人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『堕天の檻の接近による電波障害による音信不通』


『GWでお会いしましょう、と手を振るカーマのイラストが置いてある』


フォーリン・プリズン

『はい、前方に見えますのがキアラが再現した『存在しない』場所を再現した不要物、廃棄物を雑に捨てる為の重力の孔。セラフ風に言えば『堕天の檻』でございます』

 

はくのんの導きのままに脚を踏み入れるリッカ、そしてカーマ。吹き飛ばされた際に此処の存在を見付け、そして観測に成功した・・・してしまった場所。そして何より、キアラの『スケール』を上回るに相応しくまた不可欠な存在が眠る異様にして異質きわまりない場所へと到達する。天は鈍き闇、地は星の輝きすらも呑み込む黒。あらゆる不都合と不具合を食らい吸い込むその存在・・・その傍らには、リッカにも、そしてはくのんにも良く見知った存在が不機嫌そうに座っていたのだ

 

「よし、来たな。いや来させられたと言うべきか。問題はないか?この深海の色香に知性が茹で上がってはいないだろうな?すまなかったなあのメロン峠の狼藉に付き合わせてしまい。お陰で俺達にも出番が回ってきたわけだ、馬鹿馬鹿しい!」

 

【アンデルセン!え、楽園のアンデルセンなの!?】

 

「──、解るんですか?マスター」

 

カーマが驚いたようにアンデルセンの顔と認識を合致させた事を問う。何をそんな当たり前の事を?と首をかしげるリッカに、アンデルセンは更に口を滑らかに回し歌い上げる

 

「やはりお前は潰したところで潰れる・・・いや、『殺した程度では死なない』存在か。全く勇猛かつ不撓不屈な事だ。あの女に刃向かう女は骨の髄まで主人公体質だ、そうは思わんか?月の新王」

 

『リッカは黒曜石クラスのタフネスさを持つ。それに引き換え私は・・・うう、自分の名前が思い出せない。確か私の名前は、フランシスコ=ザビ──』

 

「それ、やりたいだけですよね。岸波さん」

 

「・・・・・・お前も同類だろう。身体が総て吹き飛ぼうが脚が潰れようが前に進む蛮勇の化身め。話を進めるが構わんな?」

 

『はい』

 

新王のお茶目なジョークを冷徹に受け止めるショタロリ二人。最近の子供ってこわいとショボくれるはくのんを、リッカがなんとか慰める。それには構わずアンデルセンは説明を律儀に始め状況把握役を担うのだ

 

「知っての通り、俺はアンデルセン。楽園に招かれた最高の豪遊幸福作家だ。この廃棄場にて出禁を食らっていたとあるサーヴァントの役目を引き継ぎ、お前達をナビしろとあの御機嫌な編集王に申し付けられ、お前達を導く妖精だと思え」

 

「妖精にしてはいい声過ぎませんか?アンデルセンではなくスナフキンでは?」

 

「放っておけ、生まれつきだ真なる愛の女神。ようやく十割になった霊基が嬉しいのは解るが周りを排斥していては嫌悪を招くぞ?・・・まぁそれはそれで、この場所の説明を果たさせてもらおう。俺は語ることしかできんからな」

 

そう答え、白衣とイヤホンを身に纏った厭世少年は手にしたタブレットをアクティブにし宙にこの場の全容を展開する。そこに映りしは、遥か下へと堕ちていく総てを吸い込む孔の断面図である。

 

「いま深海に沈んでいる無様で滑稽で見るに堪えない爆笑ものの構造物・・・失礼つい本音がこぼれた。やり直すぞ」

 

「羅列した単語からして確信犯ですよね、それ・・・」

 

「まぁ大半はな。深海に沈んでいる海洋油田基地だったもの。つまりセラフは通常の物理法則にない。あそこでは時間は一定方向に流れて積もるものではなく『スケール』で計れるものであり、その定規の感覚も俺達の物理空間のものとは違う」

 

『時間と空間が同列だから。本を読むとき、何処からでもページを開けるのと一緒。まぁ要するにこことセラフは同じ空間で別の時間と言うこと』

 

「俺の仕事を減らしてくれて感謝するぞ新王。だが報酬はキチンと貰うがな」

 

かいつまんでいえば、ここは切り離されていながら同じで、同じでありながら異なる時間を歩む場所であり、あろうが無かろうがどうでもいい場所なのだ。観測さえされなければ、永遠に気付かれなかった空間である

 

「ここでは本来ならBBもキアラの手も差し込まれない。なぜなら完全な『ハズレ』だからな。セラフィックスはセラフという『電脳構造体』に新生しようとしているが、このポイントは『セラフ』においても『存在しない』場所として作られていた。何のために?勿論、都合の悪いものを捨てるためにだ」

 

「臭いものには蓋をしろ、漂う臭いはしらんぷり。ですね」

 

「あぁ。見なかったフリ、無かったフリをするのは人間の最も優れた防衛機構だ。ここはその究極でな。かつてない厄ネタを、そのゴミ箱ごと抹消した墓場。誰も知らないうちに棄てられ、誰もたどり着けない場所にされた宙の外というわけだ」

 

洞穴、大樹の虚、底無し沼のほとり。誰も覗かない、見ようともしないありながら存在しない空間。その認識こそがこの場所であるという。

 

「あの重力圏は誰も知らない場所まで続いている。本来であれば永遠に沈んでいくだけの檻だったが、信じがたい事にあのドブ女はな、セラフと周辺データも再現したんだ。危険性を知った上で『面白そうだから』という理屈でな」

