フォウ(部員の皆にそんなのいるワケないだろ。いいから進めろよ。アニメのボク程ボクは優しくないぞ?)
マーリン「おぉ、本当にエア姫以外には恐ろしいなオマエはキャスパリーグ!だが最もだ。皆、明日は二周年!そんな記念すべき日のために、とある者を焚き付けておいた。恐らく皆待ち望んでいたものだろうから、楽しみにしていてほしい!」
(いつもありがとう、悪友の皆。君達は本当に素晴らしい。取るに足らない一人の人間の限界を、遥かに越えさせてみせた。1000話・・・この物語の一つの区切りはすぐそこだ!)
「もう作者は御礼の言葉を品切れさせているようでね。大目にみてあげてほしい。というわけで、明日というよき日を祝うために私が仕掛人となったとある騒動、どうか楽しんでほしい!」
(皆、マーリンは死ぬべきだと思うよね!ボクはずっとそう思う!)
「物騒だな!?まぁそれはともかく行ってみよう!どうか君達に、変わらぬ愉悦の輝きが在らんことを──!」
嵐の前の静けさ
「あー、オルガマリー所長クン?少しいいかね?いや、全然大した事じゃないんだよ?気になったくらいだからそんなに肩に力は入れないでね?」
一年非番の昼下がり。異変も起こらぬ平和な時間にてのんびりと珈琲を飲んでいたオルガマリーに声をかけたのは、副所長兼所長代行のゴッフことゴルドルフ・ムジークだった。彼はオルガマリーを恐れているのではないのだが、気後れしながら話しかけるのも無理は無いのだろう。戦慄の世話メイド、トゥールに真面目な時はそっくりなためどうしても強く出られない。そんな程度の話である。
「どうかしました?副所長。またリッカが夢の中へ旅立ちましたか?」
「それってカルデア全体の危機だろう!?いや多分平和な悩みなんだろうがね・・・あー、こほん、こほん」
咳払いをし、彼は気になることと称して・・・
「ロマニ・アーキマンの事だが、様子がおかしかった。溜め息が非常に多く、観測されただけで軽く20は越えたぞ!陰気過ぎないかね!?」
「・・・ロマニが?」
労働環境も万全に舗装されている楽園にて、過労や労災などは有り得ない。・・・何か悩み事なのだろうか?またマギ☆マリ絡みかとも勘繰ったが、それなら溜め息で済ませているのはおかしい。声優交代とか炎上案件なら解るが、それなら楽園のグループLINEに必ず呟く筈だら、
「何を悩んでいるのかは知らんが、アレでは共に生きる者達に示しが付かんだろう。せめて誰もいない場所で寝るか深呼吸だと誤魔化すくらいしなさいよ!という訳でオルガマリー君。元気付けてやりなさいね?付き合い深いだろう?」
私は遠慮するよ、怖いから。ソロモンであった者に偉そうに出れる筈ないよね、普通にね・・・そんな善良かつ尊大かつ小心者ムーブをかましながらも、しっかりと仲間を気遣う彼の性根の良さに、思わずオルガマリーは笑みを浮かべつつ了承し、立ち上がる。
「解りました。ロマニは何処に行ったか解りますか?」
「最後に見掛けたのは自室に繋がるワープ床に乗った所だった。恐らくは自分の部屋で何かやっているのだろう。この高級ハムをやるから、シャキッとせい!・・・って、所長の意志と言葉で言ってあげてやりなさいよ。私が入れ知恵したとか密告は無しだからね!」
頼んだよ!念を押してくるゴルドルフに軽いハンドサインを返しながら、彼女は毅然と管制室より脚を運ぶ。
(どうしたのかしら、ロマニ・・・悩み事なんて、もう全人類分やったでしょう?)
かつて自分を支えてくれた様に、自分もロマニを支えてあげたい。そんな人としての心の機微を胸に懐きながら、オルガマリーはワープルームよりロマンの部屋へと向かうのであった・・・──
~
「うぅん・・・はぁ、弱ったなぁ。どうやって伝えよう、どうやって切りだそう。これは相当な難易度だぞぅ・・・」
「あら、そうなの?もし余裕があるなら、私や誰かに相談してみるのもいいんじゃないかしら?」
「そうなんですが、私事も極まった悩みなんでいくらなんでも遠慮しちゃうといいますか・・・──って、うぇえぇえ!?オルガマリー所長!?」
何で此処に!?もしかしてボク、部屋間違えたかな!?と宣う気弱っぷりに呆れながらも、彼女は事のあらましを説明する。
「副所長があなたの事を心配していたのよ。いくらなんでも溜め息が多すぎる、悪いものでも食べたんじゃないかって。そうして様子を代わりに見てこいと頼まれたのだけど・・・」
ある意味で、オルガマリーは聖杯の魔力供給が止まるほどに驚いていた。部屋の扉を開けっ放しにしていたのは勿論、彼が読んでいたのは・・・
「プロポーズ指南、花言葉図鑑、宝石の意味・・・あなた、とうとう覚悟を決めたのね・・・!?」
「しーっ!声が大きいです所長!マリー、静かに!どうか静かに・・・!まだプロポーズする前くらいの準備くらいの場所なんですから・・・!」
そ、そうね。私は大丈夫よCOOLよ。KOOLだわ。素数だって数えられる・・・そんな言葉を浮かべて鎮静を図るも、それでも興奮は覚めやらない。ソロモンである事を受け入れてから、ほんの少し自信を持っていたと感じていたロマンがこんな・・・相手など語る方が愚か。誰かなど解りきっている。どうやらその指に嵌まっている10の指輪を共有する日が来たのだろう。
