『すぐに打ち解ける!お隣さん、近所付き合いの秘訣!』
将門公『この楽園、人も妖も貴賤無し。思うままに在れば、思うままに心は顕れるものである』
『将門監修~にっぽんむかしばなし~ 著平将門 絵 天照大御神』
山の翁【死を知らぬ輩に人が向ける眼差しはあまり好ましくは在らぬが・・・我が契約者であるならば問題もあるまい。我が刃は不動にて、晩鐘も静寂を貫いている】
【一年の仕事を一ヶ月で終わらせる効率のよい仕事の仕方──怠惰、堕落、劣化赦すまじ。働け──】
あまこー「ワフ・・・(椅子と机持ってこなくちゃ)」
玉藻「・・・なんで守護神様一同、あんなみっちり読書や創作に勤しんでるんです?遠近感パネェですよ?」
あまこー「ワフ(将門公は日本文化推奨に余念がない御方。ああやって昔話や逸話を失伝させないようにしているのです。マスコットキャラに苦心していましたが)」
「マスコットとか気になさってたんです!?意外とフランクなんですねぇ・・・」
「ワフ(悩んだ末に私達天照側面をマスコットにした様です。気になさらずとも、自らをデフォルメなさればよいのに)」
玉藻「いやあの、あんな目がギュポーンして巨大な鎧とか子供泣き案件ですし・・・」
「ワン(本人の前で言わないでくださいね、体育座りで落ち込みますから)」
玉藻「繊細・・・!!」
『お休み中ですが緊急事態です!!』
「ぶほっ──!!!」
ほんわかのほほんとしていた雰囲気を切り裂くマシュの通信。緊急事態と銘打つその様子から、どうやらスキャンになにやら引っ掛かった様だ。のんびり茶を啜っていたぐっちゃんの気管に御茶が直撃しむせたのはひとまずおいておき、リッカが報告を促す
「パイセン油断しすぎぃ!で、マシュ。何があったの?」
『はい先輩!数冊の呪本が外部から隔壁を破壊!隔壁の魔術耐性を突破された模様です!』
「ソロモンに魔術防護をさせていなかったのが仇になったか。まぁそれはいい、たまには想定外もあってしかるべきだろう」
『呪本、図書館内部に侵入!同時に緊急連絡!手伝ってくださっていたイリヤさんたちから、黒ひげさんからもです!』
『なんか本がどわーってばーって飛んでいったんですけどー!開いて飛ぶ本とかおっかないよぅ!』
『図書館の奥深くへ移動。端的に言って逃げられました』
『一冊や二冊じゃないでござるよ!そりゃもう多いのなんの!流石にこの状況でロリに現を抜かしヘマは打たんでござる!』
増えたとなれば、図書館にて数を増やしていたと見るのが普通である。どこかに潜伏していたのかと予測する紫式部であったが、天草の見解は異なるものであった
『いいえ。実はスキャンが終わる直前、ホールに一冊の呪本が存在すると結果が出ました。皆さんに伝えるべきと行動を起こした瞬間、隔壁より本が飛来したのです』
「そいつを中心とした軍隊行動。つまりそいつが『最初の呪本』か?」
『そう考えるのが妥当でしょう。現に全ての呪本は、ホールに隠れていた呪本の下へ集結するように移動していますから。どうやら閉じ込められた本が最後の抵抗に出るようですね』
ホール、黒ひげらと出会った場所。そこにいよいよ現れし『最初の呪本』。クライマックスの場面は近いようだ。ならば安寧に身を任せてはいられない。
「行くわよリッカ!ここまでやってダメでしたなんて話にならないわ、楽園のマスターとして、起きた問題はきっちり片を付けるのよ!」
「勿論!行くよ皆!頭があるならそこを叩き潰せば私達の勝ちだよ!」
「皆様と比べ、戦闘能力は拙い私ですが・・・ここで知らぬ振りをしていては王の財の名折れ。・・・懸命にサポートさせていただきます・・・」
「キアラ、当然貴様も戦力だ。行くぞ!物語の最後を飾るに相応しい女だと俺は記憶しているからな!」
「対立、戦いもまた他者への尊重。未熟なる人の業として受け入れ見守りましょうや。──はい、アンデルセン様がそう仰られるなら」
一同は部屋を出、一直線に駆け抜ける。漸く手がかかった元凶を仕留めんが為に奮い起つ──!
