人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

705 / 2547
『カーマの部屋には誰もいない・・・』


ラプチャー

「はぁ、良かった。私にとって一番厄介だったのはあの二人だったもの。コレを囮にして弾き出す作戦は上手くいったみたい。ありがとう、つまらなくて名もないお方?」

 

場に似つかわしくない朗らかな物言いにて嘲りながら現れし、聞き覚えのある声。倒れ果てたロストマンの亡骸をまたぎ、現れしもの。──其処には、決してありえない存在が今かいま見えていた。

 

「──マーブル、さん?」

 

藤丸が救えぬと嘆き、泣いた存在。そんな彼女が今、こうして目の前にて話している。その事実を前に絶句しながら名前を呼ぶ姿に笑う彼女を、キャットは冷めた目で睨み付ける

 

「──そうか、やはりクリシュナ、カーマを弾き出したのは貴様であったか。最初から察していたワン。何しろ凄まじい陰の気だからな。対面してみてわかる腐乱臭、ダキニ天流・・・立川流の傍流か。どちらにせよ最悪の障害をこっそり排除するとは卑劣なヤツ!正体を見せよ、リブより厚い面の皮を剥がすがよい!」

 

「えぇ。かの魔神達の最悪の傑作がいなくなった今、貴方達など何の障害でもありませんもの。では、キャットさんの御言葉に甘えまして。人前で着替える無作法をお許しくださいましね?」

 

その言葉と共に、マーブル・・・死体の外郭が崩れ落ち、中より尼服に身を包んだ柔和な笑顔を浮かべる美女が現れる。彼女こそ、彼女こそがこの騒動の中核となりし女にして、クリシュナ・・・彼等が預かり知らぬ事実、ビーストifだったリッカと同じ存在──

 

「マーブルとは故人の姿。私は教会に勤めていたセラピスト。名を、殺生院キアラと申します。──あぁ、でも私は魔神柱でも魔神でもありません。紆余曲折、ゼパル様とも話し合った末に和解いたしまして、今では共に人を救う道を目指すもの。そうですね、解りやすく言えば・・・」

 

そう、魔神ですらなく魔神柱でもなく。彼女は人間では決してない。その存在を示す言葉はただ一つ・・・

 

「七つの人類悪のひとつ。三つめの『快楽』の獣、ビーストⅢでございます」

 

「「「「「「──」」」」」」

 

ビースト。人類が滅ぼす悪。人類史の澱みにして癌細胞。ゲーティアと同じ存在であることに、目の前の女の存在に、一同は絶句する。その反応に、恥じ入るようにキアラと名乗る女はロストマンに腰かける

 

「お恥ずかしいことに、気が付いたらこのような事になっていたのです。私はゼパル様に身体を奪われ、消え去るのみだった憐れな女。セラフィックスの皆さんと同じく、セラフの泡と消える被害者・・・の、筈でした。それが、ゼパル様の気紛れで、まさかセラフそのものにされてしまうなど──」

 

セラフが、人体を模していた理由。身体をモチーフにしていた理由。それは、彼女をベースにしていたからだとされる。そう、その女は語る

 

「本当に、なんという試練だったのでしょう。引き延ばされた時間のなか、私は幾度となく英霊の皆さんに攻められ、壊され見捨てられ──あぁ、本当にユメのような時間でした。この様な法悦、何を対価にしても得られるものではありませんよね?」

 

「・・・、・・・──(なんだか、頭がぼーっと・・・)」

 

「いや、この手の僧侶の話はまともに聞くもんじゃないぜ、坊主」

 

「その通り。我等が協力者でありしクリシュナ、カーマ殿を排除した時点で、相容れはせぬ敵と見ました」

 

構える騎士達。最早戦う他なきと断定し睨み付ける視線すらも悦ばしいとばかりに、キアラは微笑み言葉を紡ぐ

 

「ゼパル様のお力で、私は多くの世界を知らされました。平行世界、編纂・・・まぁとにかく難しい概念の。その数多ある世界から、私はある時空の私を知ったのです」

 

ムーンセル・オートマトン。月そのものを聖杯とした、こことは違う遥かな世界。その中で知った特異なもの。それは月の裏側・・・虚数空間で、ムーンセルを手に入れた自分だと言うのだ

 

「ゼパル様はそのような運命を持つあちらの私を大層お気に召し、狂乱するセラフィックスでなぶられるだけだった私と、あちらの私を繋げてしまいました。その結果、私はあちら側の私と同じ運命を辿ることになってしまったのです」

 

「・・・魔神ゼパルはBBをサルベージしてセラフィックスを電脳化したんじゃなく、魔神柱は貴女を通じてまずはセラフに変換したんですね」

 

パッションリップの言葉に彼女は頷く。止めたのだが、人の身では最早、止められはしなかったと痛ましげに目を閉じる

 

「私も、メルトも、BBも、月世界では貴女に取り込まれてしまっていたから・・・こし出して貴女の中から再摘出されて、センチネルとして利用された・・・」

 

「BBさんたちには悪いことをしました・・・ゼパル様はセラフィックスをセラフに変換できても、セラフを運営するすべを持たず、故に貴女達の力を借りるしか無かったのです。──ですが、それもようやく終わりました。聖杯戦争に勝ち、電脳化したセラフィックスを救い、獣を排除する・・・皆さんの努力が報われるときが来たのです!心からの称賛と、お礼をお受け取りくださいませ!」

 

パチパチと拍手するキアラに、藤丸、そして鈴鹿が問う。被害者だというなら、殺されたというなら何故──

 

「じゃあ、なんでクリシュナとカーマを吹き飛ばしたんだ・・・!」

 

