人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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~特別意訳

カルデア・廊下

「・・・フォウゥ」

フォウ(・・・なんて事だ。またこんなのをはじめからか。何考えてるんだよ、ボクの役目は終わったはずだろ。なんで今更引っ張り出すんだ)

「ファウ、フォウゥ・・・」

(解ってる解ってる。どうせアレだろ、ボクにまたあざとくフォウフォウ鳴けって言うんだろ。勘弁してくれ。またあの辛い旅路を繰り返すのか。ループものなんてだいっきらいなんだよボク。死なせて欲しかったよ。もう終わらせてくれよ。マシュと藤丸のハッピーエンドでいいじゃん)

「フォウ・・・」

(・・・まぁしょうがないか。仕方ない、せめてこの世界の藤丸の顔だけみてやるか。イベントとかで性格がまったく安定しないことに定評のあるあの藤丸。一般人代表みたいなあの・・・ふじま・・・)


寝ている泥塗れの獣龍【・・・・・・】

「フォ!?」

(な──なんだ、コイツ──!)

【ん、んー・・・?】 

(──ヤバい、なんだかコイツ、話したらヤバい・・・!)

【ん、どうしたの?ほーら、おいでー、怖くないよー】

「──フォウゥ!ファウ!フォーウゥ!」

(や、止めろ!ボクに、ボクに触るな近付くな──!!!)



【違和感】

「そっかぁ、所長を怒らせちゃったのかぁ・・・うん、彼女は落ち着いていれば誰よりも冷静で頼りになる子なんだよ。今は責任感や重圧でいっぱいいっぱいだからいつも異常にカリカリしているんだ、どうか許してあげてほしい。彼女、人一倍頑張り屋さんだからさ、もし良かったら支えてあげて欲しいな」

 

たどり着き、フラりと寄った部屋に住み着きサボっていた医療部門のトップという肩書きの男性・・・ロマニ・アーキマン。リッカが感じるゆるふわっとしたオーラ。サボっていたという目的から来るそこはかとないダメ人間さ。同時に、誰よりも人間らしい彼と交流と対話を重ねる。灰色の床と天井、質素な固いベッド、細やかな観葉植物が置いてあるのみの侘しいマイルームをぐるりと見渡しながら、リッカは彼の言葉に耳を傾けている

 

「しかし新人なのにカミナリを受けるだなんてなんて運のない・・・これじゃあこれから先が凄くやりにくいぞぅ・・・」

 

「大丈夫です!所長とはこれから先いくらでも会話できるでしょうから、どうとでもしてみせますよ!話が出来るなら絶対になんとかなるんです!」

 

自信満々な物言、会話できるなら必ずなんとかなる。元気よくそう告げる彼女はなんの気落ちもしていないことを認識したロマンは安堵の笑みを浮かべる。これから先長い上、途中退職は許されない職務だ。挫けていて欲しくはないからだ

 

「頼もしいなぁ。じゃあボクのフォローも頼むよ。何を隠そう、ボクも所長に叱られて待機中だったんだ」

 

「え、そうな・・・あぁ・・・」

 

「納得したね?察してくれてありがとう!もうすぐレイシフト実験が始まるだろ?スタッフは総出で現場に駆り出されていてさ。でもボク、皆の健康管理が仕事でね。正直やることが無かったんだ。機械の方が万全で確実だし。そこで『ロマニがいると空気が緩むのよ!』・・・って、追い出されて此処にいるってわけさ」

 

「なるほど!お払い箱だったわけですね!」

 

「もう少しオブラートに包んで欲しいなぁ!?ま、まぁそれはともかく。そんな時に君が来てくれた。地獄に仏、ぼっちにメル友とはまさにこの事だね。所在ない同士、ここでのんびり世間話でもして交友を深めようじゃないか!」

 

・・・リッカは確信した。この人、害なんか無い人だと。どう足掻いてもかつての人間達とは人種から、人格からして異なる人だ。高校生の皆と同じ雰囲気を感じる。ならそれは、きっと信用できる存在なのだと思える

 

「はーい!宜しくお願い致します!ロマン!そもそもここ、私の部屋だし!」

 

「うん、つまりボクは友人の部屋に遊びに来たって事さ!やっほぅ、新しい友達が出来たぞぅ!」

 

それが、二人の初めての出逢い。そのまま二人はぼんやりと、何となく質素で簡素なマイルームにてだらだらと過ごし始めるのであった・・・

 

