人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ジェームズ「・・・生前の私、あるいは秘匿された作り話」

アイリーン「!」

「まぁ、どちらでもいいんだがネ。この一件の結末は些か後味が悪いものになる。・・・いや、彼という要素を見逃したせいで事態が悪化する。海運業で栄える筈だったこの街は消えてなくなる。だから──」

「だから、菩提樹の葉をこちらで回収する。・・・それが最良と言うことですね、ジェームズ」

ジェームズ「そゆコト。さぁ、負け犬君も張り切っている事だし、私達も面接官として最後の仕上げにいくとしよう!」

アイリーン「・・・もしかしてあなたがこれを提案したのって、『どうせ過去の尻拭いをやらせるなら使い捨てのマスター候補の方がいいよネ』みたいな動機で・・・」

ジェームズ「~♪♪♪」

「・・・リッカにやらせていたらレグメティア案件でした」

(めっちゃ命拾いした私・・・ッ!!)


竜の残骸

「騙しちょった責任、ここで取るがえい!死ねやぁ!!」

 

全ての企みを明かしたジークに、以蔵の刃が一直線に駆け抜ける。なるほど組織の長である事は偽りではなく、その歩法と突進はすばやく、いの一番に彼の間合いへと踏み込むものだった。腰に差した刀を抜き放ち、一閃の下にジークの首を撥ね飛ばさんと振り抜いた。鮮血が飛び散り、切り裂かれた者の血が部屋を彩る

 

「・・・な、なんじゃ、今の感覚・・・ごはぁっ──!!」

 

「・・・──」

 

刃の先に何か、とてつもなく固いものが当たった。そう感じた瞬間、そう呟いた瞬間に全身を切り裂かれた以蔵が吹き飛ばされる。肉や皮膚の感覚ではない。まるで骨に思いきり叩きつけたような・・・

 

「場所が悪い。ついてきて貰おうか」

 

ジークは窓に駆け出し、突き破り外へ出る。騒然とする場の中、ディルムッドが素早く指示を飛ばす

 

「庭にてジークを包囲しろ!彼との付き合いは今日この日までだ、絶対に逃がすな!」

 

「アナスタシア」

 

「えぇ、行きましょう。最後の頑張りを、私に見せなさい」

 

身体強化の魔術を使い、同じように窓から飛び出すカドックにアナスタシア。ジェームズ、アイリーンもそれに習い飛び出し、決戦の場は中庭へと移る。街の存亡を懸けた、最後の戦いへと──

 

 

「・・・・・・」

 

中庭に飛び出したジークは静かに待っていた。逃げるわけでも慌てる素振りもなく、自分を包囲してきた相手にも毅然とした態度を崩さない。その風格は、伊達に一家の主を名乗ってはいないという事実を雄弁に語っている。ギャング達が彼を取り囲み、燕青がジークに声をかける。

 

「なんだ、もう諦めたのか?」

 

「いや、違う。・・・魔術で自分の部屋を壊したくなかっただけだ。あそこには貴重な稀購本が山のようにあるからな」

 

別にお前たちからは逃げていない。そう告げるジークに、伊達男たるディルムッドが令を下す

 

「あなたとは大変親しくお付き合いさせていただいた・・・が、それも今日この瞬間までだな。撃て!」

 

辺りを完全包囲していたギャングが指示に従いジークを滅多撃つ。正真正銘、本物の銃器の制圧射撃に晒されて無事な者は決して有り得ない。・・・ただし。

 

【・・・残念だが。銃器で俺を倒すことは不可能だ】

 

其処にいるのは魔術師である。人生すべてを魔術に費やす存在。そんな彼が、人の作り上げた神秘なき道具に対策を講じていない筈が無かったのだ

 

「あれは・・・!」

 

其処にいたのはジーク・・・とは、見えない変わり果てた姿。【人型の骨竜】と呼んで差し支えない存在であった。人の骨格に竜の骨を模した・・・否、竜の骨そのもの。翼、爪、四肢・・・それらが人の形を得て動き出したに等しい威容を誇っていた。兜を模した窪んだ眼部には、虚ろな紅光が灯っている

 

「竜骨を触媒とした装着魔術・・・魔力で擬似的に竜骨を鎧とするのが彼の魔術でしょうね」

 

「んー、極めて馴染み深い気がするのは決して気のせいでは無いんだろうネ!誰よりも私達はあれの完成形を見ているのだから!」

 

【──!】

 

骨竜と化したジークが翼を振るい、障気を吹き飛ばした。それに晒されたギャングの肉体が酸化し、骨が剥き出しとなる。肉を腐らせる死の風・・・それに抗う術を、只人は持たない。

 

「ぎゃあぁあぁ!腕が!俺の腕がぁあぁ!!」

 

「あ、あれ?なんで俺、自分の体を見上げてるんだ・・・?」

 

「体が腐って・・・!た、助けてくれぇえ!」

 

「ちっ・・・!なら白兵戦は・・・!」

 

「落ち着けディルムッド!あれは魔術師だ!銃器が効かない奴に刃物を振り回した処で勝てる訳ねぇ!」

 

「ぐっ・・・我々は今まであんな奴に騙されていたと・・・!」

 

