人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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唄いたい、唄いたい。誰かに勇気を与えたい

あの子に勇気を与えたい。歌わせてあげたい

もう一度、私達が誰かの力となれるなら──


『なんと、気高き魂か。なんと、誇り高き者達か。自らの為でなく、誰かのために、他者の為に──なんの見返りもなく奔走することが、人間に叶うとは・・・』

ナーサリー『あら、どうしたの?とても傷ついているわ。大丈夫?』

『・・・かの神殿より逃げおおせた我が、最後にこのようなものを見れるとは・・・最後に教えてほしい。お前達は、何者なのだ』

『私達?・・・んー、みんなこう言うわ。私達の事は・・・魔法少女!』

『魔法、少女──』

・・・そんな彼女が、最後には【魔女】と罵られ拒絶される事実にこそ、私は激怒した。憤怒を覚えた

最早私は消滅は避けられないだろう。この意識すら保てないだろう。──ならば、消え去るその瞬間まで・・・

『──私は、お前達を守護しよう。世界に挑み、他者の為に命を懸けた者よ。せめて、この身が滅び去るまで──』

・・・その志、決して消え去ることなく。肉体、滅びようとも。その魂を懸けて──


願いよ輝け、魔法少女の道を照らせ

『ぶぁあ、ぶぁあー!!』

 

 

唸りをあげる黒羊。身体をお菓子で構成された誰がどう見ても魔神柱なりしナーサリーの友達『グラシャラボラス』。かつて時間神殿にて相対した巨大なるナーサリーのお友達が魔法少女を咆哮にて威嚇する

 

「これが友達だっていうの!?何処からどう見てもラスボスの類いよねこれ!?」

 

ぐっちゃんの困惑も無理はない。お菓子にて構成された肉塊に眼がびっしりと取りついている醜悪きわまりない異形なのだ。メルヘンなのは構成物質たるお菓子だけである。友人であるとは聞かされていたが、どんな形であるかとは聞かされておらぬがゆえの落ち度でありミスであった

 

だが怯んでいる場合ではない。殺到するマネキン、コロラトゥーラ。ファントム自体も襲い掛かってくるのだ。鋭利な手足、魔法紳士としての力、そして巨大なる魔神柱の触手が迫る。迷っている暇はない。戦わなければ生き残れない・・・!

 

【ふっ!く、おぉっ──!!】

 

リッカが真っ先に攻撃に割り込み、クラスカード【巌窟王】の力を使い攻撃を瞬時に捌いて無力化する。当たれば甚大となる魔神柱の攻撃を受け止めながら、真っ先に前線に立ち判断を下したのだ

 

【オルガマリー!マシュは魔法紳士を!他の皆はコロラトゥーラを!此処で皆を解き放つ!!】

 

「「了解!」」

 

素早く行動に移るマシュ、そしてオルガマリー。マストリア、アイリ、ぐっちゃんは既にコロラトゥーラを薙ぎ倒し封じ込められていた魂達の解放へと挑んでいる。イリヤ、クロも慌てて迅速な軍隊もかくやといった程の連携を誇るカルデア魔法少女ズのメンバーの援護に移る

 

「リッカさん!援護します!斬撃(シュナイデン)──!!」

 

「お菓子に入刀ってメルヘンと言えばメルヘンよね・・・私のこれの武器の作り手も驚いちゃうわ、ね!」

 

夫婦剣と、ステッキからのエネルギー刃の援護を受けグラシャラボラスの攻撃と勢いを押し返す。言うまでも無いが本来の魔神柱ではない。充分以上に押し込める相手だ。隙をついて懐に潜り込んだリッカが魔神柱の身柄を確保、戦闘不能にするため、高町式戦術に則り憎悪の黒炎にて焼き尽くし攻撃を重ねる。時間、空間から脱する超高速の一撃は、誰にも捉えられない程に迅速であり彼方へと飛び去らんとする速度である。捕らわれる道理は、何処にもない

 

