人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ソロモン「どうやら終わったみたいだね。被害は無し・・・うん、笑っちゃうくらいのワンサイドゲームだったね!」

ギルガメッシュ「我等が戦う以上、気に掛けるは勝敗ではない。如何に痛快に、完膚無き迄に勝つかだ。弱者を蹂躙するも王の勤め。宝もしまってばかりでは曇るからな」

──曇りやホコリの除去はお任せください!塵一つ残さずキレイキレイ致します!

フォウ(比喩!比喩だよエア!)

《フッ、故にこそお前と共に前線に出るのだ。お前を曇らせるなど、王の沽券に関わる事態なのだからな》

──はいっ!錆び付くような不徳や怠慢は致しませんよ、ギル!

《───。よし、では赴くとするか。最後の総仕上げと言うやつよ!》

「行くのかい?サーヴァントの退去は任せてくれ。リッカちゃんたちに宜しくね」

「無論だ。行くぞ、聖女。旗を刺すのであろう?」

「はいっ!それでは参りましょう!世界の裏側に!行ってー!G!」

「・・・語呂が悪いにも程があろう。何故こうなったのやら・・・」

──王の迂闊で愉快な失言です。輪廻の果てまで背負っていきましょうね、このカルマを。

《・・・重い枷よな・・・失言は罪深きもの。座の我にくれてやる記憶候補に纏めておくか・・・》



美しき夢の終わり

「・・・く、ぉ・・・っ」

 

「もう終わりにするでござるよ、ダーニック殿。生きてはおらぬ身で四苦をひたすらに味わうなど、辛すぎるではござらんか」

 

吸血鬼の姿から戻りし・・・否、『掬い上げられし』ダーニックに歩み寄るシッダールタ。聖杯の掌握はロマンに奪い返され、シッダールタの最大の救済にて、在るべき姿へと戻ったのだ。静かに歩み寄り問いかけ慈悲を示すシッダールタに、ダーニックは尚も大聖杯を睨み続ける。

 

「まだだ・・・、まだ、戦える・・・救いなど、救済など・・・諦めてはならない・・・まだ、まだ・・・!」

 

「散らぬ華は無き様に、命在るものは必ず滅びるもの。永劫の生こそ無上の苦難。・・・──最後の救いは、私の手ではなく『彼』が告げてくださるでしょう」

 

そう告げるシッダールタの背後から、歩み寄る人影がある。気風と威厳を醸す、一目見れば膝を折る風格を漂わせ、ダーニックに歩み寄る者がある。それは──

 

「・・・夢は果てる。人は死に、英雄は眠りに就く。貴様とて・・・我とて例外では無い。其処の救世主の告げる通り、貴様も眠る時なのだ」

 

風格、気品に満ちた声音が告げる。ダーニックが念入りに封じていた筈の、決して再現されない筈の最後のサーヴァント。ただの道化であり、再現叶わぬサーヴァント。それは──

 

「!貴様──貴様も再現されただと!?そんな、馬鹿な・・・!思考するサーヴァントとして甦る事など、出来る筈がない・・・!」

 

「・・・」

 

「出来る筈がないのだ!『ランサー!』」

 

そう。彼こそは生前に誇りも矜持も願いも蹂躙し、凌辱し尽くしたダーニックのサーヴァント、ランサー・・・ヴラド三世だ。彼もまた聖杯戦争に参加したサーヴァント。再現されずとも、データは残っている。残っていなければならないのだ

 

「皆、そして異教の救世主よ。よくやってくれた。汝らの奮戦、そしてセイヴァーの宝具が、余を招き入れた。ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアを停止させるただ一騎のサーヴァントとして、な」

 

「セイヴァーでなくて、リーダーでござるよ。さっきの宝具も、そなたを呼び覚ます為に放ったものですがゆえに」

 

シッダールタの宝具は救いをもたらすもの。単純なダメージはあくまで副次的なものであり本質は救いである。故に吸血鬼からダーニックを戻し、ヴラド三世を再現、起動させたのだ。彼自身にとっての救いを、彼がもたらすために

 

「セイヴァー・・・ランサァア・・・!」

 

「憤怒はとうに消え、ささやかな野望も潰えた。余も貴様もそれは同じだろう。もう、諦めるべきだ。──否、諦めなければならん。そうでなくては、人が前に進めぬ。貴様の思念は時代に通じぬ、貴様の夢は次代を導かぬ。最早どこにも、貴様は向かいはしないのだよ」

 

そしてそれが最も罪深きは、『今を生きる者』を阻むことだと。先進が後進を阻害してはならないと、未来を閉ざしてはならないと、ヴラドは言うのだ

 

「ダーニック。我がマスターにして怨敵よ」

 

「・・・!記憶が、あるのか・・・!」

 

「あぁ。セイヴァーめの宝具、そして貴様に取り込まれた事が作用したのだろうな。・・・だが、それを以て余は汝を討とうとは思わぬ。余が汝を討つのは復讐に非ず、憤怒に非ず。英雄としての責務であり・・・──貴様に召喚されたサーヴァントとしての、慈悲である」

 

「慈悲・・・!?ほざくなランサー!恨みを忘れるだと!舐めるなよランサー、貴様が私を許すものか!英雄としての誇りを踏みにじった私を、貴様が恨んでいない筈がない!」

 