 

たいどうし うまれおちるは けものかな

 

 

 

「・・・とまぁ、以上がこのカルデアの構造だね。ほら、アレだよ。6000メートルの雪山の中に包まれた地下工房で・・・」

 

ロマニから、何となくふわっとしたカルデアの構造と所在地を聞き及ぶ。旅行、優待枠として設定されていたようで、施設としては天文台としか心得が無かったものだから、不便で辺鄙な場所に建てたなぁといった感想が正直なものだった。長い、長い旅行の場所。天文台にしては随分近未来なところだなぁと部屋を見渡しながら御茶を飲む

 

「あぁ、マスター番号48番・・・そうか、レフが言っていた優待枠は君の事だったのか、藤丸君」

 

「リッカでいいですよ?話、聞いてたんですか?」

 

「まぁね。レフが言うに、最後のマスターの素質は特殊かつ貴重だと力説していて、ボクや所長の意見すら押しきって受理したんだ。本来の魔術師や家系の申請を却下してね。君が来ることを、レフはとても心待にしていたんだよ」

 

そういった背景を聞かされ、自分がグドーシの推薦というある意味の無茶を通された理由を理解する。どうやら自分は物凄く目をかけられていたようだ。どうして自分が其処まで評価されているのかはよく解らないが、そうなった以上そうなるだけの理由があるんだろうと深く考えないことにする。グドーシが導いてくれた事そのものに意味があると、心から信じているからだ。そんな自分を評価してくれた、レフという存在について話を聞こうとした時・・・

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下には慣れていないものに若干の変調が見られる。これは不安から来るものだろう。コフィンの中はコクピット同然だから』

 

噂をすれば影あり。音声オンリーの通信が部屋に響き渡る。どうやら医療スタッフとしてロマンをあてにした呼び出しのようだ。──医療室とは離れた立香のマイルームではあるが、しれっと医療室にいる様に装い振る舞うロマンのサボり慣れっぷりに、彼女は思わず噴き出す所であった。何か茶々を入れようとした瞬間──

 

「──・・・・・・・・・」

 

・・・その声音、その意志の意図が。レフと呼ばれる『何か』の思考が、何気無い会話の欠片から直接突き付けられたような感覚を覚える。上手く言えないけれど、彼は何かを行おうとしている。ロマンに対して、残酷な何かを。確証はない。ただ予測が出来ただけだ。彼の言葉から

 

これが対面している状態なら分からなかったかもしれない。柔らかな態度に煙に撒かれたかもしれない。だが、音声のみの対話にて、自分はなんとなく、それに聞き覚えがあったのだ。そう、これは確か──

 

「やぁレフ、それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけにいこうか」

 

・・・大人が、笑顔で人を欺く時。他者を利用するために発する言葉の響き。出来るだけ平静と万全を装い、不自然なまでに朗らか、或いは優しげに語るときとそっくりであったのだから。そしてそういった類いの会話は、何度も示され突き付けられたものであるから。立香は、レフという存在が放つ言葉にどうしようもない『嫌な予感』を感じ取ったのだ

 

『あぁ、急いでくれ。今医務室だろ?其処からなら二分で到着できる筈だ』

 

「うん、解った。急いで行くよ。医務室だからね、医務室だからね!」

 

いけない。行っては行けない。何故そう思うのか。同時に、先程やって来た向こう、管制室から猛烈な気配が、嫌な感じが漂って来ているような感覚に襲われる。何が起こっているのか。何が起ころうとしているのか。ただ、どうしようもない予感が絶えずあるだけだ

 

「・・・しまったぁ・・・ここからじゃどうあっても五分はかかるぞ・・・ま、少しくらいの遅刻は許されるよね。でも、急ぐ意志くらいは見せないと・・・」

 

「行かない方がいいんじゃないかなぁ?」

 

そんな言葉をなんとなしに口にする。正直なところ、何が起ころうと何に巻き込まれようと。もう人並に狼狽えるような事は出来なくなってしまっているので、自分自身はなるようになればと開き直れるが・・・目の前のゆるふわおじさんは別である

 

「行くと、多分死ぬと思う」

 

「──え?」

 

その言葉の意味を理解するのに、ロマンは数拍を要した。先程まで元気に朗らかに話していた彼女。そんな彼女が、一般人である筈の彼女が口にした『死ぬ』という言葉。そんな戯言や世迷い言である筈の言葉が・・・尋常ではない重さと迫真さを宿していたのだから