「クラスカード、『ランサー』!行くわよ秦!」

 

「クラスカード、『アサシン』!解体作業ならうってつけね!」

 

ランサー、秦良玉。そしてアサシン、エミヤの力を借り受けた二人が忠義の槍と神秘を切断するナイフを振るい、押し込められた魔法少女の殻であるコロラトゥーラを薙ぎ倒し粉砕する。閉じ込められた魂を、殻を壊すことで救う。誰のものでもない魂を解き放つ。そのためにこそ徹底的に、武具を振るい破壊を行う。躊躇っていては救えない。救うための戦いに、躊躇いは不要であり無用なのだ

 

「おぉ、我が崇高なる理想を理解せぬとは・・・!批評家にして無慈悲なる弾劾者どもよ、お前達は赦されん・・・!」

 

怒りに震え、爪を振るう怪人。魔法少女を、理想の歌姫を作り上げんとしたその目論見が目の前で崩れていく。魔法少女達の尽力が、真なる歌姫の誕生を阻む。その事実に怒り振るわれる凶刃を、マシュがインストールした『レオニダス』のカード、そして『モリアーティ』のカードで拮抗するマシュにオルガマリー。マシュが防いだ瞬間、無数の魔弾で押し返し跳ね返す。爪を防御し二つの銃口、一つの武装ユニットの火力にて制圧していくのだ

 

三種三様の戦場が広がる中、リッカら魔法少女達はその場に満ちる願いを感じとる。魔法少女達の魂、その声なき声の叫びを。この場に、自分の為に生まれ変わろうとした存在はいないのだと告げているのだ

 

もう一度誰かのために。もう一度歌いたいと願った誰かのために、戦う力を。奮い起たんと願った想いを。その為に自分達は出来ることを行わんとした。今度こそ、再び護りたいものを護るために立ち上がったのだと

 

だから──どうか討ってほしいと。誰かのために戦えぬ魔法少女は、最早その資格はない。誰かの脅威になってしまうのなら、自分で止められぬのなら。せめてあなた達の手で討ってほしいのだと。魂は魔法少女たちに力を貸す。魔力となり、力となり、共に魔法紳士を打倒するための力となることを選ぶ

 

グラシャラボラスと名付けられたお菓子の魔神柱もまた然り。流れ着いたこの最後の地、破棄され放置されし、魂たちにせめてもの安息をと。その偉業すらも投げ捨てるほどの感動があったのか、何を思ったのかは最早定かですら無いが・・・その触手は、その攻撃は、その最後の命題に殉じていたのだ。──ひたすらにコロラトゥーラを破壊し、魂を解放させる手助けをしている事から、それが読み取らせた

 

【・・・お菓子の魔神柱さん・・・!】

 

「ぬぅ──未だ愚かしく幻想にすがるとはあまりに醜い・・・!歌姫の礎にすらなれぬと言うならばその醜悪さに意味など無い・・・!」

 

激昂と共にファントムが吠え、その宝具を展開する。骨と皮で構成されし楽器を解放し、辺り一帯を吹き飛ばし音楽へと呑み込まんとその狂いし理想を具現化させる

 

「『地獄にこそ響け我が愛の唄』・・・!歌姫とならざる者達よ、その亡骸よ。もろともに消し去るのみ・・・!」

 

放たれる魔力の放射、ファントムの声帯と共鳴し広範囲に撒き散らされる攻撃にして宝具。魔法少女達を害さんとし、そして振るわれる破滅の共鳴──

 

【!!】

 

防御も回避も間に合わない──否、する必要は無かった。魔法少女達の前に、無数のコロラトゥーラ。そしてお菓子でできたグラシャラボラスが立ちはだかり、その攻撃を受け止め庇ったが故だ

 

『おやややや!?そんな事をすれば皆さんが・・・!』

 

魔法少女を縛るコロラトゥーラ、お菓子でできたグラシャラボラスが急速に崩壊を始めていく。その夢の終わりを告げるように、崩れ去っていく。だが、最後の一押しは、消滅だけは踏みとどまる。まだ友を一人には出来ない、その盟約は覆さないと奮起する