「で、でもどうして、今なのかしら?どんな一念発起かしら?恐らくあなた、第一宝具を使うより勇気がいる選択をしたのよ?大丈夫?」
「解ってます、大丈夫ですよ。・・・いやですね、実はレオナルドが・・・」
レオナルド・・・つまりダ・ヴィンチちゃんが先から開発していた二つの発明が丁度近日に完成したのだという。それらはそれぞれ『ムネーモシュネー』『ロリンチちゃん』と呼称されていた彼の写し身と言っていい存在。楽園の記録と記憶をずっと覚えておく装置、そしてシャドウ・ボーダーに乗り現地で彼女達をサポートするための自分の肉体をそれぞれ開発したのだと鼻高々に自慢してきたのである。ロマン的には彼がスゴいなんて解りきっているのでソウダネー、スゴイネーなんて適当に流していたら・・・
「そうだ!とてもめでたい!記念すべき日だ!・・・記念と言えば、年貢の納め時だぜアーキマン?」
「えっ・・・何の話だい?」
「とぼけるんじゃないよ。シバだよシバ!いい加減グイっと身持ちを固めて堅実に生きなさいという話だ。産まず増やさず植えず蒔かずして何の為の受肉という話だよ!『明日は特別な日』なんだから、覚悟を決めて立ち向かいたまえ!」
そう言われ、ロマンは大量の雑誌を押し付けられ予行演習に励んでいたのである。懸命に頑張り、歯の浮くような台詞を考えて。・・・それだけ聞けば、ムニエルが100回昇天するだけの話だが・・・
「あぁ、どうしよう・・・シバと本格的に婚約するとしたら、ボクなんて冴えない人間を受け入れてもらえるのかな・・・?いや、結婚式場も用意してるし、貯金もあるんです。でもいざとなると、本当にいざとなると!・・・彼女はソロモンに想いを寄せているのはよく理解できているけれど、ロマンのボクとしては自分自身が恋敵という事に・・・」
散々みっともないところを見せてきたし、カッコいいところなんて片手で数えられる・・・そもそもあったかな・・・なんて思ってしまうとどうしても足が止まってしまい、将来の不安に溜め息が出てしまう。シバはシビアな女王、求めているハードルがソロモンなのだとしたら・・・
「もし、ごめんなさい私が好きなのはソロモン王なのでぇ、冴えないアーキマンはちょっとぉ・・・なんて言われたらボクはマギ☆マリから帰ってこれなくなる・・・!シバがいる限り逃げない、諦めない、負けないと自分には言い聞かせてきたけれど、それでも・・・それでも・・・失敗が怖いんだ・・・」
これから楽園でずっと顔を合わせる中、振った振られたの関係になったりでもしたら本気で恐ろしい。自分が自分でいられる気がしない。関係の破局にて、楽園の磐石さに亀裂が入ってしまうのが何よりも恐ろしい。
「ごめんなさい、なんて言われるくらいならこのままずっと友達以上恋人未満な関係でいいかもしれないって・・・そんな気持ちになっていたら、大好きなお菓子も喉を通らなくて・・・」
ソロモン王として娶った数多の女性は無数だ。地位、権力、政略。打算や策謀に満ちた婚約、そして神の威光を示すために神託を受けた美女。それらが愛多き王に与えられてきた。
しかし、この中に『自分が愛した』女性は一人もいない。それら全てが、愛される事を望んだ者達に反応を返しただけに過ぎないものだ。本当の意味でのソロモンのパートナーは、誰もいなかったのだ。
「丁度いいや、所長にも意見を聞こうと思ってたんだ!どうですか所長、このままゆるい進展無しの熟年カップルみたいな・・・あれ?」
見ると、いつの間にかオルガマリーの姿は消え去っていた。扉は閉ざされ、ロマンは一人取り残される。
「・・・嵐の前の静けさ、じゃないよね・・・?」
恐る恐る予感を呟いたロマン。──彼は忘れていた。楽園における者達が、どれ程彼を心配していたのかを。
(どうやら、一肌脱ぐ時が来たようね・・・)
そんな『愉悦』『祝福』案件を・・・王の補佐であり、所長である彼女が、慎ましく終わらせる筈が無いと──
オルガマリー「見付けたわ」
ムニエル「え?どうしたんですか所長?見付けたって・・・うっ!?」
『今までの成り行きを生体メモリとして腹パン突き刺し』
オルガマリー「あなたは職員の代表よ。私と一緒に彼を祝福しましょう?」
「うぅっ!!で・・・できません・・・!俺の使命は男の娘サーヴァントやTSサーヴァント、そして──コンちゃんの笑顔を胸に生きていく事だから・・・!」
「まぁ大体合ってるけれど・・・もう一つ、大切な事があるでしょう?」
ムニエル「ファーーーーーー!!!!!!!」
「あなたの使命は・・・ロマシバの祝福よ?」
ムニエル(⌒‐⌒)『・・・楽園祝福netに、接続・・・』
オルガマリー「さて・・・二周年。面白い事になりそうね・・・」
『唐突に銃を抜き出す』
「明日は記念すべき日。──楽園が真の意味で、祝福に満ち溢れる日よ。ふふっ、ふふふふふ・・・」
『しまう』
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