人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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スタッフ「謎の神殿より広がりし煙、急速に拡大!ハワイ、ラスベガス、南極を除く世界各地を急速に覆い続けています!」

オルガマリー「月の新王にコンタクトを!ムーンセルに演算を任せ煙内部の様子を衛星写真にして回して!」

ザビ『もうやってたフランシスコ。褒めて』

ゴルドルフ「早いね君!?その歳で王様やるだけあって底知れない有能・・・!」

『煙に触れた人間、というか生物は仮死状態になってる。魔術回路や生命反応も限界ギリギリ。でも死んでない』

ダ・ヴィンチ「仮死だって?見るからに即死しそうな有害ガスぶりだよねアレ!?」

『死んでないんだからセーフ。でも魔術回路や肉体にちょっと変化が見られる。この星の生物には見られない触手とか』

オルガマリー「・・・解ったわ。あれは保存しているのよ・・・生物を何か、おぞましい存在に変えるための下準備・・・恐らく、この戦いの果てに作り替えられるかが決まる・・・」

ムニエル「お、おい!あの神殿から反応が増大してるぞ!この規模・・・地球の環境をまるまる変えられるぐらいのヤバイエネルギー量だ!」

ロマン「・・・ロストベルトだ。濾過異聞帯現象・・・!なんてことだ、あの邪神は『人類史そのもの』に攻撃してきている!」

オルガマリー「それって、ギルが想定している敵の侵略兵器の名・・・!?」

「あぁ。点を越え、紡がれた歴史の帯。何も間違わず、その為に伐採された歴史の事をロストベルトという。その特大のロストベルトを、今僕たち人類はぶつけられているんだ!このままでは、人類史の歴史は剥がされ新たな歴史が地球に定着する!恐らく・・・【古来より続いてきた異星の邪神達が繁栄した歴史】に、この星が乗っ取られるんだ!」

ゴルドルフ「い、一大事ではないのかねそれは──!?」


ルルイエ上空

ニャル【いくら対策を練っても、実戦データがあるとないとではまるで精度が違う。ならば、実践をしてあげよう。知恵は比類なき財産だ。そうだろう?】

ナイア「・・・お父さん・・・!」

【躊躇いなく父と呼んでくれるようになったな。六日足らずだというのに、ぐっと可愛くなった】

「邪神ニャルラトホテプ!どうせあなたが黒幕でしょう!神妙になさい!」

【私としては勝敗などどうでもいい戦いだがね。・・・かの娘のおイタに付き合わせられたリッカが目覚めるまで少し時間がある】

「・・・!」

【少し、遊ぼうか。余興だから安心しろ。──どちらかの歴史が選ばれる戦いの前の、な】





どうして私は、私なの?

【ほら、見て。皆が皆笑顔で、世界は平和に過ぎていく。誰もが世界が滅ぶ不安に怯えてもいない。誰もが平穏に、当たり前に生きているわ。これが、あなたの望んでいたものなのね?】

 

──リッカとアビゲイルは、その世界を二人で見ていた。フォーリナー・・・外なる力、ヨグ=ソトースの力を行使しているアビゲイルが異なる可能性にリッカを招き入れ、目の当たりにしたのだ。その光景は、極めて平和で、穏やかに流れる泰平そのものだった。

 

自分に無関心だった両親は仲良く暮らし、自分をいじめていた同級生達は退屈に悪態をつきながら学校へ向かっている。学校はいつものようにチャイムを鳴らし、登校を促している。誰もが曖昧な進路について語り合い、人生を左右する受験に向けて備えている。空は蒼く、空気は澄んでいて。何処にも悪の収まる余地の無い、天下泰平が其処には拡がっていた。それは、リッカが狂おしい程に求め取り戻したいと願い続けていた・・・

 

「──平和と、笑顔。退屈だけど、当たり前のかけがえのない平穏・・・」

 

【そう。これは夢。でも現実にできるわ。私がしてあげる。『こちらの世界がいい』と言って、あちらの世界を否定すればいいの。そうすれば、こちらが正しい歴史に、未来になるの】

 

自分ならそれが出来る。今の自分ならそれが可能だ。フォーリナーにして、全にして一、一にして全なる自分ならば。この平和をあなたのものにしてあげられるとアビゲイルは呟いた。

 

【もう傷付かなくていい。もう哀しまなくていい。もう泣かなくていいの。あなたは普通の人として過ごしていけるのよ。藤丸立香として、普通の、ただの一般人として。あなたが望んだままに】

 

「──普通、かぁ」

 

