ヒカリ「一応言っておくけど、私もホムラも聖杯の場所はあんたには教えないから」
ホムラ『王様に任されましたから。聖杯は、聖杯が管理すべきだと』
「更に言っておくけど!オルガマリーにも手を出したらすぐにセミラミスに言い付けるからね!いい、大人しくしていなさいよ!」
天草「これは手厳しい。全て先んじて手を打たれていましたか。ヒュドラの毒一気飲みは勘弁です。今回は引き下がりましょう」
ホムラ『今回は・・・』
ヒカリ「微妙に胡散臭いわよね、コイツ・・・」
天草「素敵なドライバーが見つかるといいですね。・・・おや?」
マシュの書き置き『オペレーター、お任せします!』
「おや・・・?」
「・・・・・・静か、だな」
騒動の渦中、図書館のホールにて。アンデルセンの漏らした言葉が反響するほどに静まり返った空間に、不気味さが際立つ静寂に一同の警戒心が否応なく高まる
「通路ではあれだけ殺到した呪本の群れも姿を見せん。戦力の小出しを中止するだけの頭はある、か」
(・・・ねぇリッカ、よく言われるけどなんで戦力の逐次投入はダメなのかしら)
(相手が倒して、またこっちが投入しての悪循環に陥りやすいからだよ。ケイローン先生が言うには温存するか倒せるときに一気に注ぎ込むのがセオリーなんだって)
成る程、と戦力観点皆無のぐっちゃんが頷く。こうして気楽かつ気迫にものを聞く、と言うのは初めてなのでぐっちゃんもまた新鮮な体験をしているのだ。そういう意味では、この騒動の前よりぐぐっと連帯感は高まったやも知れない。
「書庫への入り口は?」
「こちらでございます。普段は私の術で隠されておりますが・・・」
そういって本棚の一つたる場所へ立ち、静かに星の印を切る。するとその印に呼応するかのように本棚が動き出し、横にずれ込み隠された入り口の姿を見せる。魔術師の工房を彷彿とさせる隠匿手段に、一同は静かに喉を唸らせた
「隠し扉、シェルター。安心できるものです。食料の蓄えなどはきっちりしておきたいですね」
「ぐっちゃんパイセン、悪の秘密結社や秘密基地はこんな風に隠されているんだよ。あとは開けゴマ!っていうのが暗黙のルールなんだよ」
「あ、そうなの?今度閉ざされた場所があったら試してみるわ。変なルールもあったものね」
「め、目に付かないようにしているだけですので、大層なものではないんです。本当に、ただの書庫で。・・・」
事ここに至り、事態の収束も近い。・・・本来ならば、ここで自分が一人で向かい一人で解決するが筋であり義務だろう。現に先程まではそうするつもりで、自らのみで解決するつもりだった。・・・だが、今は一人でなんとかしようとする気は、彼女の中から薄れている。勿論他力本願ではなく、また諦めたわけでもない。
「無論最後までついていってやる。何しろ刺激に飢えた作家崩れだからな。ここまで来て帰る男でもない。遠慮せず最後まで頼るがいい」
「・・・はい。その・・・あの・・・」
「ふん、相手になにか言うときに謝罪から入るのは卑屈で内向的な証だ。どうあれお前は楽園に招かれた英霊だ。放っておいてほしい、などといって放っておかれるとは思わないことだ。──そうだな。自分を顕したいなら、謝罪の代わりに感謝を告げてみろ。同じ謝るでも、意味は大いに違うだろう」
アンデルセンの言葉は、表面の辛辣さと裏腹に極めて誠実で真っ当なものだ。彼の死とは自らの言葉、表現、そして所感の詐称に虚為。例え紡ぎきった後に首が飛ばされても、口にしたいことは決して止めないし偽らない。英雄王が彼を贔屓にし言葉に興じるのもそれが一因だ。人間を嫌いながら、その根底にある暖かいものを決して否定しない。そんな彼の言葉を、紫式部は何度も何度も噛み締めており、故にこそ彼女はこの楽園にて取るべき正しき言葉を紡ぐのだ
「・・・はい。紫式部、此処に至り心底観念いたしました。マスター、虞美人様、キアラ様。貴女達と共に参り、己の不始末に決着をつけたいと存じます。ですからどうか、最後の最後まで力をお貸しください」
来たときには、楽園の輝かんばかりの者達、財達の前に気後れしていたのかもしれない。文学を紡いでいるばかりの自分が来たことを、招かれた事を何より自分自身が認めていられなかったのかもしれない。もしかしたら、図書館から出るという選択肢を取るのは、もっともっと後だったかもしれない
でも、こうして騒動を前にして彼女らは躊躇いなく自分を助けてくれた。慌てるばかりの自分を、迷惑をかけていたばかりの自分を支え、共に戦ってくれた。自分の躊躇いや及び腰を、力強く踏み越え手を差しのべてくれたのだ
ならば、この騒動の在り方にも感謝すべき点があるのかもしれない。呪本が呪本として起動すればこそ、こうした形であっても自分は皆と交流し、楽園の皆に受け入れてもらう事が出来たのだから・・・
