人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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【親愛なる見知らぬアトラス院の貴方へ。私はかの神殿、カルデアなる組織を心より愛しているものです】

【そちらの組織が、こちらにコンタクトを進めているのはなんとなく理解できました。こちらとしても、そちらの観測力や事実推察はそれなりに高く評価しています】

【どうでしょう?一度、顔を逢わせて対話致しませんでしょうか?私はあなたたちを愛しています。その苦難を、絶望へ立ち向かう姿勢を】

【どうか、そのままでお待ちください。存分に、優雅なる一時を楽しみましょう カルデア職員の一人】


シオンの思考実験

「・・・死ぬほど胡散臭いんですけど」

 

彷徨海、其処に居を構えるアトラス院、其処にてカルデアを観測し、何度かコンタクトを図ろうとし、その都度完膚なき迄に阻まれてきた者。その名はシオン・エルトナム・ソカリス。未来を観測し把握するアトラス院の魔術師である。

 

人理が半年間焼却されるという異常事態。それに取り組み解決したというカルデアなる組織に目をつけ、彷徨海を訪問し、ベースを作りコンタクトを取ったのは数ヶ月ちょっと前。なんとか阻害されていた認識と隠蔽を解除し辿り着いてみれば、其処には『神殿』が屹立していたのだ。しかもそれは、エルサレムに屹立されしソロモンが建てたとされる神殿であったのだから驚きは図り知れぬというものだ。

 

【ほう、それで何を目的でカルデアに接触しようと?】

 

それを語るには、まずアトラス院が観測した・・・否、自分が観測した未来の結果を語らなければならないだろう。人理が修復された後、いつものように観測を続けていた所、全ての未来観測が同じ結論を出したのである。

 

『人類の未来は、やがて星の海へ漕ぎ出す』

 

星の海?一体それはどういう事なのだろうか。人類の未来は保証されていると言うことなのか?これから困難は何も無いと言うことなのか?その答えに至った倫理と方程式は一体なんだというのか?

 

アトラス院にいる頃、先祖であり養父、ズェピアに相談してみた所『解らないならコンタクトなりして調べてみればいい』と至極最もな意見をいただき、かつ全く協力を図れない答えをいただいたので。彷徨海にて自分なりに頑張ってあの神殿に変容したカルデアを認知した所なのだが・・・

 

【認識改変阻害を突破してみたのはいいが、その先はどうにもこうにもならなかったと】

 

そうなのである。接触や交信は当たり前のように弾かれ、ハッキングを行おうとした端末は再起不能なレベルで汚染破壊、そしてそれに連なる全ての端末が食い荒らされ汚染されてしまった。ファイヤーウォールは7を越える量に加え一つ一つが人類に到達不可能な質を誇る防壁に跳ね返され、その姿以外の何の情報も得られなかった。自分もそれなりに研鑽を詰み、自信を着けたつもりだったのだが、かの神殿を編み込む魔術は、恐らく全人類が束になっても叶わない位にいると認めざるを得なかった。

 

【それは当然だ。人類の未来を守護し、いずれ星より飛び立つのが目的。人の歴史の営みに介入することはしないのがかの王のスタンスだからな】

 

それである。カルデアがどうして『王』なる者を招いたのか。それらはどんな困難に挑み、どのようにしてこんな大層な事業をやり遂げたのか。それが一度気になったが最後、無性に知りたくて堪らなくなってしまったのだ。

 

それに観測結果もおかしい。『旅立つ』ということは、その遥か未来まで人類の歴史が存続されるという事象に他ならない。そもそもあらゆる未来をシミュレートしてきたこの場所が『必ず保証された未来』なんてものを自信満々に算出することがおかしいと言えばおかしいのだ。

 

【そういえば、何処ぞの世界の院長はワラキアのなんたらと名乗り活動していた様な気がするな。絶望の未来を直視しすぎた故に狂った・・・だったか】

 

そう、アトラス院に今引きこもっている連中は、それぞれが『観測された滅亡』、その未来を覆す為にあれこれしているのだ。ボタン一つで滅びることが出来る滅亡二分前の今の人類、世界を一つや二つ救ったくらいでは英霊として登録されないくらいには滅びに満ちている。滅亡が、余りにも身近に迫ってしまっているがゆえだ。

 

そんな未来を観測していたある日突然、全ての観測結果が『人類は必ずこの星を飛び出して宇宙に行くよ!』なんて絶対安全宣言という掌返しをかましてきたのだ。不思議に思わないほどメルヘンな頭や思考には出来ていない。そもそもそれなら皆引きこもるのを止めて出てくるだろう。何か、『全ての困難が踏破される要因』を加味した観測が導き出した答えがそれなのだと、割と最近に思い至ったのだという。

 

【カルデアの存在を感知した君が辿り着いた観測か。それで?君はあの楽園に接触して何をしたい?】

 

