将門『かの怨霊、業深し。我等が下すは容易かれど、場はただでは済まず。来賓が故、破損と崩壊、容認できず』
アマテラス「ワフン・・・(どうしたものか・・・と黄昏ている)」
威風堂々とした声『──お前達が苦慮とは物珍しい。余程進退窮まったか』
アマテラス「!」
『──
『神気を感じ見識を広めてみれば、何やら物珍しい難題にかかずらっているようだな。・・・あまり時間をかけてくれるなよ?』
アマテラス「ワフ・・・?」
『知己を連れ、そちらに赴こう。──再会の挨拶は考えておくがよい』
『・・・──下総の子らか。会話、心より楽しみとせん』
「・・・と、言うわけで。こちらが温泉に巣食うとされる怨霊の概要ね。先程調査をして、分かったことよ」
呆れ半分、憔悴半分の面持ちにて、オルガマリーが目を覆いながら報告書を提出する。先程一人で温泉の様子を目の当たりにし、其処に巣食うとされる怨霊・・・通称、【悪堕ちの仁王】に挑んだ彼女ではあったが、その影・・・怨霊を消滅させることは叶わなかったと言う結果を報告することとなった事実に、カルデアのメンバーに動揺が走る
「ちょちょ、ちょっと待ってほしい!オルガが勝てない相手だなんてなんなんだい怨霊って!?え、将門公クラスなのかい!?」
オルガマリーの戦闘力は人間・・・人類のくくりとしては最高峰、魔術師としては規格外へとカテゴライズされる実力者である。聖杯を炉心とした無尽蔵の魔力、教授された体術に魔術。自身に限定した願望機としての戦法の多彩さ。リッカとすら互角に戦うことすらできる彼女が敵わないと言う事実は、それすなわち特級の敵であるという事である。楽園が総掛かりで挑むような相手が、旅館の温泉に根付いているとは考えにくいのだが・・・
「──えぇ、単純な強さや相性に頼っていては絶対に倒せないわ。何故ならその怨霊はとてもずるくて諦めの悪い、しぶとさと生き汚さの極致に位置しているからよ!」
浴衣に身を包み、沢山の幸を食いに食い散らかした剣豪、武蔵ちゃんが冷静かつ的確な評価を下す。かの怨霊、一筋縄で行く相手ではないと
「オルガちゃん。かの怨霊はこう言ってなかったかしら。『相性の差で私は負けたので、ぜーんぜん悔しくなんかありません!私は仕切り直します!美少年、美少女を侍らせるまで何度でもやり直すのです!』・・・と」
「まさにその通りの言葉を言われましたね。・・・無限ガッツだなんてどうすればいいのよ・・・」
「そう!あの怨霊は話に聞く【クソ雑魚ショタ大好き剣豪(怨霊)】の成の果て!剣の道を極めながら色欲に堕ちた、言語道断な悪霊!!彼女は決して敗けを認めません!何故なら!敗北してさもしい現実に戻りたくはないから!!」
「わぁ凄い!まるで本人みたいな言い方だね武蔵ちゃん!」
「そりゃあほんにっ──はっ!?いけないその手には乗りません!強豪は強豪を知るというヤツです!私なら同じ事を考えるのです!絶対に!!危ない・・・!これが対話の龍の力!誘導の力が半端ないわ・・・!」
巧みな言及をかわしながら、武蔵ちゃんは力説を行う。あくまで剣豪の勘であり宿で出禁を食らった剣豪とは一切関係がございませんと弁明する武蔵ちゃんを眺めるリッカ。その奇々怪々な状況に、ヒナコも溜め息を吐く
「大体、なんでそんな怨霊が根付く羽目になったのよ・・・」
「それはでチュね・・・」
雀の一匹が当時の様子を恐ろしげに、感慨深げに語る。当時のおぞましき状況を知るものの一人として。
~
『み・・・みず・・・みずを・・・』
──かつて、ふらりとやってきた一人の剣豪。飢え死に寸前にて迷い込んだ閻魔亭の極上のおもてなしと酒、美少年と美少女に酔いに酔い、羅刹と化し閻魔亭全てを巻き込みてんわんやの大騒ぎ。