「まぁ、正直面倒くさいのは嫌だけど。ここ、私と項羽様の行きついた安息の地なの。そこで騒動を起こされたらおちおち寝てもいられないじゃない。言っておくけど、本格的に項羽様が『災い』と感知したらこんなモノじゃすまないわよ。未完成の大器を目覚めさせる為に、天下中国を虐殺という形で縮めた御方なんだから」
「私も不思議でしたわ。無双の武に匹夫の勇。どのような粗暴な方かと思えば、とてもとてもそのような・・・」
「人間は本質を理解しないで物事を好き勝手に流布するのよ。都合の悪いことは隠し、都合のいい事は誇張する。・・・──リッカ、せめてあんただけは知っていて。私が愛したあの御方は、決して悪辣な外道でも、血と殺戮を好む覇王でもない。誰かを愛することの出来る御方なんだって」
「勿論!それでもって人を見る目があるよね!ぐっちゃんを嫁さんに貰うなんて覇王並の胆力と優しさがないと出来ないよ!」
「そうよ。だから・・・って!それはどういう意味よ後輩!枕元で私の知ってる呪文を垂れ流すわよ!」
「嫌がらせが本格的なんだか微笑ましいんだか分からないよパイセン!」
「・・・・・・ふふっ・・・」
「一から十まで、困難を騒がしく解決するような奴等だ。そうだと割りきって付き合うしかないと早急に知れたのは幸運だったな。・・・まぁ、なんだ」
「?」
「作家という奴はどいつもこいつも偏屈でな。こうして真っ当に会話できるというのは貴重ではある。シェイクスピアはあの面倒な性質な故楽園に招かれるかどうか分からん。・・・そう言った意味で、お前は楽園におけるいい同僚、ということになる」
「『ファンではなくサーヴァントでもない作家仲間として、これからもよろしくよしなにお願い致します、紫式部様。とアンデルセン様は仰りたいのでした』」
「!これが例の・・・いや違う!今のは貴様のアテレコかキアラ!余計な所感など付け足さんでいい!全てを包み隠さず伝える事が友好な付き合いなどと勘違いした関係は必ず破綻するのだからな!」
「うふふ、善哉善哉。と言うわけで紫式部様、これより後もアンデルセン様をよろしくお願いいたします。彼はあなた様の事を大変気に入ったそうですので♪」
「流れるように先輩を小馬鹿にするのはこの口かしら!ごめんなさいと言いなさい!はい、ごめんなさい!」
「ごめんなふぁい」
「よし!許すわ!いい、後で私とあんたの分の焼きそばパンを買ってくるのよ。カレーパンでもいいわ」
「はいパイセン!パシられてきまっす!あ、御代は向こう一年分項羽様からいただいてます!」
「それでい・・・項羽様!?な、何故そのような気遣いを!?え、ちょ嘘よねホントに!?」
何かが起きれば、そこに必ず何かが生まれる。だからこそ人は困難に晒されるべきであり、苦難に挑むべきなのだ。人間がただそれに屈する様な、弱く脆い種族ではない事を知っているから
「・・・はい。皆様に心からの感謝を。どうか共に、私の不始末の総決算と参りましょう」
「楽園にて死ぬのは嫌ですが、誰かが哀しみ嘆くのはそれに勝る嫌悪があります。──力を合わせて、安全区画に帰りましょう」
そんな、人の在り方を・・・紫式部は、言葉なく教えられた気がした。
書庫
ブックドラゴン『グォオォオォオァアァアァ!!!!』
リッカ「うわぁなんておっきな本なんだぁ(思考停止)」
ぐっちゃん「どうやら一匹じゃ敵わないと見て、徒党を組んだようね。全く、自分を弱いと自覚している弱者は、完全無欠の強者と同じくらいに厄介なのよ!」
天草『御覧になっているように、最大規模の反応がそちらに。いやはやしかし竜とは。リッカさんの雄々しき龍と違い見ていると腹が立つのは何故でしょう。ビッグクランチしても?』
リッカ「強化解除➡ダメージがあんなにえげつないなんて知らなかった・・・ッ」
紫式部「・・・何処までも大きくなった一冊の和書・・・まるで本の王、そして竜・・・」
シェヘラザード「記録に目の当たりにしたヒュドラ・・・それと同程度・・・いけません、巻き込まれればまず死にます。皆様、どこかに緑色のキノコや土管はありませんか・・・?」
アンデルセン「ヒトの想いを喰らう大呪本!キアラ、油断するなよ!貴様が巻き込まれればたちまちカルデアスペシャルバーガーの出来上がりだ!」
キアラ「うふふ、心配ありませんわ。ガトー様と共に山籠りの際に戦ったヒヒや猪も、これくらいはありましたもの」
アンデルセン「よし!今度お前の半生を聞かせろ!興味が湧いてきた、彼女に見せるも一興だろう!」
紫式部「・・・あれこそが、最初の呪本。私があの御方より託された使命を奪ったもの。・・・皆様!どうかお力を!最終呪本、これより回収──開始です!」
リッカ「おうっ!!」
ぐっちゃん「行くわよ蘭!まずは相手の出方を──」
蘭「了解!突撃致します!!」
ぐっちゃん「蘭!?」
『最悪手を選ぶなら、その逆を選ぶ。蘭が導きだした、マスターの指示に従う方法であった!』
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