『そちらは変わり無いだろうか キリシュタリア』
オルガマリー「う・・・」
『君の奮闘、心労は余りある。良い御茶の葉を取り寄せた。どうか堪能してくれ』
「・・・キリシュタリア・・・御厚意はありがたいのだけど・・・」
(珈琲派なのよね、私・・・)
「・・・はぁ。師匠達には申し訳ないけれど、彼にだけは上回れる気はしないのよね・・・お父さんの一番弟子だし、私よりロードらしいし・・・付け入る隙が無いし・・・」
(・・・直接会いたいだなんて、言い出して来ませんように・・・自信なくしちゃうから・・・)
「ついに来た、来てしまったわ・・・オルガマリーから与えられた優待アリーナSチケット。書かれた座標を目指した結果の果てのこの場所へ・・・」
言葉通りにチケット・・・マシュとコンラが描かれた特製アリーナ招待チケットを握りしめ、眼帯を着けし現代の戦乙女と謳われし女性、オフェリア・ファムルソローネが閻魔亭に通ずる橋を越え旅館へと足を運びやって来た。手作りのサイリウム、手作りのテナント、手作りの旗やタオル、グッズを山ほど用意した重装備。端から見れば戦場に向かうかのごとき重武装。これらは全て──アイドルデビューしたという友達、マシュ・キリエライトの為に不眠不休でオフェリアが手掛けたものであった。事の経緯はと言うと・・・
~
「マシュが先輩の影響を受けてアイドル活動を始めたの。それも全て藤丸リッカというマスターの仕業なのよ」
「なんですって・・・!?それは本当なの!?」
~
「私は、マシュの輝きを見たい・・・!!」
オルガマリーの極めて簡潔かつ真理を衝いた、友人の鮮烈デビューを心から応援しようと彼女から教えられた謎の座標に足を踏み入れやってきたオフェリア。真偽をまるで確かめもせず『マシュが活動している』という理由だけで魔境に足を踏み入れる辺り、かつてのAチームとしての実力・・・そして友人などほとんど存在していなかったであろうが故の距離感のハチャメチャさが垣間見えしオフェリアである。行かなきゃ、応援しなきゃという使命感が彼女を徹底的に前進させた。かつて以上に元気になったマシュとの約束・・・また女子会をしようとの誓いを果たさんが為に。バッグに大量のグッズを詰め込んで殴り込みに来たのである
「・・・ここね。来たのはいいけれど・・・」
情熱と友情に燃えながらやってきたはいいものの・・・目の前に屹立する巨大な真紅の建造物はいったいなんなのだろうか。こんな建物がある事など考えもせず、『行けばマシュに会えるでしょう』と力業な思考にてここまでやって来たため、知り合いも仲介も迎えもない状態に今更ながら気付く。オルガマリーの姿も見えない、マシュも何処にいるかわからない。そもそも知り合いがいない。割りと真面目に行き当たりばったり過ぎる・・・と今さらながらに気付いたオフェリア。クク、愛が重いななどとバカにされたような気がするが、そんなものはナンセンスなのでスルーする。一先ず入り口付近のいい感じの石に腰掛け、たくさんのグッズが詰まったバッグを下ろし一息入れる。失敗した、アポを取っておけば良かったと
「マシュもオルガマリーも何処かしら・・・私に気付いてくれればいいんだけど・・・」
勢いのみに身を任せ、力付くで異界に足を踏み入れたオフェリア。若く、向こう見ずな彼女を・・・神は、いや、戦乙女は放っておかなかったのかも知れない。此処に、確かな助け船が現れたのだから
「──どうした。物憂げな隻眼のお嬢さん。溜め息なんかついちゃ、折角の美人が台無しだぜ?」
「え・・・?」
困惑に溜め息をつくオフェリアに声をかけしは、太陽のごとき情熱を抱えた男。長身、燃え上がる炎の様に輝く笑顔を浮かべる男
快男児──そんな印象を与える男は、途方にくれていたオフェリアに手を差しのべる。美女を助けるのは男の役目だと、輝く笑顔を浮かべながら
「初めての場所に単身乗り込むとはガッツがあるじゃないか。オレはそういう、気概溢れる女は大好きでね。──エスコートを申し出ても構わないか、お嬢さん?」