『皆さんに御報告します!呪本反応が不思議な反応を・・・!複数の呪本反応が、一冊の呪本反応に集結した状態で更に軍隊行動を!統率の取れた動きでホールの背後の空間に移動しています!』
それはまさに一個の群れと言うに相応しき様相である。一つの呪本を頭として、無数の本が追従し行動する。あまりにも統率の取れた動きにて、本らはホールの向こうのエリアへと行ったという
「・・・書庫?」
「式部、館内見取り図のデータを閲覧する方が早い。・・・あぁ、図書館ホールの裏側に書庫エリアがあるな。そこに集まっているのか?」
『これはアレですね。ハチやアリに見られる社会性昆虫に見られる・・・女王を中心とし巣を形成している動きです。──確か、最初の呪本が生まれたのは書庫だったと聞いています』
「何よ、おうちが恋しくて帰って来たって訳?馬鹿馬鹿しい。感傷に浸る本なんてナーサリーで十分よ」
「おうち・・・パイセン可愛い・・・」
「べ、別におかしい事は言ってないでしょう!?」
帰巣本能。アンデルセンはそう捉えた。どれだけ離れ、どれだけ迷おうとも必ずそこへと帰る生物の習性。それを呪本が獲得したというならば、一連の流れにもまた頷けると言うものだ
「フン、そこの不覚真祖の言う通り郷愁に至り持ち手から離れる本など論外だ。──ともあれ、叩くには絶好のチャンスでもある!」
「おう!よーし!やる──」
リッカがいつものように鎧を展開しようとした瞬間──死角より、『敵意』無き本が本能に従い飛来し彼女に襲い掛かる。敵対の意思無き攻撃に、変身前後の隙を衝かれた形のリッカは一手遅れ・・・
「──せいっ!!」
──その隙をカバーしたのは、ぐっちゃんであった。飛来した本を二振りの剣で受け止め、後輩に害する勢いをはね除ける。弾き飛ばされ体勢を崩した本は、瞬く間にキアラと紫式部、シェヘラザードの手により調伏され無力化される
「ようやく先輩らしいことが出来たわね。無事かしら、リッカ」
「あ、ありがとパイセン!助けてくれて!」
「~。・・・絶対無敵って訳でもないのね。いいわ、そっちの方が嫌味がなくて足並みが揃えやすいってものよ」
害意や悪意の無い者への不意討ちに弱い──裏を返せば、信頼や信用で悪意を隠す輩には数手遅れるか裏がお留守になるのがこの後輩のようだ。人を信じる善性も備えたが故の弱点。──まぁ、悪意が微かでもあればかぎ分けるにしても、だ
「いいわ。アンタの隣にいたいヤツはいっぱいいるだろうし、じゃあアンタの背中は私が護ったげる。先輩として、後輩を後ろから刺すようなヤツを見逃すのはバカでしょう?」
「ぐっちゃんパイセン・・・!」
「ふふん。これから先十倍・・・いえ、たくさん敬いなさい!頼れる先輩に感謝しながらへぶっ!!」
胸を張って後輩にマウントを取っていたぐっちゃん、第二波の本に直撃を捧げる。顔にベチンと開いた本がぶつかった形だ。押し花ならぬ押し真祖である
「本は群れだと言っただろう!一体を退けた程度でマウントを取るなど早計に過ぎる!だからお前の評価は迂闊な真祖なのだバカめ!」
「ぐ、く・・・おのれ、項羽様に血の一滴、肉の一片まで捧げたこの肉体に傷をつけるとは・・・!」
「パイセン!待って本気出すの早い!こらえて!抑えて!パイセンの本気ってアレでしょ!自爆でしょ!?」
「離しなさいリッカ!赦せぬもの、譲れないものがあるのよ!無礼には血の償いを以て──!!」
「まぁいい、歩み寄りの姿勢を見られただけで御の字だろう!キアラ、お前ならばこの程度雑作もあるまい!出来んとは言わせん、俺のファンならやってみせろ!」
「えぇ、勿論にございます。本には床に臥せっている間に随分と助けられましたもの。鎮める理由には十分ですわ」
「蘭!蘭!無礼者を手打ちに致せ!最早赦さぬ、我等が絆を知らしめ討ち滅ぼすのだ!」
「はっ!その、リッカさん。こんなマスターですがどうぞ仲良くしてください。彼女、暇さえあれば楽園や貴女の事を項羽殿に」
「何をしているか!!血祭りよ血祭り!はやーく!!」
「く、詳しくは後程!──蘭陵王、いざ参る!」
キアラと蘭の前衛の活躍にて、本の群れは蹴散らされる。その後ろで『今よ!私が自爆するわ!』『一網打尽のチャンスじゃない!』『マスターは爆発よ!!』と喚きまくる先輩兼マスターの怒号に背中を押されながら・・・
「私も死の気配には敏感ですが、彼女もまた・・・『自爆するタイミング』は研ぎ澄まされている様ですね・・・」
「それしか頼るものが無かった哀れな真祖の一芸だ、笑ってやるなシェヘラザード」
「・・・なんと言いますか。マスター、とは多彩なものなのですね・・・」
リッカに抑えられながら、的確な自爆ポイントを探し続けるぐっちゃんであったとさ──
キアラ「正しき流れへお行きなさい──辛抜手・辣言!」
アンデルセン「・・・比類無き鋭さの抜き手だな。それも我流か?」
「えぇ。お医者様の『時たま物言いがついつい辛辣になってしまう』というお悩みからヒントを得た、心の壁と物理的な障壁を指のみで貫く技法の一つでございます」
(・・・ギルガシャナ。どうやらお前へのリスペクトは妙な方にも進んだようだぞ)
蘭「これにて、決着!」
リッカ「蘭さんかっこいー!!」
蘭「いえ、正しき戦いと忠義さえあればこの程度は。はい、終わりましたので落ち着いて。どう、どーう」
ぐっちゃん「はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、リッカ。言い忘れてた事があるわ」
リッカ「?」
ぐっちゃん「爆発はね・・・──死ぬほど痛いわよ」
リッカ「今更!?」
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