 

『ベッドに入ってくるのはいいけど出て歩くのもめんどくさがるアバズレクオリティ』

 

【なんかはくのん凄いキアラさんに辛辣じゃない!?】

 

「当然だ。目の前でヒロイン後輩とその分け身を食われたんだからな。その無表情の下には冷えきった決意に満ちているのが見えるぞ岸波。あの無個性からよくぞそこまで自立したものだな!喜べリッカ、主人公歴としてはお前の大先輩だ!」

 

【はくのんパイセン!】

 

『プレロー、一緒に食べよう。BBパシらせるから』

 

「はいはい、リッカさんの分は私が買ってきますから。脱線良くないです」

 

胸ばかりか頭まで牛並みとは恐れ入った、やはり生まれつきだなあの角はと罵倒がキレキレなアンデルセンに釣られて脱線しがちな二人をカーマが諌める。割と時間が惜しいためだ

 

「まぁ安心しろ。難易度はクリア不可能から極困難に下がっている。我等が御機嫌な王が岸波の観測にて証明した事で開いた地獄の蓋を、『たまには裏方に徹するも悪くはなかろう、澱んだ膿を一掃してくれる!!』と意気込んで突撃し──『数万光年の距離を踏破し、孔を無理矢理一ヶ所に整地した』からな。果ての果てまで堕ちなければならないところを、お前達は潜るだけでいい。十層の内九層はやつただ一人・・・いや、『王と姫』により蹂躙され攻略されたのだからな」

 

それが御機嫌王が姿を見せなかった理由である。『我が財が取り組むと決めたのだ、解決は当然である。そして完全無欠を謳うのならば、打ち捨てられた存在をも拾い上げるのは当然であろう?』と少年の様な不敵な笑みを浮かべ、彼等は単独顕現を活かし地獄へ飛び込んだのである

 

そこから先は語るまでもない。数千、数万、数億、数兆クラスの廃棄危険データの残骸を、無数にして精密極まる財の輝きでもって蹴散らし尽くし蹂躙し尽くし、『我等を殺めたくば無量大数は持ってこい!!』と廃棄の十層を切り裂き、英雄神の拳にて階層をぶち抜き統一し、大幅な最下層への道を作ったのだ

 

『我は先に下層にて契約を交わし待つ。必ず来るであろう奴等への教導は任せたぞ、童話作家』

 

それだけを告げ、傷ひとつ負う事無く王は下っていったのだ。楽園追放ならぬ日帰り堕天、楽園出張。エアのアンデルセンへ支給されしシチューという対価と報酬を以て、アンデルセンはその要請に乗ったのである

 

【ギルがメチャクチャして助けてくれてたー!?】

 

『あ、だから最初よりぐちゃぐちゃで最下層がすぐ下にあったんだ。ギルナイスゥ。同盟律儀ぃ』

 

「・・・もし悪さしていたら、そんな人を敵に回していたんですよね・・・」

 

「そういった理屈から、下で眠っているものはお前達のコンタクトを待っている。王たるアレはともかく、姫たる彼女の言葉は既に対話のテーブルとやる気を整えているだろう。協力するかどうか、この檻をあの女を仕留める鉄槌に変えるかどうかはお前達次第、という事だ。求めるならば掴み取れ。面倒な戦いの大半はあの豪奢な王が片付けた。であれば──」

 

瞬間、対話の空間をノイズが切り裂く。王が蹴散らし塵へと叩き返した数兆の廃棄データ、それらが偶然獲得していたバックアップにより復活した数百の廃棄データ・・・危険なサーヴァントのデータ再現体が、リッカらを敵と認識し迫ってくる

 

「自主的に復活した残骸どもだ。矜持かどうかは知らんが素通りはさせてもらえんようだ。この場に集う総てを蹴散らせ!そうすれば目的地は目の前だ!」

 

【──!】

 

廃棄の一掃にて残りしはこの一層のみ。そうすればキアラを倒す為の最後の人員に手が届く。故に──ここは戦うのだとアンデルセンは言う

 

「では行け!──準備は整ったか、岸波?後輩に見せてみろ、最弱から最強に至ったその実力をな!」

 

『ほい。レガリア起動、転移開始。そっち行きます』

 

同時に、王の拓いた道に更に王が続く。同盟たるマスターの手助けを行うために──




はくのん「ほい、ワープ完了。大丈夫?ぶれてない?人としての軸とか」

リッカ【やほー!生はくのん!生はくのんだー!】

「こんにちは、プレーンはくのんです。リッカの頑張りをサポートつかまつる。と言うわけで・・・」

残骸達【【【【【──⬛⬛⬛⬛】】】】】

「──蹴散らし申す。と言うわけで。行くよ、ネロ」

レガリアを輝かせ、呼び出したるは至高の名器。己が美しき剣にして豪華絢爛なる新王のサーヴァント・・・

「──うむ!ようやく余と奏者の出番だな!待ちわびていた、すっごく待っていたぞ!今か今かと歌い、造り!今か今かと──!」

「言葉は不要、行くよネロ」

「うむ!そうだな!──刮目せよ黒曜の龍!我等の奏でる音を!至高の劇場を!!」

一面に薔薇を撒き、紅蓮の焔を振る舞う皇帝に応えるように──

「レガリア起動。──『神話礼装』、インストール」

──月の新王の、無慈悲なまでの全力と洞察が冴え渡る。

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