「え?・・・あ、その。私は・・・」
「あぁ、言わなくてもいいぜ。分かってる。アンタは今困ってる。どうしようもなくて途方にくれている。──だが心配するな。安心していい。不安はない、心配はない。何故ならば!」
ビシリ、と指差し、己の存在を誇示し高らかに告げる。快男児と呼ぶべき男の、それはそれは意気軒昂の雄叫びがごとき名乗りを
「オレが!此処に!いるぜ!!」
「・・・はい・・・?」
「あぁ、そうだろう。初めてな場所は不安だろう。オレも愉快な宿があるってんで足を運んだのは初めてでな。正直右も左も解らん。・・・だが。人々が言うにはだ。『オレの辞書に、不可能って文字はないらしい』。なら・・・来たところの無い場所の踏破くらい、楽にこなせるって事だろ?」
この人は何を言っているんだろう・・・割りと本気でそんな感想しか湧いてこないで硬直しているオフェリアの態度を肯定と受け取ったのか、オフェリアの手を取り謎の快男児は立ち上がる
「さぁ、ならば行こう!虹を求めるように、不可能を可能にするように!勝利は前進するってな!オーララ!胸を張って行こうぜ!お嬢さん!」
「え、ちょ、私は別に友達に会いに・・・!ちょ、ちょっと──!?」
・・・其処から先のオフェリアの珍道中は、本人に言わせてみれば最悪という他無かった。宿をあちらこちらに駆け回り、誰彼構わず声をかける快男児に振り回され、宿の隅から隅まで歩き回り飛び回り・・・
「ちょっとすまない。このお嬢さんの友達を探してるんだが知らないか?この宿にいる筈なんだが」
「悪い、ちょっといいか?この美人なお嬢さんの友人を探してるんだが存じないか?わざわざ足を運んでやって来たんだ。会わせてやりたいと思うのが人情だろう?」
「申し訳ない、このお嬢さんの友人を探してるんだが・・・」
行く人行く人に声をかけ、知らないかと片端から問い掛けていく。勿論がっちり手を繋いだままで。そんな彼の強引さに辟易しながらも・・・自分がやるべきだった『誰かと話す』を力強く実行する快男児の姿は、少なからずオフェリアの目に悪しき様に映りはしなかった
(見ず知らずの女にここまで入れ込むなんて・・・変な人もいるものね)
人と真っ当な交流、触れ合いをしてこなかったオフェリアにも、その快男児のマメさや実直さは奇妙に感じはしたが・・・悪辣さや下心の微塵もない世話焼きぶり、そして自分の為に何かをしてくれているという気持ちは、充分に伝わってきていた。彼の振る舞いは、普通の魔術師には決して縁と馴染みが無いものであるが故に──
「おぉーい、お嬢さん!アンタの言う友人、マシュ☆コンの片割れだろう!?控え室に案内してくれるみたいだぜ!そら、行ってみよう!前進、前進ってね!」
「──ふふっ。変な人ね・・・あなた」
マシュと出逢う事だけが目的であったのに・・・なんだか妙な体験と出逢いをしてしまったと、オフェリアは笑うのであった
・・・そして、快男児の捜索にてたどり着いたマシュ☆コンの私室の前にて。オフェリアがたどり着いた事を確認した彼は、颯爽と背中を向け歩き去る
「無事にたどり着けたな?結構!今度は迷ったりしないようにな。遠慮なく誰かに声をかけるんだぜ?特に男だ。アンタみたいな美人に語りかけられるのは冥利に尽きるってもんさ!」
「あ、ありがとう・・・色々強引だったけれど、助かったわ」
「いいってことさ。オレは不可能を可能に、可能性を実現させる男だからな。そんなオレが・・・曇ってる美女を放っておける道理は無いってだけの話だからな」
見返りはいらない、お礼も無用。アンタの助けになったならそいつが最高の報酬さ。それだけを告げ、凱歌を口ずさみながら立ち去る彼に、オフェリアはせめてもの言葉を投げ掛ける
「あの・・・あなたの、お名前は・・・」
