人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アナスタシア「へぇ、ロックって反社会の反逆や鬱屈した感情を爆発させたのが始まりなのね。あの隈まみれのマスターにピッタリですこと。また逢った日には存分にからかって差し上げましょう(パラリ)」

ジル「⬛⬛⬛⬛⬛・・・(なんかよくわかんない呪文)」

リッカ(本読んでる・・・)

秦良玉「良きものを、良きものとして楽しめる。素晴らしき世になったものです。多様性とは、このようになくては(歌集を読んでる)」

ぐっちゃん(図書館が出来た影響かしら・・・)

イスカンダル「ほほぉ、こりゃ珍しい組み合わせだのぅ。おうマスター!見ての通り、今は読書が流行しておる。まさか乗り遅れたりはしていまいな?」

リッカ「あ、ホメロス大好きキング」

「わはは、然り!あの金ぴかが作り上げた図書館がいいものでなぁ。今までの図書館と合わせて読書には相応しい場所が出来たってんでこうして読書ブームという寸法だ。ほれ、これをやろう」

『スタンプカード』

「集めると良いことがあるぞう?たまには書誌の購読にも精を出してみるも一興と言うものだ!わはは!ではな!」

「手作りだ、これ!可愛い!」

「・・・本、ね」

「?ぐっちゃん・・・?」




歓待と騒動と感謝の呪騒~手紙は確かに許に~
本を読もう


「へぇ、ここが最近できたって言う噂の大図書館?・・・当たり前のようにこれくらいの規模が一日でできる辺り、本当にあの王様は規格外よね・・・」

 

先程の続きとばかりに二人でやってきた、新しく出来上がったとされし大図書館。扉を一枚隔てた先に広がる超絶的な紙の書物の楽園。全部回るとなれば一日はかかる壮絶な広さをたった半日足らずで、しかも新入りの部屋と同時に作り上げた御機嫌王の手腕に、引き笑いを兼ねた称賛を送るぐっちゃん。それに対し、リッカは長い付き合いなのでいくらか耐性が・・・否。どのようなものが出来ようとも受け入れられる覚悟が出来ている。

 

「ギルのやることで驚いてたら、カルデアのリアクション芸人になっちゃうよパイセン!あり得ないなんて事はあり得ない、という心掛けが大事なんだよ」

 

「すっかり決まっちゃってるじゃない・・・いやまぁ今更だって分かってはいるんだけどね。なんか、こう・・・この事象に驚かなくなっちゃったら色々感性が死んでいるようなものだしね・・・」

 

本来の主の要望は、使っていない未使用の場所を使わせていただけたら・・・程度のものであったが。そんなついでやさもしいやりくりの改築など認めぬとばかりに王は奮起し、カルデアのデータベースに眠る情報を紙の冊子にアウトプットした書物たちを受け入れられる空間を宝具を駆使し手掛けた。お陰さまで人類の今までの歴史のほぼ全てを納めた大図書室となったわけである。それだけの労力をかける意義は、意味は確かにあると王は裁定した。

 

──いつか遥かな星の海へと旅立った時、邂逅した種を招き見せ付けるのだ。人間という存在の紡いだ歴史と、積み上げた叡知を。そうすることが、人間という存在の価値を何よりも示す手段に相応しいと考えた為に。想像以上の規模の図書室となったのである

 

「・・・本、ね・・・」

 

「あ、ぐっちゃん先輩好きなんでしょ、本!オルガマリーやロマンから聞いたよ。ぐっちゃんはヒナコを名乗っていた時、いつも本を読んでたって!」

 

Aチームにいたさい、ぐっちゃんはヒナコと名乗りメンバーに招かれていた。マリスビリーの提案と熱意に圧され、放浪と迫害に疲れ果てていたぐっちゃんはそれを受け入れ、芥ヒナコとして用意された身分に甘んじていた。それは事実である。確かに自分は本を読んでいた。だがその真意は、この純粋で快活な後輩が考えているものとはちょっと異なるものである

 

「えぇ、読んでいたわ。外界からの交流を断つ手段として、とても有用であったから」

 

「へっ?」

 

「『私は本を読んでいる、邪魔をするな』っていう意思表示とカムフラージュよ。読んでいた本の名前はもう思い出せないか、今更本で読むことではないものだけ。罷り間違っても、楽しんでいた訳じゃないから」

 

逆さにも読み、斜めにも読んだ。見返して、読み返して、何度も読み返した。でもそれは、決して楽しいものではなく。周りの存在・・・自分とは違う人間という種への拒絶の盾であった

 

「あの王様が作る前のカルデアと、作った後のカルデアでは本を持っている私への対応は大分違うものなのよ。・・・前のカルデアはね、本を読んでいる相手を邪魔して話し掛けようなんてやつはいなかったわ。皆、私から距離を取ってくれた」

 

本を読んでいる、それ以上の詮索を持たない程度の関係であり、それ以上の意味を見出ださない者達の中にいた故に。ぐっちゃんはある意味では過ごしやすかったという。だが、それは盾であるというならば・・・

 

「・・・ひょっとして、身分バレが怖かった?」

 

人間が求め、渇望する不老不死。それを所持しているというだけで向けられる視線と扱いは語るまでもない。カルデアという非人間ばかりの集っていた場所に招かれたぐっちゃんが、真に休まる事は無かっただろう。誰かに感付かれれば、そこで自分の存在は仲間から実験材料に変わるのだから