 

「ここでぐだぐだしてた方がいいと思いますよ!よくわかんないんですけど、今行ったら死ぬんじゃないでしょうか?」

 

「──君は・・・」

 

不気味な程に朗らかで、おぞましい程に輝く笑顔を見せてくれる彼女。──えも言われぬ得体の知れなさが増していく。その瞳の奥は、どろりと濁っていた。その目映く希望に満ちている年頃の女子が湛えるには、あまりにも無機質で澱んでいるのだ。自殺寸前の人間のような、すべてを失い廃人となった人間のような無感情な光彩。なのに、笑顔だけは紛れもなくキラキラと輝いている。心から、自分は笑っていると告げている。その相反した表情は、あまりにも──

 

「五分かかるみたいで遅刻は免れないならのんびりしましょうよー。ほら、急がば回れと言うじゃないですかー」

 

そして、そんな彼女を推薦したレフへの疑惑も、小さな疑念と化す。何故彼女でなくてはならなかったのか?彼女には、この得体の知れない少女には何が隠されているのか?レフは彼女を招き、何をするつもりだったのか?

 

とある一人を除き、誰もを疑い恐れる臆病さが効を奏した。どちらも得体の知れない存在ではあれど──

 

「・・・うん、解った。死ぬなんて穏やかじゃないし、怖いからもうちょっとだけ此処で・・・」

 

自分を、曲がりなりにも案じてくれた彼女の言葉を信じてみよう。・・・そう考えたロマンの決断と・・・

 

「──!?」

 

「?」

 

カルデアの電気、その総てが落ち、真っ暗となる。そして、遠くにて巻き起こる爆発音。──そして、ロマンは見た。目の当たりにしたのだ

 

「──!」

 

真っ暗闇の中、──人間の瞳孔にしては細すぎる立香の瞳、光彩の形を。その金色の瞳を縦に引き裂く黒眼は、まるで蜥蜴のような爬虫類のようで

 

・・・おぞましくも不気味に、暗闇の中で二つの眼が煌々と輝き、じっとこちらを見つめていたのだ。まるで・・・

 

 

──目の前の獲物を品定めしている、獣のように




アナウンス『緊急事態発生、緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから待避してください。繰り返します。中央発電所、及び中央──』

「今のは爆発音か!?一体何が起こっている!?」

「所長のカミナリが機械に引火でもしたのかな?ゴロゴロかメラメラどっちだろ」

「モニター!?管制室を映してくれ!みんなは無事なのか!?」

・・・其処には。紅蓮の火に焼かれて燃え落ちる管制室が鮮明に映し出されていた。瓦礫、火炎、煙幕。生き残りなど望めるはずもない。皆、即死だろう。それほどまでに凄惨を極めていた光景、立香は静かに目を細める

「あーあ、皆の冒険が終わっちゃった」

「──藤丸君、すぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く。もうじき隔壁が閉鎖するからね。その前に君だけでも外に出るんだ!」

「はーい!お気をつけてー!」

あっさりと見送り、ぽふりとベッドにもたれかかり天井を見上げる。よし、ちょっとしたら逃げよう。あっという間な旅行だったけど、まぁ非常時なら仕方ない。よーしと伸びをしながら立ち上がったとき・・・

「・・・そういえば、マシュとかいうのはどうなったんだろ。巻き込まれて死んだのかな」

自分を先輩と呼んだ不思議な子。その子も確か管制室にいた筈だ。十中八九巻き込まれて死んでいるだろうが、もし生きていて避難活動などをしていたら人手がいるだろう。・・・どうあれ、先輩が後輩を助けるのは普通なことだ。だから・・・

「避難活動の手助けでもしにいこうかな。もし死にかけてたら、傍にくらいはいてあげよ。よーし。管制室ってどっちだっけ?」

まるで遊びに行くような暢気さ、能天気さのまま、藤丸立香は行き出す。──最早生命の尊さを実感できず、身近に在りすぎた死を恐れることが出来なくなった少女は、躊躇いなく死地を進んでいく

「グドーシー、ちょっとスリリングすぎるよこのバカンスー。後輩ー、出来てたら生きててねー」

親友がもたらした救いは、彼女を人間へと引き戻した楔。──打ち込まれ、呻く獣が救われ羽ばたくには、未だ遠き日時を要するのだ──

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