人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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――頭の悪い癖と、彼は言うけどね


対等

――やりたいことができたので、自分の魂を起こす

 

 

器に方針を定めさせ、そのように行動する

 

 

 

何を行うかだって?――知識を、ある意味自らを知る行いだ

 

 

 

そう。器――英雄王ギルガメッシュへの敬意に、実を持たせるために

 

『ギルガメシュ叙事詩』の、読解である――

 

 

 

――

 

 

「来たな、マシュ、マスター」

 

改築された大図書館にて、机に足を投げ出した様子で、現れたマシュとマスターに挨拶する

 

「こんにちは、英雄王」

 

「やほー、ギル」

 

――体勢が悪いのはもう大目に見てほしい。王のリラックスモードがこれなのだ。器が楽なら、それでよろしい

 

「五分前に参ずるとはよい心がけだ。語りが終われば飴をやろう」

 

「あめ?もらえるの?」

 

「嬉しいのだわ。メルヘンに好かれる王様ね?」

 

ひょこり、と姿を見せる二人の童女。最近姿を獲得したナーサリー・ライムに、ジャック・ザ・リッパーだ

 

「なんだ、童二人も招いたのか」

 

「ごめんね?でも、読み聞かせなら聞きたいって」

 

「おはなし、よみたい」

「聞きたいのだわ。王様のおはなし。どんな素敵なおはなしかしら?」

 

「――まぁよい。眠気覚ましには最適だ。精々語れよ、マシュ」

 

「はい!このマシュ・キリエライト、全霊で叙事詩を読み上げます!」

 

――そう。かつての叙事詩寝落ちを学んだこのネームレス・スピリット。同じ愚を犯さぬ為に一考を計じたのである

 

一人ではあまりの眠さに耐えきれなかった。器があまりの伝承通りの退屈さにあっという間に眠ってしまったからだ。

 

ならばどうするか?――読んでもらうのである

 

 

「目を閉じてはいるが、耳は傾けている。我は気にせず、マスターどもに語る気概で励め」

 

――マシュとマスターに声をかけ、語り部をやってもらうのだ

 

美少女の声音ならば、退屈は和らげよう。無銘たる自分のあたまのいい(かな?)策だ

 

――冗談は抜きにして。この英雄の事を、単純にもっと知りたいのだ

 

破格の英雄。あらゆる神話の原典

 

神ですら人ですら計れぬ、遥かな視点を持つ、至高の王を――その敬意に、実を備える為に

 

――この器は、もはやただの器ではない

 

自分にとっても、偉大なりし王に他ならないのだ

 

「では始めよ。貴様のパーソナリティーに期待しているぞ?」

 

「が、頑張ります!――では、ギルガメシュたる王は――」

 

そっと眼を閉じる

 

 

――王の足跡。此度は何を見るのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

成人の儀、彼は自らの生き方を定めた

 

 

人を治める王としては生きぬ。人を諫める嵐として生きると

 

 

神と人として生まれ、有り余る力と孤独を産み出した王は、けして自らの責務からは逃げなかった

 

王は、全てを視ると決めた

 

視る、という事は決める、と言うこと。この世の総てを視ると言うことは、この世の総ての価値を定めると言うこと

 

自らを絶対の価値と定め

 

 

自らのみを絶対の基準と認め

 

あらゆるモノを産みだせし人間達の正しき価値を――自らを絶対基準として、価値あるものを見定めるために

 

 

そこからの王は、まさに生ける災厄であった

 

独裁、圧政、処断、強圧。ありとあらゆる試練を、統治せし領土に課したのだ

 

民たちは嘆いた。何故こんなことになったのかと

 

神たちは唸った。ここまでとは思わなかったと

 

誰もが謳った。暴君だと

 

誰もが非難した。非情であると

 

――だが、本質はそうではなかった

 

 

彼は――ただ。星の文明を拓き、守護するという使命を――自らに課した仕事を真摯に果たそうとしていたのだ

 

 

人類に吹きし北風となりて

 

――人類が、人類として未来を紡ぐために――

 

 

 

「――貴様が、我を諫めると?」

 

 

嵐の独裁が続く最中、王は都市の広場にて『彼』と相対した

 

 

緑の輝く髪。たおやかな仕草

 

男とも女ともつかぬ、美しき人形

 

 

「――そうだ。この僕の手で、君の慢心を正そう――」

 

 

――神々に鋳造されし人形が、不遜なりし言葉を吐く

 

 

 

