が最高中の最高だ!何せこのアルゴーの船長!イアソンがハンドルを握っているのだからな!」

 

「バカモン!ボーダー内なら私だってレイシフトが出来、補佐も行っている!だから威張るなら私達と言いなさいよ、私達と!」

 

ロリンチが全体装置制御、イアソンがメイン運転、ゴルドルフが補佐や制御。それだけの豪華スタッフに支えられるサニティ・ボーダーの進行と走破には不純なく、揺るぎなく。リッカらを乗せて広大極まる草原をまっすぐ駆け抜けていく。

 

【えー、現在我々が駆ける地理はウィスコンシン州セントラル・プレイン。日本語にして中央平原といったところでございます。酪農に最も適した土地、喧騒を離れてのんびり余生を過ごしたい貴方に強くお勧め致します】

 

そして、案内ガイドを読み上げしは我等が邪神、ニャルラトホテプ。ガイドスーツにてモニターを行うお洒落っぷりである。軽快な様子の彼もまた、サニティ・ボーダーの出来映えや反響に御満悦なのだろう。声音が、強く弾んでいる。

 

【特産品、郷土料理はリスの串焼きがお勧め。生でも美味しいですがお勧めはリスのブルーチーズ鍋。コクがあるリスの味わいを、生前の様子を思い返しながらお食べくださるとうま味が増すでしょう。味は油の少ない牛フィレと似た味。是非お試しあれ】

 

「残酷かつ最悪なチョイスは止めないか!メディアの奴が本当に用意してくるだろう!アイツは誰かの為なら本当になんでもやるヤバイやつなんだから本当止めろ!」

 

「まぁリスはともかく・・・このルートにパーキングエリアはあるのかね?ドライブの際は走りっぱなしではいけない、ふらりと立ち寄れるエリアが程よくあってほしいと思うのだよ。良質なドライブは、時に予期せぬ立ち寄りすらも楽しめることにあるのだから・・・」

 

「──そんな事言ってたら!前方に民家発見!お待ちかねのパーキングタイムだね!イアソン君、ゴルドルフ君!立ち寄ろうじゃないか!」

 

ロリンチの言葉の通り、遠くに在りし木造の一軒家がみるみる内に大きくなっていく。距離が縮まりし中、木造の小さな小屋めいた建造物がリッカ達を迎え入れる。

 

「よし、いいだろう。調査は全面的に任せさせてもらうよ?運転席で待ってるから気を付けて行ってきなさい!」

 

リッカらに指示を出し、徐々に減速していくサニティ・ボーダー。この特異点、初の建造物との邂逅である。

 

「誰かいればいいんだけど・・・よーし!いってみよー!」

 

「慎重に、慎重にですよ先輩!」

 

停止した後、リッカがバニヤンを抱えボーダーから飛び降りる。そして、誰が住んでいるか不明瞭な小屋の調査の為にマシュと共に内部へと脚を運ぶ。

 

「ちょっと、お腹が空いたかも・・・」

 

「美味しいご飯、分けて貰えたらいいね!」

 

彼女らを待ち受けるのは、果たして・・・。そしてきっと、今回は世界の危機や獣の顕現案件で無いことを願って──

 

 

「こんにちはー」

 

「こんにち・・・え!ジャック!?」

 

小屋を訪ねてみたリッカは大層驚いた。広い草原の真ん中にポツンとある小屋に脚を踏み入れてみれば、出迎えてくれたのは見知った幼女たるジャック・ザ・リッパー。ちょくちょく一緒に遊んでいるのだ、見間違える筈もない。

 

「わたしたちを知ってるの?ひょっとしたら、おなかが空いてるから遊びに来たのかな?」

 

「うん・・・お腹空いた・・・」

 

バニヤンの様子を見たジャックは頷き、即座にキッチンへと引っ込んでいった。そして間延びした幼い声と姿と入れ替わりに、これまた見知ったサーヴァントが姿を現す。

 

「まぁ。お客さんだなんて!わたしたちを知っているのね?わたし達は別の誰かに喚ばれたサーヴァントで、あなたたちの事はしらないけれど。わたしたちを知ってくれるのは嬉しいわ!」

 

そう、黒いドレスの書物の少女ナーサリー・ライム。楽園にて幸せな日々を送る彼女と同じ存在が出迎えを行ってくれた、のだが・・・

 

「・・・二人だけ?こんな所に?」

 

喚び出されたと言いながら、其処には在るべきマスターの姿が見当たらない。キャスターは確かにナーサリーがいるが、籠城をおこなうには不安が残る采配だ。──取り残されたのだろうか?一体何故?