【うははははー!!酒もってこーい!うどん振る舞えー!私は天下の二天一流なんだじょー!!】
『困りまチュン!お客さま困りまチュン!』
【お客さまは神様じゃーい!!はよ酒とうどんと美少年美少女もってこーい!!】
悪逆の限りを尽くしに尽くし閻魔亭が(物理的に)傾く危機の事態に紅女将、雀隊を総動員し追い払いはしたものの・・・
女将『なんでちか、この強さは・・・!さぞ名の在りし剣豪であるはずなのにだらしないにも程があるでち!』
【ぐわぁあぁあぁあぁ!やだー!!!帰りたくなぁあぁーい!!!】
閻魔亭への執着と妄念は凄まじく、羅刹が遺した残留思念が今もまだ美少女と美少年を求め唸りを上げているという──
~
「まごうことなく厄介者ではないかね!?永久出禁になっていてもおかしくなかろう!?」
「勿論出禁でチュン。ですが、紅女将ですら根負けした現世への怨念は凄まじく、誰も手出しが出せぬ状況なのでチュン・・・」
そりゃあねぇ・・・と、下総を共に駆け抜けた相棒に視線を送るリッカ。何か後ろめたいことでもあるのか目を逸らし必死に口笛を吹く武蔵ちゃんにジト目で拝見している。どうやらそっくりさんで通しているようだ。バレたら袋叩きのちの追放処分は免れまい。楽園の不手際にてまた怨霊を増やすわけにはいかないのである
「でで、でもリッカさんなら楽勝でしょう!かの怨霊相手なぞ、下総を駆け抜けた彼女には恐るるに足らず!!さぁさぁリッカさん!私の不しま──げほんげほん!その左腕と『雷位』にて!パパっとやって一緒に温泉に入りましょう!御酌いたしますよリッカさん!さぁさぁ!ほらほら!」
「わわわ・・・!だ、大丈夫かなぁ・・・?」
グイグイと背中を押され、リッカが温泉へと足を踏み入れていく。なんとも締まらない理由ではあれど、本来自分達の目的は慰安旅行であるのだ。温泉に入りません入れませんだなどと言うのは御話にならない。その為なら、リッカも剣を振るうのは吝かではないのだが・・・
「ちょちょ、ちょっと待ちなさいよ!なんで!?なんで其処でマスターが駆り出されるの!?サーヴァントに頼りなさいよ!?というかなんでオルガマリー!あなたそんなに強くなってるのよ!?」
「研鑽です」
「研鑽!?」
そういえば、とロマンは手を打つ。彼女は二人の強さをまだ目の当たりにはしていなかったと思い至り、ヒナコに温泉に行くことを促す
「あー、そういえばヒナコ君は知らなかったね。温泉に行ってごらん?常識が覆るよ?」
「常識が・・・!?」
とりあえず後輩が死なれるのは困る、と大慌てで駆けていくヒナコ。──其処で、彼女は目の当たりにする。楽園にて、何故リッカが『最悪のマスター』と言われているのかを・・・──
おんせんで ちょうふくにないし けものかな
【くぁあぁあぁ──!?み、見えない!?何をされたのかも解らない──!?なんなのこの剣!?何処の地獄の剣客なのですか──!?】
【──・・・】
怨霊に対し、右手に血染めの黒刀を握り全身に雷を迸らせし漆黒の鎧を纏うリッカが、手にした『雷位』を開帳し一方的に怨霊を切り刻む。目にも止まらぬ処か目にも映らぬ程の剣技に、残留思念たる怨霊は太刀打ちどころか刃すら立たない有り様にて、完全に圧し敗け勝敗が決する
「出ましたぁー!!リッカさんの如何なる宿業すらも切り裂く雷位!!同じ極みに至らなければ最早同じ土俵にすら立てない迅速の極み!あんな残留思念ごときに捉えられる筈が無いのです!!」
「・・・────・・・??」
うどんと団子を食べながら陽気に説明を行う武蔵ちゃん、対照的に目の前の光景が理解不能なヒナコ。
(え?なんで?なんであんな邪気と呪詛を纏って平気なの?え?なんであんな不死とか関係なく切り捨てそうな剣を振るってるの?え?なんで剣豪相手にフルボッコ出来てるの?)