 

『──これでいいの。誰かのために、何かのために戦うのが魔法少女であるのなら、今こうすることが私達にとっての戦いだから』

 

魂達の声が、魂達の願いがリッカらを護る。その希望を、変わり果てた魔法少女達の願いと望みを今こそ未来へ繋げるのだと。破壊の魔力の壁になりながら告げてくるのだ

 

『頑張って!』『負けないで』『私達の分まで!』『信じてる』『行って、未来へ』

 

一人一人が誰かのために。懸命に──世界に【魔女】の烙印を押されたとしても。一人一人が物語を駆け抜けた英雄であり無銘の主役。そして──

 

『──我は守護せねばならぬ。我は担わねばならぬ。小さきもの達の安寧を。輝きを、最後の漂流の地を──』

 

グラシャラボラスの、かつての決意もまた魔法少女の願いと共に届く。其処にあるのは3000年の研鑽に匹敵した、輝くばかりの祈りと願いであるから。いずこかの時間神殿にて瀕死になり逃げ出した自分を癒した者達への恩義を返そうと、遥か昔に誓ったから

 

【──イリヤ!クロ!!】

 

「──っ!うんっ!!」

 

「行くわよ、イリヤ!──魔法紳士、エチケット違反も此処までね!」

 

放たれる、二人の魔法少女達の一撃。夫婦剣を投げつけ逃げ場を無くし、紅き猟犬の弓を引き絞るクロ。同時に魔力のありったけを収束させ、練り上げ──

 

「バイバイ♪──『赤原猟犬(フルンディング)』!」

 

砲撃(フォイヤ)ーーーッ!!!!」

 

「──おお、クリスティーヌ・・・!この輝き、まさに君は輝きの──」

 

その全てを束ねた二人の一撃に、何を見出だしたのか。何を思ったのかは怪人にしか分からない、理解は出来ないだろう。だが、それは決して怨嗟や絶望ではない事を思わせた。反撃ではなく、呪詛ではないその最後の言葉

 

理想に殉じ、理想を夢見た魔法紳士の最期。それはただ、満足げであったのだから。──此処に、一人の夢と願いは光の中へと消えていった──




ロマン『まさかどこかから紛れ込んだ魔神柱が魔法少女を護っていたなんて・・・お前達にそんな嗜好があることを、ボクは最後まで知らなかったのか・・・』

リッカ【やはり魔法少女は皆の夢・・・さようなら、ありがとう・・・】

グラシャラボラス『──・・・・・・』

物言わぬ魔神柱。ようやく彼は解放され止まることが出来た。友の仲間達の行く末を見届けた。彼は懐いた命題に殉じたのだ。魔法少女の安らぎに価値を見出だしたものとして。だからいまこそ、今度こそ静かに魔法少女を見守っている

魔法少女の魂達は、静かに消えていく。最後に誰かの為に、何かのために。世界すら敵に回し大切な者を護り抜いた者達。最早無念も何も存在しない。──最新の世界を駆け抜けし後輩がいるのだから、何も心配は無いのだから

『『『『『頑張れ、後輩!』』』』』

最後のエール、激励を遺して。魂達は天へと上っていく

「────」

オルガマリーが、『アイリーン』のクラスカードをインストールしたのは・・・最早理由を問うのは無粋というものだろう

「──ありがとうございました。諸先輩方。後は、私達が引き継ぎます」

静かに、響き渡るオペラ。戦い抜いた魂達に捧げる歌を、厳かに唄い続け──

・・・漆黒の空模様であったお菓子の国を、輝く太陽が照らす。そして・・・

【・・・!】

リッカは拾い上げる。ナーサリーの、グラシャラボラスの絆の証

魔法少女の力の源であり、敵の根源へと至るアイテムなる『宝石』が、グラシャラボラスの身体より託されるのであった──

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