何をしたいかなどと問われれば、『知りたい』というのが本当のところである。世界を磐石な迄に救うことが出来る存在とはどんなものか。人類史の繁栄と勝利を、観測とはいえ確定させられる組織とはどんなものなのか。これからそんな組織はどんな苦難や困難に挑むというのか。本当に、人類はその組織に命運を委ねるばかりで何も出来る事は無いのか。

 

自分個人としても、何かを成し遂げる事の難しさや困難は理解しているつもりだ。だからこそ、人類の存亡を懸けた戦いに挑む組織が本当にあるというのなら、自分も参加し何かをせずにはいられないのだ。

 

そして、自分の・・・アトラス院の積み重ねてきたものが真に意味のあるものであったか試すのに至上の機会と言っていいだろう。シミュレートではなく、本物の世界の終わり。それらに対して今まで積み重ねてきた人類史は、どこまで対処と対抗が出来るのか。これ以上無い挑戦が叶うというものだ。人類の歴史とは、未来に成果を残す為に積み重ねるものであり。未来に遺せる成果を無くした瞬間が、人類の限界であると思っている。

 

【要するに、純粋に人類の未来の為にカルデアに協力したいと】

 

そう取って貰って構わない。思考実験の結果を引用すれば、『学校に突然テロリストが乱入してくる』という妄想はよく行われているという。破滅的な状況において、人間はどんな選択を行うのかという一般的な実験だ。自分の感情もそれなのかもしれない。

 

たくさんの魔術のアイディアもあるし、礼装の設計図もある。それらの全てが、本当の危機において有用であるか、優秀であるかを実験したいのだ。観測の結果、滅亡の未来を本当に変える事が出来るのか。いや・・・『全ての滅亡は回避される』という世迷い言を導きだした観測が、本当に出来るのかどうか。希望という観測を、信じてみたくなったのである。

 

【その為には自分を売り込まなくてはならない。弾かれてばかりではどうしようもならない、か。・・・ふむ。前向きな理由に、ポジティブな動機だな】

 

そうなのである。だから是非、御贔屓にしていただければ嬉しいのでお口聞き・・・

 

・・・・・・・・・──あれ、待って。おかしい。ちょっと待って、え?

 

【アトラス院の技術は確かに特筆すべきものだよな。オシリスの砂は大変お世話になり、魔術礼装も素晴らしい。ブラックバレルにアトラス礼装。それにラニ=Ⅷ。実に有益なものばかりだ】

 

『私は今、誰と話している』?メッセージを受け取った瞬間も、この部屋には私だけしかいなかった。

 

それに、自分は一番最初の独り言しか『言葉を発していない』。今までの全てはあくまで思考、考え事として処理していたものだ。それがこんな・・・

 

【ステレオタイプの俗物ではないようだ。君を招くメリットも、十分以上にあると報告できそうだよ】

 

『思考に割り込まれた会話』に加え『それを微塵も怪しい』と思わせない程の話術に振る舞いの自然さ・・・!このようなもの、『自己』を確立している存在では絶対にあり得ない!そもそも何故、【其処にいる】のに、自分は少しも不思議に思わなかった!

 

【合格だ。君の好奇心と向上心は面白い。君の人格と尊厳はそのままにしよう】

 

息を呑み、その存在を見やる。管制室に紛れ込んでいた【ソレ】は・・・

 

【よろしく、シオン・エルトナム・ソカリス。私はカルデア職員、ニャル。君達彷徨海が血眼になって研究している神代・・・】

 

「───っ・・・」

 

【その遥か過去より存在せし、領域の外の存在だ】

 

穏やかに、おぞましい程楽しげに、にこりと微笑んだ。




キャプテン「シオン・・・!」

シオン「キャプテン!」

キャプテンと呼ばれているサーヴァントは、黒き触手にそっと拘束されている。危害を加えてはいない、ただ。【つまらなかったら殺そうとしていた】だけの事。

【御返ししよう。君は面白いと感じたからね。カルデアに力を貸してもらえるなら、きっと所長も喜ぶだろう】

「・・・第一面接はクリア、ってことですか?」

【あぁ。しかし、面接は二度三度あるのが通例だ。それが大企業であるなら尚更な。書類選考で命を落とさなかったのは喜ばしい】

穏やかではあるものの、目の前にいる者は微塵も此方を気にかけていない。その領域にすら達していないのか、これからどんな風に弄れば面白いかといった観察の眼差しを向けている。

【良き関係を築こうじゃないか、シオン君。楽園に君を紹介できることを祈っているよ】

・・・この存在は、楽園とやらの使者なのか。こんな恐ろしい存在を職員として使役する楽園とは、どんな場所なのか。

「・・・合格通知、用意しておいてくださいます?」

【あぁ、いいとも】

俄然気になってきた──。冷や汗が止まらず固唾を呑みながらも、シオンは不気味に笑う眼前の怪物を睨み返す──

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