夢を、誇りを、尊厳を。総てを貶め踏みにじった自分を赦す筈がない、許せる筈がない。【何故ならそれは、自分が決して許せない事だからだ】。自分が嫌い、厭う事を強要した。自分であるならば許せない、赦す筈がないのだ。それほどまでの記憶を保持していながら・・・──

 

「では問おう。貴様はこのまま余に討たれたとして、余を恨みながら死ぬのか?」

 

「・・・なに・・・?」

 

「わからぬか、ダーニック。貴様は恨まぬよ。例え怒ったとしてもそれは一時の激情。我等は夢を抱き、追いかけ、その癖どちらも諦めている」

 

根源の為ユグドミレニアの繁栄を。世界に根付き流布された吸血鬼の異名の駆逐を。──狂おしい程に求めながら、見果てぬ夢の遠さを心の何処かで認めている。認めているから、諦められない。『そんな筈はない』と進むしかない。全力を、尽くそうとする。それは、何故か

 

「それは不敬だからだ。無論第三者への敬意ではない。己が抱いた野望に対して、夢に対してのみ。我等は限りなく、誠実であろうとする」

 

八枚舌と、誰もお前を信用しないと罵られ、どれほど裏切り策謀を積み重ねても。串刺し公と罵られ、死体を積み上げても。それだけは変えられない。変えられないから・・・砕け散った夢の一つ一つが、欠片が捨てられない。醜き我執、人としての執着。──人が辿り着けない、捨てられない魂の色、色彩。

 

「管理者には解らず、かのマスターはそれを力にする。この世で『それ』を捨てられたのは貴様だけだ、セイヴァー」

 

「いやいや、私などとてもとても。寝ても覚めても、忘れられない・・・見守りたいと願う我欲はあるのでござるよ。こう見えて」

 

「フッ、故にこそサーヴァントとなったか。・・・余は、理解している」

 

それこそが、最後の救い。ヴラド三世は、サーヴァントとして・・・かつて似通い過ぎた者として、告げるのだ

 

「貴様の研鑽、裏切り、策謀に至るまで。──それらは、決して恥ずべきものではないと」

 

──その夢は、美しいものだと。だからこそ──

 

「だからこその終わりだ。ここで終わらなければ、貴様は夢にすら不誠実となる。妥協し、地に落ちた夢を拾っても。もう輝く事は無いのだ。されど──」

 

「──されど、その夢は美しいのでござるよ。ダーニック殿。求めた貴方も、目指した夢も。輝く事は無くとも、輝いていた夢は、今もずっと変わらないままでござる」

 

だから、叶えてはいけない。砕けた夢を叶えてしまえば、『砕けた夢』という妥協となってしまうから。──かの夢の、代わりにしてはいけないのだ。

 

「・・・・・・。あぁ、くそ」

 

呟いた、簡潔な言葉。その言葉は穏やかだった。・・・臨終を迎えた、老人の様に

 

「・・・貴様が、召喚されるわけだ。ランサー・・・ヴラド三世・・・そして、セイヴァー・・・」

 

迷いに迷っていた自分に慈悲を、止まらぬ自分に引導を。何故、どうやっても聖杯が掴めぬ事を疑問に考えていたが。それは、簡単な事だった。

 

「貴様が、貴様らが。私の夢を美しいというのであれば・・・それでもう、いいか・・・」

 

止めなければならなかった、止めねばならなかったのだ。かつてのダーニックの夢を汚す自分自身を。『ダーニック』という存在を。他ならぬ、彼のために。

 

「あぁ・・・歩みを、ようやく止められる・・・。疲れた・・・老いた者には、酷だ・・・」

 

「涅槃にて入滅を致しましょうぞ。心配めされるな、少し長い眠りにござる」

 

「・・・そうだ、そうだな。穢れて壊れた夢を取り繕うより・・・今を生きる者に、席を、譲るとするか・・・」

 

ようやく夢という呪いから解き放たれ、ようやく夢という重い荷物を下ろし。笑みすら浮かべ・・・

 

大聖杯を誰より夢見たマスター、ダーニックは。静かに消え去り、世から離れていった──

 

 

 

 




ジーク「・・・くぅ、疲れました。だな」

リッカ【ジーク君余韻壊すのやめてぇ】

ヴラド「然り。徹頭徹尾、聖杯大戦は終わりである。・・・管理者よ」

ジーク「どうかしたか、ヴラド三世」

「英雄としてではなく、一人の人間として告げよう。『結末を、一人で待つ必要はない』。共に歩み、生きる者がいるのならば。魔法に人が辿り着くその日まで、愉快に騒がしく生きるがよい。──土産話に、華を咲かせるためにもな」

ジーク「・・・、・・・そうか。そうだな。『彼女』も、きっと。笑って許してくれると・・・信じよう」

ヴラド「うむ、うむ。──では先に帰還する。かの王のマスターよ。責任は存分に取るがいい」

【はいっ!またね、おじさま!】

「おじさま・・・か。フ、そなたにはきっと、雄々しくも可愛らしき刺繍が似合うのであろうな──」

吸血鬼としてではなく。英雄として言葉を交わした少女のマスターの善性に頷きながら。ヴラド三世は、座へと帰還していった──。

シッダールタ「・・・聞いたでござるか、ジーク殿」

ジーク「あぁ。──もう、眠るのは終わりだ」

「それでは・・・」

「うん。・・・御機嫌王に、頼んでみよう」

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