「そう。アンタの言葉は真実を話しても肝心なところを話してない。ゼパル様、ゼパル様と言うけどそのゼパル様はどこ?セラフはあんたの体そのものと言うけど・・・サーヴァントを取り込むために、何度ここにいた死者たちに残酷な夢を見せてきたのよ」

 

「・・・それは、そんなに責めないでくださいませ。私も仕方なかったのです。虫ではない、魔神柱ですら見棄てるような廃棄物が紛れ込んでいるなど私も初めてで、そんな虫でない存在が私の身体を踏みつけているなど、嫌で嫌で堪らなかったので、つい・・・それに、私もはしたないと分かっていたのですが・・・その、『サーヴァントの皆さんの戦いようがあまりにも気持ちよくて美味しくて』。私、すっかり夢中になってしまいました。ですから──」

 

そう、だから。気持ち良かったから。夢中になっていたから。そして、魔神から教えられていた【有り得た人類悪】をそのままにしていたら、その先の楽しみを台無しにされそうだったから。

 

「なので、死体が擦りきれるくらいまでならマスターの皆さんを酷使しても構わないかな、と。そして、私を唯一殺せる、名も呼びたくないあの方を排除すれば、もう怖いものは無いと思いまして。えぇ、ごめんなさい。70を数えた辺りから、もう数えていませんでした」

 

「──!」

 

70。殺し、殺され、死に、死んでいく夢を70以上。それほどに酷使され、使用され、自慰の用具にされたマスター達の末路に、鈴鹿は絶対零度の殺意を向ける。無論全員もだ

 

 

「・・・あのクリシュナとカーマを排除したのは、あの二人が貴女を打開する可能性を持っていた存在だから、と?」

 

「えぇ。欲を知らず、理を知らぬ未知の獣・・・アレが真に覚醒していたならば、獣にとって冠位と呼ばれるサーヴァントと同格の脅威になり得ます。獣は互いを喰らうもの。『人類史を護る獣』など、人類悪たる存在には脅威でしかありませんわ。それに・・・『欲を知らないなんて、なんてつまらない』。まるで菩提樹の下で悟りを開いた者のようなものではありませんか。そんな人に、私の快楽を邪魔されたくないですもの。その脇のサーヴァントは、いつ紛れたかどうかは知りませんが」

 

クリシュナもまた、未知の獣であったという。ただ、それは人類史を護るものとも。藤丸は思い返した。彼等の戦いを。その信頼は、決して無駄ではなかったのだ

 

「ねぇ、藤丸さん?楽しいお話の時間はここでおしまいかしら?」

 

「──残念ながら。クリシュナと、カーマの仇を討つ!」

 

藤丸が決意し、その戦う意志を向けたその瞬間──セラフ全体が激震し、辺りが振動に包まれる

 

「あぁ、あなたも私を悪と断じるのですね。──なんて可愛らしい。『龍』の背に乗っていたならいざ知らず、そこからふるい落とされた虱風情が私を睨みつけて・・・うふ、ふふっ・・・」

 

魔性の笑みを浮かべる菩薩。最大にして最悪なる障害を弾き出した今、最早興味は戦いではない。目の前の虫のごとき存在を、どう戴くかの一点のみ──




ロビン「なんだぁ!?セラフが海底に激突したってのか!?」

リップ「それ以上です!セラフはマリアナ海溝の海底を透過しました!もともと電脳化しているセラフは、海底についても潜航を止めないんです!」

ガウェイン「なんと!それではこの振動は・・・!」

「はい!セラフはこれより海洋地殻、上部、下部マントル、外核を抜けて地球内核に落ちていきます、そして──」

リリス「結果、ビーストⅢは地球の頭脳体に昇格。この惑星の性感帯になるのよ」

藤丸「はぁ!?」

キアラ『──全てはこのための前戯。セラフはこのまま星と一つに。いえ・・・この星が私の体に。それをもって、私は人を救いましょう。あらゆる苦悩を、痛みを。70億の人間をただ一つの救いの為に。──えぇ、ですがその前に』

瞬間、辺りの景色が反転する。黄金の雲、金色の空。辺りに咲き乱れる蓮の華。そしてそれらの何よりも輝けし──菩薩がごとき後光を放ちしソレ

魔性菩薩『もうお話は終わりなのでしょう?であれば、貴方たちで楽しむのもここまで。私を喰らう龍がいれば話は別でしたが、最高の瞬間を虫に邪魔されては興醒めでさす。──えぇ。欲を、愛を知らず吼える龍のみが私を殺す。七つの悪を知らぬ未知の牙こそが獣を滅ぼす。──そんな活路を手放した皆様に勝ち目などとてもとても』

藤丸「──っ・・・調子に乗るな・・・!」

トリスタン「まさしく。クリシュナ殿だけが藤丸の力ではない。貴女が何者であろうと、今の貴女はサーヴァントとそう変わりはない。この場にいるサーヴァントもまた一騎当千。──考えを改めるのは、これが最期の機会ですが」

『まぁ、なんとお優しい。──ですが御心遣いは無用でございます。だって、今まで私の体の上を這っていた虱に、何を恐れる必要がありましょう。──冠位の七騎のみが私と戦い、未知の龍のみが七つの獣『のみ』を喰らう。貴方達など端役も端役、初めから私の掌の猿。それを、たっぷりと教えて差し上げますね?』

そう、告げ。無造作に指を構え、指を弾いた瞬間──

ガウェイン「──!!、──な──!?」

藤丸「ガウェイン──!?」

トリスタン「ガウェイン、卿──!?」

『ガウェインの五体が爆散し、粉々に砕かれ遥か彼方へと消しとんで行った』。──大人が、虫を指で吹き飛ばすように

『では、龍の加護を喪った皆様を戴きましょう。一人一人、趣向を凝らして。うふふ、うふふふ・・・──』

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。