剣を捌き、剣をいなすのは勿論、単純に鎧が刃を通さないというインチキぶりで迅雷の剣を振るう後輩に、最早絶句と思考停止しか出来ないヒナコ。前線に立ちつつ戦えるマスターを売りにしていた自分はなんだったのかと思わざるを得ない程に雄々しく禍々しい後輩の姿に、心から思うのだった。まずは力を示せ的な理由で喧嘩を売らなくて本当に良かったと
【宮本むさ──】
「リッカさん!!その怨霊と私は無関係なのです!!出禁になっちゃうから内密!内密に!!」
【こほん。悪霊!破れたり!さぁ、私達に温泉を返してもらうよ!】
黒刀を突きつけ、黒き龍が悪霊を弾劾する。手入れすらできなかったせいか、大量に荒れ果てているのだ。早急に手入れをしなくてはならないのだ。剣を振るってる場合ではない。そう警告を告げるリッカではあったが・・・
【──せん】
【?】
かの怨霊が口にしたのは・・・
【私はまだ!負けてませーーん!!!】
何処までも生き汚き、
【私はまだ負けてません!だってあなた、二刀流じゃないですし!私と同じ武器ではないですし!二刀流で負けたわけではないのですので!私は絶対に負けてないのです!!】
リッカ【二刀流・・・あ、そういえば母上の刀は雷位の制御に回してるから・・・】
武蔵「はぁあぁあぁ!?誰がどう見てもあんたのボロ敗けでしょーが!!みっともないとか思わないのかしら!誰よこの怨霊!大本が見てみたいわ!」
【私は負けてないのです!何度でも仕切り直すのです!美少女、美少年が来るまで何度でも仕切り直すのです!こんなおっかない鎧に!負けなんか認めませーん!!】
リッカ【うっ・・・それもそうか・・・──よし!退こう!撤退!】
「えぇ!?何故ですかリッカちゃん!ほら、兜を取れば!きっと納得するはずですよ!?」
【私はまだ、自分を美少女と認めていない──!!!】
「揺るぎない信念──!!?」
「・・・美少年・・・」
~大広間
リッカ「ダメだった・・・!面目ない!」
オルガマリー「敗けを認めない限り敗けではない・・・バ論は厄介ね。これでは永遠に温泉に入れないわ、どうしたものかしら・・・」
ヒナコ「・・・ねぇ、二人とも。召喚の準備は出来る?」
オルガマリー「?」
リッカ「どったの?ヒナコ先輩」
「アイツをなんとか出来るヤツを知っているわ。必ず──喚べると思う」
~簡易召喚の間(+改築)
ギルガメッシュ「何か秘策があるのか、精霊?貴様が主張するのだ、虚言ではあるまいが・・・」
「美少年がお望みなんでしょう?用意してあげるわ。とびきりのね」
リッカ「美少年──はっ!?何故私は忘れていたのか!?いるじゃん!!凄い美少年!!美少女はたくさんいるけど万が一の荒事の為に控えよう!」
オルガマリー「リッカ!?」
ロマン「召喚、来るよ!クラスは・・・セイバー!」
ヒナコの縁にて応えしは、仮面を纏い美麗なる風格を称えしセイバー・・・
「──蘭陵王、推参いたしました。──再会、心より・・・」
「久し振りね!いきなりで悪いんだけど仮面を取って貰えるかしら!」
「は、はぁ・・・?」
リッカ「美少年連れてきたよー!!」
レジライリリィ「さぁ行こう!温泉を取り戻そう!」
アレキサンダー「ふふ、任せてよ。ビジュアルには自信あるんだ!」
・・・再び、温泉へとリッカらは向かう。今度こそ、かの怨霊を討ち果たすために──!
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