 

「・・・まぁ、ね。疲れてたから。もうなんでもいいと自棄になってたのかもね。そういう意味でも本は便利だったわ。紙の書物とか・・・えぇ。便利だったわ」

 

「・・・それなら、今は?」

 

今は逆にぐっちゃんが本を読んでいる場所は目撃されていない。項羽との居住にて穏やかな時間を過ごし、同時に色々な場所をフラフラしている姿を見ているとアルクから聞いている。とても楽しそうだと所感も添えて、だ。

 

「読んでないわ。あの本、もう読んでないのよ。読む必要がもうないから」

 

そう。もう必要ない。芥ヒナコという身分も、欺く盾である本も、ここではもう必要がないのである

 

「私は私。そうして振る舞える場所が楽園ってトコでしょう?だからもう必要ないの、見ているだけの本なんて」

 

人間は嫌いだし、不倶戴天だし、それでいておっかない。でも、それでも気を許し、恋をし、忘れられない人達は確かにいる。そして──

 

「財というものはきちんと鑑定されているものでしょう?私はAチームの芥ヒナコじゃなくて、楽園のぐっちゃんよ。だからもう、盾代わりの本は要らないの」

 

そう名乗れる場所。自らの放浪の果て。こんな場所があった事への想いは中々に複雑ではあるけれど・・・それでも

 

「そうよね、後輩?私の事を、ちゃんと私として敬っているんでしょ?」

 

「──勿論です!パイセン!ぐっちゃんパイセンマジ美乳リスペクトです!」

 

「それでい──なんか敬うところ違くないかしら」

 

「そんな事無いよー。ぐっちゃんパイセン、私が先輩と呼ぶ唯一の存在なんだからね!」

 

「──唯一、か。ふふん、悪くないわ。楽園最強最悪のマスターから敬われる私。それはつまりこの楽園の真の最強って事に間違いない筈よ!」

 

──項羽は言う。かの妻たる存在が、気楽に歓談する相手が現れる事を切に願っていたと。

 

「と言うわけでリッカ。この本をあげるわ。隅々まで読んだ私のイチオシよ。ぶっちゃけ要らない本と寄贈しに来た本があるんだけど、要る方をあんたにあげるわ。敬いなさい」

 

「わぁ!ありがとー!・・・項羽と劉邦・・・」

 

「知りなさい。項羽様の冗談みたいな強さと覇気を。そしていつか四面楚歌を言い出した奴を探り当てて殴り込みに行くわ。お勧めよ。項羽様も敬いなさい。私たちの部屋に菓子折りを持ってきなさい」

 

「めっちゃ推してくる・・・自分の夫をめっちゃ推してくる・・・!」

 

「参考にしてもいいわ。私達の仲睦まじさを。と言うわけで寄贈しにも行きましょう。この『項羽と劉邦~ぐびじん編~』をね」

 

「まさかの自著!?」

 

 

自分が滅びる事よりも、最愛の妻の行く末の方が遥かに気掛かりであるのだと、彼は末期に詠ったものだ。不老不死たる君が、安寧に辿り着けるかどうかだけが心残りであったと

 

「丁度いいわ。あんたも読みなさい。そして感想文を書くのよ。あ、レポート用紙五枚ね」

 

「割ときびしかった!えーと何々・・・」

 

「ちなみに日本語版は、無いわ」

 

「読めないじゃん!後で読み聞かせて~」

 

「しょうがないわねぇ・・・これだから手間のかかる後輩を持つと先輩は大変なのよねぇ」

 

・・・──その心残りは、杞憂に終わったと。巨木がごとき覇王は、静かに頷き妻の余生を見つめ、見守っているのだった──




ぐっちゃん「・・・受付に来たわね」

紫式部「まぁ。カルデアのマスター様がお二人も。ようこそいらっしゃいました」

リッカ「おっ、凄い・・・・・・ッッッ(静かに)」

「我が地下図書館には、古今東西様々な本を取り揃えてございます。史書に伝記、神話に伝説、悲劇に喜劇、古典に新作、お伽噺に童話、時代劇に西部劇、低俗劇に政治劇、オクシデンタルにオリエンタル、中世に近世、古代に現代、虚構に現実。図鑑や地図・・・勿論、古きよき攻略本や裏技集などもありますよ。リッカ様」

リッカ「やったぁ!ワザップジョルノにはならなくて済むね!」

ぐっちゃん「何よそれ・・・攻略本?」

「最近は攻略サイトが充実してるから、攻略本ってあんまり手に取らなくなってるんだよね。私達が生まれる前は、嘘かホントか解らない情報が書いてある攻略本が面白かったってグドーシが言ってた」

「そういうものなのね・・・」

「あ、勿論復讐譚や恋愛模様もございます。ぐっちゃん様、御安心ください」

「いえ、別に私の本があるか確かめた訳じゃないんだけど」

「・・・それで、そのぅ・・・」

リッカ「?」

「・・・恥ずかしながら・・・御相談がございます。よろしければ、共に取り組んではいただけませんか・・・?」

リッカ「御相談・・・?」

ぐっちゃん「(露骨に面倒くさそうな顔)」

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