それを、どれほど望んだだろう。それをどれほど夢見ただろう。お金なんていらない。地位も裕福さもいらない。ただ、迎えに来てほしかった。お帰りと言ってほしかった。ご飯を作ってほしかった。友達になってほしかった。おやすみと、いってらっしゃいと、一緒にいてくれることを許してほしかった。そんな当たり前を、どれほど望んだだろう。自分とすれ違った、仲良く手をつなぐ親子を見て何度咽び泣いただろう。

 

【あなたの頑張りは誰にも届かない。あなたは誰にも評価されない。世界を救っても、他の人はただそれを当たり前と認識するわ。あなたの功績は、たくさんのどうでもいい存在に食い荒らされるの。それは、哀しいわ】

 

「・・・」

 

【だから、もういいの。世界を救うなんて、傷付くなんて選ばなくていい。だって、あなたが救う世界になんて、なんの価値も無いのよ?それは、あなたが一番解っているでしょう?ほら、見て?】

 

自分に唾を吐いた男が楽しそうに登校している。弁当を台無しにした女子グループが愉快に笑っている。自分への仕打ちを黙殺した先生達が、爽やかに挨拶している。

 

【やり直せるわ。やり直せるのよ。あそこに行けば、もうあなたは普通なの。友達に囲まれて、素敵な女の子になれるのよ。誰かに歪められていない、本当に素敵な人生。今の薄汚れたあなたじゃない。本当に綺麗で素敵な人生が】

 

両親だった人は、うまくやっているようだ。それなりに成功し、それなりの上昇志向を以て。そして、それには共通点がある。──リッカは思い至る。そして、身体を震わせる。

 

「──くっ、くくっ、ふふふ、あはははっ」

 

【・・・・・・?】

 

「あはははははははは!!あはははははははははは!!あーっははははははははははははははっ!!」

 

突如、リッカは笑い出した。いつもの皆に見せる朗らかで輝かしい笑顔ではない。狂ったような、それでいて泣き叫んでいるような、おかしくておかしくて堪らないといったような勢いの笑いだ。瞳孔は、まるで龍の様に細まり開ききっていた

 

【・・・、・・・どう、したの?】

 

余りにも異質な様子に、余りにも狂った様に笑い続けるリッカに、思わずアビゲイルは声をかけた。おかしいからだ。笑っているのに、全然楽しげではない。懐かしさと、確信と・・・あれは、なんだろうか。

 

「そうだ、そうだよアビゲイル!これは私の望んだ世界だよ!忘れてたよ、昔はこうだったんだね、そうだったね!私はそうだった!皆がいない私は、これをずっと望んでたんだよねぇ!!ナイス再現!最高だよアビゲイル!あはははははははは!!あははははははははははははははは!!」

 

【───何が、何がおかしいの?】

 

「解らない?──見てごらん?『誰か、いないと思わない』?」

 

リッカは指差した。世界をだ。その頬には、笑いすぎた涙が出ていた程だ。そしてアビゲイルは気付いた。──そこにいる筈の、再現した筈の存在が。

 

【──あなたは、何処にいるの?】

 

いないのだ。普通の人生を送っている筈の藤丸立香が何処にもいない。狂い焦がれる程に望んだ平和なのに、平穏なのに。『其処に生きたい自分』たる藤丸立香が、何処にもいない。

 

「いるわけ無いじゃん。楽園に来る前、私が望んでた世界は、今目の前に拡がっているまんまの世界」

 

そう、その世界の意味は──リッカが小さき頃に思い続けていた世界。其処に自分がいる筈が無い。だって・・・

 

「【私が世界の何処にもいない世界】だもん。私という存在が綺麗さっぱりいない世界。私っていうでき損ないの失敗作が産まれなかった世界なんだもん。私がいた時点で、それは私が望んだ世界じゃないから、いるわけが無いんだよ」

 

【・・・──!】

 

リッカの目線は真っ直ぐアビゲイルを見つめていた。その金色の瞳が覗いている。自分を覗いてきたアビゲイルを。

 

──深淵を覗く者もまた、深淵に覗かれている。

 

「信じられない?じゃあ直接聞いてごらん?【後ろにいる私に】」

 

【私に・・・?、っ・・・!】

 

其処にいたのは、痩せ細り目が窪んだ死体がごとき少女であった。目に光はなく生気すらない。だが、そのかさかさの唇は言葉を紡ぎ続けていた。

 

【ごめんなさい。ごめんなさい。産まれてきてごめんなさい。期待に応えられなくてごめんなさい。私が私でごめんなさい。私が私と呼んでごめんなさい。生きていてごめんなさい。ごめんなさい。世界の全てにごめんなさい】