「──あぁ、そいつぁ失念していた!オレともあろうものが、礼を失していたな!失敬失敬!・・・だがなに、珍しい名前でも大した名前でもない。オレはたま、そうあれと願われた男。人の願いが形となった男。すなわち──」
袖襟を正し、自らを親指で指差し──彼は告げる。自らの名前を。可能性を掲げ、虹を放つ男。──その名を
「オレは──ナポレオン!この名に覚えがあるなら、もう一度オレを呼んでみな。何度でも、何度だろうと。・・・アンタの不可能を、打ち砕きにやって来てやるぜ」
「・・・ナポレオン・・・」
「ま、そんなわけだ。また何処かで会おう!美人で美女なお嬢さん!オレはこれから、この宿で飲み明かすんでな!機会があれば、ワインでも酌み交わそう!──またな!」
そのまま振り返らず、雑踏の中に消えていくナポレオンを名乗る男。短く、しかし鮮烈に存在感を示していった男に、オフェリアは暫しその背中に視線を送り続けた。不思議ながら、短くもインパクトを残していったその男に
「ナポレオン・・・まさか、あのナポレオン・ボナパルト・・・?──いいえ、まさか。ね」
それを名乗るファンボーイ、または熱烈なコスプレイヤーか何かだろう。第一ナポレオンがあんな長身な筈がない。史実の彼は小柄であったと有名なのだから
「変な人。・・・でも、助かったわ。──ありがとう、虹のような、炎のような大きな人」
最後に感謝を告げ、視線を戻し。私室にてライブの準備をしているマシュ、そしてコンラに・・・
「マシュ、こんにちは。そちらの少女も・・・はじめまして」
「オフェリアさん!!来てくださったのですね!ありがとうございます!!」
「マシュさんのお友達ですね!私はコン・・・あわわ、コンちゃんと御呼びください!」
漸く、やっと・・・自らから声をかける事が出来たのであった。──かの、炎のような快男児のように
「オーララ!美女との一時、騒がしい旅館!楽しいね、遠征ってのはこうこなくちゃな!」
僅かな時間の出逢いであれど、少女の心を確かに──前進させた男は楽しげに、初めて訪れた旅館を闊歩するのであったとさ──
宴会の間
マシュ「皆さーん!集まってくださり、ありがとうございまーす!」
コンラ「今日も二人でライブです!どうかいっぱい!楽しんでいってください!一生懸命歌います!聞いてください!『インポッシブル☆ゴーフォーブローク!』」
「「「「「イェェェエーイ!!!」」」」」
オフェリア「マシュ・・・すっかり逞しくなって・・・もうあの希薄なマシュは何処にもいないのね・・・」
サングラスかけた先輩「マシュ、いいよね。どんな事になっても慕ってくれる後輩、得難いよね」
オフェリア「いい、いいわ・・・元気になってくれて、本当に良かった・・・」
「なにも知らなかった無垢な後輩が、元気いっぱいなイキりなすびになって毎日楽しそうにしてるの、尊いよね」
「尊い・・・ずっと見ていたいわ。もし良かったら一緒に御茶とかもしてみたり・・・」
「今のマシュをよろしくね。あのなすび、先輩先輩ってコンちゃん以外に友達できてるか心配だから」
「えぇ、私で良ければ──はっ・・・!?」
『隣の空席』
「・・・今のは、いったい・・・?わ、私は誰と話していたの・・・!?」
舞台裏
リッカ「うんうん、良かったね、マシュ。これからもイキり後輩を、先輩はスパンキングしながら見守っているからね・・・」
ランスロット【⬛⬛⬛⬛・・・】
「え?末長くうちの娘をよろしくお願いいたします?・・・──約束は出来ないよ!私のナンバーワンはじゃんぬだし!殿堂入りはギルだし!」
【⬛⬛!?】
「あ、でも──オンリーワンはいつだって変わらないよ。誰かなんて言わなくたって分かるよね?それは勿論──」
マシュ(せ、先輩!?先輩が観客席にいらっしゃいません!?途中退室なんて酷いですよ先輩!せんぱーい!!)
オフェリア(マシュ・・・いい・・・)
オルガマリー(・・・面白いわね、この関係・・・)
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