「下がってろ!魔術師相手なら僕らの出番だ!」

 

前に割り込むアレク、ラン、そしてヴラド。魔術師相手というなら、それに任せるのが筋であるというもの。三人が各々、魔力を練り上げる

 

【来い。簒奪者には墓標も銘も不要だろう。土に還してやる】

 

「それはどうかな──!!」

 

アレクが魔力を練り上げ、極限の集中で体術を仕掛ける。ケンタウロスの精神力を再現した高速戦闘。接近戦にて活路を見出だしたアレクだったが・・・

 

【ふっ・・・!】

 

「なっ、がはっ──!!」

 

避けも防ぎもしない。ジークの骨竜鎧は微塵も揺らがなかった。骨格以外の人体を全て魔力に変換し、極限まで硬度に特化し形成された鎧。その硬さの前には打撃の百や二百も同じこと。カウンターに叩き込まれた拳に、内臓と肋骨を粉砕されたアレクが血ヘドを吐き吹き飛ばされる

 

「おぉおっ!!」

 

ランが剣を抜き、一瞬で竜鎧に斬り付け、瞬時に連斬を繰り返していく。美の魔術は効かない以上、心許なくとも刀剣に頼る他無いランの攻撃・・・しかし、それもまた同じく。ジークには傷一つつかない。竜種の骨という最高クラスの触媒を使い練り上げた武装魔術。それはあらゆる歴史と研鑽を踏み潰す幻想種の頂点の力と言っていい

 

「ぐわぁあぁあぁっ・・・!!」

 

骨の翼が巻き起こした刃の風に切り刻まれ、血塗れとなり吹き飛ばされるラン。出血多量にて行動不能が明白な手傷を負い、アレクと共に脱落が決定する。

 

「おのれ、狼藉者めが・・・!」

 

ヴラドが吐き捨て、血を媒介とした魔術を発動し、己の血を杭としてジークに放つ。真紅の刃と化した血がジークに届く寸前──

 

【────!!!!】

 

喉を異界化させ、ジークは吐息を放った。これは只の吐息ではない。竜の十八番にして切り札【ブレス】である。己の総耐久ダメージを辺りに放ち叩き付ける必殺技。それを擬似的に再現したこれもまた、威力は語るまでもなく

 

「ぬ、お・・・!!」

 

【直撃したヴラドの半身が灰となった】。骨竜のブレスは酸化と腐敗。直撃したものの防御と肉体を腐食し、腐らせる。血は酸化し崩れ、立つことすらままならなくなったヴラドが血を流し倒れ伏す

 

「がはっ・・・こ、れが、幻想種の力の一端・・・」

 

「竜をその身に纏う・・・なんという反則技を・・・!」

 

【そうだ。竜とは生命と威厳の象徴。それを下した者に栄光と常勝を約束するもの。故に我が一族は竜を、そしてそれを倒せしジークフリートを敬愛して来た。──竜殺しの難題さは、今知っての通りだ】

 

骨の一部を使った、文字通りの形骸。それでも、魔術師の総てを踏み潰す力を持つ。竜たる存在の絶対性を誇示し、障気に満ち溢れた息を吐く

 

【このまま俺を通すなら良し。通さないなら、竜殺しの試練に挑んでもらう。──死にたいならば前に出てくれ】

 

静かに告げるジークに、竜に睨まれ動くことが出来ない一同。魔術師は瀕死、ギャングらは純粋に恐怖と畏怖にて。その意志を確認し、ジークが行動を起こさんとした時・・・

 

「待て、ジーク。まだ、みそっかすの魔術師が残ってる。食べ残しは竜としてマナーが悪いんじゃないか」

 

【・・・そういえば、忘れていたな】

 

ジークが呟く通り、最後の一人が歩み出す。其処にいたのは、矜持を牙に返し孤高の狼たらんとする平凡なマスターだった──




アナスタシア「貧相な魔術ですこと。殺風景で華美の欠片もない。竜を名乗るにはいささかつまらないわ」

ジーク【まるで見たことがあるような物言いだな】

アナスタシア「えぇ。あなたと似ていて、比べるべくもない程に邪悪で鮮烈な鎧を着る子を知っているもの」

ジーク【・・・それは、凄いな】

ジェームズ(アイリーン、カドック君。やるべきことは、解るね?)

アイリーン(勿論)

カドック(悪どいおっさんだよ、全く。・・・全員が脱落した今、勝って聖遺物を奪えって言うんだろ)

ジークが油断なく産み出せし竜牙兵に、骨のワイバーン。それを対処するためにジェームズが棺桶型の多重武装を、アイリーンが二挺の拳銃を構える

カドック「・・・悪いな、さっきも言ったように、僕はどうしても勝たなきゃいけないんだ」

そしてカドックは・・・精一杯の反骨心と、自分をからかい導く、今だけのパートナーと共に

「此処であんたを倒して、亜種聖杯戦争を終わらせる・・・!僕の為に死ね、ジーク!」

アナスタシア「これくらい倒せないなら、あなたはマスターに絶対に並び立てないわ。なんとしても勝ちなさい、カドック」

ジーク【死ぬのはどちらか・・・決めるとしよう】

前哨戦にして最後の戦いが、幕を開ける──

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