ラヴィニア「?」
「友達を蔑ろにしてしまっては、残っているものや待っているものは後悔ばかり・・・モーセ様、とても辛そうだもの。見ている私達にも、心の痛みが伝わってくるくらい・・・」
ラヴィニア「・・・えぇ、私達はそんな教えを以て、生きていかなくてはならないわ。あなたは、間違えないで。何が正しくて、何を選ぶべきなのかを」
アビゲイル「勿論よ、ラヴィ。解ることは・・・」
ラヴィ「・・・?」
「あなたを、一番大事にすること!それだけは、きっと何よりも大切な事だと信じているから!」
ラヴィ「・・・・・・・・・えぇ。きっと・・・きっと全ては報われるわ、アビー・・・」
モーセは決意のままに、ヘブライの民を引き連れ荒野へと歩みを進めました。行く当てのない旅路、神の教えのみを頼りにモーセとヘブライの民が荒れ果てた荒野を進み続けます。人々はモーセを信じ、歩みを止めません。神を信じ、自分達の歩みが神の祝福を受けていると信じて。・・・モーセはそんな彼等の先頭に立って進み続けてはいましたが、その表情は沈鬱なるままでした。友との別離、ネフェルタリの死。半身を引き裂かれた様な痛みは心を苛み続けました。
(ラーメス・・・ネフェルタリ。君達を喪った心の痛みは和らぐ事はない。それどころか、鏃となって胸を貫く。僕の選んだ道は、なんという道なのだろう)
神の思し召しであるならば、此処で歩みを止めている暇はない。そして歩みを止めたならば、自分が行った決断は無駄になる。ネフェルタリの為にも、道行きを認めてくれたラーメスの為にも自分は進み続けるしかないと。彼は揺るぎない決意で心にむち打ち進み続けました。・・・やがて一行は、運命の地へと見えるのです。
「・・・葦の、海か」
眼前に広がる、青き海。道行きを阻む巨大なる海がモーセの目に飛び込んできました。あれほど切実した水、それらが一同に立ちはだかりし現実に民は気後れ、モーセにすがります。この先へ進むには、我々はどうすれぱ良いのだろうかと。
(なんと、儚き迷えるものなのだろう。僕たちは)
自らの意志では何かをすることすらままならず、道行きや進むべき道すらも自らでは決められない。誰もが求め、誰もが望む救いは、誰かの手にいつも委ねられている。神という羊飼いに導かれている羊のようだとモーセは受け取ったのです。しかし、自分は決してそんな甘えは許されません。皆を導き、楽園に脚を運ぶ事こそが使命。その為に・・・しかし、神はそんなモーセに、更なる試練を与えるのです。
「モーセ様!ふぁ、ファラオの兵士と戦車がこちらにやってきます!我等ユダヤの民を追いかけてきたのです!」
「・・・ラーメス」
その報告に、そうか。とモーセは頷きました。ネフェルタリを奪った自分を追い詰めようとするのは、当然だと覚悟していたのです。・・・それが神の手により、ラムセス二世の心を操ったが故であることを、モーセは知る由もありませんでした。
「こんな事になるなら、奴隷のままでもエジプトにいた方が良かった」
そんな誰かが漏らした不満を、モーセは静かに受け止めていました。そう、人とは弱く、愚かで、誰かの助けと導きが無くては前へと進めないもの。誰かの導きを容易く盲信し進んでいってしまう生き物なのだと。
(だけど、それではダメなんだ。本当の意味で自分で考え、自分で自分を戒めなくては人は取り返しのつかない事を犯してしまうのだ)
誰かの言いなりになって、良いことは一つもない。例え神であろうとも、自分自身を捨ててしまえばそれは生きているとは言えない。そして、自らの大切なものを誰かに委ねてしまえば、それは取り返しのつかない過ちとなってしまうのかもしれないのだから。ならば自分は、どうすれば良いのだろう?導くものとして、何を民達に示せば良いのだろう?
(誰かに頼って、僕は過ちを犯した。ならば自分が示すべきは決まっているだろう。──人は痛みを恐れ、しかし真に救われる事を願っている。痛みは平等なものだ。必ず何かを成し遂げるには痛みが伴うのだ。ならば──)
・・・モーセは決断しました。杖を投げ捨て、民達と己の前に広がる海へと、身体一つで立ち向かいます。そして彼は拳を・・・痛みを与える証を振り上げます。
(ならば僕は伝えよう。示すんだ、人が何かを成し遂げる為に痛みは平等にやってくる。ならば人はどう痛みに向き合えばいい?)
そんな想いを、そんな迷いを振り切るようにモーセは固く固く拳を握り締めました。喪ったものを悼むように、己を戒めるように。握りしめた拳から血が出るのも厭わずに。
「──ラーメス、ネフェルタリ・・・僕は・・・!」
痛みから目を逸らさず、向き合い、時には背負い進んでいく。そして自分で考え、行動することにこそ真なる救いの道がある。今は辛くとも、苦しくとも、決して──
「──もう二度と、逃げるものか!」
逃げず、挫けず、己の進む道を諦めず曲げない。そんな決意と想いを込められた拳は、音を置き去りにし天空を切り裂き全てを吹き飛ばす神威を以て。水平線の遥か彼方へ届きました。そしてそれは、比類なき奇跡を現実のものへと昇華させたのです。吹き飛ばされた海は、やがて──
「み、見ろ!海が・・・!」
「海が・・・割れた!預言者モーセが、海を割ったのだ!」
モーセの拳に引き裂かれた海は、やがて両脇に分かたれなんと輝ける道となりました。これならば果てしない彼方への道へと歩みを進める事が叶います。民達は歓喜し、口々にモーセを褒め称えました。救世主、神の子、比類なき預言者とあらんかぎりの言葉にて賛辞と賛美と感謝を述べました。・・・ですがモーセ本人の心に、そんな言葉が入り込む余地はありませんでした。
(ラーメス、ネフェルタリ。僕は一生を掛けて探し続けよう。君達に行ってしまった数多の罪を癒し、いつか君達が招かれるに相応しい楽園を、全てを懸けて見つける事を誓おう。・・・それらを阻む総てを己の手で乗り越えてみせる。例えそれが、何者であろうとも)
いつかまた、二人が再会し何者も害されない至上の楽園を見つけ、二人の魂が癒され、救われ、永遠に愛し添い遂げられる本当の居場所を見つける為に。その前に、神への試練を速やかに片付けようと、モーセは杖を拾い、再び歩み出したのです。
──自らを戒めるように、二度と動かなくなった片手に。杖を縛り付け、誰よりも先へ、誰よりも前へ。モーセの傍に寄り添う者は、もう誰もいなくとも。
マルタ「ああっ・・・!!」
ゲオルギウス「感動にて倒れてしまったようです。無理もありません、私も少し涙が・・・」
モーセ「そう?割と力押しだったのは我ながら思うけれどね。やっぱり此処は割とアンニュイだったなぁ・・・あ、やっぱり海割りはいいよね、みんな口をあんぐり開けてくれるからさ」
ロマン『そりゃあね!?そりゃあこんな奇跡を叩き込まれたらそうなるよ!?』
モーセ「まぁ、ここまでは僕の一番輝いていた時期だしね。次がエンディングになるね。頑張っていこう!」
『次?次は確か・・・』
「決まってるじゃないか。『僕が楽園入りしなかった理由』だよ。割と諸説あるこの場面・・・僕が何を思ったか。最後の名場面といこうじゃないか」
(・・・そういえば、その場面の事は誰にも語った事は無かったなぁ・・・)
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