 

「わたしはね、おかあさんを待ってるの」

 

「おかあさん・・・マスターってことだよね!そのおかあさんはどこに!?」

 

バニヤンに続き、二人を召喚しながら姿を消したマスター。この特異点の鍵を握る存在の事を二人は待っているのだと言う。ナーサリーは言う。彼女は東、シカゴへ行ったのだと。

 

「待ってはいるけどきっと無駄。わたしたちは言われた事しか出来ないものよ。わたしたちに意味がないから、わたしたちは置いていかれてしまったの」

 

「そんな・・・」

 

「気にしないでいいよ。サーヴァントはそういうもの、すりぬけの、高レア?は、嬉しくないんだって」

 

それを行ったのが本当にマスターであるのなら、ますます顔を合わせて話さなければならない。リッカは決意を秘めた表情を笑顔で取り繕い、皆で食べられるようなものはないかなー?と二人を持ち上げた。

 

「わぁ!ちからもち!おなかが空いてるの?じゃあハンバーグ!ハンバーグを・・・食べたいけれど」

 

「あるの?ハンバーグ?」

 

「うん。バッファローのお肉がいっぱいあったんだけど・・・」

 

「腐っているわ、食べられないの。私達はサーヴァントだけれど、だからといって腐ったお肉が好きな訳じゃないわ。ごめんなさい、まともなハンバーグはここには無いの」

 

食料は確保されてはいたものの、それは食用には適応した品質では無いのだという。腐ったお肉では、お腹に入れたら下してしまう。錬金術の類いなら、なんとかできるかもしれないが・・・

 

「ふっ──食べ物の鮮度でお悩みかな諸君?」

 

「ゴッフ副所長!」

 

現れたのは我等がゴッフ。その話題を聞いて、素早く彼は行動に移しキッチンに引っ込んでいく。

 

「私は戦闘は微妙の一言だが。それ以外ならなんでもやれるこなせるゴッフ!魔術以外なら何でもできるは伊達じゃない!さぁ見たまえ!」

 

「「──うわぁ・・・!」」

 

彼が冷蔵庫から取り出したもの、それは腐った肉・・・ではなく。極上の霜降り肉という高級食材であった。此処に運んだものは一部。冷蔵庫にみっちり詰まっていた腐った肉は全て変換させたという。

 

「驚いたかね?これこそがゴッフの真骨頂!名付けて、腐った肉を霜降り肉に変える魔術!食べ物がなくて死にかけたサバイバルで身に付けた逆転の切り札!さぁ皆で食べなさいよ!」

 

「「ありがとう、おじさん!」」

 

ゴッフの意外かつ会心のファインプレイに、二人のサーヴァントは笑顔を取り戻す。そしてそれは当然、バニヤンやリッカらの笑顔にも繋がるのだ。

 

「ゴッフおじさん、やるぅ!」

 

「はい!戦闘ばかりが魔術ではない・・・当たり前ですが、大切な事です!」

 

「そうだとも。戦いばかりが能ではない、腹が満たされていれば幸せ、減ればイライラ。人間とはそれくらいシンプルな方がいいのだよ、きっとね」

 

軽くてはいられない、許されなかった自分への軽い自虐の後、ゴッフは皿を用意しディナーの用意を整える。

 

「出来たよ、ハンバーグ!」

 

「皆で一緒に、食べましょう!」

 

「わーい!ハンバーグー!」

 

無邪気に喜ぶ三人のサーヴァントを見て、リッカら三人は笑顔で頷き合いながらハンバーグパーティーへと参加するのであった──




数時間後・・・

一同「ご馳走さまでした!」

マシュ「食べましたね、先輩!塩コショウ、ウスターソース、ケチャップ、煮込み、鍋、チーズ、揚げ・・・」

ゴッフ「もうものすごい、一生分のハンバーグをペロリと平らげるのだから驚くしかないよね・・・サーヴァントと同じくらい食べてるとかどうなってるの?」

バニヤン「でも・・・パセリはいらない・・・」

ナーサリー「ダメよ、残しては!命をいただく、恵みをいただく者が選り好みをしてはいけないのよ?」

「苦いの・・・」

ジャック「仲間外れは、可哀想。わたしたちみたいに、パセリをしないであげて?」

リッカ(解るんだ、やっぱり。子供の感性は凄く敏感で繊細だから。マスターが自分達に何を思って此処に置いていったのか・・・)

ジャック「リッカ?」

リッカ「・・・ね、二人とも。二人とも良かったら一緒に、あなたのお母さんに会いに行かない?」

ジャック「いいの?でも・・・」

ナーサリー「迷惑ではないかしら?読みたくない本が、捨てた本がゴミ箱から出てきたら・・・」

リッカ「ううん、あなたたちはゴミなんかじゃない。人類が重ねた軌跡で、人類の未来を拓く奇跡だよ!」

ジャック「わたしたちが、きせき?本当?」

リッカ「うん!だから、そんな私達をどうして置いていったのか、ちゃんとお母さんに聞きに行こう!子供は、親の道具なんかじゃ無いんだから!」

ナーサリー「・・・えぇ!優しいあなたがそう言うのなら!」

ロマン『・・・重いなぁ・・・』

シバ『はい。でも・・・とっても、眩しいですね』

ゴッフ「・・・シカゴまで飛ばすから、ちゃんと準備しておくように。責任を持って、ボーダーを出すからね」

マシュ「はいっ、お願い致します!」

ハンバーグパーティーを行った一行は、迷子の子らを抱えて更に更に東へと駆けていく──

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