 

【こ、これが、あなた・・・?】

 

「そうだよ。グドーシに会う前はこんな事ばかり考えてた。死んでも、生まれちゃった事実は消えない私。殺されても、私が世界に生きた証しは残る。その事実が、たまらなく申し訳なかった」

 

ゆらりと、小さい少女が立ち上がり、アビゲイルを掴んだ。華奢で折れそうな腕なのに、爪が喰い込む程に力強い。澱みきった瞳が、血走った形相がアビゲイルを睨み付けた。

 

【私を消してください】

 

【えっ・・・!?】

 

【堪えられない。私が存在している事実が堪えられない。世界に生きている事実が私には堪えられない。私はうまく出来なかった。私は産まれてはいけなかった。期待に応えられなかった。私は失敗作だった。私はお母さんに、お父さんになれなかった】

 

「・・・・・・」

 

【消えたいんです。誰かに命をあげてください。生け贄にしてください。もっと上手くできる子に私の場所を譲ってください。生きていた痕跡も、跡形もなく消し去ってください】

 

それが、藤丸リッカのかつての願い。弱音の吐き方も解らない、彼女が心に秘め続けた自分が生きている事への懺悔と絶望。自分自身の抹消だけが、救いであったあの頃の渇望。

 

【教えてください。私は何をすれば、私という間違いを取り消せますか?】

 

【い、いや・・・!離して・・・!】

 

自分なんか、産まれてこなければよかった。自分がいなければきっと全てが上手くいく。自分がいない世界が欲しい。自分がいらない世界が欲しい。どうか神様、何処かにいるのでしたら・・・

 

【───教えてよぉおぉっ!!なんで私は産まれてきたの!!なんで私は命なんて持っているの!?どうして私は、いらないのに生きているの!?教えてよ!ねぇってばぁっ!!】

 

──私のいない、平和な世界を作ってください。今度こそ、お父さんとお母さんが笑顔で過ごせて、皆が平和でありますように。・・・それが、慟哭に喉を切り裂きながら、幼きリッカが懐いた至上の望みだったのだ──




リッカ「・・・──」

少女【あ・・・】

「──生きていていい。あなたは生きていていいんだよ。いつか、そう言ってくれる人がいるの。だから、私は私でいいんだよ」

リッカは、かつての自分にそう告げた。自分は、必ずその答えに辿り着くと。

「だから・・・」

【・・・、・・・うん・・・】

「【私は、生きていてよかった】」

そう告げた少女は、静かに消えていった。・・・──否。リッカの心に、静かに受け入れられたのだ。

「──目覚めなくちゃ。私にだけ都合のいい未来なんて、世界なんて気持ち悪いから」

左手には、黒と赤の刀・・・龍吼村正が握られている。──因果と異なる未来を、喰らい引き裂く為だ

リッカ「アビゲイル。懐かしいものを見せてくれてありがとう。あれは間違いなく、私が望んだ世界だよ」

アビゲイル【で、でも・・・!あそこにいれば、普通のあなたとして新しく生きれば・・・!】

「ううん。──未来は、誰かに与えられるものじゃない。誰かに与えられた『藤丸立香(わたし)』はいらない。・・・私は、私である事から逃げない」

アビゲイルが拡げた空間、心地好い夢に、刀を振りかぶる。黒き雷が、リッカの身体を駆け巡る。

「私は藤丸龍華。人類悪で、人類最後のマスターで、──そして・・・!」

そのまま、穏やかなる微睡みなりし世界へ向けて──

「ギルの財!可愛く素敵な!!リッカ系女子だぁあぁあぁぁあっ───!!!!!

因果を断ち斬る、自らの永遠の安寧の揺りかごを粉微塵に切り裂いた。紅き亀裂が穿たれ、世界の全てが砕け散っていく。

「──アビゲイル!」

【!】

「──あなたをとっ捕まえる!覚悟の準備をしておいてねッ!」

刀を突き付け、にっと笑う。その笑顔は、先の笑みとは違う、いつものリッカのもので──



リッカ「ん、うーん・・・」

ラヴィ「あ!お、起きた・・・!」

アル『なんと!?多重螺旋迷宮に酷似した夢より、自力でか!?』

リッカ「くぁーあ・・・おはよー・・・なんか、懐かしい夢見てたなぁ・・・」

リッカは無事に帰還する。──楽園の皆が灯した魂の灯は、最早決して揺らがぬ龍の炉心として胎動し続けていた──

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