二人は刹那、都市を呑み込みし嵐となりて激突した

 

 

驚愕に王は眼を見開いた。目の前の人形は、ありとあらゆる姿となりて王を圧倒した

 

 

剣に、槍に、弓に、騎に、暗器に、杖に、盾に、戟に、砲に、獣に。

 

森羅万象自在に変化し自らを圧倒するその人形に、――王は屈辱と感嘆の怒号をあげる

 

「おのれ――――土塊風情が、我に並ぶか――!」

 

 

王は初めて、蔵に収めた財を手に取った

 

 

屈辱であった。己があれほど秘蔵としていた、価値を認めた財を泥にて汚す事を不手際と感じた

 

 

それでも人形を打倒はできなかった。あまりに強く、あまりに速く、あまりに多彩なその怒濤に、一々手に取っていては間に合わなかったのだ

 

その刹那に――王は、『財を擲つ』事を閃いた

 

剣を、槍を、弓を、騎を、暗器を、杖を、盾を、戟を、砲を、獣を

 

 

森羅万象を迎え撃つ、至高の財達。森羅万象に変ずる、神の兵器

 

 

畳を砕き、家屋を砕き、天宮を震わせる戦いは何晩も何晩も続いた

 

――やがて

 

 

「――互いに残るは一手のみ」

 

総ての財を投げ放ち、右手に乖離の剣を、左手に鍵を持てし王

 

「護りも無いのであらば――」

 

泥をすべて使い果たし、変容も叶わなくなった人形

 

「愚かな死体が二つ並ぶだけだろうよ――」

 

だから打ち止めにしようとの提案か、死体は一つであるべきとの裁定か

 

――やがて、人形が倒れる。その姿は、一糸纏わぬその姿が、あまりにもみすぼらしく写ったのか

 

 

「ふ、はははははは――は……――」

 

大笑した後、倣うように倒れこむ。

 

肩で息をし、大の字にて倒れし王。空を仰ぐ。どこまでも青き、その空を

 

「――使ってしまった財は、惜しくはないのかい?」

 

 

財をすべて費やした。蔵は完全に底をついた

 

 

――それでも。王の胸中は晴れやかだった

 

 

「何、使うべき相手であれば――」

 

――自らに並ぶ、土塊に

 

「くれてやるのも、悪くはない……――」

 

王の言葉が、空へと響いた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――眼を開ける

 

 

今の光景、今の所感は、この英雄のものだ。この英雄の記憶だ

 

自分は今……王の経験を、実感したのだ

 

胸を、爽快感が通り抜ける

 

あの、王に並びたてし者こそが

 

彼、唯一の友……エルキドゥなのか

 

――ならば、あの戦法は、財を擲つあの戦術は

 

紛れもない、友との研磨の証なのか……

 

 

「――一先ずの区切りか。よくぞ語った、マシュ」

 

見れば、大分時間が経っていた。眼を開き、身体を起こす

 

 

「今宵は区切りとしよう。一朝一夕で終わる物語ではないからな」

 

「えー!続きききたーい!」

 

まったく同感ではあるが、眠らねば明日に響く。余暇はあれど、無為ではないのだから

 

「不満を申すな。我の伝説は逃げぬ。暇をみてまた読み語りをさせてやろう」

 

「おーさま、強いんだね」

 

「ジャバウォックもびっくりなのだわ。街もひっくり返るなんて相当よ?」

 

「若気の至りと言うやつよ。我ながら青かった。ご苦労であった。マシュ。中々の美声であった、貴様ラジオのパーソナリティーでもするがよかろう」

 

「あ、ありがとうございます!光栄です!」 

 

「うむ。さて、我は寝る。貴様らも眠れ。明日に備えよ。夜更かしは美容の敵というぞ?」

 

「マシュ運んでー」

 

「は、はいっ」

 

「貴様らもだ。童ども。寝よ。そら、飴だ」

 

「「わぁい!」」

 

――この王に並びし、至高の兵器、エルキドゥ

 

――いつか、まみえる日が来るのだろうか

 

 

――また、王への知識が。魂へと蓄積された

 

 

――特異点を乗り越える度に、読み進めるのもいいかもしれない

 

 

――考えを改める

 

財を擲つ戦いに――これからは誇りを以て

 

二人の追憶に、報いるように――




「クーフーリンオルター(舞)」
「クーフーリンオルター(舞)」


「アハーハァーハァーハハァ―wwwww」

「なにその笑い怖い(ドン引き)」

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